●リプレイ本文
●街角〜届け、熱い思い〜
──パリ中央広場
トンカントカン
大勢の大工が突貫作業で舞台を作っている。
その横では、設計図を確認しつつ、作業員達に指示を飛ばしている『ザンク!!』の姿があった。
「あ、『ザンク!!』さんだ。こんにちはー」
非番の為、街をプラプラしている冒険者ギルドの受付嬢エムイが、『ザンク!!』の元に駆け寄っていく。
「ああ、君は確か‥‥冒険者ギルドの受付さんだね。こんにちは」
「こんな所で何をしているのですか?」
「まあ、ちょっとね。ほら、エムロードって知っているだろう? 彼女を助けようってい、大勢の人が力を合わせていただろう。あの姿に感動を覚えたのと、うちの子猫ちゃんにたのまれてね‥‥」
そう告げたとき、舞台の袖からクリス・ラインハルトがヒョコッと姿を現わした。
「『ザンク!!』さん、こっちの準備はOK・・・・・・でーす」
実は、クリスたちはある作戦を実行しようとしていた。
エムロードの寄付と署名を持ったノリア達を見送った後、全員が一斉に歌を歌いつつこの場所に集ってくる。
一人一人は小さな歌でしか無い。
が、大勢集ったとき、その思いはより強くなる。
少しでも、エムロードを助けようという思いを届けようと、クリスたちが提案し、吟遊詩人ギルドに意見を提出したのである。
当然ながら、そんな事に手を貸す吟遊詩人ギルドではない。
が、またしても『ザンク!!』さんがその思いを真摯に受止め、自腹にて協力を約束したのである。
あとは、今現在の通り。
──ガラガラガラガラ
今回の一連の事件関係者達が馬車に乗って出発する。
それを見送った後、いよいよ最初の作戦は発動した。
──ガラーーーン、ガラーーーーン
教会から鐘の音が鳴り響く。
そしてパリ全域に広がっていた参加者達は、ゆっくりと歌を紡ぎつつ、歩き始めた。
●作戦コード〜街角の祈り〜
──パリ市内
スゥーーーッ
大きく息を吸うと、ゆっくりと歌を紡ぐラテリカ・ラートベル。
♪〜
忘れないで。貴方は独りぼっちじゃない
こんなに大勢の、貴方を思っていてくれる人がいることを
涙をそっとぬぐって
さあ、一緒に歩きましょう〜
♪〜
──停車場
♪〜
忘れないで。あの時の言葉を
私達は、いつでも貴方と共にいることを
涙をそっとぬぐって
さあ、一緒に歩きましょう〜
♪〜
シーン・オーサカも声高らかに歌いつつ、パリ中心部へと歩き始めた。
──教会前
♪〜
思い出して。
楽しかった日々。
思い出して。
あの時のぬくもり。
どう? 全てが、貴方の思い出。
どう? 全てが、貴方の宝物。
♪〜
森羅雪乃丞が、教会のシスター達に混ざって歌を紡ぐ。
遥かシャルトルのエムロードに届けと。
──冒険者街、酒場
♪〜
この歌に込められた願い
キミに送られるmessage
キミは聞いてくれているかな
この歌はキミに届くかな
♪〜
山王牙を筆頭に、店内で大合唱が始まった。
酒に酔っている人、酔っていない人。
署名をした者たちは、これが最後といわんばかりに、大きく声を張り上げていた。
──エチゴヤ前
♪〜
まるでlabyrinthのような
闇の中戦うキミに
想いという輝きで
goalへと導こう
♪〜
イレイズ・アーレイノースは、歌を紡ぎつつ、集ってきた子供達にお菓子を配っている。
そして子供達も、つたないながらもイレイズに続いて歌を紡ぎ始めた。
──パリ中央広場
各方向に伸びる街道から、歌声が集ってくる。
そしてそれは中央に集中したとき、一人一人が舞台に上がり合掌を続ける。
そして最後に、クリスが中央に出てくると、合唱は最高潮に達した。
♪〜
孤独に告げようepilogueのbell キミ独りきりの劇にthe end
新たに始まるstoryにはprologueから僕がいるから
恐怖に幕引き 幸福の幕開け
悲劇のheroineにendingをもうそんな役はいらない
キミの役に涙はいらない幸せなstoryのopening
始まるstoryはいつまでもFineで彩ろう。
♪〜
拍手と歓声の中、歌は日が暮れるまで続けられた。
●最終結論〜無罪ではないのよ〜
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
すでに大聖堂では、大勢の人たちが一行の到着を心待ちに待っていた。
殺されたシスター達の両親も、今回の件について集っていた。
エイジ・シドリの報告を受けて、銀鷹至高厨師連のレリーフの付いたペンダントを持ってきてくれた両親。
フェリーナ・フェタに説得されて遠路はるばるやってきたサン・ドニ修道院のシスター達。
そして、一連の事件の顛末を見届ける為に、ニライ・カナイ査察官の姿もあった。
──ギィィィィィィッ
静かに扉が開かれる。
そしてノリア・カサンドラ(ea1558)を始めとする一同は、ようやく大聖堂へとたどり着いたのである。
「今回の署名、私ども外国の者まで有効と扱って頂き、本当にありがとうございました」
丁寧に大司教に礼を告げているのはルミリア・ザナックス(ea5298)。
「いえいえ。これもみな、神のお導きです」
笑みを浮かべつつ、そう告げる大司教。
「約束通り、500名分の署名と800Gの寄付金を持ってまいりました。確認をお願いします」
そう告げて、大司教に手渡すノリア。
「確かにお預かりしました。それでは、確認をしてきましょう‥‥」
「すいません、それまでの間、エムロードと会うことは許されませんか?」
そう告げたのはヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)。
「そうですねぇ。私としては問題はありませんが」
「全ての確認が終るまでは、それを認めることはできませんね」
大司教の言葉を遮るように、レビン・スターリングがそう告げた。
「レビン卿、お願いしていた警護の件ですが」
そう話し掛けたのはチェルシー・カイウェル(ea3590)。
予めレビン卿と連絡を取り、今回の署名受け渡し及びエムロードの解放が為された時の為、レビン卿には大聖堂周辺の警護をたのんであった。
「ご安心を。教会の周囲に私の騎士団のものを30名。全て信頼のおける者たちです。先日のマスカレード襲撃の際の報告も一通り受けています。それ相応の対処は効かせられることでしょう」
その言葉を聞いて、チェルシーは一安心。
と、そのレビンの前に、ルミリアがゆっくりと歩んでいく。
「初めましてレビン卿。私はルミリア。今回の署名で、異国のものを取りまとめてきたものです」
「それは‥‥ご苦労様です」
務めて事務的に告げるレビン卿。
「かの少女が組織に利用されるだけで人生を終えるは不憫、そう感じたゆえ減刑に協力させて頂いた‥‥」
そう告げて、ジッとレビンの様子を伺うルミリア。
「まあ、貴方たちの希望がかなったのです。それはそれでよろしかったのではないですか?」
そのレビンの言葉には、一同驚きである。
「それは、貴方の本意なのですか?」
九紋竜桃化(ea8553)もレビンに対してそう問い掛けた。
「ええ。全ては大司教の決定されたこと。私達がどうこう言える立場ではありません。それに、あの後でこちらとしても色々と調べさせて貰いましたから。まあ、今回のようなケースが度々来られると迷惑被りますがね‥‥」
やれやれという表情でそう告げるレビン。
そして一行は、しばし大司教が戻るまでの間、其の場で静かに待っていた。
──一方、外では
「はあ‥‥駄目ですか?」
「こ、この署名を届けにきたんだワン!!」
「ということは、ここまで無駄足か。やれやれじゃのう‥‥」
入り口近くで警備の人に話をしているのは、御存知ノルマン江戸村の『剣豪宮村武蔵』、『武術家わんドシ君』『名工トールギス』の3名。
どうやら、署名の噂を聞きつけて、江戸村で集めた署名を手に遠路はるばるここまで届けにやってきた模様。
「おっと、マイスター・トールギス。こんな所で再会できるとは‥‥」
そう告げながら、外で警備を行なっていたアルビカンス・アーエール(ea5415)が3名に挨拶。
「おや、アルビー殿。こんな所で」
「マイスター、そのアルビー殿っていうのは堪忍してくれ‥‥それよりどうして?」
「署名だワン!!」
「持ってきたんですけれどね。パリに行ったら、丁度入れ違いだったらしくて」
そんな会話をしているさ中、さらに騒ぎが発生していた。
「しょめい、しょめいもてきた!! ぎゅんた、おーがのともだちのしょめいもてきた!!」
「黙れオーガめ。そんな事を言って人里に出てきやがって、成敗してくれるわっ!!」
──ガギィィィィン
激しく撃ち鳴る剣戟。
「うぁ、たたかわない、ぎゅんた、しょめいもてきただけ!!」
そんな騒動がアルビカンスの耳に届く。
「あーーったく、めんどくせーーなぁ。おーーい、ちょっとまったぁ」
やれやれという感じでギュンター君の元に掛けていくアルビカンス。
「ああ、警備の人。こいつは良いオーガなんだ。見逃してくれないか?」
そう懐柔策に出るアルビカンス。
「良いオーガだと? オーガに良いものが存在する筈はないではないか!!」
「それがいるんだつっーーーの」
そんな問答をしているさ中、教会内ではいよいよ。
●再会〜真実を告げる〜
──教会内
「さぁ‥‥」
大司教がエムロードを連れて一同の前に姿を表わす。
「グスッグスッおねえちゃん。ごめんなさい‥‥」
泣きながらそう呟くエムロードを、スターリナ・ジューコフ(eb0933)はそっと抱しめた。
「辛かったでしょう? もう大丈夫よ。無実にはならなかったけれど、もう殺されることはないの‥‥」
そのままエムロードを宥めている間、ヴァレスが大司教に静かに話し掛ける。
「大司教様、エムロードに魔法を施しても宜しいでしょうか? 先に説明した後催眠について、そのヒントというか手掛りを調べたいのです」
「ええ、構いませんよ。洗礼まではまだ時間はありますから、そちらの部屋でどうぞ」
そう告げると、エムロードとスターリナ、そしてヴァレスの3名は別室にてエムロードの後催眠の謎をときに入る。
「やはり無実ということにはなりませんでしたか‥‥」
桃化がそう呟く。
「ええ。殺されたシスターが犯罪者であった可能性というだけでは。‥‥例え確定要素であったとしても、犯罪が起きる前に殺してしまっているのです。つまり、罪が発生する前にですから‥‥」
起きてしまったら取り返しが付かない。
そのためにという言葉もあるだろうが、それは口には出てこない。
この手の話は大抵、堂々巡りで終ってしまうからである。
「大司教さま、失礼を承知で質問して宜しいでしょうか?」
そうチェルシーが話し掛けた。
「ええ、構いませんよ」
「次の大司教候補は何方でしょうか?」
いきなりのその問いにも、大司教は顎に手を当てて頭を捻る。
「ふむ。私が殺された場合の‥‥というのが付きますね?」
「ええ」
「それでしたら、現ブルーオイスター寺院の院長であるエドワード殿が有力候補でしょう。しかし、あの方はあそこを離れることができるかどうか。そうなると、人望熱く敬謙なるセーラの使徒‥‥ああ」
その瞬間、チェルシーの脳裏を嫌な名前が走った。
「各地の教会からの許可も必要でしょうが、おそらくは、アンダーソン神父殿がここの司祭に、そしてこの大聖堂の現司祭である者から一人大司教に選任されることとなりますが」
すなわち、アンダーソン神父がここの大司教に格上げになることはない。
それを聞いて、取り敢えずは安心するチェルシー。
「あと一つ。今回の件については感謝しています。ですが、各所との軋轢を避ける為、今後このような『特例』を行う際は、出来れば政治的な配慮などを考えて欲しいのですが」
「判りました。全てはセーラの導きのままに」
そう告げた時、別室からエムロード達が姿を現わした。
「大司祭殿、幾つかお聞きしたいことがあるのですが」
入るときとはまるでうって変わって、ニコニコとした表情でそう問い掛けているのはスターリナ。
「ええ、かまいませんよ」
「エムロードの洗礼式の時ですが、聖書から言葉を引用しますか?」
「ええ。当然です」
「では、その際、賛美歌斉唱はありますか?」
「最後にですね」
「あと、教会の鐘は鳴りますでしょうか?」
「洗礼を受け、新しい生活を始めるに当たっての出発の鐘とでももうしましょうか‥‥」
そう告げたとき、ヴァレスが大司教に話し掛けた。
「実は、エムロードに掛けられている後催眠ですが、幾つかのキーワードによって発動することが判明しました‥‥」
そこまで、どれぐらい掛かったかはさておいて。
後催眠を仕掛けられたであろう日まで記憶をさかのぼり、さらにメロディーで失った記憶を思い出しやすいように誘導。
リシーブメモリーと話術を駆使しつつ、スターリナとヴァレスはエムロードに仕掛けられた後催眠の解析をなんと終らせたのである。
たいしたもんだよ、あんたたち。
「今の条件全てが揃ったら、エムロードは大司教様、貴方を殺して自害するようにしくまれています‥‥」
「つまり、揃わなければ宜しいのですね? それでしたら、鐘と賛美歌は今回は無しとしておきましょう。それで少女が更なる罪を起こさないのでしたら」
そうにっこりと告げると、早速エムロードは洗礼式を受け始めた。
静かに祭壇に昇り、大司教の言葉をずっと耳にするエムロード。
その間、ノリア達も、真剣にエムロードの動きを観察していた。
──一方そのころの外
ドシュュュュュュッ
吹き出す血飛沫。
力一杯引きちった若き騎士の首を投げ飛ばすと、その少女は次のターゲットをマーク、素早くその喉笛に拳を叩き込むと、頚椎を一撃で破壊していた。
「隊長!! 敵は我が騎士団を前に怯むことなく前進してきます!!」
「臆するなッ。敵の目標は大聖堂、そしてエムロード。絶対にアサシンガールなど、近づけてはならないっ!! 弓兵の準備を!!」
副団長の撃が飛ぶ。
一体なにがあったのか。
全てはただ一人の少女の出現であった。
「大司教に会いたいのよ‥‥妹を甦生してほしいの‥‥」
ボロボロのローブを身に纏った少女が、大聖堂を警護している騎士団の前にやってきたのは、ちょうどエムロードが洗礼式を受ける10分前。
「ああ? 今は駄目だ。エムロードとかいう奴の罪が晴れ、今は新しく洗礼を受けて生まれ変わる為の儀式を執り行っているんだ‥‥」
──ゴギッ
その言葉の瞬間、騎士の首に少女の手がグッとつかみ掛かった。
「グフッ‥‥グフッ‥‥」
「エムロードですって? あの裏切り者が‥‥洗礼式? 生まれ変わる? どうしていつも、あの子ばかり‥‥許さない‥‥」
──ゴギッ
首が千切れ、大地に落ちる。
その瞬間、近くにいた騎士の奇襲を告げる笛が高らかに鳴り響いたのである。
「ここから先は行かせないわよッ!!」
──ガギィィィィィン
前衛を務めた騎士団は全滅、ミヤムゥが愛刀を引き抜いて前に出た。
だが、その一撃を拳につけたアイアンナックルで弾くと、そのままカウンターでミヤムゥの鳩尾に一撃を叩き込むアルジャーン。
「宮村先生‥‥たいしたことはないわ‥‥」
その表情は恍惚に近い。
──ゴギギキギギギギギキッ
ミヤムゥの鳩尾からさらに上、肋骨まで手刀を突きたてると、そのまま肋骨を3本まとめい引き抜くアルジャーン。
「ぐはぁぁぁぁぁぁっ」
そのまま失神するミヤムゥ。
さらにアルジャーンを止める為に、ギュンター君も愛用のハンマーを持って参戦!!
「うぁ、けんかだめ、けんかうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
──ドシュッ
一撃で顳かみをバックリと割られ、ギュンターも意識を失う。
「ああ‥‥つまり俺も戦うわけね?」
雷撃拳士アルビカンス出陣。
──ドシュッ
突然アルジャーンの肌が切り裂かれる。
アルビカンスのウィンドスラッシュによるものである。
「見せてやるぜ? 魔法拳士の実力って奴をよ」
そう叫ぶと同時に、印を組み韻を紡ぐアルビカンス。
一気に間合を詰めてくるアルジャーンと、アルビカンスの魔法の発動はほぼ同時。
──バジッ‥‥バジバジバジバジバシバジッ
全身が帯電するアルビカンス。
「掛かってきな!!」
そのままファィティングポーズを取るアルビカンス。
──ドゴトゴドゴドコドコッ
だが、帯電していようといまいと、恍惚モードに突入したアルジャーンには効果無し。
雷撃によるダメージも『気にせず』、アルビカンスに鉄拳を叩き込んでいく。
「たいしたものね、魔法と体術を組み合わせるなんて、まるでうちの『アンリエット』みたいね。でも、それなら訓練でやったから‥‥」
そう告げつつも、さらに鉄拳を叩き込むアルジャーン。
やがてアルビカンスはなにも告げることなく気絶。
「ふっ。ここから先はいかせないワン!!」
さらに真打、わんドシ君見参。
──ガギィィィィン
攻撃は一瞬。
一撃でアルジャーンの右腕を粉砕したわんドシ君の右ストレート。
だが、アルジャーンも、一撃でわんドシ君の頭部を粉砕した。
──バカッ‥‥
真っ二つに割れる頭部。
その中からは、わんドシ君の中の人の素顔が。
「着ぐるみがなかったら‥‥即死だった‥‥」
あんただれだよ!!
──ヒュンヒュンヒュンヒュン
そして次々と打ち込まれる大量の矢。
さすがにそれを受止めることは出来ない為、アルジャーンは素早くわんドシ君を掴むと、引き回して盾にした。
──ドシュシュシュシュシュ
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
前進を矢襖とされたわんドシ君。
「打ち方やめーーーい。重騎士前へっ!!」
──ザッザッザッザッ
綺麗に前に出る騎士団。
そしてそれを迎え撃つアルジャーン。
だが、先程とは様子が違う。
「来たわ‥‥ようやく‥‥」
恍惚の表情は慈悲の笑みに変わる。
前進の筋肉が脈動し、さらなる力が体内から沸き起こってくる。
「‥‥天使‥‥か‥‥」
そう。
騎士たちには、目の前の アルジャーンが天使のように見えた。
そしてその直後、ほんの数分で騎士団は全滅した。
アサシンガールの切り札『エンジェルモード』。
もっとも、アルジャーンも無事ではすんでいない。
全身から血を流し、腹部には致命傷とも言える一撃を受けていた。
零れそうな臓腑を右手で押さえつつ、アルジャーンは歩いた。
「‥‥私は、妹を助けるんだから‥‥誰も信用なんてしない‥‥冒険者なんて‥‥」
ふらふらとした足取りで、アルジャーンは大聖堂の扉に手を掛けると、一気に扉を開いた!!
●運命とは〜愛されたものと愛されなかったもの〜
──大聖堂
静かに扉が開かれた。
丁度洗礼式が終り、エムロードは新しい十字架を授けられていた。
「どうして‥‥エムロード、どうして貴方ばかり幸せになれるのよっ!!」
そう叫びつつ、走りこんでくるアルジャーン。
其の手には、騎士から奪い取った剣が握られていた。
──ドシュッ
深々と突き刺さる剣。
だが、それはエムロードや大司教ではない。
「何、こんなのかすり傷さ。スキンシップだ、スキンシップ」
グッと痛みを堪えつつ、突き刺さった剣をそのままに、血まみれのアルジャーンを抱きしめるジョセフ・ギールケ(ea2165)。
「もっと痛いのは、君の心だろう?」
そう問い掛けるジョセフ。
と、後から桃化とルミリアが駆け寄り、アルジャーンを押さえつける。
「は、はなせ‥‥はなせぇぇぇぇぇ。大司教、慈悲を、私の妹は冒険者に殺されたんだ!! 人殺しエムロードに慈悲を掛けてあげるのなら、私の妹にだってかけてくれるだろう!! 妹を甦生して‥‥たのむから‥‥もう一人は嫌なん‥‥」
そこで言葉は途切れる。
アルジャーンの全身から力が抜け、其の場に崩れ落ちた。
「其の手を離してあげてください‥‥」
そう告げつつ、大司教はそっとアルジャーンを抱きしめる。
そして静かに其の場に横たわらせると、見開いた瞳を手で塞ぎ、静かに十字を切る。
「神よ‥‥このような少女を襲った悲劇が二度とこないよう‥‥」
アルジャーンは絶命していた。
そして、エムロードは、その光景をじっと見つめていることしか出来なかった。
●別れ〜一生を祈に〜
──大聖堂
アルジャーンの亡骸は教会の墓地に丁寧に葬られた。
「それでは、私は卿よりこの教会にて、神に祈を捧げつつ、毎日を過ごします。いつか、私の罪が晴れ、セーラ様が慈悲の手で私を抱しめてくれる日まで‥‥」
ペコリと頭を下げるエムロード。
「どんな暗闇でも〜、必ず光は訪れる〜、今こそ貴方を救う為、思いを繋げて参ります〜、世界に苦しい事は、多いけど〜、負けずに明日を歩みましょう〜、もう貴方の前には闇は無い〜」
桃化がそっとエムロードに語りかけた。
「これは、貴方の為に色々と頑張ってくれたまくるさんのエムロードへの贈り物よ‥‥」
そう告げつつ、スターリナはエムロードに天使の羽飾りと蹴鞠をそっと差し出した。
だが、エムロードは1度だけそれを受け取ると、すぐにスターリナに戻した。
「お姉ちゃんが預かっていて。いつか、この教会から外に出られるときまで。その時には、必ず自分の足で、スターリナお姉ちゃんの所に取りに行くから‥‥だから‥‥」
涙でそれ以上は告げられないエムロード。
「貴方にあげた十字架も私が預かっているからね‥‥必ず約束して‥‥」
そして、全ては終わりました。
後日、聖ヨハン大司教は、とあるパリ冒険者酒場にひょっこりと姿を表わしました。
そして、そこで石化している『アルジャーン』の妹の亡骸を丁寧に預かると、それを姉の墓の横に丁寧に埋葬しました。
願わくば、神の御許で、二人の姉妹が手を取りあっていますように‥‥。
〜Fin