●リプレイ本文
●出港前〜曖昧な情報〜
──港にて
「シーラットぉ? ああ、最近出没しているっていう海賊かぁ。おれたちはあの海域にはいかないから被害はないぜ。結構手強いっていう話は聞いたけどな」
「なんじゃ? そんな海賊まで出没しているのか?」
「ああ、なんでも本業ではないらしいなぁ。休漁日に海賊しているっていう噂だろ?」
「うちの船は、あの海賊に積み荷を全部やられたんだ。わかるか? 全部だぞ!! あの海域の島々からは貴重な染料の材料になる貝が取れるんだ。それなのに‥‥ああ」
いくつもの噂話。
ティルフェリス・フォールティン(ea0121)は、交易船グレイス・ガリィ号に向かう途中で海賊シーラット団についての聞き込みをしていた。
「随分と情報が曖昧だな?」
そう呟きながらグレイス・ガリィ号に乗り込む。
「あ、来ました来ました。こっちですよー」
そう甲板で叫ぶのはグレイス・ガリィ号お抱え通訳のシフール。
どうやら甲板前方で船長のグレイス・カラスが依頼を受けた冒険者達に詳しい説明を行なっているようである。
海図を広げ、日程を告げながら一つ一つ印をつけていくマダム・グレイス。
『会話が困難になるので、ある程度のサインを決めたいのだが』
華国出身の皇蒼竜(ea0637)がシフールを通じてそう告げる。
「そうだね。氷雨や漣(さざなみ)には俺達が通訳できるけど、皇には言葉が通じないからね」
にっこりとそう告げるのは夜黒妖(ea0351)。
そのまま皆でサインを決めあい、万が一のときはそれで対応ということで話は纏まった。
また、船内では大抵の船員がゲルマン語しか話せないこと、操舵手と見張り、あとは船長と副船長ぐらいしかイギリス語を話せないことも確認。
まともに全員の会話を聞き取れるのは船長であり交易商人でもあるマダム・グレイスと船付きのシフールぐらいであった。
「さてと、蒼竜が聞いていた被害についてなんだけど、同じ航路を行き来している同僚の商人達の殆どはやられちまっているからねぇ。報告だと、シーラットのリーダーは女らしいし、小型の帆船で一気に攻め寄ってきたっていうから、近隣の島にアジトでも持っているんだろうねぇ」
その言葉を随時華国語に訳して蒼竜に説明するシフール。
そして話し合いが終了したとき船は帆を上げて出港した。
●のどかな時間〜船旅の醍醐味〜
──一般航路にて
目的地の島にたどり着くには、一般航路を使用し、途中から独立した航路に移ることになるらしい。
そこまでは船員達ものんびりとしたもので、各自の仕事を終えた後、ゆったりとした時間を過ごしていた。
「セイヤァッ」
──ドガガッ
激しい打戟の音が船首甲板(フォクスル)に響く。
そこでは蒼竜と氷雨絃也(ea4481)が組み手を行なっていた。
その側では、漣渚(ea5187)が船縁でポカーーンと釣竿を握り締めている。
実にのどかな光景である。
時折トール・ウッド(ea1919)が甲板を行き来し、戦闘になったときの間合をゆっくりと計っていた。
船尾甲板(クォーターデッキ)付近では、ティルフェリスがのんびりと空を見上げ、その近くではシン・バルナック(ea1450)とレジエル・グラープソン(ea2731)がノルマンについて書かれている羊皮紙を広げて眺めている。
マダム・グレイスから借りたその羊皮紙は、ノルマンの様々な風習や文化などに付いて書かれており、シンとレジエルは興味津々でそれを読みふけっている。
「世界は広いですね‥‥私達はすごくちっぽけ‥‥」
それはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。
側では恋人である黒妖が広がる大海をじっと眺めていた。
「海の上で抱き合いたいと思いませんか?」
優しい笑顔で黒妖に対してそう呟くニルナ。
そしてそっとニルナは黒妖を抱しめると、やさしくその唇に自分の唇を重ねていく。
「んっ‥‥ん‥‥」
静かにそれを受け入れると、黒妖はゆっくりと唇を開いていく。
「‥‥なんだ?」
それはシン。
ふと風が変わったのを感じたシンが、ふと視線を大海にずらす。
その方向では黒妖とニルナがいちゃついているのが見えたが、その更に向うを一隻の帆船が走っているのが見えた。
「お、みなさん退屈そうだねぇ‥‥一組だけ非生産的な事しているようだけど」
マダム・グレイスがクォーターデッキの更に奥にあるプープデッキの船長室から出てくる。
「あの船は、まさか海賊ですか?」
そうマダム・グレイスに問い掛けるシン。
「どれどれ‥‥メイン!! スターボート、何が見える?」
メインマストの上にいる見張りに対して、マダム・グレイスが叫ぶ。
「女将さーん。ありゃ、『フンドシ船』ですぜ。フ・ン・ド・シ!!」
その見張りの言葉に、フォルクスで手合わせしていた蒼竜、氷雨、そして漣の3人がやってくる。
「なんだなんだ? フンドシがどうかしたのか?」
氷雨がその場の皆に対してそう問い掛ける。
「いや、あの帆船がフンドシ船らしくてな‥‥フンドシっていうのがよく判らなくて」
シンが丁寧にそう問い掛ける。
「なんやあんた、フンドシも知らんのか? フンドシ言うんはな」
ゴソゴソと漣が着物の前をはだけようとする。
が、その手がふと止まる。
「あかんあかん。うちは締めとらんわ。氷雨さん、見せたってや」
豪快な口調でそう告げる漣。
「あー、人前で見せるものではないな。簡単に言うと下ばき、漢が付ける下ばきだ」
その氷雨の言葉に、マダムが捕捉する。
「あの船はね、ノルマンからイギリスに『褌』を輸入しようとしているイギルスの貿易船だよ。そんなもの一体どうするのか最初はわからなかったけれど、イギリスでは絶対的に数が不足しているらしいからねぇ‥‥」
ノルマン−イギリス間のフンドシ輸入船。
マダムはそれを『フンドシ船』と呼んでいるらしい。
「合図送ってあげな!!」
マダムの言葉と同時に、見張りの一人がマストトップに旗をかざす。
と、相手の船もそれを察知したのか、旗をかざしかえした。
旗を使っての連絡の取り合いである。
「相手はなんと?」
「『貴公の安全を祈る』だってさ」
マダムがそう告げると、そのまま甲板を見渡して、大声で叫ぶ。
「夕刻には一般航路を離れるから、そろそろ気を引締めておくれよ!!」
船員達の威勢のいい声を耳にし、一同もまた気を引き締めなおした。
「あら‥‥クスクスッ‥‥」
「アン‥‥こんなところで‥‥駄目っ‥‥」
これこれ、そこの二人もそろそろ気を引き締めて。
●危険海域〜敵は強大でした〜
そして翌日。
無事に最初の島での荷物の積み込も終り、いよいよ危険海域へと突入した交易船グレイス・ガリィ号。
──ポイントD
海図によると、その付近が『シーラット団』の出現するポイントらしい。
朝靄の立つ中、交易船グレイス・ガリィ号はゆっくりと船を進める。
──ピリリリリリリリリリッ
見張りからの連絡が突然響く。
「敵はどっちだ!!」
レジエルの言葉と同時に、船体が激しく揺れる。
「敵船、スターン(船尾)からポート(左舷)へ。アンカー3本打ち込まれたっ!!」
その見張りの叫びに、マダムが声を上げる。
「敵船タイプ!! 可能ならぶっちぎる。メインヤード展開、トップスルー開放して加速!!」
「縦帆型小型帆船。前に回りこまれます!!」
どうやら敵船は小型で小回りのきくタイプらしい。左舷にロープつきアンカーを打ち込まれ、そこから乗り込んでくるようである。
「敵がくる。頼むよ!!」
マダムの言葉に、全員が配置に付いた。
──レジエル、漣、シン組
「さて、まだ来るのですか?」
ナイフを片手に、レジエルがそう呟く。
彼の前方では、漣とシンが一人の海賊を潰しに掛かっていた。
そのためレジエルは、目の前のロープからこっちに海賊が伝ってこないよう、ナイフを使って牽制している。
すでに2人、ロープ上を走ってくる海賊に向かってナイフを叩き込み、海上へと落としていたのである。
「あんたも運が悪いなぁ‥‥」
その漣の言葉と同時に、目の前の海賊は漣の頭突きを真面に受けた。更に右拳のボディーブロー、左手のダガーによる攻撃と、立て続けに3発の攻撃を叩き込まれている。
それだけでもフラフラなのに、更に止めとばかりにシンがロングソードを身構えている。
──ドシュッ!!
その一撃を受け、すでに海賊は戦意喪失状態である。
「まだかかってきますか? 命乞いするなら、止めはさしません」
ソードの切っ先を海賊の首筋に向けるシン。
──カラン‥‥
その優しくも冷たい言葉に、海賊は武器から手を放した。
「では、おやすみなさいっと」
そのまま漣が後手に縛り上げると、次の敵に向かって身構えた。
──氷雨、黒妖、ニルナ組
「来い!! ギュスタァアアアアアヴ!!」
素早く印を組み韻を紡ぐ黒妖。
どろんと大ガマが口寄せされ、一本のアンカーの手前にどっかりと腰を降ろした。
「お前ら来るなよ‥‥大ガマに喰われて死にたくないでしょ?」
と、敵船から乗り移ろうとしている海賊に向かってそう叫ぶ。
「‥‥黒死鳥のニルナ・その目に焼き付けよ」
その叫びと同時に、ニルナがホーリーを発動。
ロープを渡ってくる海賊の一人にホーリーの光球が直撃。あわれ海賊、そのまま海へと落ちていく。
だが、数の暴力とは良く言ったものである。
次々とロープを伝って走りこんでくる海賊達。
その数で一気に圧されてしまい、海賊がメインデッキにたどり着いた。
「行け、ギュスターヴっ」
黒妖の叫びと同時に、一人の海賊に向かって大ガマ・ギュスターヴ君突撃。
──ガギィィン
そしてもう一人の海賊がニルナに向かって抜刀、素早く攻撃を叩き込んでくる。
「なかなか良い腕してるわね‥‥」
その一撃をクルスダガーで受止めるニルナ。
「だが、詰めが甘い」
素早くニルナがダガーの向きを変えて攻撃の方向を反らす。
と、海賊が向かった方角では、氷雨が刀の柄に手を掛けて、中腰で構えていた。
「何ッ!!」
──ドシュツ
フェイントアタック。
ブラインドアタックに見せかけたフェイクである。
その巧みな刀さばきで相手に一撃を叩き込むと、そのままクルスもダガーで応戦。
「さて、そろそろ観念したほうがいいんじゃなーい?」
一方黒妖の前では、ギュスターヴに呑み込まれそうになった海賊に対して、鞭をビシッと叩き込んで黒妖がそう呟く。
「だ、誰が観念するかって‥‥」
「ギュー君、ご飯!!」
──パクッ
あわれ海賊、大ガマのお腹へ直行便。
そして黒妖もニルナ達の方へと加勢に向かった。
──ティルフェリス、トール、蒼竜組
ヒュンヒュンと弓が飛び交うプープデッキ。
そこで飛んでくる弓を積んである樽で躱わしつつ、ティルフェリスがロープを伝ってくる海賊を狙い撃ちしている。
「こちらは数の暴力か‥‥」
そう呟きながら、敵の牽制と同時に前衛で戦っているトールの援護を続けるティルフェリス。
「ふんっ」
──ドゴォォォォォッ
目の前の敵目がけて、渾身の一撃を叩き込むトール。
その僅か一撃で、海賊は既に半死半生と言った感じになった。
「ハッ!!」
気合一発、蒼竜のオーラショットが止めといわんばかりに海賊に直撃。
あわれ海賊、その場で失神。
さらにティルフェリスの矢を潜りぬけた海賊がデッキにたどり着いたが、その一瞬のタイミングで蒼竜とトールが海賊に向かって駆け寄る。
「おまえ、背中が煤けているぜ‥‥」
「ご愁傷さま‥‥」
トールのストライクEX+オーラパワー附与蒼竜の鉄拳。
この瞬間に海賊は夢の世界へと突入。
「‥‥ああ、この二人を敵にしないでよかった‥‥」
その二人の見事なまでの連携に、ティルフェリスがボソリと漏らした。
やがて戦いは次々と飛込んでくる海賊の数で膠着状態となったが、ついに海賊はアンカーを切断し、そのまま高速で島影へと消えていった。
「ハアハアハアハア‥‥か、かなり手強い」
息を切らせながらレジエルが呟く。
「とりあえず怪我人はこっちに!! 傷の手当をする。見張りは奴等の動きを探って頂戴。回りこんでくる可能性もあるからね!!」
マダムがてきぱきと指示を飛ばす。
甲板の死体は船員達が海に放り出し、傷ついた船体の修復作業も始まった。
「あ、あれがシーラット団ですか‥‥」
黒妖がそう問い掛ける。
「ああ、どうやら本船じゃないほうだね。本船だったら、ウィザードが二人居たはずだから、こんなものじゃすまない筈。運がよかったね」
その言葉にゴクリと息を呑む黒妖。
「ニ、ニルナぁぁぁぁ」
泣きそうになりながら黒妖はニルナに抱きついた。
そのニルナやトール、蒼竜といったメンバーはマダムの好意でリカバーポーションを飲み干していた。
傷口がみるみるうちに癒え、疲れも取れはじめる。
「まあ、これぐらい派手に暴れておけば、しばらくはこないだろうねぇ」
ゴキゴキと肩を鳴らしながら、漣チームも怪我の手当に戻ってくる。
こちらもシンが多少怪我を追った程度、漣はほぼ無傷であった。
「数で攻めこまれたら、圧倒的に不利ですね」
「まあね。でも、海賊を完全に潰すのが目的じゃないんだからこれでよし。急いでこの海域から離脱する!!」
そのマダムの言葉に、船員達が声高らかに返事を返す。
●ノルマン〜やってきました夢の国〜
──パリ
無事に依頼を遂行した一同は、冒険者ギルドに向かうと報酬を受け取った。
「本当にパリに来たんだ‥‥ベルナデッド‥‥俺はかならず立派な騎士になって帰るから‥‥」
遠い故郷に残した妻に、そうシンは呟いた。
「さてと‥‥酒場酒場っと」
「観光観光!!」
漣とトールは懐に金を放り込み、シンの横を通り過ぎていく。
「ねー、デートしよっ!! デートぉぉ」
「はいはい。無事に仕事も終ったからご褒美ね」
そう呟きながら、黒妖を抱しめ口付けするニルナ。
「次の依頼の前に、色々と見てみたいとこもありますからね」
「そうだな。ノルマンに来たのはいいが、これからの事を考える必要もあるからな」
レジエルの言葉にティルフェリスが続く。
『‥‥通訳を捜さないと、この先不便だしな』
華国語でそう言いながら、蒼竜は冒険者酒場へと直行。
そして一同を見送った後、シンが空を見上げて一言呟いた。
「‥‥ベルナデッド‥‥私は、私は‥‥此処にいることを少しだけ後悔しているかもしれない‥‥」
その真の思いは、妻の元に届くであろうか。
〜FIN〜