●リプレイ本文
●神殿のポイント〜ちょっと浅瀬〜
──ザッバーン
激しい波飛沫が叩きつけられる。
船が海底神殿の座標までたどり着く間、冒険者達は各々が探索の準備に勤しんでいた。
「あー、めんどくせー」
そう叫びながら空気樽にロープを固定しているのはヴォルディ・ダークハウンド(ea1906)。
「まあ、ヴォルディさんったら」
クスクスと笑いながらそう呟くイリア・アドミナル(ea2564)。
彼女もまた、海底迄無事に降りるための空気樽と、それを繋げるガイドロープを作っているところであった。
「こちらは中々良い感じに仕上がりましたねー」
フェイテル・ファウスト(ea2730)もそう呟きながら空気樽作成。
リィル・コーレット(ea2807)とチルニー・テルフェル(ea3448)のシフールシスターズはレイル・ステディア(ea4757)の手伝い。
「荷物を脂に浸した羊皮紙でくるむと、荷物が水に濡れないようになる」
「おおーー」
「おーー」
リィルとチルニーが感動の声を上げる。
「ふむふむ。成る程」
その横では、ミハイル・ジョーンズ教授がレイルの作業を見ていた。
「脂でしめらせた羊皮紙はまだ大量にある。リィルとチルニーは、皆の荷物をくるんであげるんだ」
そのレイルの言葉に、シフールシスターズは元気よく返事を返すと、船倉にある皆の荷物の梱包作業に向かった。
「しっかし、ミハイル教授、こんなところまでやってくるとは‥‥相変わらず元気だな」
レイルは横で写本の解析をしているミハイルにそう告げる。
「何を言う!! 神秘ある所ミハイルありじゃい!! これを見よ!!」
そう叫びながら、以前発掘したらしい石版の写本をレイルに見せる。
「一対のペンダント、一振りの剣、守りの楯‥‥駄目だ、判らない」
レイルは写本に記された図柄を見たが、よく判らない。
「そこまで判れば大丈夫。まだ幾つかのアーティファクトが存在するらしいが、鍵となるものは概ねそんな感じじゃて」
フォッフォッと笑いながら、写本をバックパックにしまい込むミハイル。
「何があるかは知りませんが、海底に神殿を作るほどの者達の遺産なら、かなりのもののはずですわね」
そう横で呟いたのはシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)。
「もっとも一体どんな事態を想定していたかによっては、物騒な遺産になるかもしれませんわね」
彼女もまた、ミハイル教授の最近の動向については興味があった。
この航海の最中、シルヴァリアはミハイルより今までの様々な冒険譚について講義を受け、教授が専門に調べているものについて教えてもらっていた。
「古代の竜信仰と古代精霊信仰‥‥教授の求めているものは、古代の伝承クラスのものですねぇ」
シルヴァリアはそう告げると、空気樽作成の続きを始める。
「‥‥古の宗教か‥‥」
そしてボソリと、レイルが呟く。
神聖騎士としては、そのような事に対してどう対処してよいか複雑な心境であるらしい。
そして航海は順調に進み、いよいよ件の座標に到着する。
船は停止し、メインアンカーが降ろされる。
そして空気樽の固定された錨を海に投下すると、探索準備は完了。
ということで、一人ずつ防水処理された荷物を抱えると、ガイドロープを伝っていざ海底へ!!
●海底神殿〜スリルとサスペンス〜
──入り口
海底神殿と言うと、荘厳な建物が海底に沈んでおり、そこに静かに眠っていると想像するのが心情。
だが、目の前のそれは違っていた。
海底に沈んだ小高い丘。
その一角を切り崩し、石造りの扉が固定されている。
いわゆる『地下神殿』というものがそのまま海底に沈んだという感じである。
(‥‥これといった仕掛けはないか‥‥)
ヴォルディが扉を調べる。
そして安全を確認すると、レイルに合図を送る。
(そっちを頼む)
(了解‥‥)
そのままタイミングを合わせて、力一杯扉を引く。
水圧が加わり、かなりの重量があるはずの扉。
だが、まるで魔法でもかかっていたかのように、扉はゆっくりと開かれていった。
(古代の英知という奴ですね‥‥)
イリアはそう思いながら、前衛であるヴォルディ、リィルと共に内部に入っていった。
──ドサッ
水中の浮遊感が突然無くなる。
通路には空気が満たされていたのである。
「一体どんな仕掛けなんだ?」
「さあ? 魔法的処理が行われているようですね」
「でも、随分とジメジメして、少しくさーい」
ヴォルディの呟きにイリアとリィルがそう告げる。
そして入り口付近の安全を確認すると、後ろで待機していた皆に合図を送る。
「うむむ。これはじつに興味深い!!」
入って早速、ミハイル教授は入り口回廊の壁をゆっくりと調べはじめる。
「あ、教授、トラップの可能性もあるから、迂闊な所は触らないで欲しい。まずはそれを調べてからだ」
壁や床はヴォルディが、高い天井などはリィルが担当。
一つ一つ丁寧に調べ、そして安全が確認されるとそのまま教授が調査。
イリアは前方を警戒し、万が一の為に武器を構えて置く。
同じく後方ではフェイテルとレイル。
入り口の扉をゆっくりと締めると、フェイテルとレイルは後方警戒にはいる。
そしてシルヴァリアはミハイルの横で調査手伝い、チルニーは眼の前に魔法により光球を作り出し、それで周囲を照らしている。
「さて、それでは本気でやらせてもらうぞい!!」
そう告げると、ミハイルは全力で調査に入る。
ちなみに隊列はこんな感じ。
〜図解
上が先頭になります。
遺跡内部での灯はチルニーが担当。
戦闘時はミハイル教授が荷物の護衛。
また、必要に応じて各員が松明の準備。
ヴォルディ リィル レイル
チルニー 教授 シルヴァリア
フェイテル レイル
〜
──そして
そこは回廊から抜けた広い空間。
神殿の待合室のような作りになっており、左右にまた回廊が繋がっている。
「この神殿構造は、この前のものと‥‥」
以前、レイルはミハイルと共に神殿の調査を行なったことがある。
その造りと、今回の造りが同じであることに気が付いた。
朽ちた家具やボロボロの布切れ、白骨死体などがその場に転がっている。
「なるほどのぅ‥‥ということは」
ミハイルが後方に下がっていったのを確認すると、レイルが前衛に向かって叫ぶ。
「ガーディアンが来る!!」
その叫びと同時にフェイテルが教授の護衛にはいる。
「敵は何だ!!」
ヴォルディが武器を構え、イリアとフェイテル、シルヴァリアが魔法詠唱準備に入る。
レイルは前衛に移動し、同じく詠唱準備。
「う、太陽がない‥‥」
リィル、チルニーのシフールシスターズは後方に下がって待機。
「レイスだ!!」
「スカルウォリアーじゃ!!」
後方でミハイル教授とレイルがそう叫ぶ。
と同時に、前方の白骨死体が起き上がり、腰に下げている剣を引き抜いた。
スカルウォリアーは1体。
「参りました‥‥眠りませんね」
対象をスリープさせようと考えていたフェイテルがそう呟く。
──ガシャッ‥‥
スカルウォリアーはヴォルディに向かって素早く剣を降りおろす。
だが、その一撃は難無く回避。
そしてヴォルディは手にしていたジャイアントソードを構えると、渾身の一撃を叩き込んだ
──ガギィィィィィィン
だが、その一撃はスカルウォリアーの左手の楯が完璧に受流していた。
「チッ!!」
そしてさらにスカルウォリアーがヴォルディに切りかかる。
──ザシュッ!!
その一撃はヴォルディのネイルアーマーを切り裂き、皮膚に赤い筋を生み出す。
ツツーッと血が流れ、痛みが全身を駆け抜ける。
「神よっ!!」
レイルのブラックホーリー発動。
スカルウォリアーが漆黒の光にその身を焼かれる。
「まだです!!」
フェイテルのムーンアローがスカルウォリアーの体に突き刺さった。
「ヴォルディさん、下がって下さい」
イリアの叫びに、ヴォルディが素早く反応。
そしてイリアとシルヴァリアのダブルアイスブリザードが発動!!
「これでも食らいなさい!!」
「さようなら!!」
突然の吹雪に全身が傷つけられるスカルウォリアー。
その動きが弱くなったとき、ヴォルディがさらに一撃を叩き込む。
──バギィィィィッ
ヴォルディのスマッシュ・バーストアタックにより、スカルウォリアーの楯が吹き飛ぶ。
さらに返す刀で渾身の一撃を叩き込んだ。
──バッギィィィィィン
スカルウォリアーはほぼ粉々状態。
立っていられるのがやっとというところであろう。
ボロボロのスカルウォリアーはさらに追い撃ちを受け、無残にも砕け散った。
「‥‥流石、スカルウォリアーにも引けをとらないなんて!!」
フェイテルが肩で息をしているヴォルディにそう呟く。
「全くですわ」
「うんうん。ファイターはやっぱり強いですねー」
「本当ですねー」
さらにイリア、リィル、チルニーも感動。
「新しい武器の威力を調べたかったんだが‥‥こんなに凄いとは思わなかった」
そう呟くヴォルディだが、戦いはかなり均衡していたことを肌で実感していた。
もし楯を破壊することが出来なかったら、返り討ちにあっていたかもしれない。
「さて。一息入れたら探索を続けるとしよう。右に向かうと神殿、右は居住区になっている筈だ」
レイルがそう告げる。
「よし、とりあえず神殿じゃ。回廊は一つ、その手前に扉が一枚。中の彫像さえ作動させなければ、ガーディアンは姿を表わさないはずじゃ」
ミハイル教授がそう告げる。
そして一行は右回廊を進んだ。
──十字路
しばらく進むと、十字路にぶつかる。
「さて。シルヴァリアさん、地図の状態はどんな感じだね?」
突然の十字路に教授狼狽。
「この通りですわ」
シルヴァリアは溜め息をつきながら、マッピングしていた地図を見せる。
「教授ー、十字路になってるよー」
「どっちにいけばいいのー?」
シフールシスターズの激しい突っ込み。
「まあよい。とりあえず総て調査じゃ!!」
隅から隅まで調査を続ける冒険者達。
一体どれぐらいの時間、神殿内部を走りまわったであろう。
リィルの持っていたチョークもすでに底をつき、ミハイルから借りてトラップに印をつけていた。
ヴォルディやレイル達も、一体どれだけのガーディアンを相手したのか覚えていない。
少なくともスカルウォリアーだけでも4体、ズゥンビに至ってはどれだけ潰したかはっきりと覚えていなかった。
シルヴァリアのマッピングも既に3枚目に突入。
時間的にもそろそろ一休みしたいところであった。
そんな時、ついに神殿中心部にたどり着くことが出来た。
●神殿〜信じないものは、やっぱり救われません〜
──神殿中央
そこは荘厳な雰囲気が漂っている。
竜の彫像が綺麗に壁際に配置され、さらに正面には巨大な竜のレリーフまで作られていた。
その手前、壇上になっている場所には、御神体のように『竜の彫像』が一つ、静かに安置されている。
「さて、それじゃあ調査のほうは頼む‥‥」
レイルはいつものように入ってきた入り口を向くと、そのまま剣に手をかけて待機。
残ったメンバーも、疲労困憊の体を休める為、その場に座って一息。
「ヴォルディさん、レイルさん、大丈夫ですか?」
イリアが心配そうに二人に声を掛ける。
「俺は大丈夫だ。ただ、そろそろ魔力に限界を感じているが‥‥」
レイルは表情一つかえずにそう告げる。
「だ、大丈夫だ‥‥一休みすればすぐ戦え‥‥ゼイゼイ」
流石に巨大な剣を振り回して連戦連勝ということもあり、ヴォルディはほとんど限界。
そのイリアも、アイスコフィンでズゥンビを次々と凍らせてきたため、やはり魔力は限界。
「私はまだ大丈夫ですよ〜」
にっこりと微笑みながらそう告げるフェイテルも、やはりムーンアローの連射により限界。
今、ここで限界知らずなのはシフールシスターズとマッピング担当のシルヴァリア、そして戦闘知らずのミハイル教授のみである。
その教授はというと、リィルと共にあちこちを調べている。
「‥‥綺麗なペンダント‥‥」
と、チルニーが『竜の彫像』に掛けられている綺麗な装飾の施されたペンダントを発見。
「何!! ペンダント?」
そのチルニーの声に激しく反応すると、ミハイル教授は急いでペンダントの方に駆け寄る。
「リィル君、このペンダント取れるか?」
その教授の言葉に、リィルはチャレンジ。
ギミックが施されているらしく、それを作動させないように竜の彫像のあちこちにダガーを突き刺し、スイッチを固定。
そしてそっとペンダントを抜き取ると、教授に手渡した。
「はい。これを捜していたの?」
それを受け取ると、教授はすぐさま写本を開く。
そして彫像の乗っていた台座に腰掛けると、そのままペンダントをじっと見つめる。
──ゴゴゴゴゴゴゴッ
何処からともなく不思議な音。
「‥‥嘘でしょ?」
「ここに来て、それはないぜ」
「またやったか‥‥」
イリアとヴォルディ、そしてレイルがそう呟く。
3人の視線の先には、ゆっくりと沈んでいく台座に腰掛けている教授の姿があった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
チルニーが慌てて叫ぶ。
が、その叫び声と同時に、天井が崩れはじめる。
──プシュー
崩れはじめた隙間からは海水が勢いよく侵入。
「ち、ちょっとまって!! 教授、そんなところでのんびりしている場合じゃないでしょ!!」
シルヴァリアが教授の元に駆け寄ると、耳元で叫ぶ。
「なんじゃ、何が‥‥」
それ以上は言葉が続かない。
──ドバァァァァァァァッ
天井の一角が完全に崩れ、大量の海水が侵入してきた。
そして‥‥。
●パリ〜生きてかえってこれたのが不思議です〜
──冒険者酒場
酒場の一角では、ぐったりとしているヴォルディ達の姿があった。
神殿が崩壊を開始した後、全員が急いで走りだした。
入り口まで逃げきったとき、海水は既に首まで達し、あと少しでも遅かったら脱出は不可能であったらしい。
「まあ、何はともあれ、ご苦労様じっゃたわい‥‥」
そのミハイルのあっけらかんとした表情に、皆静かに口を開いた。
「俺、兎肉の煮込み‥‥」
「私は果物の盛合せとジュースでいいです」
「世は並べて事もなし、ですー♪ 私はワインを戴きます」
「私はシチューがいいな」
「チーズと、パンと、ジュースがいいなー」
「済まないが、店のメニューの端から端まで持ってきてくれ」
「私は上質のワインを御願いします」
皆好き勝手に注文を始める。
「おいおい、一体誰が支払いを‥‥わしじゃな!!」
皆の冷たい視線に、ミハイルは静かに財布の中を確認した。
〜FIN〜