●リプレイ本文
●パリ〜まずは下調べ〜
依頼を受けたその日、冒険者達は細部の打ち合わせの後で下調べに走り出した。
今のままでは情報が少なすぎる。
そのため、出発の準備が終ったものから次々と心当りのある場所へと赴くと、必要な情報の聞き込みを開始していた。
──冒険者ギルド
「‥‥咬み傷ですか?」
少女を教会まで連れていったギルド員に、皇 蒼竜(ea0637)とニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)の二人は少女の状態を確認していた。
「ええ。まるで野犬かなにかに咬まれたような傷がありましたね」
ゆっくりと思い出すように、ギルド員は蒼竜にそう告げる。
「なるほど。で、確か少女はこのパリ郊外の村だったよな? そこまでの地図があるなら写させて欲しい。あと、その子が何か持っていた果実だけど、どんな果実なんだ?」
ギルド員が見せてくれた地図を丁寧に羊皮紙に写しはじめた時、ギルド員が口を開いた。
「リンゴですよ。普通のリンゴ。ただ、その村はリンゴの栽培に力を入れてまして、特に貴族の方たちなどに大層気に入られていたようです」
その言葉を聞いた直後、エルリック・キスリング(ea2037)とロックハート・トキワ(ea2389)の二人もそこに合流。
「どうですか? 何か判りましたか?」
そうニルナに問い掛けるエルリック。
「野犬に襲われた傷があったそうで。それ以外はこれといって」
「そうか。ちょっと聞いていいか?」
ロックハートが受付けにそう告げる。
「はい。私で判ることでしたら」
「その少女の住んでいた村の近くで、モンスター討伐依頼が来たことあるか?」
その問いに対して、受付けは依頼書の把を取り出すとパラパラと素早くめくりはじめた。
「結構前にですけれど、ありますね。ゴブリンが徘徊して困るので退治して欲しいというのが。でも、この依頼は完了していますね」
「なら、果樹園は収穫期だったのか?」
ふと頭を捻る受付嬢。
その問い掛け、は受付けにいた通訳シフールが蒼竜にも判るように華国語に翻訳して伝えていた。
『‥‥まだ早いだろ。リンゴの収穫期は9月以降。今はまた結実したばかりじゃないのか?』
その蒼竜の言葉を皆に伝えるシフール。
「そうか。まだ結実して間もないのか‥‥」
ロックハートの求めていた解答。
(なら、まだ人は少ない筈。村が襲われたとしたら確かにいいタイミングではあるか)
そして一通りの情報を仕入れると、蒼竜は皆の元へと戻っていった。
──待ち合わせ場所
そこでは、すでに出発の準備を終えていた
レーヴェ・ツァーン(ea1807)とジャドウ・ロスト(ea2030)、アクア・メイトエル(ea4276)の3人が待機している。
「ふう。すまんすまん、ちょっと遅れた‥‥」
バルディッシュ・ドゴール(ea5243)が額から汗を流しながらそう告げる。
「いや、まだギルドに聞き込みに向かった者たちも戻ってきていないから大丈夫だ」
レーヴェがそう告げる。
「そろそろ戻ってくるころだな」
「そうですね。戻ってきたら急いで出発しましょう。事態が進展している可能性もありますから」
ジャドウの言葉にアクアが付け足す。
そしてギルドから皆が戻ってきた後、一同は件の村へと出発した。
その道中に、ニルナ達は残っていたレーヴェ達に情報を説明。
これから先の対応について細かい打ち合わせを行った。
●果樹園〜はてさて、困った〜
──村の手前の果樹園
いよいよ目的地の村まであとひと息。
果樹園の手前にたどり着くと、まずは蒼竜とアクアの二人が先行で調査開始。
上空をアクアが、地上を蒼竜が進み、周囲の観察を開始。
「‥‥これといって、対して変わった様子もない。リンゴの樹も荒らされた形跡はないし‥‥」
だが、蒼竜はふと足元に付いている大量の『見慣れぬ足跡』を気にしていた。
人のものではない。
それも大量に。
(済まないが、レーヴェにこれを調べてもらうように伝えてくれ)
そうサインをアクアに送る蒼竜。
「ふむふむ。レーヴェさん、蒼竜さんが調べて欲しいものがあるんですって」
一旦皆の元に戻りそれを告げると、アクアはふたたび上昇開始。
「調べて欲しいものとは?」
蒼竜の元に向かい、そう問い掛ける。
言葉は判らないが、ニュアンスでそれとなく感じ取った蒼竜が、足跡を指差す。
「‥‥オーガか。それもこんなに大量に‥‥」
レーヴェがそう呟くと、後方で待機している皆を呼ぶ。
「ふむ、大小あわせて10前後といったところか。随分と大勢のオーガだな」
「ギルドに出ていた依頼はゴブリンだった筈。となると、このオーガの軍勢が村を襲ったという可能性も考えられるか」
ジャドウの言葉に、ロックハートが捕捉を加える。
──ガサガサッ
と、突然前方で何やら騒々しい音が聞こえてくる。
「大変です!! 村の手前でオーガと誰かが戦闘しています!!」
アクアが皆にそう告げる。
そして蒼竜に同じくサインを送ると、一同はその戦闘エリアへと走り出した。
そこでは、一人の剣士らしき人物が2体のオーガと激しい戦闘を繰り広げている。
すでにオーガ、剣士とも疲労困憊といった感じである。
そして剣士は蒼竜達の姿をみるとあわてて叫ぶ。
「気を付けろ、この辺りに出没している凶悪な奴だ!! 仲間もやられた!!」
その声のニュアンスで、蒼竜はナックルをガキーンと打ち鳴らすと、剣士とオーガの間に割って入った。
『情況は理解した‥‥』
そう呟くと、蒼竜は身構える。
そしてその後方から、レーヴェ、エルリック、バルディッシュが武器を構えて挟撃のスタイルを取る。ジャドウとニルナとロックハートは後方で魔法詠唱と投げナイフのスタンバイ。
「仲間がまだ村に!! ここは任せます!!」
そう叫ぶと、剣士は傷ついた体を起こして村に走りだした。
アクアはその光景を、ずっと上空で観察。
剣士がそのまま村の中に飛込んでいくのを確認。
「‥‥何か引っ掛かるわね‥‥」
そう呟くが、すでに地上では戦闘発生。
ただ、オーガは戦うそぶりを見せない。
『‥‥こいつらから殺気を感じない? どういうことだ?』
蒼竜は静かに構えを解く。
「何か理由がありそうだな‥‥」
レーヴェも蒼竜と同じく、剣を鞘に納めた。
「さっきの剣士さんは、無事村に戻りましたよ」
上空をパタパタと跳びながら、アクアがそう告げる。
そしてゆっくりと降下すると、敵意を感じさせないオーガの手前でゆっくりと着地する。
「誰かオーガ語話せる? もしくは君達、人間語話せる?」
アクアがそう呟く。
が、誰もオーガ語は話せない。
「‥‥ムラ、タスケル‥‥」
一人のオーガがそう呟く。
「話ができるの!!」
そうニルナが呟くと、オーガに問い掛けた。
「村で何があったの? 小さい女の子が助けを求めて街まで来たのよ!! この村で何があったの?」
「ア‥‥ウウ‥‥」
誰かに人の言葉を学んでいたらしいが、複雑な言葉はまだ理解できないようである。
「ムラマモルヒト、ムラオソッタ、ミンナコロサレタ」
ようやく言葉を繋いだが、それだけで十分であった。
「村守る人、村襲った‥‥皆、殺された‥‥か」
ジャドウがそう告げると、アクアに蒼竜にサインを送ってくれと告げる。
そして蒼竜も、そのサインを受け取ると、静かに立上がる。
「蒼竜、ちょっとまて。まだ真実は見えていない」
ロックハートがそう叫び、蒼竜を止める。
「貴方たちは、村の人と‥‥えーっと、オーガの判りそうな言葉‥‥えーっと」
ニルナが必死に頭を捻る。
「あ、私に任せて下さい‥‥えーっと、オマエラ、ムラノヒト、トモダチ?」
少しでも判りそうな単語を並べるアクア。
「トモダチ、オレ、ムラ、テツダウ、トモダチ」
どうやら、このオーガ達は村で果実などの採取を手伝っていたらしい。
「なる程な。オーガの中には、ごく希に人間との共生を求める平和主義のものもいるとは聞いていたが‥‥こんなに身近になるものなのか」
レーヴェが持てる知識の中から、オーガについて思い出した。
「この村は、オーガと共に生きていた。でも、村を護るべき者が村を襲い、皆殺しにあった‥‥もし真実がそれだとしたら、私はその人たちを許さない!!」
ニルナがそう呟く。
「まだ結論を急ぐ事はない。俺の知っている限りでは、オーガというのはズル賢い一面を持っている。この場を切り抜けるための与太話という可能性もあるだろ?」
ジャドウは皆が一つの方向に思考を走らせないように注意を促す。
が、ジャドウにも判っていた。
オーガが人から言葉を学んだという事実。
人と共存しないかぎりありえない。
その事実が、オーガ達のもたらした言葉に現実味を与えている事を。
「総ては村についてからだ。オーガにはここで待機してもらおう」
バルディッシュがそう告げると、アクアがオーガ達につたない言葉でここに留まるように説明。
そして一同は覚悟を決め、村へと向かっていった。
●冒険者〜紙一重の存在〜
──村にて
無事に村にたどり着いた一同を迎えてくれたのは、村に雇われた冒険者達であった。
「助かった。あのオーガは、この村に危害を与えていた奴でね、村長からこの村を守るように私達は依頼を受けていたんだ」
剣士がそう告げる。
その後ろには、剣士らしき風体の者が二人、クレリック一人、ウィザード一人、そしてジプシーらしき風体の者、ジプシーの後ろにはさらに2匹の調教されたらしい犬が2匹、待機していた。
みな疲れきった様子で、体を休めている。
(‥‥野犬の咬み傷か、いよいよ‥‥だな)
ジャドウが犬に視線を送り、心の中でそう呟く。
「村長さんや村のみなさんは?」
そう問い掛けるニルナ。
「私達がたどり着いたときにはすでに‥‥」
クレリックがそう告げる。
「村のはずれに埋葬しました。私達はこの村に留まり、仇を取るために、やってくるオーガ達を蹴散らしていたのです」
ジプシーも静かにそう呟く。
ニルナ達はその言葉を静かに聞いている。
(‥‥巧妙な嘘ですね‥‥)
対人鑑識で、彼等の嘘を見破るロックハート。
「では、せめて私達もその人たちに祈りを捧げさせてください」
神聖騎士であるエルリックがそう告げる。
「こちらです」
そのまま剣士が村人達が埋葬されているという場所に案内する。
そこには一つの共同墓地が作られていた。
確かにそこには真新しい墓があった。
そして、皆が静かに祈りを捧げると、ふたたび村の真ん中に移動する。
「一つ聞かせて欲しい‥‥お前たちは、ギルドの依頼を通してここにきたのか? 我々はギルドから依頼を受けてここにきたのだが」
最初から村人が盗賊と入れ代わっている可能性を考えていたレーヴェが、そう問い掛ける。
「いや、我々はたまたまここに立ち寄ったときに、村長に依頼されて‥‥」
そう告げる剣士に対して、レーヴェが口許に笑みを浮かべて話しはじめた。
「俺達は、ギルドから正式に依頼を受けてやってきたんだ‥‥」
そのレーヴェの言葉が最初の合図。
蒼竜達はみな、いつでも戦闘態勢に入れるように、相手に気取られることなく構えはじめるる。
「ほほう、どんな依頼ですか?」
剣士の表情が引き攣る。
「村を襲った‥‥冒険者崩れを退治して欲しいと、この村の娘から依頼を受けてね」
「馬鹿な、あの娘まだ生きて‥‥ッ!!」
慌てて口を押さえるウィザード。
だが、既に時遅し。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ』
──ドゴォォォォォン
力一杯踏込み、剣士目がけて鉄拳を叩き込む蒼竜。
『正体見せたか、外道!!』
そう吐き捨てると、蒼竜はそのままウィザードに向かって走り出した。
「あの子は、自分の体が傷つきながらも助けを求めてやってきました。私達は、あの子の魂に誓いました。必ず仇を取るって‥‥貴方たちは絶対に許さない」
「‥‥すぐ楽にしてやる。貴様の死をもってな」
ニルナ、バルディッシュの二人も走り出し、残った剣士の足留めを始める。
その後方ではジャドウ、上空ではアクアが詠唱開始。
蒼竜は敵ウィザードに集中放火を叩き込み、詠唱の暇を与えない。
「貴様に判るか!! 大切な肉親を助けたいという少女の悲痛な叫びが!!」
レーヴェも同じくジプシーに攻撃、エルリックはクレリックに向かって切りかかる。
「神に仕えし者が、このような愚行を行うとは。神罰の代行者たる神聖騎士として、私は貴方を許さない!!」
それは激しい戦闘であった。
ジャドウやアクアの魔法援護、エルリックのリカバーでなんとか命を失うことは無かった。
だが、人間、それも冒険者相手の戦闘というものが、これほどきついとは思ってもいなかった。
だが、ここで負けるわけにはいかない。
少女の無念、村人の悲痛な気持ちを考えると、彼等は負ける訳にはいかなかった。
そして敵の最後の一人が地に附した後、手を結び猿轡をかませて、冒険者崩れの犯罪集団を縛り上げた。
殺してもよかった。
だが、彼等のような愚行を行うものをこれ以上増やすわけにはいかないという誰かの言葉で、騎士団に引き渡すこととなった。
──そして
確認のために墓を調べる。
そこには無残にも斬り殺された死体が大量に眠っていた。
その中には、おそらく少女の姉も眠っているのであろう。
そしてもう一度彼等を埋葬すると、皆静かに祈りを捧げた。
バルディッシュは、懐から少女の遺髪を取り出すと、そのまま墓に一緒に埋葬した。
「貴方という少女が居たということは 忘れません。安心して地に帰りなさい」
ニルナはそう呟くと、墓に十字架のネックレスを備えた。
──そして
静かに夜のとばりが降りる。
「結局‥‥誰も助けられなかった‥‥」
ニルナがそう呟く。
「あの時、全員殺しておけば、すこしは村人も浮かばれたのでは‥‥」
ジャドウがそう告げるが、誰も何も告げない。
そんな時。
『‥‥ありがとう‥‥』
皆の心にその言葉が聞こえてくる。
ふと墓に視線を送ると、そこには大勢の村人や、あの少女がにっこりと微笑んで立っていた。
やがて彼等はスッ‥‥と消えていく。
「村人の魂だけでも助けられたのです。無念のまま死んでいったら、彼等は負の力に囚われていたかもしれません‥‥」
エルリックのその言葉に、少しだけ心が癒される一同であった‥‥。
〜FIN〜