●リプレイ本文
●誰が為に〜錯綜する運命〜
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
「‥‥そんな馬鹿な‥‥」
愕然としている無天焔威(ea0073)の目の前には、暴かれた墓があった。
そこには、『双子のアルジャーン』が静かに眠っていた筈。
だが、今その墓は暴かれ、二人の遺体は何処かに持ち去られてしまったようである。
「こんなことは初めてじゃ‥‥。大聖堂から遺体を盗むとはのう‥‥」
大司教である聖ヨハンが、焔威の後からそう話し掛ける。
「何時ですか?」
「先日。貴方がここにくる前日です。一体どこの誰が、ここから運びだしたのか見当もつかないのです‥‥」
そう告げるのは、墓地の管理をまかされていた墓守。
「助けられると思ってきた‥‥なのに‥‥どうしてこんなことに‥‥神は、なぜ俺に試練を‥‥」
そう叫びつつ、焔威は静かに其の場を立ち去る。
そして療養しているマスター・オズの元に向かうと、紋章剣についてのレクチャーを受けた。
「やれやれだな。だが、どうして今更‥‥」
そう告げつつ、ヴィグ・カノス(ea0294)は墓守達からの聞き込みを開始する。
本当ならば、ここに眠っているであろうアルジャーン達の遺体にストーン処理を施す筈だったヴィグ。
だが、その対象が存在しない以上、ここで手詰まりとなってしまった‥‥。
●選ばれる可能性〜オーラの使い手として〜
──ロイ考古学研究室
「成る程‥‥」
研究室の居間で、腕を組んでそう呟いているのは御存知『悪魔研究家?』のロイ教授。
今回、ワルプルギスの紋章剣を借りる為にやってきたシン・ウィンドフェザー(ea1819)とファング・ダイモス(ea7482)の二人は、一通りの事情を説明。
「とりあえずは‥‥」
そう告げると、ゴトッとテーブルの前に一振りの紋章剣を置くメイス・ウィング。
マスター・オズに頼まれて、教授の元に紋章剣を取りにやってきたらしい。
「先日、竜の継承者からも話は伺った。悪魔と戦う為に必要ならば、それを断わる道理はない。但し、その力を引出すことが出来なくては話にならない‥‥」
そしてメイスはテーブルにおかれた『旋風』を今1度手に取ると、その柄の部分から刀身を抜き取る。
「コマンドワードは判っている筈だ‥‥もし貴公が選ばれたなら」
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
メイスが自身の紋章剣をコマンドワード無しに発動させる。
そしてシンもゆっくりと席を立つと、じっと意識を集中し、コマンドワードを唱える。
「オーラと共にあらんことを‥‥」
──ブゥゥゥゥゥン
そして刀身からオーラの剣が生み出される。
だが、どう見ても、メイスのような強さを感じない‥‥。
「本当に選ばれたのなら、オーラの理を学んだのであれば、オーラセイバーはこのように強靭なる力を見せる。シンと申したな。まだ貴公はそれらを学んではいない。剣士としての紋章剣ではなく、魔法武具としての紋章剣の部分しか使えない‥‥それでも持っていくか?」
そう告げるメイス。
「ああ。戦いの中、認められるかもしれないからな。それに、今は一つでも『悪魔と戦う為の武具』が必要だから‥‥」
そう告げると、シンは『疾風の紋章剣』を元の形に戻し、鞘に納めると帯剣する。
「それでは‥‥お借りします」
「失礼します」
そう告げて、二人はロイ教授の元を立ち去る。
「それでは教授、私は残りの一振りを届けます」
メイスもまた、そう告げて旅立った。
●オーラの暗黒面〜その力、甚大につき〜
──ノートルダム大聖堂
「危険じゃ‥‥そなたからは暗黒面の力を感じさせる‥‥」
そう告げているのはマスター・オズ。
今回の依頼、紋章剣がどうしても必要となる。
そのため、焔威はマスター・オズの元を訪ねると、その事を告げたのであるが。
マスター・オズは焔威をじっと見つめると、そのまま瞳を閉じて頭を左右に振る。
「暗黒面‥‥俺は、そんなものには囚われたりしない!!」
そう力説する焔威だが。
「心が揺れている。大きく、嵐の中に扱ぎだした小舟の如く。大切な者の為に戦う、それは結構。じゃが、そのために自らを暗黒の世界に押し込んでしまうことはないじゃろう‥‥」
そう告げると、オズは『蝙蝠の紋章剣』を焔威に差し出す。
「テストじゃよ。剣が呼応すればよし。そうでなければ、そなたには剣は貸せない‥‥」
そのまま受け取った紋章剣をじっと見つめる焔威。
そしてゆっくりと握り締めると、そのまま意識を集中。
「俺だけでは悪魔は切れない‥‥ダースにも‥‥彼女も救えない‥‥手を伸ばす力が欲しい‥‥だから応えろ」
叫ぶ。
だが、剣はピクリとも反応しない。
「その力を引出せなくば、紋章剣はただの剣。悪魔を切る力もなにも現われない‥‥」
やれやれという気持ちで焔威を見るオズ。
しばし、焔威は剣を見つめる。
だが、それをマスター・オズに差し戻すと、再度口を開いた。
「俺は彼女が悪魔でも心を取り戻し共にいられるなら‥‥そのための術を持つ悪魔の力を借りて戦うヘルシング卿の力が欲しい」
「それは『異端』の考え方じゃ。人と魔は共存できない。いくら悪魔という存在が、天より落ちたる天使だとしても‥‥。焔威殿、ヘルシング卿の最後、貴方は知らないでしょう‥‥」
そう告げたのは、聖ヨハン大司教。
「最後?」
「ええ。沢山の魔を駆る存在、ハンターとして生きていた彼は、最後、人間によって殺されたのです。『悪魔と契約した異端』という事で‥‥」
「どうして‥‥人の為に、その力を使ったヘルシング卿が、なぜ‥‥」
「過ぎたる力は脅威でしかない。悪魔を使役し、それを手として使うヘルシング卿は、確かに人の為にその力を振るっていた。じゃが、一般の人々から見れば『悪魔を使役する』という時点で駄目じゃ‥‥人は、そういうものなのじゃから‥‥」
焔威の疑問に、オズがそう告げる。
「残念なことに、悪魔に魂を売ったものには、セーラの恩恵は届きません。慈愛神は、自らを裏切った者たちには、その手を差し伸べることはないのです‥‥」
そして、焔威は迎えに来たヴィグとともに、仲間たちの待つ合流地点へと向かった。
●剣士の末裔〜まだなにもありません〜
──とある村
「‥‥」
村の中央。
大勢の村人が、其の場に置かれている一枚の護符に意識を集中させていた。
「そのまま。じっと意識を集中していると、やがて結界が広がる。そこは悪魔の嫌う聖なる空間だから、もし悪魔がやってきたときは、すぐに意識を集中するんだ‥‥」
ヴィグは村人達に『ヘキサグラム・タリスマン』の使い方についてレクチャーしていた。
そこから少し離れた場所では、シンも懐に忍ばせておいたタリスマンに意識を集中する。
──ヴン!!
「駄目だ。万が一のときには使い物に鳴らない。予め施しておく必要があるか‥‥」
懐にしまい込んだタリスマンを、瞬時に発動させようというシンの試み。
だが、そうそう都合のよい使い方はできなかった。
──トントントントン
「そこは、その程度でいいです。あとは横板と窓を打ち付けて、入ってこれないように‥‥」
村にある小さな教会。
そこでアハメス・パミ(ea3641)は、村人達に様々な事をレクチャーしていた。
敵がやってきた場合の為の鳴子の設置、万が一の場合、籠城戦も考慮しておく必要がある。
そのために、小さい教会に食糧などを運びこみ、窓などを封鎖、とにかく守りを堅牢にしていったのである。
「よう、おつかれ‥‥」
そう告げつつ、ジョセフ・ギールケ(ea2165)がアハメスの元にやってくる。
「お疲れ様。挨拶は終らせたの?」
「ああ。剣士の末裔さんにな。残念だが戦力にはならない。末裔といってもその力を受け継いだわけでも無い、この村にすんでいる只の村人だな‥‥父親は『ワルプルギスの剣士』だったらしいが、老いというものはそんなことお構いなしらしい‥‥1年前に他界したとさ」
ジョセフは剣士の末裔に話を聞きに行ってきたらしい。
だが、実際に会ったのは、末裔といってもなにも出来ない一人の女性。
普通に結婚し、普通に子供を育てているただの母親であった。
「まあ、とりあえずは紋章剣は隠してもらい、しっかりとガードしているように話しはつけてきた。それにファングが今、紋章剣を借りて資質を見極めてもらっているから。あとは、こっちの仕事だけだな」
「そうですね‥‥」
ジョセフの報告を聞きつつ、アハメスは作業を再開した。
──キィーーッキィーーーーッ
上空から一羽の鷹が舞い降りる。
それを布を巻いた腕に止めると、ヴィグは残った手で器用にスクロールを広げる。
──ブゥゥゥン
テレパシーを発動させ、鷹の『ゲイル』と意思を繋げる。
『ひと、きた』
「ヘルメスか?」
『ひと、きた』
まだヘルメスと他の人間を見極めるほど、複雑なことまでは判らないゲイル。
そのため、人が近づいてきたら教えろという命令に変更したらしい。
「そうか‥‥」
そう告げると、ヴィグは素早く仲間たちの元に走り出し、それをこちらに向かっていると思われるヘルメス達に悟られないように告げていく。
「静かに、あまり騒がないように教会に避難してください!!」
アハメスが村人達を誘導。
そして数人の残った自警団は、ヴィグの持ってきたタリスマンに向かって祈りを込め始める。
ぎりぎりまで祈りを込め、そしてタリスマンが発動したとき、最後の自警団も教会に武器を持って避難した。
そして同行した騎士団も教会に向かい、最後の砦として護衛につく。
「さて‥‥鬼が出るか、蛇が出るか‥‥」
「剣士の末裔が戦えないと判った以上は、私達が最後の砦ですか‥‥」
そう告げるバルディッシュ・ドゴール(ea5243)と、その横で愛馬にまたがり、戦闘準備OKのファング。
そして、街道の向うに数名の人影が見えてくる。
「敵確認‥‥人数は4‥‥いや‥‥」
突然、視界の向うの少女の姿がきえる。
それと同時に、二人の少女が全力で村に向かって走りだした!!
●凡人の戦い〜vsフロレンス〜
──村中央
先陣を斬って飛込んできたのは両手にナイフを構えたフロレンス。
そしてそれを迎え撃つのは、アハメスとジョセフの二人。
「先制っ!!」
素早く印を組み韻を紡ぐジョセフ。
そしてそのジョセフとフロレンスの間にはいり、ガードしつつ攻撃を開始するアハメス。
──ギィンギィン!!
激しく撃ち鳴る剣戟の響き。
フェイントアタックとダブルアタックの搦手による攻撃を仕掛けるが、それはあっさりと受け流される。
「私はエリートだから‥‥他の子が持っている弱点は通用しないわ‥‥」
そう告げつつ、アハメスの喉笛を狙うフロレンスだが。
──バシュッ!!
ジョセフのウィンドスラッシュが発動。
フロレンスの頬を真空の刃が掠めていった。
「エリートね‥‥アザールとかいうタイプよね?」
さらにアハメスの手が速くなる。
一撃でも叩き込めば、彼女のプライドは破壊できる。
そう思い、とにかく一撃を当てることに集中するアハメス。
──シュパッ!!
今度はアハメスの一撃が、フロレンスの頬を掠める。
その刹那、フロレンスは後方へと飛び下がる。
──ツツーーー
血が滲みだし、大地に零れる。
「フロレンス‥‥天賦の才に胡坐をかいていませんか?」
そう問い掛けるアハメス。
「私は天才じゃないから‥‥天才は、ペーネローペとか、ブランシュの事。私は、彼女達を見てから、自分が弱いと判ったから‥‥それから強くなるのに努力したから‥‥」
下をうつむきつつ、そう告げるフロレンス。
フロレンスの頬を傷つけたのは左手のパリーイングダガー。
どうやら悪魔化してはいないらしいが、ちょっと様子が違ってきた。
「今、その事を教えてもらったわ‥‥ありがとう‥‥そして」
頭を揚げつつそう告げるフロレンス。
その表情は、天使の微笑み。
「殺してあげるね‥‥」
エンジェルモード・発動!!
素早く間合をつめると、フロレンスは両手のナイフをアハメスに向かって叩き込む!!
──ギィン‥‥シュパァァァッ
一撃目はなんとか受止めたものの、ニ撃目は直撃。
左の手首を切断された!!
「これぐらいで、参るほど甘くはないですよ‥‥あの地下闘技上での戦いは、もっとすごかったのですから‥‥」
そう告げると、素早く反撃に出るアハメス。
──シュンッ!!
と、突然フロレンスに向かって小石が飛んでいく。
ジョセフがスクロールでサイコキネキスを発動したのである。
──スカッ
その攻撃は難無く躱わすフロレンスだが、その一瞬の隙にアハメスが捨て身の一撃を叩き込む。
──ドシュッ!!
フロレンスの右肩にざっくりとナイフを突き刺すアハメス。
「痛みに耐えられる訓練もしているの。その程度の痛み‥‥」
そのまま左手のナイフで牽制するフロレンス。
そしてアハメスは再び間合を取ると、ゆっくりとナイフを構えなおす。
「そう‥‥痛みに絶える訓練もしていたのね」
そう告げるアハメスと、再び間合を詰めて切りかかるフロレンスだが。
──ガギィィィン、ガギィィィィン
先程とは太刀筋が違うフロレンス。
ジョセフがさらにサイコキネキスでフロレンスの太刀筋をコントロール、少しだが軌道を反らしていたのである。
「そんな‥‥」
さすがにそれにはフロレンスも戸惑いの表情を見せる。
だが、その戸惑いは危険である。
エンジェルモードが解除され、フロレンスの全身から大量の汗が吹き出した。
「パーフェクトのエンジェルモードとはちがうのね?」
肩で息をしているフロレンスに向かってそう告げるアハメス。そしてさらに追い撃ちを仕掛けていく。
ジョセフが再び印を組み、ウィンドスラッシュを発動。
フロレンスの衣服をざっくりと切断し、その白い柔肌に深い傷を叩き込む。
そしてアハメスは、最後の一撃とばかりに渾身の一撃をフロレンスにむかって叩き込んだ!!
──ドシュュュュュッ
深々とナイフが胸部に突き刺さる。
そしてフロレンスは静かに倒れ、絶命した。
軌道がずれたのではない。
フロレンスの身体が、ガクッと崩れた。
そこに振りかざしたナイフが突き刺さったのである。
殺す気は無かった。
だが、結果的にフロレンスは死亡した。
「貴方はやっぱり、自分の才能にあぐらをかいていたのよ‥‥痛みをコントロールしても、出血はとまらないのよ‥‥」
それがフロレンスの敗因。
流れすぎた血が体力を奪い、戦闘力を下げていった。
それに気付かなかったフロレンスは、そのまま神の御許に送られたのであろうか‥‥。
●レンジャーの戦い〜vsクラリス〜
──村長宅前
飛込んでいったフロレンスはアハメス達に任せて、ヴィグとバルディッシュは突然姿を消したクラリスらしい少女を探した。
「たしか、彼女はスクロールを持っていた筈。ならばっ!!」
消える直前に、金色の輝きがあったことを思いだしたヴィグ。
素早くバックパックを大地に降ろすと、慌ててスクロールを探す。
「どうした?」
「バルティッシュ、急いで教会の方へっ」
そう叫ぶと同時に、バルディッシュは教会に向かって走り出す。
そして一枚のスクロールを探し出すと、素早くそれを広げる。
──キィィィィン
ヴィグの全身が深紅に輝く。
そしてバルディッシュのあとを走り出すと、ヴィグは目の前を走っている『クラリスらしい熱源』に向かって縄ひょうを叩き込んだ!!
──ドシュッ
「バルディッシュ!! 縄ひょうの先だっ!!」
そう叫ぶヴィグ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ドシュュュュュュュュュュュュッ
なにも見えない空間。
そこに突き刺さっているであろう縄ひょうに繋がる紐の先に向かって、バルディッシュは渾身の一撃を叩き込む!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫とともに、大量の血が吹き出す。
確かな手応え。
吹き出した血の先に向かって、さらなる一撃を叩き込むバルディッシュ。
「そんな‥‥そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
さらに絶叫が上がる。
そしてやがて沈黙し、そこにはクラリスの死体が転がっていた。
「インビジブルのスクロールは諸刃なんだ‥‥周りからは姿を眩ませられるが、同時に自身の視界も僅かに奪う‥‥魔法なら、力をつければそれは和らげられるが、スクロールには限界がある‥‥」
そう告げつつ、血貯まりに転がっているクラリスの死体を見つめるヴィグ。
「しかし、やるせない。絶叫が耳に残っているぞ‥‥」
そう告げつつも、さらに止めの一撃を心臓に突きたてるバルディッシュ。
そして槍にまとわりついた血を拭き取りつつ、パルディッシュ達は他の戦域へと移動開始。
「アサシンガールは、個々の能力は高いしチームワークも取れている。だが、どこか一つだけ、弱点がある‥‥まるで」
そう呟きつつ、ヴィグはハッと気が付いた。
「不必要になった時の処分の為‥‥か?」
●ヘルメス降臨〜vsヘルメス戦〜
──正面街道村入り口
ヴォォォォォォォォォォォォォォン
シンの耳をつんざく魔剣の声。
手にした魔剣トデズ・スクリーを振るいつつ、ヘルメスに向かって牽制を仕掛けるのはシン。
「ふぅ‥‥面白い玩具を見つけたみたいね‥‥」
そう告げつつも、ヘルメスはシンの攻撃を一つ一つ丁寧に躱わしていく。
「ああ、もっとも、これは玩具の一つだけどな‥‥」
「こっちにも玩具はあるぜ」
Gパニッシャーを振回すロックハート・トキワ(ea2389)が、ヘルメスの背後からそう叫ぶ。
「あらぁ、随分と用意がいいのね。私と戦う為に、そんなに貴重な魔法の武具を用意していただなんて‥‥」
ニィッと笑いつつ、ヘルメスはそれすら躱わしつづける。
やがてロックハートはハンマーを投げ棄てると、そのまま間合を離し、ナイフを構えた。
その間も、シンはひたすら攻撃を続行。
「接近戦がだめなら、ナイフはどうだっ!!」
──シュンッ
素早くナイフを投げるロックハート。
──スカッ
それを難無く躱わすヘルメス。
「飛び道具は下手ねぇ‥‥戦士なら、あらゆる武器に精通していないと駄目よっ‥‥」
そう告げた瞬間、シンは目の前がクラッとした。
全身に激痛が走る。
「貴様‥‥一体なにを‥‥」
そう告げたとき、ヘルメスは左手に光る玉を握っている。
「クスッ。貴方の魂の一部よ‥‥」
そう告げつつ、シンと間合を取るヘルメスだが
──バサッ
突然空中から投網が投げつけられる。
それはヘルメスに直撃し、彼女を絡めとった!!
「な、なによっ‥‥」
──ドドドドドドトドドッ
それが合図。
いきなり全力で掛けてくるファング。
其の手には『クレイモアofハルク』が握られている!!
「これで最後だっ!!」
──ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ
激しく振りおろされたハルク。
だが、投網には届かなかった。
ガラーーンとハルクが落ち、そしてファングの姿が消えた。
「な、一体なにが‥‥」
追撃のタイミングを完全に逃したシンとロックハート。
そしてヘルメスはどうにか投網の中から抜け出すと、そのまま困惑している二人に向かって剣を引き抜く。
「どっちから死にたいかしら?」
そう告げたとき、シンは背中の鞘から剣を引き抜く。
いや、正確には、剣の柄。
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
そしてほとばしるオーラの輝き。
紋章剣・疾風!!
「あら。貴方も紋章剣を‥‥でも、弱いわねぇ」
「ファングを何処に消した!!」
「さぁ?」
にっこりと告げるヘルメス。
「素直にファングを戻せばよし。さもなくば‥‥ファング!! 何処だ!! 聞こえているかっ!!」
──ブゥゥゥゥン
ロックハートもまた、Gパニッシャーを構え、ヘルメスに向かう。
策はもうない。
あとは実力で戦うしか無かった。
「『旋風』‥‥お前は俺を受け入れただけで、まだ主と認めた訳じゃない。だが、今、強大な悪魔と戦う為に! 理不尽な暴力に泣く人々の為に! そして何よりお前が存在する意義の為に! 俺にお前の力を貸してくれ! 俺の残りの人生をお前にくれてやっても構わない! だからお前は理不尽に打ち勝つ力を俺にくれ! 悪魔を打ち滅ぼす剣を俺にくれ! シン・ウィンドフェザーの名において、今ここに誓う!!」
そう叫ぶシンだが。
剣は反応しない‥‥。
「あははははっ‥‥たいした茶番ね。所詮貴方には、その剣を使うだけの力はないという事よ‥‥」
そう告げると、ヘルメスの表情が真顔になる。
ブゥンと剣を振りおろし、再び真っ直ぐに構える。
「行くわよ‥‥覚悟してね‥‥」
──ゴクッ
息を呑む二人。
そして、ヘルメスが口許にニィッと笑みを浮かべる。
「まったねー☆」
その刹那、ヘルメスの姿が消えた。
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
‥
「逃げやがったか、あの女っ!!」
Gパニッシャーを大地に叩き落とすロックハート。
「ヘルメスまで‥‥逃がしたか?」
慌てて周囲を見渡すシンとロックハート。
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥン
と、シンの周りを一匹の蝿が飛び回る。
「うっとおしぃ‥‥」
──ベシッ
そのまま蝿を叩き落とすシン。
そして二人はしばらくの間、ファングとヘルメスを探してまわっていたが、どこにも姿は見えなかった。
●愛の逃避行柄〜ただ一言〜
──入り口から畑に向かって
ガキンガキィィィン
こちらも激しく撃ち鳴る剣戟の音。
「どうする‥‥俺は『また』逃げるぞっ嫌なら追って来い」
そう叫んでブランシュを引き付ける作戦。
だが、あっさりとブランシュは追い付くと、そのまま焔威に向かってナイフで斬りかかった!!
「あはぁーーん。ほーちゃーん。会いたかったたよーー」
ヘラヘラとそう笑いつつ、ブランシュがナイフを振回す。
──ザシュッ
一撃が焔威の腕を掠める。
と、ほんのわずかかすっただけにもかかわらず、焔威の腕からは大量の血が吹き出した!!
「シュライクか‥‥随分と芸が細かくなったなぁ‥‥」
そう減らず口を叩くものの、焔威の心は張り裂けそうになっている。
(頼むぞ‥‥みんな‥‥)
ヘルメスから魂を取り戻す。
それまでの時間稼ぎだったが、それもかなり辛い。
と、遠くからシンの叫ぶ声が聞こえてくる。
『済まない、ヘルメスが逃げたっ』
その声で、焔威は覚悟を決めた。
「俺は‥‥お前が悪魔でも構わない‥‥」
そのままブランシュを抱きしめようとするが、やはり手にしたナイフが危ない。
そのため、右手の鞭で絡めとろうとする焔威だが。
「あーー。ヘルメスさんいなくなったんだぁ♪〜」
と、のほほーーーんとした表情が、徐々に穏やかな天使の笑顔に変化していった。
エンジェルモード・発動!!
「仕方ないよね‥‥ほーちゃん、一緒に死のうね!!」
そう告げつつ、腰に下げていた日本刀を引き抜くブランシュ。
それを静かに構えると、突然のフェイントアタック!!
──スパァァァァァン
焔威の左目、眼帯がざっくりと切断される。 そして大量の血が、吹き出す。
「左目‥‥持っていくか‥‥」
だが、焔威も覚悟は決めた。
「駄目ならその時はこの手で」
そして、焔威も真剣な表情に変わる。
「あはぁん♪〜。あの日と同じ顔ね!!」
「あの日か‥‥初めてあったのは、マクシミリアン自治区だったな‥‥」
素早くフェイントアタック!!
エンジェルモードでも、プランシュの癖は変わらない。
──ブシュュュュュュュュュュュュュュッ
右手の鞭は躱わされたものの、ブランシュの右肩口に深々と焔威の日本刀が突き刺さる。
それは、いままでのブランシュではありえない。
彼女の肉体は、以前より撃たれ弱くなっている。
「あらぁ‥‥ん。やっぱり忘れている‥‥」
そのまま間合を取るブランシュ。
「ひどいよほーちゃーん‥‥」
そのままブランシュも反撃に出る。
──ズバァァァァン
神速の如き一撃を繰り出し、焔威の右足を膝から切断した!!
「ぐっ‥‥相変わらず、真剣だな‥‥」
「あたしはいつでも真剣だよ‥‥少しでもほーちゃんに追い付く為に、ヘルメスさんから力を貰ったんだから‥‥」
悪魔崇拝者
それが、悪魔と契約し、力を得たもの。
だが、ブランシュは、完全な契約を施してはいない。
肉体はまだ人間のまま。
大量に吹き出した血が、普通の武器で傷ついた身体が、それを証明していた。
「俺と戦う為に、悪魔と契約したのかよっ!!」
──ガキィンガキィィン
激しく撃ち鳴る剣戟。
「そうよっ。戦いは楽しいじゃない。なのにほーちゃんは、いつも私より前に進んでいく。アサシンガールである私より前に‥‥それって悔しいじゃないっ!!」
──ズバッズバッ
焔威の頬をブランシュの剣が走る。
ざっくりと切れた頬からは血が滲む。
「そうか。なら、これからは一緒にいこう。戻って来い‥‥君がどうなろうと一緒だ、さよならなんて言わせない」
そう告げる焔威。
だが、ブランシュは、そのまま焔威に向かって止めの一撃を叩き込む。
全力で走っていくブランシュ。
そのまま手にした日本刀を焔威の胸部に突きたてるブランシュ。
だが、カウンターで焔威もブランシュの胸部に剣を突きたてた!!
「一緒といった筈だ‥‥生きるときも‥‥死ぬときも‥‥」
そう告げたとき、ブランシュは突き刺さった日本刀から手を離すと、腰のバックにしまっていた小さな壷の中身を口の中に。
──Kiss
そして素早く口移しで焔威にそれを飲ませる。
徐々に焔威の傷は消え、ブランシュはニィッと笑みを浮かべる。
「死んだらだめだよ‥‥ほーちゃん‥‥」
それは、いつものおどけた口調。
いつもの笑顔。
まるで、ヘルメスの束縛から解放されたような‥‥。
「すぐにこれを呑め‥‥のんだらクレリックの元に行く。それまで我慢できるな‥‥」
そう告げつつ、焔威はヒーリングポーションを取り出す。
だが、ブランシュはそれを受け取らない。
「ほーちゃーん。あのね‥‥ゴブッ‥‥」
大量の血が口から吹き出す。
「もう喋るな。すぐに手当をさせる。悪魔にはなっていなかったんだろう? なら、まだ戻れる‥‥」
そう告げる焔威。
だが、ブランシュは頭を左右にふった。
「あのね‥‥わたし‥‥一言、ほーちゃんに言ってほしかったの‥‥」
徐々にブランシュの身体が冷たくなっていく。
その重さが、少しずつ増していく。
それが『死』の重みであると、焔威は震える腕で実感していく‥‥。
「何でもいってやる。何を言って欲しいんだ!!」
そう叫ぶ焔威だが。
「駄目だよ‥‥やっぱり、ほーちゃんは覚えていないもん‥‥私の負け‥‥だったのにね‥‥」
弱々しく笑みを浮かべるブランシュ。
そして、そのまま重さは限界へと達した。
──ガクッ
「ブラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンシュュュュュ」
絶叫を上げる焔威。
ブランシュ‥‥。
綺麗なロングのブラチナブロンド。
その髪を頭の左右で結ぶ、ツインテールの髪型。
日焼けした精悍な顔つきは、以前の無表情な時とは程遠い。
その瞳は、まさに恋する乙女そのものだった‥‥。
恋ゆえに。
大切な人とともに過ごす為に、彼女は戦いを、力を望んだ。
それが不器用な事だと‥‥。
●全てが終り
──そして1時間後
行方不明になったファングを捜していたシンとロックハート。
と、突然目の前でファングが姿を現わした。
左右の腕の骨が砕け、そこに横たわっているファング‥‥。
「酷いぜシン‥‥あたた‥‥」
そう告げるとファングは、そのまま意識を失った。
「ファング!! 何が起こった‥‥」
そう叫んだとき、シンは何かを思い出す。
そう。
シンが叩き落とした蝿。
あれは、ヘルメスによって蝿に姿を変えられたファングであったらしい‥‥。
「急いでクレリックの元に!!」
そう叫ぶシン。
そして村のクレリックの元に向かい、騎士団から大切なヒーリングポーションを受け取って飲ませつつファングは魔法による治療を受けた。
「あれが悪魔の戦い方ですか‥‥正面から向かっても駄目、搦手も駄目。どうやって戦ったらいいのか、まったく見当も付きませんね‥‥」
初めての対悪魔戦にして初めての敗北を味わったファング。
──一方、とある場所では
静かに横たわっているブランシュ、フロレンス、クラリスの遺体。
それに対してジョセフとヴィグがストーンを施し、それ以上の腐敗を止めた。
「サン・ドニ修道院でしたら、彼女達を受け入れてくれると思います‥‥焔威、それでよろしいですね‥‥」
アハメスのその言葉に、焔威は拳を握る。
「ノートルダム大聖堂でさえ死体が盗まれたんだ。サン・ドニ修道院が安全だという保障が何処にある‥‥」
そう告げるが、当てはない。
止む無く彼女達は、サン・ドニ修道院に届けられ、丁重に埋葬された。
パリへの帰り道。
空からは雨が降っていた。
まるで、誰かの心のように。
冷たく、哀しい雨だった‥‥。
〜Fin