●リプレイ本文
●謝罪と反古と保護と罪と罰〜つまりは?〜
──パリ・ニライ宅。
「つまり、貴方は秘密結社グランドクロスを脱退したと?」
いぶかしそうな表情で、目の前のクリシュナ・パラハ(ea1850)にそう問い掛けているのはニライ・カナイ査察官。
今回の依頼、出発前にクリシュナはニライ査察官のもとを訪れ、以前起こした事件についての謝罪を行なっていたのである。
「ええ。ご存知でしょうが、グランドクロスは『自称』秘密結社。ニライ査察官の危惧しているような害はありませんよ。わたくしも、責任を取って退社致しましたから」
そう告げると、クリシュナは静かにニライ査察官に頭を下げる。
対するニライの言葉はない。
今のこの状況では、どんな言葉を並べても通用しないと、クリシュナは理解しているのであろう。
しばらくして。
「ふむ。では、その話しはあとにしましょう。今回の依頼を貴方が無事に終えてくれたときを判断としましょう‥‥」
そう告げると、ニライは静かに立ち上がる。
「ちょっと待ってください。実はもう一つお願いがあるのです」
「まだ何か?」
「移動用の馬車を何台か用意できないでしょうか? 撤退時の負傷兵搬送に必要になりますので」
そう告げるクリシュナ。
「負傷兵搬送ですか。まあ、それについては用意しておきましょう」
「お願いします。先日のシルバーホーク捕縛作戦の壊滅の様子は、噂になりましたからね。二の徹は誰も踏みたくは無いでしょう‥‥」
最後の言葉は皮肉も混ざっているのであろうか?
それ以上はなにも告げず、ニライ査察官は其の場を静かに立ち去った。
──ロイ考古学研究室
「ふぅむ‥‥」
腕を組んで考えているのはロイ教授。
「どうでしょうか? なにか心当りのある悪魔は存在しますか?」
アリアン・アセトはロイ教授の元を訪れて、ヘルメスに関する情報を説明していた。
デビルの研究をしている教授なら、何か判るかもしれないと考えたのだ。
「おそらくは『アリオーシュ』じゃな」
「アリオーシュ?」
そう問い返すアリアン。
「うむ。裏切りと復讐の悪魔。しかし、そのようなものがどうしてシルバーホークとやらに手を貸しているのじゃろう?」
そう告げるロイ。
さすがにシルバーホークとミハイル達の過去の確執までは、アリアンは説明していなかった。
「まあ、いずれにしても、相手は『上級』と呼ばれる存在。魔法の武器でなくてはな‥‥」
そう告げると、ロイ教授は、アリアンに一振りの剣を預けた。
●戦闘準備〜細かい打ち合わせののち〜
──ベースキャンプ。
細かい作戦会議はほぼ終了。
クリシュナはこの会議での作戦をすべて記録として残し、その羊皮紙を整理していた。
「みなさん、無事に帰ってきて下さいね‥‥」
あとは神に祈るだけであった。
──先行偵察部隊
「敵の規模が大きすぎる‥‥」
レンジャー部隊を率いて、隠密行動万能で森の中を通って慎重に偵察していたのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
森の中を迂回し、敵オーガ部隊のベースキャンプの見える位置まで移動、そのまま偵察を行なっている。
「敵戦力はと‥‥」
そのまましばし偵察を続けるアシュレー。
そして他のレンジャー達と情報をすりあわせると、まずは一旦ベースキャンプに戻る。
そこで待機していたクリシュナにもまとめた情報を説明すると、そのままアシュレーは再び定位置へと移動。
いつでも奇襲をかけられるようスタンバイにはいる。
──もう一方の偵察部隊。
(‥‥ヘルメスと悪鬼‥‥そしてクレリックが一人‥‥)
静かに心の中で呟いているのは夜黒妖(ea0351)。
彼女もまた、レンジャー部隊を率いての強行偵察を行なっていた。
黒妖達のチームの目標は敵後方支援部隊についての情報収集。
暫くはそれを続けていたが、後方支援部隊についてのデータが集り始めたとき、黒妖は頭を捻る。
それは、奇妙な衣裳を着たオーガの軍勢。
様々な装飾品を身につけ、他のオーガの着ているレザーアーマーではなくローブを身に纏っている。
まるで、『ウィザード』のようなその様子に、黒妖は嫌な予感を感じていた。
(まさか‥‥オーガのウィザード部隊?)
オーガが魔法を使うなど聞いたこともないが、もしそうならば、かなりの驚異になるであろう‥‥
そして後方に控えている『対攻城戦用兵器』。
破城槌や巨大投石器『カタパルト』、はては攻城戦用に造られたのであろう巨大弩まで、其の場には置かれていた。
そして、黒妖は回復要員のポイントまで把握。
(あのクレリックの周囲に集っているローブの集団が回復要員? だとすると、今回の戦い、かなりやっかいな相手だな‥‥)
そう心の中で呟いた時、黒妖は自分に向けられている殺気を感じとった。
──ビクッ
素早く身を隠し、その殺気の方角に視線を送る。
そこには、一人の少女がじっとたたずんでいた。
(アサシンガール? ちょっと待て‥‥まだ残っていたのか?)
それ以上の調査は危険と判断し、黒妖は他のレンジャー達とともに偵察任務を終了した。
●作戦開始〜それは戦争〜
──草原。
絶叫が響き渡る草原。
武器と武器のぶつかりあう音。
激しい呼吸音。
肉が裂け、骨がくだけ散る。
圧倒的な戦力差。
それをカバーする冒険者の作戦。
それでもなお、オーガの軍勢は引くことを知らず、ただひたすら進軍を続ける。
前方では大量の騎士団の屍。
そしてそれ以上の数のオーガの無残な死体が転がっていく。
むせ返るような血の匂いに、嘔吐する者さえあらわれる。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ガギィィィィィン
激しい一撃を敵『悪鬼』に対して叩き込むのはシャルグ・ザーン(ea0827)。
その日本刀の一撃すら、悪鬼は両腕に付けたガントレットで受け、はじき飛ばす。
「さすがにフットワークがいいな、冒険者は‥‥作戦上はまだまだ余裕だったはずが、すでにこっちは半数の戦力を削がれたか‥‥」
そう呟きつつも、悪鬼はシャルクに対して拳を叩き込む。
それをどうにか受け流すが、やはり手数は軽装の悪鬼の方が上。
──バジッバジッ
素早く2連撃を叩き込まれるシャルクだが、その程度では引き下がらない。
オーラにより戦闘士気は著しく向上していた。
「貴殿に勝てるとは思わない。が、足留めは十分出来る!!」
そう告げると、シャルクは二度構えを取る。
「久しぶりに楽しませてくれるか‥‥」
ごきごきっと拳を鳴らしつつ、悪鬼がニャリと笑いつつそう告げる。
そしてゆっくりと構えを取ると、そのままシャルクに向かって不用意にも見える動きで近づいていく。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ガギガギィィィッ
素早くニ連撃を叩き込むシャルク。
だが、またしてもその攻撃は悪鬼のガントレットで弾かれた!!
「一体どちらが優勢で、どっちが劣勢なのか君には判るかね?」
──ブゥン
一瞬の隙を見て、悪鬼が右ストレートを放つ。
それはシャルクの頬を霞め、その拳圧でざっくりと頬を切り裂く。
「貴殿達が劣勢に決まっているであろうっ!!」
飛び退りつつ、シャルクが怒気を孕みながら叫ぶ。
が、それにぴったりとついて回ると、悪鬼はシャルクの腹部に向かって鉄拳を叩き込む!!
──ドゴォッ
「ぐふっ‥‥ぐはぁぁぁぁっ」
その一撃でシャルクは転がり、血反吐を吐く。
「まあ、そこで静かに見ているがいいさ‥‥これから起こる、阿鼻叫喚の世界をな‥‥」
そう告げると、悪鬼はシャルクに向かって背中を見せる。
だが、その背中には隙をまったく感じさせなかった。
「ハァハァハァハァ‥‥つまり、貴殿は我が輩達が貴殿の率いる部隊よりも劣っているというのかね? それならば訂正して戴こう‥‥」
剣を杖がわりに、シャルグがゆっくりと立ち上がる。
「ほぅ。まだ戦うか?」
その歩みを止めると、悪鬼は瞬時に振り向き、シャルグに向かって構えを取る。
「貴殿は確かに強い。あのシルバーホークの側近であったという噂も聞いたことがある。だが、貴殿達の兵力、その殆どがオーガ種。いくら訓練されているとはいえ、統制が取れているとは到底思えない‥‥」
──タッ
その刹那、シャルグが一気に間合を詰めると、そのまま悪鬼の腕に着いているガントレッドに向かって渾身の一撃を叩き込んだ!!
──ガシャァァァァッ
装甲が砕け、手首から血が流れる悪鬼。
さらにもう一撃、シャルグは剣を逆手に握ると、悪鬼の胸許に向かって剣を叩き込む!!
──ドシュュュュュッ
それは皮一枚ではあったが、悪鬼の肉体を確実に捕らえている。
「そしてもう一つ。悪鬼、貴殿も無敵ではない。我が輩の一撃、もしあと一歩踏込めていたら、胸から臓腑を撒き散らしていなかったか?」
そう呟くと、シャルグは素早く間合を離す。
──ざわざわざわっ
怒りの表情を見せる悪鬼。
その髪が逆立ち、まるで別の生き物の如く揺れている。
「いいだろう。そこまでいうならば、こちらも本気でいかせて貰う‥‥」
そして悪鬼は構えを取る。
その身体から発せられた殺気に、シャルグはただ相手の攻撃をじっと受け流すことに専念した‥‥。
──ドドドドドドドドドトッ
突然側面から大量の蹄の音が聞こえてくる!!
「全軍進撃ッ!!」
それはシン・ウィンドフェザー(ea1819)。
側面待機していたシン率いる突撃騎馬隊が、ようやくその重い腰を上げて参戦した!!
──ガギィィィィン
馬上戦闘になれた騎士にとって、大地を走るオーガなど稚児に等しい。
次々と薙ぎ倒しては、敵の戦力を分断していく。
「左に二人回れッ。後方との繋がりを分断するんだッ!!」
次々と指示を飛ばしつつ、シンもまた敵をなぎ倒していく‥‥。
「グウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
巨大な武器『スクラマサクス』を手にしたオーグラが、馬上のシンに向かって切りかかる。
──ガギィィィィィン
その力任せの一撃を、シンは手にした武器で素早く受け流すと、カウンター気味に一撃を叩き込む。
──ドシュッ
だが、オーグラはそんなものを気にする様子もない。
むしろ、痛みすら感じない雰囲気である。
「痛みを感じないのかよっ!!」
さらに一撃。
──ドシュュュッ
胴部から鮮血を吹き出すオーグラ。
だが、それすらも感じていない雰囲気。
そしてオーグラは、手にしたスクラマサクスを力一杯横に薙ぐ。
それを、巧く馬を操り巧みに飼わしつつ、かわしきれないと判断したスクラマサクスの軌道に武器を構えて馬に対する直撃を避ける。
──ガギィィィィィン
「ちっ。こんな奴にかまっている時間は無いんだよなぁ‥‥」
戦場を駆け抜け、情況を確認するのがシンの任務。
一つのところに留まっているのは非常に不味いのである。
──シュシュュッ!!
と、突然横合いからオーグラに向かって大量の矢が注がれる。
「ここは俺にまかせてっ!! シンは早く戦場に」
「助かる」
黒妖率いる第二レンジャー部隊が到着。
その圧倒的と言える矢の雨に、敵オーガやオーグラは一時撤退を余儀なくされた。
「目標変更!! ターゲットは敵後方支援部隊!!」
そう叫ぶと、黒妖とレンジャー部隊は敵後方で戦場を走りまわっているクレリックに向かう。
そして素早く矢を番えると、そのままオーガに対して治療を施しているクレリックに向かって矢を放った。
──シュシュシュシュッ
突然の矢の応酬に戸惑うクレリックだが‥‥。
──シュシユッ
「神よ、我等に加護をっ!!」
後から走ってきたクレリックがそう告げる。
そしてホーリーフィールドを展開すると、矢が後方に飛ばないように盾となった。
「あれはホーリーフィールド。攻撃を切り替えて。ホーリーフィールドを撃破する!!」
黒妖は指示を変え、レンジャー部隊は手にした矢を別のものと交換する。
そして力一杯引き弓を引き絞り、矢をホーリーフィールド目掛けて放つが、さらに別のクレリックの集団が前に出ると、前方に次々とホーリーフィールドを展開、敵後方支援部隊の前に『ホーリーフィールドの壁』を作りあげていく。
さらに後方では、ウィザード風のローブを来たオーガ達がフィールドの前に並ぶと、全員が一斉に印を組み韻を紡ぐ。
「オーガウィザード? レンジャー部隊散開っ。敵魔法に巻き込まれるなっ!!」
黒妖が指示を飛ばし、それに合わせてレンジャー部隊も動く。
そしてそこから悲劇は起こった。
オーガの部隊が韻を完成させる。
だが、魔法は発動せず、奴等は一斉に大地にしゃがみこんだ。
その後に、ズラリと並んだ『攻城戦用巨大弩バリスタ』が、前方のレンジャー部隊に向かって狙いつけていたのである。
大柄な体格、魔法を使う筈のない存在による陽動、すべてはこの武器の準備の為なのか?
──ドッゴォォォォォォォッ
次々と放たれるバリスタ。
それに胴部を貫かれ、またあるものは頭部を破壊され、其の場に屍を晒していく。
「い‥‥一時撤収!! 体勢を整えるっ」
拳を握り締め、黒妖は止む無く後方撤退。
別の戦闘エリア。
──シュンシュンッ
後方補給部隊に向かって、隠れていたレンジャー部隊が攻撃を開始。
アハメス・バミ(ea3641)の指示に従って待機していたレンジャー達である。
そのアハメスはというと‥‥。
「今は貴方の相手をしている場合ではないのです‥‥ヘルメス‥‥いや『アリオーシュ』っ!!」
その名前に、目の前のヘルメスも表情を引きつらせる。
軽装騎士のサポートをしていたアハメスだが、運が悪いことに彼女のエリアにヘルメスが降臨したのである。
「その呼び方で呼ばれるのは、何百年ぶりでしょうかねぇ‥‥」
そう告げるヘルメスの姿が、瞬時に変化する。
漆黒の衣服を纏っていた女性。
その背中からは蝙蝠の翼が姿を表わす。
「私には、悪魔について詳しい仲間がいるのです‥‥」
出発直前。
アリアン・アセトが今までの情報を元に手にいれた『ヘルメスの正体』。
それを元に、アハメスはヘルメスに対してカマを掛けてみたのだが、ついに的中!!
「でも、その名前を知ったところで貴方はどうすることもできないわ‥‥その武器ではね‥‥」
そう告げるヘルメス。
確かにアハメスの武器は普通の日本刀。
だが。
素早くアハメスは武器を鞘に戻すと、逆の腰に下げていた柄を手に取る。
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
柄からは輝く刀身が姿を現わした。
「ワルプルギスの剣‥‥ふぅん‥‥」
アリアンがアハメスにもたらしたのは情報だけではない。
ロイ教授の元で話を聞いたとき、教授は対ヘルメス戦を想定して一振りの剣を預けてくれたのである。
「これなら互角‥‥」
──シュンッ
素早くオーラセイバーを叩き込むアハメスだが、ヘルメスもまた『不死鳥の紋章剣』を発動させると、それを受け止める!!
──バジィィィッ
さらに一撃
──バジィィィッ
そのまま受止めると、アハメスは素早くヘルメスから離れる。
「どうしたの? もう撤退?」
そう挑発するヘルメスだが、アハメスはそのような言葉には耳を傾けない。
すぐに元の戦列に戻ると、他の仲間たちのサポートに入る。
(相手したいのはやまやまだが、今はそんな事をしている場合ではないから‥‥)
さらに別エリア。
──シュシュッ
左後方からレンジャー部隊を率いて、アシュレーが駆けつける。
ターゲットは敵最前線の指揮官らしきオーグラ。
それぞれが部隊を率いて、前線で騎士団相手に戦っていた。
それを潰すことで、敵戦力を削ぐことができると判断したアシュレーは、レンジャー部隊による弓の奇襲を敢行した!!
「目標、前方のオーグラっっっっっ!!」
そう叫ぶアシュレー。
それと同時に、レンジャー部隊も手にした弓から次々と矢を放つ。
──ドシュシュシュシュシュシュシュシュッ
大量の矢がオーグラに向かって注がれ、まずは一体撃破。
「いまだ、突撃」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
突然の奇襲で指揮官を失ったオーガ達には、重装騎士たちが唸り声を上げて突撃。
一気に士気を取り戻す。
そしてアシュレーはまた別のオーグラを発見すると、同じ様に奇襲を仕掛ける。
だが、今度はこちらの動きを予測してか、盾を構えたオーガ達がオーグラの前に出ると、矢からオーグラを護る。
「ウゴウガウガァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
絶叫を上げるオーグラ。
そして敵オーガの軍勢の一部がレンジャー部隊に向かって突撃開始。
「駄目だっ。体勢を整える。一時撤退っ」
怒涛の如く押し寄せてくるオーガ達に、レンジャー部隊も撤退を余儀なくされた。
だが、逃げきれなかった者たちは武器を弓から剣に切り替えて参戦、そのまま無残な姿と成り果てていった‥‥。
「オックスフォード攻めの方が、まだましだったな‥‥」
それほどまでに、統制の取れたオーガの軍勢は脅威である。
当然、このような軍隊が自然発生するはずもない。
「後で手を引いている奴‥‥話に出てきた魔獣兵団っていうのがこいつらなのか‥‥」
アシュレーは詳しいことは判らない。
冒険者ギルドで依頼を受け、関連する依頼を色々と調べているうちに見つけた『魔獣兵団』という名前。
それがこれだとしたら、かなり厄介な相手だと思いつつも、撤退したレンジャー部隊から報告を受けつつ、再び奇襲に出る為のチャンスを伺っていた。
体勢が整い、再び奇襲にでるアシュレー。
黒妖も後方からこちらに合流し、残存兵力を合わせての奇襲作戦を開始。
「半数持っていかれた‥‥」
「こっちはそこまでは。だが、敵は思っていたよりも厄介だよ‥‥」
そんな話をしつつも、敵に対してターゲットを絞る二人。
同じ頃、戦場を駆け抜けているシンも、そろそろ撤退の時と判断。
「敵との戦力差は大きい。まあ、こっちもかなりの数を削ったが‥‥これ以上の被害を出す訳には‥‥」
そう呟いた時、前方で一人の女性が倒れていた兵士から『白い光る玉』を取り出しているのを発見する。
「ヘルメェェェェェェェェェェェスっ!!」
そう叫びつつ、シンは馬を走らせる。
関りたくはない。
だが、あの光る玉はすなわち魂。
ミハイル教授から奪った魂も、ヘルメスが持っているのならば。
幸いな事に、周囲には他の敵の姿は確認できない。
アハメスのようにワルプルギスの剣を持ってきていれば良かったが、持っているものを奪うだけなら‥‥。
そんな思いて馬を走らせるが。
──ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
戦場を鏑矢が飛び行く。
そしてその直後、太鼓の音が響き渡った。
それは、騎士団を始めとする冒険者達の撤退の連絡。
かなりの敵戦力を沿いだものの、こちらもかなりの痛手を追ってしまった。
その為の戦略的撤退。
その音に、シンは我を取り戻すと踵を返して他の騎馬隊の元に走っていく。
「撤収!! 殿は俺がつとめるっ!!」
突撃騎馬隊が仲間たちの殿に入る。
シンを始めとする騎馬隊が敵の追撃を阻み、アシュレーと黒妖のレンジャー部隊が、さらに大量の矢を放ち、敵の反撃のタイミングを奪いさった。
そして戦いは幕を降ろす。
残った敵オーガの軍勢は、それでもなおシュバルツ城方面に進撃。
その結果がどうなったのか、それは誰にも判らない。
そして疲弊した騎士団も、作戦成功とまではいかないものの、敵の戦力を大きく削り落とすことに成功した。
但し‥‥。
ブラックウィング騎士団の生存者は半数を切る。
それほどまでに、敵は強かった‥‥。
この日の戦いは、クリシュナが記録を残し、ニライ査察官と冒険者ギルドに納められている。
そしてクリシュナも又、自らの罪を清算し、普通の冒険者としての生活に戻ることになった。
ニライ査察官によって命じられていた『秘密結社グランドクロス』に対しての監視は全面的に解かれ、いままでと同じく冒険者ギルドに依頼を行うことが約束される。
それでも。
失われた者たちの命は戻らない。
騎士団の甦生を行なっていた教会でも、今回の犠牲者達の全ての魂が戻らないという異例の事態が発生している。否、懸命の祈りに一度は息を吹き返したのだが、ほんの一息の間だけで、また絶息してしまうのだ。二度、三度と試みても、そうした者は絶対に生き返らない。
まるで。
失われた魂が、何処かへ囚われてしまったかのように‥‥。
〜Fin