●リプレイ本文
●修行と行くか!!
──運命は風の吹くまま
のどかな日差しを浴びつつ、街道を行き来する旅人。
商人達もときおり停車場で休んでいる商隊に話し掛け、旅に必要なものを買い込んでいる。
そんな風景を眺めつつ、一行は目的地へと向かっていた。
そこで何が待っているのか。
それは、向かった者たちにしか判らない世界。
●剣士の居留地〜ワルプルギスの剣士〜
──シャルトル地方辺境
「ご無沙汰していますマスター・オズ」
丁寧に挨拶をするのはシン・ウィンドフェザー(ea1819)。
その側には、今回新たにワルプルギスの剣士としての修行を行いたく、ルミリア・ザナックス(ea5298)も同行していた。
そしてシンがルミリアを紹介すると、ルミリアもマスター・オズに丁寧に頭を下げる。
「おお。シンではないか。久しぶりじゃな‥‥」
そう告げつつ、オズはルミリアに頭を下げる。
「初めまして。ルミリア・ザナックスと申します。マスター・オズに御願いがあってやって参りました」
丁寧にそう告げるルミリア。
「実は、彼女に『ワルプルギスの剣士』としての修行をして欲しいのです」
「お願いします」
そう頼み込むシンとルミリア。
「良きオーラを持つお嬢さん。一つ質問してもよいかな? 何故『剣士』を目指すのぢゃ?」
そう問い掛けるマスター・オズ。
「悪魔から人を護る為‥‥です」
それがルミリアの本音。
「よろしい。シン、そしてルミリア。明日から剣士として修行することを許可する」
そして翌日より、二人は激しい修行の日々を送った。
朝は日の昇らないうちから。
自らの体内をめぐるオーラの修練から始まり、剣士としての実戦修行、体力を付ける為の谷間での基礎修練など。
とにかく少ない時間で、二人はメキメキと剣士としての実力を身につけていく。
だが、不思議なもので、剣士には生まれついでの資質も関与している。
オーラの才覚を逸早く発現したのはルミリア。
だが、剣士としての技の豊富さはシンには届かない。
シンは細かい技術を鍛えあげ、ルミリアはオーラを引き伸ばす。
二つのタイプの剣士が、ゆっくりとであるが引き伸ばしていた。
それはまるで、ただの鉄塊が鍛えあげられ、鋼のごとき剣となるように。
そしてある夜。
食事をしていたとき、二人はマスター・オズに幾つかの質問をしていた。
「マスター・オズ。オーラを極限まで磨いたとして、悪魔にとり憑かれたり、悪魔と契約し魔と化したヒトを相手取り、悪魔の影響だけを切り離す技などできないでしょうか?」
そう問い掛けていたのはルミリア。
「オーラは無限に広がる力。じゃが、万能ではない。悪魔との契約者を、その顎(あぎと)から解放するには、悪魔自身を滅ぼさなくてはならない‥‥悪魔となったものを助けることは、その罪から解放するだけじゃよ‥‥その為の剣じゃ‥‥魂を救うのは我々ではない。それの出来る者たちの為の道を作るのが、ワルプルギスの剣士なのじゃ」
さみしそうにそう告げるオズ。
「マスター・オズ。ワルプルギスの剣士の本格的な召集、新任の時期はいつなんだ?」
そう問い掛けるのはシン。
「風が告げておる。間もなく、このノルマン全域を巻き込む嵐が吹くと‥‥そのとき、ワルプルギスの剣士は、嵐を打ち破る剣として動く‥‥」
しばし沈黙。
そしてシンは、次の質問を行う。
「マスター。何故『旋風』だけが扱いが難しいのか教えて欲しい」
「紋章剣は全部で13本。その中で、特殊な剣が3本存在する。『旋風』、『業火』、『激震』、この3本は、単体でも十分強いが、その真意は『二刀流』にあるのぢゃ。旋風は、もう一対の剣の力を増幅する力を持っておる‥‥その時増幅した力を制御するには、並み大抵の修練では‥‥」
そう告げると、オズは自分の腰に下げられている剣を手に取る。
「ワシでも、それらを振りかざすには‥‥」
「マスター。『旋風』を、刀身修復の為に借り出せないか。もし可能なら、江戸村に入る刀匠に武具修理を依頼してきたい!!」
そう告げるシン。
「紋章剣は失われし力。それを作り出したものでなくては、修復は難しい‥‥シン、心当りはあるのか?」
そう問い掛けるオズに、シンはコクリと肯く。
そして手にした旋風に意識を傾ける。
「オーラと共に‥‥」
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥン
安定したオーラの刃。
それが、『旋風』がシンを認めた証。
「よかろう。では、旋風を修復に出す事を許可しよう」
──バタッ
と、そのオズの言葉の後、一人の人物が建物のなかに入ってくる。
「マスター・オズ。紋章剣の所有者が確認できた‥‥」
そう入りつつ告げたのは、ワルプルギスの剣士の一人、メイス・ウィング。
「メイス。報告を」
「はっ。ヘルメスなる悪魔が紋章剣を4本所持。そのうち『不死鳥』はヘルメス自身が。残りは『蛇』『白虎』『蟹』。それら3本は、『チャイルド』と呼ばれる戦闘に秀でた子供達が所有しています」
その言葉に、シンとルミリアが眉を顰める。
「チャイルド? アサシンガールではなくて?」
「ああ。ヘルメスの元で戦闘訓練を受けた子供達らしい。『ペーネローペ』という少女を筆頭に、『ゼフィランサス』『サイサリス』『ステイメン』というコードネームが付けられている‥‥」
そののち、メイスは一息つくと、話を進めた。
「私達の元には、龍、白鳥、蝙蝠、そしてロイ教授より託された旋風と業火の合計5振り。パリにはマスカレードの持つ牡牛が確認されています。残る山羊、一角獣、そして激震は行方不明。可能性があるとすれば、おそらく一角獣と激震は奴の最後の地である『アビス』に、山羊は彼自身の孫が所有しているかと思われますが‥‥」
その話に質問をするシン。
「アビスとは?」
「ああ。もっとも古き遺跡。果てしなき迷宮だ。伝説の剣『フォーチューンブレード』をを始めとする、様々な武具が眠っていると伝えられている。私達の古い同士がその遺跡に封じられている魔物を殲滅に向かって命を落としている。おそらく、彼の持っていたふた振りの紋章剣『激震』と『一角獣』はその地に眠っていると思われる」
「山羊の紋章剣は?」
今度はルミリア。
「ああ、私の友が所有していた。引退したという話を聞いている。その孫が今は、それを所有しているらしい」
「名前はなんと?」
「カトリーヌ・モルガンシュタイン。冒険者だ」
はて。
カトリーヌ?
さて‥‥。
シンは何処かで聞いたような‥‥。
「アビス探索か‥‥メイス、お主は山羊を当たって欲しい。ワシはちょっと『シャーリィ嬢』の元を訪ねるとしよう。遺跡なら、あのお嬢さんが本業な筈‥‥シンとルミリアは、そのまま修行を続けなさい‥‥」
そして翌日、シンとルミリアはノルマン江戸村へ、メイスとマスター・オズはそれぞれが目的の地へと向かっていった。
●ノルマン江戸村〜わんドシ君に蹴りいれよう!!〜
──ノルマン江戸村
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫を上げる小さな箱。
その中には、わんドシ君に破れてぐるぐる巻きにされたあげく、木箱に閉じ込められてしまった飛天龍(eb0010)が入っている。
「さて‥‥びっくり大作戦だワン」
静かに川を下っていく箱。
それを見守るわんドシ君。
さて、それでは何故こんなことが起こっているのか、ちょっと時間を遡って見ましょう。
──村に到着
さて。
馬車から降りて村をグルッと見渡したのは青龍華(ea3665)とリュリュ・アルビレオ(ea4167)、そして天龍の3名。
「うーん。やっと身体を延ばせるわね‥‥」
グイッと伸びをしてそう告げている龍華の横では、リュリュが前方から走ってくる一陣の砂煙に向かって身構えた。
「来る‥‥くるくる‥‥って来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
砂煙を上げてかけてきたのは、御存知ノルマン江戸村の守護神(というかマスコット)のわんドシ君。
「わんドシ君に蹴り入れよう♪〜」
──ワンワン!!
そう歌いつつわんドシ君に向かってドロップキックするリュリュだが。
その足を両手でガシッと掴むと、わんドシ君はリュリュをぐるぐると振回してぽーーーーーーーーーーーい。
「良く来たワン」
そのままなにも無かったかのように告げるわんドシ君。
「ここの村に、野獣の如き男がいるという噂を聞いてきた。案内して貰おうか」
そう呟く天龍。
「何か用かだワン」
そう告げつつ尻尾をフリフリするわんドシ君。
「私が用事のあるのは、貴様のようなぬいぐるみではない‥‥冗談はいいから案内して貰おうか」
カッと瞳を見開いてわんドシ君にそう告げる天龍。
──ブゥン
だが、その刹那、天龍の頭上からわんドシ君の踵が急降下してくる。
──シュンッ
その一撃を素早く躱わす天龍。
だが、そこでわんドシ君は宙高く飛び上がり、足の甲の部分で天龍を激しく蹴り飛ばす!!
「宮村流体術・蹴術の3。騰空飛脚だワン」
そのままなんとか体勢を整えつつ、空中で姿勢を戻す天龍。
「この動き、まさかこいつが‥‥」
そう呟くと、天龍は静かにわんドシ君の前に着地。
「貴様が‥‥そうか。俺が勝ったらその、ふざけた着ぐるみを脱いで貰うぞ」
素早く拳を構える天龍。
十二形意拳の構えの中から、基本中の基本である心意六合の構えを取ると、天龍はスッと左右の手を開く。
手のひらが龍の顎に見立てられ、じっとわんドシ君の動き見る。
「いい構えだワン。武術八法は全て修練を終えたワン?」
そういいつつ、同じ構えを見せるわんドシ君。
「生まれ出でてから、その身が朽ちるまで‥‥これ全て修練也」
そのまま素早く間合を詰める天龍。
そして渾身の一撃を叩き込むが。
──シュンッ
その一撃を身体を捻りつつかわすと、素早く一歩踏み出して天龍の胴部に掌底を叩き込むわんドシ君。
「ぐふっ‥‥」
そのまま後方に飛んでいく天龍に向かって、わんドシ君はただ一言。
「勁力(けいりょく)が今ひとつ練りこまれていないワン‥‥掛かってくるワン!!」
その言葉に天龍のプライドは完全に切り裂かれた。
一気に奥義に持っていくが、やはりわんドシ君の攻防一体の構えには太刀打ちできず、ついには息を切らせて其の場にへたりこんでしまう。
「では、極限で勁力を爆発させるワン」
そう告げると、素早く天龍をロープでぐるぐる巻きにする。
そしてそのまま何処からか持ってきた木箱に詰めると、その蓋をがっちりと固定、そのまま川に流したのである。
「ちくしょぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
絶叫をあげつつ流れていく天龍。
──そして時間は元に戻って
「と‥‥とりあえず修行だわんドシ君!!」
そう叫ぶと、リュリュは素早く印を組み韻を紡いだ‥‥。
●弟子入り志願〜これが試験だな〜
──鍛冶屋トールギス
「無い」
煙管を吹かせつつ、きつぱりとそう告げているのは御存知鍛冶師のトールギス。
彼の目の前には、3人の人物が座っていた。
一人はリュリュ達と共にやってきた龍華。
その横で拳を握って叫んでいるのはアルビカンス・アーエール(ea5415)。
そしてさらにその横で困った顔をしているのはロックフェラー・シュターゼン(ea3120)。
「無いって‥‥注文したのに、まだ出来ていないっていうのかよ‥‥」
「うむ。完成はした。しかし、マシュウと飲んでいるときに色々と話が弾んで。ライトニングバスターは奴の手で魔法武具として生まれ変わる!!」
それはそれで凄い話だなおい。
「なら、直接取りに行く。場所を教えて欲しい」
「それは無理じゃ。奴は自分の工房に人が来るのを極端に嫌う‥‥」
「なら、俺のライトニングバスターはどうなるんだよ!!」
ゼイゼイ。
息を切らせつつそう叫ぶアルビカンス。
「まあ待ちなさい。他にも来客が来ておる。その話は少し待って‥‥と。お嬢さんはどんなご用かな?」
そう龍華に問い掛けるトールギス。
「武器を作って欲しいんです‥‥」
そう告げると、龍華はズイッと前に出て、ウルウルとした瞳で懇願。
「‥‥現状打撃補助の武器は龍叱爪しか無いし‥‥良い武器なんだけど、最近じゃ威力足りなくて‥‥。この先強い敵と戦う為、今有る奥義を生かして戦うには龍叱爪を超える威力の武器が必要なんです、お願いします」
そう告げると、じっとトールギスの方を見つめる。
「打撃補助系ねぇ‥‥お嬢さんは華国の武道家かな?」
「はい!!」
その言葉に肯くと、トールギスは奥においてある箱から数本のスクロールを取り出すと、それを広げてしばし眺める。
「ふむ、例えばこんな武器とか?」
そう告げつつ龍華に見せたのは『護手鉤(ごしゅこう)』と呼ばれる武具。
「いえ‥‥これも強力ですけれど‥‥こう‥‥すこし違うので‥‥」
「ふむ。どれどれ‥‥ならこれは?」
次の出たのは、月牙と呼ばれる刃を二つ組み合わせた武具。
「鶏爪鉞(けいそうえつ)ですか‥‥でも‥‥」
なかなか思うような武具が見つからない。
「まあ、少し時間を暮れ。色々と調べてみる‥‥と、さて、君はどんな用事じかな?」
そうロックフェラーに問い掛けるトールギス。
ちなみにロックフェラーの頼みが、今回もっとも難易度の高いものであった。
「俺に鍛冶の修行を付けて欲しい」
その言葉に、龍華とアルビカンスも動揺。
「‥‥何処まで打てる?」
「一通りはマスターしてきたつもりです‥‥」
その言葉に、トトールギスが真剣な表情になる。
「すまないが、アルビカンスさんと龍華さんは今日はこれで。ロックフェラーといったな。着替えて私の工房に来なさい。テストして上げよう」
そう告げると、トールギスは静かに其の場を立ち去る。
さすがに真剣な表情でそう告げられると、アルビカンスと龍華もなにも言い返せない。
二人は一旦そこを離れることにした。
──そして翌日
「‥‥荒いな‥‥」
一晩かけてロックフェラーの鍛えたダガー。
それを手に取りつつ、トールギスがそう告げる。
「荒いですか‥‥」
「ああ。打ち込みが少ない。ほら」
そう告げると、トールギスは近くに置いてあった籠手を手に取ると、それでロックフェラーの鍛えたダガーを殴りつける。
──ビシィッ
そのダガーは、途中からばっくりと折れた。
「力任せでは駄目だな。目と耳を鍛えろ。力だけに頼るな‥‥また明日、見せてもらう‥‥」
つまり、ロックファラーは其の場での修行を認められたのである。
「ありがとうございます!!」
そう頭を下げつつ叫ぶと、ロックフェラーは再び工房に籠った。
──ノルマン亭
「‥‥工房は暫くロックフェラーに預けた。龍華さん、貴方の武器については少し時間が欲しい」
そう丁寧に告げられると、龍華も流石無茶な事は言えない。
「判りました。それでは、私はわんドシ君と修行してきますので‥‥」
そう告げて、龍華は村の広場で待つわんドシ君の元へ移動。
「さて、アルビカンス。冗談は抜きにして、本題に行かせてもらう」
いつになく真面目に告げられると、アルビカンスもちょっと真剣モードに突入。
──ゴトッ
テーブルの上に、『ライトニングバスター』が置かれる。
「こ、これは。完成していたのか?」
コクリと肯くが、すぐに難しそうな表情のまま口を開く。
「耐久性については保障できない。籠手はあくまでも籠手。ライトニングバスターのように武器として使用する場合の耐久力テストをしていない。マシュウの所に送った完成品は、それを元に『ブランシュ鉱』により作り出されるから問題はない。が、ギミックという点では、まだまだ試したい部分がある。今アルビカンスが付けているのは、完成品と同じものを昨晩作り出した奴。この村に滞在しているあいだ、色々と実験してくれ。それで最終的な結論を出したい‥‥実用性があるか、改良点はないか‥‥以上だ」
そう告げると、トールギスは酒場をあとにする。
「成る程ねぇ‥‥それじゃあ、早速実戦で調べてきますか」
そう呟くと、アルビカンスは近くの森に向かってレッツゴー。
●数日後の江戸村
──鍛冶屋トールギス
「‥‥替えの刀身だけが必要ですね‥‥」
シンの持ち込んだ紋章剣『旋風』。
それの修理を請け負ったのは紋章剣の生みの親であるディンセルフの孫、クリエム。
「普通の武器で大丈夫か?」
「ええ。これは飾りのようなものですから。紋章剣の本来の力は、この柄の部分に全て集っています。魔力を増幅するような金属で鍛えられた刀身があれば別ですけれど‥‥」
そう告げつつ、手慣れた手付きで刀身の交換をするクリエム。
「この武器は?」
そう告げつつ、シンは聖剣アルマスとトデス・スクリーを取り出す。
「それは無理です。変に紋章剣にはめ込んだら、その剣自身の力を失ってしまいかねません。普通でいいんですよ‥‥」
そのままクリエムは、紋章剣の手入れを始めた。
──そのころのトールギス
「面白いですねぇ‥‥」
眼の前に広げられたに十手、シールドソード、リュートベイルをじっと眺めつつ、トールギスが静かにそう告げている。
「こっちは開発資金です。とりあえず100G。これと、こちらの武器はさし上げますので、『相手の攻撃を受けつつ戦える汎用武具』を製作して欲しいのです」
そう頼み込んでいるのはルミリア。
「色々と注文が立て込んでいまして。まあ、それでもやりがいのある仕事ですね。引き受けましょう」
そう話が付いたとき、シンもようやく紋章剣の手入れを終えてトールギスの元にやってくる。
「マイスター・トールギス。ガントレットと盾が一体化した防具は作れないか?」
そうシンが問い掛けたとき、トールギスは後のガラクタ箱からひとつの籠手を取り出してシンに見せる。
「それはアームガーダー。円盤状のバックラーと籠手が一体化した奴だ。試作で使い勝手が悪かった為開発中止にしたんだが、そんなものでいいのか?」
その問いに、シンはコクリと肯く。
「ああ、十分だ」
「なら、暫く待ってくれ。色々とやらないとならないことが多すぎて」
「これは使い物にはならないのか?」
そう問い返したシンに、トールギスが立ち上がって外に出る。
そして試し切り用の巻き藁を巻く杭の先に、さきほどのアームガーダーを取り付けた。
「師匠。18本目のロングソードです。例(ためし)を」
そう告げて姿を表わしたのはロックフェラー。
ついにダガーでのテストも終り、今度は『粘りのある打ち方』を学んでいるらしい。
「さて。試すか‥‥」
ブゥンとロングソードを振ると、トールギスはソードを星眼に構える。
──シュンッ!!
そしてアームガーダーに向かって一閃。
パバキッとガーダーは砕けるが、同時にロックフェラーの鍛えしロングソードも真っ二つにへし折れてしまった。
「試作ゆえ、耐久性に欠ける‥‥か」
そのシンの言葉に、コクリと肯くトールギス。
「色々とあってなぁ。とりあえず長い目で見てくれ」
そう告げると、ロックフェラーは再び工房へと戻っていく。
シンとルミリアは、しばし村の中の散策に入った模様。
──その頃の川原
「‥‥私ね‥‥リスターの事が好きなの」
そう告げているのは大丹羽蛮。
その横では、魔力が殆ど枯渇してしまいギプアップ状態になっているリュリュの姿があった。
わんドシ君との修行。
そこでリュリュは、わんドシ君の弱点を発見した。
本人に仕掛けた魔法は悉くレジストするが、巻き込んだ場合にはわんドシ君はどうすることもできない。
トルネードのような範囲型魔法は、屈強な戦士といえども巻き込まれてしまうようである。
それに気が付いたリュリュは、更なる特訓を続け、ついにわんドシ君を魔法によって叩き臥せる事に成功したようである。
そして川原で休んでいたとき、蛮ちゃんが姿を表わしたのである。
「リスター、酒場で困っていたよ。冒険者を引退するしかないか‥‥って」
そう告げるリュリュ。
「そ、それは駄目‥‥」
慌てて蛮ちゃんがそう叫ぶ。
「どうして? 心配なんでしょう?」
「でも‥‥あの人は自由でいてほしいし‥‥でも‥‥」
そこでリュリュは気が付いた。
あの日、リスターが聞いた言葉、あれは『蛮ちゃんの本心』ではないということに。
ではなにか。
「本気で好きなんだね、蛮ちゃん‥‥。だから、ついリスターに意地悪な事言っちゃったんだ。リスターにその事をちゃんと告げないと。一つのところでじっとしているのはリスターじゃない。自然に、自由にしているあの人のことが好きなんだって‥‥御免なさいって‥‥」
そうリュリユに諭されて、蛮ちゃんはコクリと肯いた。
「すぐには帰れないから。お父さんの体調がよくないの‥‥。リスターには、必ず帰るからって伝えて欲しいの‥‥」
その蛮ちゃんの言葉を心に留めるリュリュ。
そして蛮ちゃんは家へと走っていった。
「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。青春だねぇ‥‥」
ぐいーーっと伸びつつそう呟くリュリュであった。
だが、物語はこれで終るわけはない‥‥。
●ディープロード〜上位ランカーは化け物です〜──シャルトル・プロスト領辺境自治区『ラヴィーヌ』
さて。
一部巷で噂の(どっちよっ!!)ディープロードランキング。
それに参加する為に、アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)はラヴィーヌにやってきていた。
「‥‥ハアハアハアハア‥‥こいつを潰したら何位だ?」
肩で息を切らせつつ、アルジャスラードが傍らに座っているシフールに問い掛ける。
「55位です。頑張ってください」
その言葉と同時に、アルジャスラードは目の前のエルフの武道家に向かって素早く連撃を叩き込んでいった。
‥‥‥
‥‥
‥
そんな激しい戦いを繰り広げていたアルジャスラード。
連日の戦いでボロボロの身体を、クレリックに癒してもらう。
ファイトマネーは殆ど滞在費と治療費でなくなっていく。
それでもどうにか30位台に食い込んだとき、悲劇はやってきた。
──とある酒場
「‥‥ランキング18位の魁金次郎だな。お主と戦ってみたい」
運良く上位ランカーを見つけたアルジャスラード。
そうテーブルで話し掛けたのは良かったのだが。
「金ちゃんと戦うには、まだ早い‥‥」
ヌゥッと横から出てきた一人のジャイアント。
そいつもランカーなのかどうかは判らない。
「こいつを倒したら何位だ?」
近くにいた『アル・ビートル』と呼ばれるジャッジメントシフールにそう問い掛けるアルジャスラード。
「長拳使いのロング。24位です」
「よし掛かってこい。貴様を倒した後、俺はその男を倒して20位以内に入ってやる」
たんたんとフットワークを使うアルジャスラード。
「また言った‥‥お前が金ちゃんに挑むなんて、10年早いってば‥‥」
──ブゥン
刹那、突風がアルジャスラードの足元から昇ってきた。
それがロングの放った痛烈なアッパーカットと判ったとき、すでにアルジャスティンードは意識を失っていた。
それでも、アルジャスラードは30位以内にランクイン。
あとはひたすら戦いに明け暮れていた模様。
頑張れ♪〜
●パリ〜アルジャーン〜
──ニライ査察官宅
「ふぅむ。アルジャーンねぇ‥‥」
腕を組んで頭を捻るのはニライ査察官。
龍華は先日、とある場所でアルジャーンを見たのである。
それについての報告を、ニライ査察官にするためにやってきていた。
「ええ。確かに本人そのものに間違いはありません」
「生き返って、また何か暗躍を開始しているのか‥‥いずれにしても厄介な存在、また対処に困る‥‥」
うーうーと唸りつつ、何かを画策しているニライ査察官であった。
──一方その頃
「ほーーーーーーーーーっほっほっほっほっほっ」
高らかな声をあげつつ、リュリュの前に姿を現わしたのは噂の『巨乳バスター』。
「でたな偽者めっ。ひんぬーは巨乳を羨ましがっても辱めない! おまえはただの変態だ!」
ビシィッと指差しそう叫ぶリュリュ。
「うーーん。偽者と言われてもねぇ‥‥とりあえずこっちにきてもらおうか?」
と、気が付くとリュリュはそのまま腕を捕まれてとある建物の裏へと‥‥。
(こ、この光景は‥‥私は知っているっ!!)
それはシャンゼリゼではよく見かける光景。
とある貧乳クイーンがよくつかう、彼女をからかった漢達の末路。
そしてそれにリュリュも捕まり、うむを言わさず辱められて‥‥。
「クスッ‥‥私が狙うのは巨乳のみ。発展途上胸には用事はないわ‥‥さらぱっ」
まあ、別の意味で辱められたリュリュであった。
わんドシ君との特訓。
それすら無効化する『問答無用』の行動力。
其の日からリュリュは、酒場で『貧乳クイーン』の目から少しだけ隠れるようにしたとかしないとか‥‥。
とりあえず合掌。
──そして
「‥‥まだまだぁぁぁぁぁぁ」
絶叫をあげつつ、わんドシ君に殴りかかるのは天龍。
だが、やはり腕はわんドシ君の方が上。
カウンターを叩き込まれると、そのまま天領は大地に倒れる。
「約束だワン。今日から天龍は『しふしふ教団』の教えの一つ、『毎日しふしふ』を実戦するんだワン」
「し‥‥しふしふ教団?」
そう問い掛ける天龍。
「その通りだワン。しふしふ教団。それは、ノルマン江戸村に古くから伝わる伝説だワン。今から100年ほど前、ノルマン江戸村を開いた一人のシフールが築き上げた組織。しふしふ♪〜を世に広める為に、日夜修行をしていたシフールだワン。今日から天龍は、どんな挨拶でも必ず最初に『しふしふ』を付けるんだワン!! 照れたりせず、はっちゃけるように。そう、『はっちゃけアヤメさん』もとい『はっちゃけ天龍さん』だワン!!」
其の日から、天龍のもう一つの戦い『毎日しふしふ』が始まったらしい。
次のわんドシ君との再戦まで、その枷がはめられた事は、いうまでもない。
それにしても‥‥。
わんドシ君、ノルマン江戸村って、去年出来たんですよね?
「シーッ。内緒だワン」
チャンチャン♪〜
〜Fin