【ふらり冒険】シルバホークは何処に?

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:10〜16lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月29日〜10月14日

リプレイ公開日:2005年10月08日

●オープニング

──事件の冒頭
「‥‥里日耳曼‥‥(ここがノルマンか‥‥)」
 冒険者ギルドの前で、一人の華国の武道家が静かにそう呟く。
「有‥‥个‥‥家‥満足的工作(この俺様を満足させる依頼はあるかな‥‥)」
 フラリと建物に入り、掲示板をじっと眺める武道家。
 だが、彼の魂を揺さぶるような依頼はない‥‥。
「日耳曼冒険者行会‥‥个程度‥‥(ノルマン冒険者ギルド‥‥この程度か)」
 その呟きに、受付嬢のエムイ・ウィンズが立ち上がり、男に向かって話し掛けた。
 以下、華国語−ゲルマン語翻訳モードでお楽しみください。
「お言葉ですが、冒険者ギルドに依頼がないのは平和な証拠です。なにかご不満でも?」
「ああ。この最強の俺様の腕を見せるいい機会が無いというだけだ」
 自信満々にそう告げる武道家。
「あら。それほどまでに自信がおありですか‥‥」
「当たり前だろう? 冒険者というのは英雄なんだ。この俺はその冒険者のなかでもいくつもの修羅場を潜ってきた‥‥この俺に勝るものなどいないっ!!」
──ドゴォッ
 壁に拳を叩き込み、そう呟く武道家。
「えーーっと‥‥壁の修繕費で5Gいただきますけれどよろしいですか?」
「このギルドは幸せだな。この俺様の手形が刻まれた。せいぜい大切にするんだな‥‥」
 そう呟き、建物を出ようとする武道家だか。
──ガシッ
 ギルドに所属している警備員が男を捕まえる。
「貴様、誰に手を出している? 俺は英雄なんだ!! 放せっ!!」
 そう叫ぶが、所詮は言葉だけ。
 そのまま奥に連れられていってしまった模様。
「ふう‥‥困った冒険者もいるものですね‥‥登録抹消‥‥と」
 書類にサインをすると、エムイは冷静にギルドマスターの元に書類をもっていったとさ‥‥。

 そんなことより。
 姿を消したシルバーホーク。
 暗躍する四天王。
 今、奴等はどこでなにをしているのでしょうか‥‥。

●今回の参加者

 ea0073 無天 焔威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea3590 チェルシー・カイウェル(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

トール・ウッド(ea1919)/ メルキト・ハルドン(ea3581

●リプレイ本文

●漆黒の剣〜アビス攻略は別〜
──ニライ宅
 静かな執務室。
 そこには、ニライ査察官とヴィグ・カノス(ea0294)、チェルシー・カイウェル(ea3590)の3人だけ。
 対シルバーホークの調査。その前にヴィグとチェルシーの二人は、ニライ査察官のもとを 訪れて、『対シルバーホーク戦・ブラックソード騎士団』についての打ち合わせを行なっていた。
「冒険者からの選抜。推薦の期限についてはいつまでが良いんだ?」
 まず最初に切り出したのはヴィグ。
「今月中で。来月にはいそぎ作戦を開始する必要もあります。もっとも、それよりも事態が早まった場合はその限りではありません。臨時に冒険者から有志を募る場合もあるでしょう‥‥」
 依然として沈黙を続けているシルバーホーク。
 オーガの軍勢以来、大きな行動をしているようには感じられない。
 そして問題の一つである『ヴォルフ領・魔獣兵団』。
 その動きもはっきりと掴む事は出来ない。
 それゆえ、ノルマン王国有数の騎士団も迂闊に行動を始めることは出来ない状況であった。
 唯一の頼みであった『ブラックウィング騎士団』も人数回復の見込みはまったくない。
「推薦の形式については、『推薦する人に先に話を通しておく』のか、『査察官に推薦してから査察官自身がスカウトする』のか、どちらなんだ?」
「先に話を通しておいてください。その上で後日、承諾を選られた者たちのリストをこちらに渡して頂きます。あとは‥‥そうですね。巧く冒険者ギルドに依頼を出しますので、その中で面接というか‥‥実際にどれぐらい動けるか見させて頂きます」
 
「次は私から。まずブラックロングソードの活動に着いてですが、どのような方法で?」
「冒険者主体ですので、あくまでも冒険者ギルドを通じるように手配はしておきます。そうですねぇ‥‥依頼のときには、一目でそれと判るようにしておきましょう。『鋼鉄の冒険者』の時も、同じような手を使っていましたので」
 それらの発言の一つ一つを、チェルシーとヴィグは脳裏に記憶していく。
「では、依頼の場合、欠席は認められるのでしょうか?」
「それは構いません。皆さんの本業は冒険者。他の依頼があった場合、そちらを優先する場合もあるでしょうから」
「あと、実はこれはお願いなのですが。出来ればで構わないが、メンバー選出の参考にするため、秘匿報告書や残っている議事録の閲覧許可が欲しいのです」
 そう告げると、ニライはニコッと笑いつつ、静かに肯く。
「私のところで押さえているものについては全て構いません。暇があったらいつでもいらっしゃい。冒険者ギルドの封印書庫については、私からギルドマスターのほうに話を付けておきましょう。チェルシーとヴィグ、この二人にのみ、私の関係している依頼に関するもので封印書庫へと送られたものの閲覧許可を‥‥とね」
 それでかなり二人のフットワークが良くなっていく。
「あの‥‥これもお願いなのですが‥‥シフール飛脚はお金がかかるので代金を経費でください。すでに現時点で私だけで16通のシフール便を使っていまして。最終的には2Gくらいになるんでないかと」
 それについてはニライはスッと立上がると、机に向かい、引出から小さな袋を取りだした。
──ガシャッ
「これで足りますかねぇ? もしまた必要になったら申請してください。あ、私の懐からではなく、国からの援助金の一部をそちらに回すだけですから」
 あっけらからんと告げるニライ。
 そしてチェルシーが中を確認すると、それなりの金額が入っていた。
 少なくとも、既に出したシフール便の経費が軽く捻出できるぐらいは。
「ありがとうございます。わたしたちはこれからヴォルフ領に偵察に向かいますが、何かみてきて欲しいところはありますか?」
「いえ、特にありませんねぇ。現状報告だけお願いします。グレイファントム領からヴォルフ領になって、あの領地もかなり活性化しています。ここ最近の動向だけでも報告してください」
 それで今回の話は終った。
 チェルシーは途中で他の仲間と合流、ヴィグはウィルの待つマスカレードへと向かっていったのである‥‥。


●冒険者酒場・マスカレード
──ミストルディン
「現時点で分かっているシルバーホークの組織概要について、教えて欲しい」
 ヴィグはいつものようにミストルディンを呼び出すと、そう問い掛けていた。
「まずシルバーホーク、その下の四天王4名。悪鬼、ヘルメス、ジェラール、そして新しく加わった剣士の『フール』。さらにそれぞれの下にいくつもの部隊。いままでとは変わらないけれど、数が少なくなった分、その力はかなり強力よ。ヘルメス指揮下の『チャイルド』は欠点のないアサシンガール達。ペーネローぺを筆頭に、『ゼフィランサス』『サイサリス』『ステイメン』の幹部クラス、そしてその子たちの配下の子供達。コードしか判らなかったけれど、暗殺を専門としている『忍者のG』、あとは『疾風のZ』『重装のZZ』って‥‥」
 ますます力を付けている様子のシルバーホーク。
「悪鬼配下は総勢20名の肉弾野郎ね。中でも『ヴァイパー』はかなり凶悪。独眼竜ヴァイパー、ジャパンの名前では確か‥‥オロチだったかしら? それら20名は現在、『ザ・アビス』に突入、その入り口は無敵のグラディエーター達が塞いでしまったらしいのよ。管理していた『ディープロード』も、それを取り戻す為の仲間たちを探しているみたい‥‥」
 そう告げると、ハーブティーを咽に流し込む。
「以前よりも、組織として強くなっていると?」
「組織力はまだそれほどでも。ただ、シルバーホークをしたって集ってきた者たちが、それぞれ強いっていうだけ。死んでしまったダース卿みたいにね‥‥と、ジェラール配下の魔法兵団は今のところ実状は掴めず。謎の剣士フールは、いまだ謎のまま。それと、今は、ヴォルフ領にはいけないからね‥‥」
「何故?」
「領主が変わったのよ‥‥一般的には知られていないけれどね。国でも情報を集めているところらしいけれど、あの地に向かう街道はプロスト領より先は封鎖されているわ。内偵で入っていったレンジャー達が、死体になって国に送り返されたって‥‥」
──ゾクッ
 ヴィグの背筋を寒気が走る。
「現在、ヴォルフ領から『逃げ延びた人々』がプロスト領に保護されているわね。江戸村がそのためにかなり大忙しだし‥‥」
 魔獣兵団の本格的起動。
 ゴクリと息を呑むヴィグと、横で静かに話を聞いていたウィル・ウィム(ea1924)。
「アンダーソン神父のここ最近の動向はどうなっていますか?」
 そう問い掛けるウィルに、ミストルディンはしばし思考。
「ブルーオイスター寺院の意向で、アンダーソン神父以下数名の神父達は、さっきはなしていたプロスト領方面に『救援手伝い』として派遣されているわね‥‥」
「そうですか。あと、これは少し過去の事なんですが、アンダーソン神父がグレイファントム領にいた頃、主に生活していた場所を探して頂きたいのです」
 それを羊皮紙に書き取ると、ミストルディンは一言。
「報酬は成功報酬で。今の状態が状態なだけに、内部潜入はちょっと‥‥」
 それ以上の情報は現在はなし。
 そののちウィルとヴィグはブルーオイスターに向かい、エドワード院長と謁見。
 とくに変わったところも感じなかった為、再びマスカレードに戻った模様。


●江戸村にて
──宮村剣術道場
「‥‥うわぁ‥‥」
「人が一杯ですね‥‥一体、何があったっすか?」
 とれすいくす虎真(ea1322)とチェルシーの二人は、ノルマン江戸村にやってくるとまずは宮村剣術道場を訪れていた。
「ヴォルフ領からの避難民よ。ここの村には、あの領地から逃げ延びてきた人たちがいるのよ‥‥」
 そう告げると、宮村は二人に静かに話を始めた。
「ヴォルフ領の領主が殺されたのよ、何者かにね‥‥」
「殺されたって‥‥まさかシルバーホーク?」
「また、穏やかではないっすねぇ‥‥はぁ‥‥」
「そしてその後釜が、オーグラだっていうから笑うでしょう? それと同時にね、あの土地にいたオーガ種が反乱を開始、街道を封鎖したり各村を襲ったり‥‥凄いらしいわよ‥‥」
「それでも、自警団がいる筈じゃないっすか?」
「その自警団も、奴等の尖兵みたいに動いているから始末が悪いのよ‥‥」
 それで、この村がこんなに混乱しているのだと、二人は納得したが。
「ちょっと待って欲しいっすよ。この村って、プロスト領の一番外れっすよね。それでプロスト領中央って、街道の先にヴォルフ領があるじゃないっすか。あっちは大丈夫なんすか?」
 そう問い掛ける虎真に、宮村は腕を組んだまま静かに呟く。
「プロスト卿を信じるしか無いわよ。私はこの地に留まって皆の護衛をまかされてしまっているから、直接は動けないのよ‥‥同じく力自慢の人たちもね。女性は避難してきた人たちの世話で手一杯だし‥‥」
 それを聞いて、虎真とチェルシーは静かに立ち上がった。
「それでは、私達が行くっすよ‥‥」
「現状をこの目でみてきます」
 トールギスに用事のあった虎真だったが、そのトールギス氏がまったく身動きが取れないという事で、取りあえず『銀の日本刀』についての話だけをすると、そのまま二人はヴォルフ領へと向かっていった。

──そしてほーちゃん
「そうか。ここから動けないか‥‥」
 無天焔威(ea0073)はそう告げつつ、避難してきた人たちの簡易小屋造りを手伝っているクリエムのほうをじっとみていた。
「すいません。本当でしたらうかがいたいのですけれど、私もトールギス師匠も、こっちのほうが忙しいので‥‥」
 一通りの作業を終えたクリエムが、休憩に入る。
 そしてお茶を一服すると、再びほーちゃんと話を始めた。
「クリエム‥‥やっぱり嫌? この子が再び使われるのは」
 そう告げつつ、紋章剣ダインスレフをクリエムから受け取るほーちゃん。
「私は、あの後で色々と私なりに調べたのです。兄の形見、祖父の遺産、それが一つになり、私がさらに息吹を込める。これもまた運命なのでしょう‥‥」
「そうだねぇ‥‥それで、この剣の力なんだけれど、生か否かの判断基準が持ち手にある‥‥人剣一体、持ち手の心が腐れば剣の心も腐ると」
 その言葉に静かに耳を傾けているクリエム。
「不幸だったのは持ち手が屑だったついでに、生まれたての赤子が堕ちるに堕ちた事だ」
 そう離すと、カチャッと紋章剣を握り締める。
「でもまだやり直せる筈だ、俺もお前も」
 そしてほーちゃんは、自身の心の迷いを総べて払う。
 剣で迷い無く、自分を生物ではないと念じ、自らの身体を差した!!
──ドスッ
 痛みはある。
 だが、それは鈍痛のようなもの。
 剣は突き刺さることなく、そのままの姿でいた。
 剣の意志が、恐らくはほーちゃんの肉体を傷つけるのを拒んだのであろう。
「傷つけたくない‥‥か。なら、今日この場でお前は変わる。もう血を好み啜る『魔剣』じゃない。運命を断つ『聖剣』デスティニーブレイドだっ」
 そしてほーちゃんはクリエムに別れを告げると、一路プロスト領中央へと向かっていった。


●プロスト領〜マスター・オズも不在ですか〜
──ノートルダム大聖堂
「‥‥マスターオズも不在か‥‥」
 ボソッと呟いているのはほーちゃん。
 ここに来る途中、ほーちゃんはノルマン江戸村に向かった。
 紋章剣の制作者の子孫であるクリエムと、現ワルプルギスの剣士マスター・オズを引きあわせる為に。
 だが、江戸村のクリエムは避難民達の相手で身動きが取れず、マスター・オズは他の剣士と共にプロスト領とヴォルフ領の境界線で、侵入するオーガの軍勢を蹴散らしているところらしい。
 本来ならば、このプロスト領中央も避難命令が出ている筈なのだが、有志による自警団とマスター・オズの力でどうにか戦線が食い込まないようになっている。
「ええ。残念ですが‥‥」
 そう丁寧に告げているのは大司教の聖ヨハン。
「まあ、仕方ないか‥‥」
 そう告げると、ほーちゃんはどっかりと腰を降ろす。
 その後ろでは、ヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)がエムロードや他の元アサシンガール達に、色々と話を聞いていた。
「私達は、自身の心の力でアサシンガールとしての呪縛から解放されました。他の子達も多分、メロディーなどで心を開ければ、恐らくは解放されると思います‥‥」
 そう告げたのは、一人のアサシンガール。
「私も、彼女の意見と同じですね‥‥私も、ヴァレスさんの歌の力で立ち直れたのですから‥‥」
 エムロードもそう告げると、ニコリとヴァレスに告げた。
 メロディーで、保護されているアサシンガール達にも暗殺者としての自我を失わせて元の少女の自我を取り戻す事が出来るか、ヴァレスはそれを確かめる為にここにやってきて、エムロードや大司教に話を伺っていたのである。
「全てのアサシンガール達の心を解放させて、もとの少女に‥‥それが俺の信念だから‥‥」
 そう告げると、ヴァレスは静かに歌を紡ぐ。
 
──♪〜
嘆きの雨が頬を濡らすなら
光灯して心休めてあげよう
汚してきた手が恐ろしいなら
俺が綺麗に洗い流してあげよう

心がざわつき過ち犯すなら
この歌を紡いで心を鎮めよう

取り戻そう素直な心 本当の心からの笑顔見たいから
手伝おう俺にも出来るなら 君達の心揺らせるなら
夜明けの朝日のように君の影取り去って
見つけ出そうTrue Heart
──♪〜

 一通りの歌が終ると、エムロード達は拍手を送る。
「気を付けてくださいね。歌をつむいでいる間は、ヴァレスさんはまったくの無防備になります。そこを襲われたら、最悪の事態を引き起こしかねませんから‥‥」
 その言葉に、ヴァレスも納得。

──プロスト城
「なるほど‥‥」
 プロスト卿から過去のシルバーホーク達について聞いていたほーちゃんが、静かに肯いている。
 応接間に通してもらったほーちゃんは、執務中のプロスト卿になんとか話を付け、シルバーホークの事について話を聞いていたのである。
「アビス地下、そこに封じられていたフォーチューンブレードが全ての元凶です。ヘルメスと名乗る悪魔、殺された星砕とシスター・グロリア。冒険者としての力を奪われたシルバーアイ。だが、奴はまだ全てを手にはしていません‥‥」
「まだ、シルバーホークが求めるものが?」
 そう問い掛けるほーちゃんに、プロストは静かに肯いた。
「アビス最下層。彼はそこにあるものを求めています。それが何か、それらを記されていた石碑はすでに失われてしまい、私とミハイル、そしてシルバーホークの記憶にしか存在しません‥‥」
 ゴクッと息を呑むほーちゃん。
「そ、それは‥‥」
「一ついいですか? もし焔威殿が『奇蹟を自在に操れる力』を得たとしたら、貴方は何を求めますか?」
 突然の質問。
「‥‥色々とありすぎで‥‥いきなり言われてても‥‥」
「ええ。明確にすぐに答える事は出来ないでしょう。ですが、シルバーホークは『王』としての自身を望みます。それを得る為のものが、そこには封じてあるらしいのです‥‥ただし」
 一息つくと、プロストは再び話を続ける。
「それを得る為には、代償が必要です。望みが大きければ大きいほどね‥‥あの地下には、それを与える何かがあり、そしてそれにともなうものがあります。悪魔達のもたらした禁断の秘儀『破滅の魔法陣』が。そして、それはどうやらあそこだけではないのです‥‥」
 そして焔威が聞いた話。

 ヴォルフ領に一つ。
 マクシミリアン自治区に一つ
 そしてプロスト城地下に一つ

 そこに、完全なる『破滅の魔法陣』が存在するらしい。
「でも、それを動かす為にはまた色々と必要なんじゃないですか?」
「純真なる者の魂。どうやらそれだけなんです。そして最悪なケースを教えましょう。魔法陣は連鎖反応的に起動した場合、さらに強大な力を発揮します。一説には、周囲の魂を総べて吸収し、何かが生まれると‥‥」
 ゴクッ‥‥。
「で、でも‥‥一つはここの地下、プロスト卿が守っているのなら」
「言った筈です。『連鎖反応』すると。他の魔法陣が発動した場合も考えられます‥‥」
 それ以上は、話が無かった。


●街道封鎖〜シルバーホークの尖兵〜
──ヴォルフ領中央街道
 プロスト領を抜けて一路ヴォルフ領へ向かったチェルシーと虎真。
 途中で街道が閉鎖されてしまっていた為、二人は草原を抜けて森へと入っていく。
「‥‥血の匂いっすね」
「ええ‥‥それも近いわ」
 二人が森に入って1日。
 鼻に触るような血の臭いが、二人の感覚をくすぐった。
 そして走り出した二人は、森の奥にある小さな村にたどり着く。
 そこは既に想像を絶する世界。
 屍、死臭、そのなかにはプロスト領自警団の者の姿がまであった。
「確か‥‥ここはルゥムとかいう村っすよ」
 ここに来る前に、プロスト領で色々と話をしていたのであろう。
 虎真が何かを思い出すように、そう告げていた。
──ウ‥‥ウァ‥‥
「‥‥生存者がいるわ!!」
 そのままチェルシーは人の気配のする方向へと走り出す。
 そこには、両足を切断され、大量の血を流している一人の重装戦士の姿があった。
「う‥‥うぁ‥‥助けて‥‥赤い‥‥赤いオーガが‥‥」
 震えつつ、近寄った虎真の腕を握り締める戦士。
「今、薬を出すから。辛抱して‥‥」
「仲間が‥‥5人とも‥‥全滅‥‥ルうむの村も、奴等‥‥の‥‥」
 徐々に力が抜けていく。 
 そしてチェルシーが薬を取り出したとき、すでに戦士は息を引き取っていた。
──シャキーン
 そのまま戦士を大地に寝かせたとき。
 虎真は自分のほうに飛んでくる矢に反応し、素早く躱わす。
「ひ、人ですか‥‥よかった‥‥」
 ぼろぼろの衣服を身に纏った少女が、そう呟きつつ意識を失っていった。

──夜
 とりあえず離れの小屋に少女を連れていくと、チェルシーと虎真は少女の意識が戻るのをじっと待った。
「‥‥私はレイと申します。この先の村でオーガに襲われて、ずっと逃げていました‥‥」
 レイは静かに話を始める。
「突然のオーガの襲撃。そして私の村は、あのデビルの実験場にされたのです‥‥」
「あのデビル‥‥ヘルメスっすね?」
 そう問い掛ける虎真。
「そういう名前なのですか‥‥あのデビルは、村の人たちを縛り上げると、全員を小屋に入れました。私は運よく捕まらなかったので、近くの小屋に隠れて村の人たちを助ける機会をじっと待っていました。そして‥‥デビルは村全体に巨大な何かを書き込むと、私の妹をその中央で殺害して‥‥」
 ガタガタと震えるレイ。
 そんなレイを、チェルシーは優しく抱しめる。
「もう大丈夫よ‥‥」
「魔法陣が輝いて、そこで私は気を失って‥‥気が付いたら、村の人たちは全員死んでました‥‥」
 そう告げると、レイは二人のほうを見つめる。
 双眸からポロポロと涙が溢れ、哀願するようにこう告げた。
「御願いです。村の皆の、妹の仇を取ってください‥‥」
 レイの言葉が、いつまでもチェルシーの脳裏に刻みこまれた。


●そしてパリ〜最悪の事態の対処方法〜
──ニライ査察官宅
「レイという少女についてはこちらで保護を引き受けましょう。と、問題はヴォルフ領魔獣兵団ですか。とりあえず担当からの報告は届いたばかりですので、皆さんの報告とこれらを考慮して、早急に手を打つ事にしましょう」
 チェルシー達からの報告を受けたニライ査察官は、そう告げると執事に何かを指示した。

 再び暗雲が立ちこめ始める。
 シルバーホーク、そしてヘルメス。
 ヴォルフ領奪回の為、これから冒険者には様々な試練が待っている事であろう。