●リプレイ本文
●さて‥‥
──パリ・ニライ宅
シルバーホーク関係の事件も一応収拾がつきつつあり、ニライ・カナイは自宅にて執務を続けることができるようになっていた。
「ここで冷静さを欠いては相手の思うがまま。今回は確かに首領は取り逃がしたものの成果はあったはず。幹部を捕らえたし当分暗殺少女が新たに生産されることは無いかと‥‥自分が苦しい時は相手も苦しいと考え焦らず我慢に着実に行きましょう」
そう告げているのは無天焔威(ea0073)。
ニライ宅の応接間で、ほーちゃんは査察官に対してそう助言を与えていた。
「アサシンガールは、ベースとなる少女が存在すれば、簡単に作れるそうです。教官の一人が白状しましたよ‥‥」
その言葉に、ほーちゃんの表情は凍り付く。
「どうやって‥‥」
「パーフェクトを越えた少女の報告。ペーネロペーといったかな? あの子を生みだす方法も聞いた。魂の盟約をヘルメスが行う。格闘に関すること全ては悪鬼が、対魔法戦とそれに対処する為の知識はジェラールが行なったらしい。戦いの礼節、礼儀作法などを担当していたダースが死んでしまった以上、それは別の教官が行なっていると考えても過言ではないか‥‥」
そう告げると、二人はしばし沈黙。
だが、その沈黙を打ち破ったのは、再び口を開いたほーちゃんであった。
「前のレイルの提案などで思ったけど、周囲がナイトという職業柄か騎士団や査察官には、隠密行動に長けたカードや不足し冒険者に頼らざる負えないのでは? でそれを補うため彼女達を復活させ雇い入れるのは? 彼女達が雇うに信頼できるかを試すために試練を行うのは…ダメ?」
そう告げると、ほーちゃんはニライの言葉をしばし待つ。
「なら、アサシンガール達で一つの部隊をつくればいい。このノルマンに忠誠を誓い、国の手足として動く‥‥。それなら彼女達は、その高い『暗殺技術』を駆使することも出来る。その身分も保障される。だが、それでいいのか? シルバーホークで飼い馴らされていたときと、どう違うというのだ?」
その口調に、ほーちゃんは少しムッとした。
アサシンガール達をまるで『道具』のように告げるニライの言葉に。
だが、それは自身もそう感じていたのかという後悔の念に捕われていく。
「もう少し大きな部分で考えてみるんだな。私は、君の考え方は嫌いではない‥‥だが、こういう性分なのでな。他のシフール達のように、お気楽に生きられればどんなにいいかと、つくづく思ってしまうよ‥‥」
それ以上の言葉はない。
そしてほーちゃんは静かに立上がると、入り口に向かって歩きだす。
「オーガを率いる悪魔っぽい女を見に行くので何かあったら報告します‥‥」
務めて明るく告げるほーちゃん。
だが、それはまた‥‥。
──冒険者酒場・マスカレード
「できる限りの事はやるが、流石に全滅させるのは無理だがそれでも構わないか?」
依頼人である吟遊詩人にそう問い掛けているのはシン・ウィンドフェザー(ea1819)。
今回の依頼、あまりにもリスクの方が大きすぎる。
正面から向かったら、こっちが全滅するのは必至である。
「それは当然です。オーガ達に殺されたのは明白ですが、全てを殺せとは言えません。せめて、あいつの持っていたリュートだけでも取返して、そしてそれを持っていたでしょうオーガさえ殺してくれれば‥‥」
拳を握り締めてそう告げる吟遊詩人。
「判りました。出来る限りのことはしましょう。それで、真に申し訳ないのですが、もう一度、貴方の見た場所についての確認などをさせてください」
それはアハメス・パミ(ea3641)。
彼の身元を冒険者ギルドと吟遊詩人のギルドの両方で確認したアハメスは、もう一度彼から細かい状況を確認しようとしていた。
そして吟遊詩人はテーブルの上にスクロールを広げると、自身が判っている限りの地図を作っていく。
「ここがシュヴァルツ城で、ここが森。こっちが街道で‥‥この方角からオーガの軍勢が向かっていたようなんです‥‥」
その一つ一つを念入りにチェックしていく一行。
「オーガの軍勢がやってきたのは、この方角ね。という事は‥‥」
アハメスが直線上に存在する一つの領地を指差す。
「ヴォルフ領か。つまり、このオーガの軍勢は『魔獣兵団』という事か」
シンがやれやれという感じに呟く。
そして其の場にほーちゃんも到着すると、早速一行は目的の場所へと向かっていった。
●天使の姿の悪魔〜あんた誰だ?〜
──パリ郊外
街道を越えてシュヴァルツ城へと向かう一行。
そして途中から街道を離れ、目的の森林に突入する。
すでに荒巻源内(ea7363)は疾走術により、敵の状況を逸早く察知する為に斥候を行なっていた。
「‥‥オーガのキャンプか‥‥それにしても‥‥」
荒巻の目の前。
草原を覆いつくすキャンプ。
すでにそこは、キャンプなどとう言葉では説明できない。
オーガの町
それが、荒巻の脳裏を横切った。
そして視界の中に見える一人の人物。
濡れるような黒髪に漆黒の衣服。
それは、教会のステンドグラスでよく見掛ける天使そのものである。
オーガの中を歩きつつ、彼等の様子を伺っている天使。
ただひとつ違う点があるとすれば、それはその背中に生えている翼。
純白の翼では泣く、蝙蝠のような黒い翼が、その背中から生えている。
(依頼人の言っていた、悪魔のような女性か‥‥)
そして荒巻は、仲間たちの元に合流すると、それらをすべて報告する。
「ヘルメスか?」
「多分そうだろう?」
「服装とか、蝙蝠の翼とか、ヘルメスとは違うようですけれど?」
シン、ほーちゃん、アハメスの、ヘルメスさん御存知チームがそういう意見を出す。
「取り敢えず、そのヘルメスについて教えて欲しい。俺はこの前、ダース卿との戦いで精一杯だったからな‥‥」
アレクシアス・フェザント(ea1565)が3名にそう告げると、横で話を伺っていたカレン・シュタット(ea4426)も静かに肯く。
そして3名から話を着き、とりあえず今までの作戦との刷りあわせを行うと、いよいよ作戦開始となった!!
●オーガの軍勢
ドゴォォォォォン
先制攻撃はカレンのライトニングサンダーボルト。
「それではお願いします!!」
そう告げると、カレンは次の魔法の為の詠唱を開始。
その一方では、他のメンバーが一斉に草原に広がっているオーガキャンプに向かって突撃する。
──シュンシュンッ
飛び交う弓兵からの矢を巧みに交わし、荒巻が敵弓兵に突撃。
「貴様達さえ止めれば、あとは仲間たちがなんとかしてくれる‥‥」
──シュッ
素早く敵オーガの後方を取ると、その手にした忍者刀でオーガの首筋をカッ斬る!!
瞬く間に血を流し、オーガが其の場に崩れる。
そして其の場は乱戦状態となった。
弓を手にオーガが荒巻を狙い、それは外れて仲間のオーガを射貫く。
その間にも、荒巻は次々と弓兵に対して刃を振るいつづけていた。
(シュバルツ城でカルロス伯爵を滅した後、陽動側の報告書も読んだが‥‥今回の敵が件のヘルメスなら、まだあそこに何かあるのか? 『アンドラス』と合流する気‥‥いや)
そんな事を考えつつも、任務を遂行する荒巻。
──一方
グォォォォォォォォォォォォォォォッ
隊長格のオーグラに向かい、刃を振るうのはアハメスとアレクシアス。
「人語を解するならば、問う。目的は何だ?」
そう叫ぶアレクシアスだが、オーグラは其の手に握られていたスクラマサクスをアレクシアスに向かって叩き込む!!
──シュン
その一撃を素早く躱わすと、アレクシアスは瞬時にオーグラに向かって日本刀の一撃を叩き込む!!
──ドシュッ
それは体表に纏っていたレザーアーマーを切りさき、オーグラの皮膚を霞め斬った!!
──グルゥォォォォォォォォォォォォォォォォォ
絶叫を上げるオーグラ。
だが、そこにアハメスが日本刀によるニ連撃を叩き込む!!
──シュシュンッ
傷口から大量の血が吹き出すオーグラ。
──キラッ
その胸許に、どう見てもオーガとは不釣り合いのペンダントらしきものが見える。
「遺品ですか‥‥それは返して貰うっ!!」
アレクシアスがそう叫びつつ、オーグラに向かって攻撃を続ける。
そしてアハメスもまた、敵隊長格さえ潰してしまえばあとは統制の取れない雑魚ばかりと考え、オーグラに対して攻撃を続けていった。
──そしてこっちでは
「あっちゃあ‥‥」
敵オーガ達を一掃していたシンとほーちゃん。
かなりの数を潰したまわっていた二人だが、悪魔のような女性の姿を確認すると、そのままほーちゃんは別のターゲットに向かって移動!!
「シン、ヘルメスは任せるよーー」
「ち、ちょっと待てぇぇぇぇ」
そう叫ぶシンだが、すでに目の前には悪魔が立っている。
「ヘルメスか‥‥」
顔には見覚えがあるシン。
敢えて確認の為に、そう問い掛けてみた。
「あら。なんで貴方がここに?」
「依頼を受けてね‥‥吟遊詩人がここに来ていただろう? 奴の敵討ちを頼まれた‥‥ついでに貴様達の企みをぶっ潰す!! 何時までも、手前ェの好きにさせると思うなよ」
素早く武器を構えると、シンはすかさずヘルメスに向かって切りかかる。
──ガギィィィィン
と、其の手に構えた巨大なハルバードをなんなく振ると、ヘルメスはシンの攻撃をあっさりと受け流す。
そして反対の手に握っていた『燃え盛る棍棒』でシンに向かって一撃を叩き込む。
だが、シンもまた、その一撃を受止めると、そのまま後方に下がり間合を取る。
「やっぱり動きづらいわよね‥‥」
そう告げて、ヘルメスは其の手の武器を大地に落とすと、懐から剣の柄を取り出す。
──ブゥゥゥゥン
いきなりオーラソードが柄の両方から発生する。
「不死鳥の紋章剣‥‥やはり貴様が使うことになったか‥‥」
「ええ。いままでみたいに遊びで貴方たちの相手をしている必要もなくなったのでね。シルバーホークが力を完全なものにするまでは、私は私の好きにさせてもらうことになっているのよ‥‥」
と、突然ヘルメスの姿が変化する。
女性的というよりは中性的な姿に。
まさに天使の如く、その姿が変わっていった。
「それが貴様のオリジナルか‥‥」
「ええ。ヘルメスなんていう偽名も必要ないでしょう? 私の本当の名前を教えてあげるわ‥‥その魂が砕ける直前にね‥‥だから、動かないで?」
そう告げた瞬間、シンの身体が硬直する。
──ギシッ
全身が金縛りにあったかのように、まったく身動きが取れない。
(‥‥しまった‥‥)
そしてヘルメスは、ゆっくりと剣を構えると、シンに向かって叩き込もうとした!!
──バリバリバリバリッ
と、その太刀筋がシンに当たる直前、ヘルメスに向かってライトニングサンダーボルトが直撃する!!
「シンさん、今のうちですっ!!」
カレンの叫び。
そしてシンを襲っていた全身の呪縛が消え、シンは後方に走り出す!!
「逃がすと思って?」
そう告げるヘルメスだが。
「それは私の言葉。サラバだ‥‥」
ヘルメスのすぐ背後で、荒巻がそう呟く。
そして。
──チュドーーーーン
必殺、微塵隠れの術。
そしてその煙に紛れて、荒巻もまた撤収!!
「ゴホゴホッ‥‥やるわねぇ‥‥」
そう呟くヘルメスだが。
目の前には、大量のオーガの軍勢の無残な光景が広がっていた。
●そしてパリ〜仇は打ちました遺品も回収しました〜
──酒場マスカレード
「‥‥これがリュートと彼の遺品らしいペンダントです」
アハメスが依頼人にそう告げつつ、ペンダントとリュートを手渡す。
隊長であるオーグラを倒し、ペンダントを取り戻したアハメスとアレクシアスは、リュートの奪回にも成功していたらしい。
シンとカレン、荒巻も無事に敵の包囲を突破、殿はほーちゃんが務め、なんとか一行はパリに無事帰還したのである。
「こっちが本気を出したら、ようやく向うも本気を出してきたか‥‥どーすりゃいいんだ、まったくよ」
「さて。対悪魔用の装備とかなんとかしないとねぇ‥‥」
シンの言葉に、ほーちゃんもそう告げた。
敵オーガの軍勢。
その戦力を多少は削りとることが出来たものの、まだあのエリアには大量のオーグラが残っている。
そして、彼らが手にしていた武器は『ヴォルフ領』にて作られし魔獣用武具。
背後にヴォルフ卿の魔獣兵団が待ち構えているのは明白であった。
そしてこれから、奴等が向かうであろう先。
シュバルツ城には、一体何が待っているのであろうか?