●リプレイ本文
●静かなパリ
──ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
雨が激しく大地に降り注ぐ。
其の日。
朝からパリは大雨だった。
「うーーーん。いい感じだとおもうっすけれどねぇ‥‥」
そこは冒険者酒場マスカレード。
目の前の椅子に座っている『通称・停車場男』に、とれすいくす虎真(ea1322)は腕を組んでそう呟いていた。
虎真率いる『外面から変えていこう班』は、他のチームがヘルメスの情報を探している最中、あれこれと停車場男に改造を加えていた。
「人は格好だけじゃない。けど外面がダラしなかったらボツっすよ!」
そう告げつつも、虎真は次々と停車場男を改造。
理美容については得意である為、髪を整え、髭を剃り抜き、飛び出た鼻毛も切っていく。
そして女性陣から借りた香水を少々。
完成した雰囲気は実直で誠実、まさにそれをイメージするものに仕上がった。
「うーん。ちょっと何か話してくれない?」
「‥‥といわれましても‥‥女性がこれだけいると上がっちゃって‥‥」
オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)の語りかけに、下を向いてそう呟く停車場男。
「あーっ。そのうじうじした性格をなんとかしろーーーーーーーーーーーっ。いい、貴方は『停車場男』なのよっ」
そう叫ぶと、オイフェミアは素早くバックバックの中から筆記用具と羊皮紙を取り出すと、さらさらと何かを描き始めた。
それは男の体と馬・馬具・馬車の車輪・停車場の標識・ベンチなどが融合して出来た恐るべき怪人(キマイラ)。
「いい、内気で気の弱い男だったおまえはもう終わりだ。おまえは強い。屈強な酔っ払いをあっという間に片付けたのはどこの誰だ? 停車場‥‥それは人と人との出会いと別れが繰り返され、愛と憎しみのエネルギーに満ち溢れる場所である。その莫大なエネルギーがおまえの体にやどった。今日からはこの絵の怪人のように何事も恐れない無敵の男となるのだ」
そう励ますオイフェミアだが。
「‥‥お、俺キマイラ?」
呆然とする停車場男。
「そのとおり。君はいま、この瞬間に改造されて‥‥」
「俺、人間じゃなくなるんですか? 俺、この絵の化け物のように‥‥」
「その通りッ。この美しく、そして渋いキマイラに改造されて‥‥って‥‥虎真ぁぁぁぁぁぁぁぁワタシを何処へ連れていくんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
暴走モードに突入したオイフェミアをズルズルと連れていく虎真。
その間に、脅える停車馬男を落ち着かせるクレア・エルスハイマー(ea2884)。
「まあ、あの人の言うことは話半分に聞いていてね‥‥」
やがて虎真は静かに戻ってくる。
「オイフェミアは?」
「マスターに預けてきたっす。さて、続きを始めるっすよ♪〜」
そんなこんなで、まずは外見をとことん変えまくった一行。
やがて、彼女へのプレゼント用に、虎真がとっておきのブローチを停車場男に手渡す。
「こんなことまでして貰って‥‥でも‥‥」
そう告げると、停車場男は下を向いて溜め息。
「まだ不安なのかしら?」
「ええ。言葉がでないんですよ‥‥」
──ガチャッ
その停車場男の言葉に、再び登場したオイフェミア。
「ヘイボーイ。そんな貴方もワタシとの特訓で全てオーライっ」
そう告げつつ姿を現わしたオイフェミア。
ちなみに顔の部分には、ヘルメスの似顔絵を描いた羊皮紙を張付けている。
その似顔絵を見た瞬間、停車場男は真っ赤になって下を向く。
「おや、やっぱりそっくりっすねぇ」
実物を良く知っている男、虎真がしげしげと似顔絵を見つつそう告げる。
「おっとお、あたいに惚れちゃあいけないよ‥‥と、能書きはここまでにしてと。停車場男っ。このワタシを本物のヘルメスと思って口説いてみなさいっ!!」
そう言うと同時に、オイフェミアは虎真にハリセンを手渡す。
「?」
「突っ込み宜しく!!」
ああ、そういう事かと納得した虎真。
かくして停車場男の告白タイムが始まった。
なお、其の日一日、ハリセンのスパーンという心地好い音が響きつづけていたことはいうまでもない。
●情報収集Aチーム〜いきなり悪鬼〜
──とある村
情報では、この村の外れに『ヘルメス』の住んでいる家があるらしい。
リュオン・リグナート(ea2203)とリュリュ・アルビレオ(ea4167)、そしてヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)の3名は、村にやってくると早速行動を開始した。
「‥‥あのー、ちょっとすいません。この先の家に住んでいる女性について聞きたい事が‥‥」
そう村人に話し掛けているのはヴァレス。
「この先‥‥ああ、お前、ヘルメスに何か用事か?」
そう振り向きつつヴァレスに問い掛けるのは、巨大な筋肉の塊『悪鬼』。
尤も、ヴァレスは悪鬼との面識が無い為、両者共に警戒すること無い。
しかし、聞き込みは最低限、最後の手段だとしていたヴァレス、そこでこのカードを引くとは。
運がいいのか悪いのか。
「ヘルメスさんというのですか。それで、実はどんな女性なのかなーと‥‥興味がありまして、確か吟遊詩人でしたよね?」
「ああ、吟遊詩人というか‥‥まあ、そんなところだな」
「やっぱり美しい女性ですよね?」
「まだ鍛える価値はあるとおもうがな」
「どんな異性が好きなのでしょうかねぇ?」
「純真な魂をもっている異性‥‥という話は聞いた事がある」
「純真ですか‥‥」
「ああ、汚れていないというか‥‥まあ、そんなところだな」
うーむ。
ふつうの会話になっているのが、かなり恐いのだが。
──一方、リュオンはというと
「‥‥まずい」
ヘルメスの住んでいそうな家を確認したリュオン。
そのまま近くの茂みに隠れて、少し離れた場所から様子を伺っていたのだが。
その家の近くには、数名の『ホワイトトルーパー』が待機している。
そして家の庭では、椅子に座ってのどかに空を眺めているローブを纏った青年が。
そしてその側には、リュオンの良く知っている『髑髏の仮面』が置いてある。
(ジェラール‥‥ここであったが‥‥)
ガチャッ。
剣の柄に手を掛けて、そのまま様子を伺うリュオン。
(落ち着け‥‥今は、あいつの相手をしている場合ではない‥‥)
ふぅ‥‥と一呼吸置いて、リュオンは一旦其の場を離れる。
そして近くの酒場に向かうと、そこでリュリュと合流した。
ちなみにリュリュ、停車場男の噂を流しまくり、色々な人に彼のお目当ての女性についての情報を聞きまくっていたところ、この酒場にやってきたらしい。
ちょうどステージでは、ヘルメスがリュートを奏でつつ、静かに歌を歌っている。
♪〜
ここにいらっしゃい。
貴方のお話聞かせて。
今日はどんな冒険をしていたの?
貴方はいつも笑顔で、私に話をきかせてくれる。
貴方は凄い冒険者。
どんな竜も悪魔さえも、貴方には絶対かなわない
でもね‥‥
その笑顔は、絶対に忘れないで。
貴方が貴方で居てくれれば、私はそれで満足なの‥‥
♪〜
それは冒険者のサーガ。
店内の客は、静かにその歌に聞き惚れている。
(‥‥ジェラールを確認した)
ガタッと静かに椅子を引き、リュリュの横に座るリュオン。
そうリュリュに耳打ちすると、リュリュは静かにヘルメスを指差す。
「あれがヘルメス様だよっ」
そう告げると、リュリュは素早く近くに座っている子供達を見て、すぐに視線を反らす。
(アサシンガールだろうなぁ‥‥きっと‥‥)
そう。
ヘルメスの近くには、じっと彼女を見守るように子供達が3人座っていた。
まるで、ヘルメスの護衛のような雰囲気を醸し出しつつ。
「とりあえず、彼女の居場所も判ったし、これからの対策は‥‥彼に会って、色々と考えてみるか」
そのリュオンの言葉にリュリュも静かに肯くと、そのまま酒場をあとにする。
──ガタッ
と、入り口で丁度店内に入ってきた少女とぶつかるリュリュ。
「あ、ごめんなさーい」
そう呟きつつ、少女の腕から落ちたぬいぐるみを拾ってあげるリュリュだが。
そのぬいぐるみの外見に、リュリュは寒気を感じた。
(ヌイグルミ・オブ・元祖チマ!! なんでこの子が‥‥)
そう心の中で呟きつつ、リュリュはヌイグルミを少女に返した。
「ありがとう‥‥」
そう呟いた少女は、以前、リュリュが見た事のある少女・アサシンガールの『ブランシュ』だった‥‥
──ガクガクブルブル
どうしていいか困ったリュリュだが、どうやらブランシュはリュリュに気付かないまま店内に入っていった。
●さて、それではいってみようかぁ?
──告白ターーーイム
村の酒場。
巧くヘルメスに連絡をとり、 一行はこの酒場で停車場男とヘルメスを出会わせる事に成功した。
「あー、えーっと‥‥」
テーブルに座って、何か挙動不審そうな雰囲気の停車場男に、ヘルメスは無邪気にクスッと笑う。
「どうしたの? 私にお話があったんじゃないのかな?」
そう問い掛けるヘルメスに、停車場男は天井をじっと見上げた。
そして意を決して素早くヘルメスの方を振り向くと、虎真から貰ったアーモンドのブローチを差し出す。
「初めて見たときから、貴方を好きになりました‥‥」
精一杯の言葉。
そしてその光景を、店内の物陰でじっと見ている冒険者チーム+悪鬼。
何故、悪鬼が一緒なのかはおいといてと。
(悪鬼さん、イイ感じっすよ)
(ああ。これで巧くあの女も、人としての感情を持てばいいんだがなぁ‥‥)
(人じゃないから無理でしょう?)
(でも、人として人を好きになる事が出来たら、それはいい事では?)
以上、虎真、悪鬼、リュリュ、リュオンでした。
ヴァレスは店内のステージで歌を歌い、二人のサポートに徹している。
そしてクレアはというと、別のポジションの柱の影で、じっと停車場男を応援している。
「私たちが応援していますし、気張らず誠実にいけば絶対大丈夫ですわ‥‥」
そう微笑みつつ呟くクレア。
「ありがとう。うれしいわ‥‥これ、大切にするから‥‥」
そう告げると、ヘルメスは静かに停車場男の手を握りかえす。
──ギュッ
(おおおおおおお)
(うわわわわわわわわ)
(うっわーーー、ヘルメスだいたーん)
(悪鬼さん、重いっす!!)
(緊急事態だっ、我慢しろっ)
以上、ヘルメスの行動に動揺している悪鬼、リュオン、リュリュ、虎真、そしてまた悪鬼の『ノルマン出歯亀チーム』でした。
「貴方と思ってね‥‥」
そう呟いた瞬間、停車場男がガクッと崩れる。
そしてそのヘルメスの手には、小さく輝く停車場男の魂が入っていた。
──ガクッ
一斉に崩れる一同。
「貴方の魂も、贄にしてあげるわ‥‥」
──ガタタタタタッ
「ちょっと待つっすよっ!!」
おっとお、虎真乱入!!
「ヘルメスっ。純情な男の心を心を玩び、私は絶対にゆるさないからっ!!」
リュリュも啖呵を斬った。
「なんで、そう、お前は‥‥あーーーーーーーーーーーっ」
頭を押さえつつ騒ぐ悪鬼。
「あら‥‥見ていたの。まあいいわ。悪鬼、遊んでいないでそろそろ戻るわよ。アビスの怪我は癒えたんでしょう?」
その言葉に従い、悪鬼はゴキゴキッと肩を鳴らす。
「ああ、もう少し普通の生活もいいかと思ったが、仕事が始まるのなら仕方ないか」
そのまま冒険者達に向かって、悪鬼はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そんなところだ。この人数なら、俺とヘルメスの二人に掛かってきても死ぬだけだ‥‥」
その言葉に、一行の足は止まる。
そして無念の思いを残しつつ、一行はパリに戻っていった。
停車場男の恋は成就できなかった。
だが、彼の魂は、彼女と共にある。
めでたしめでたし‥‥かな?
〜Fin