●リプレイ本文
●ということで〜事実はとっても奇々怪々〜
──パリ・ニライ宅
「酒場で手紙は読ませていただきました‥‥」
そう告げつつ、ニライ・カナイは静かにハーブティーを咽に流し込む。
「それで、いかがなものでしょうか。バルタザール夫人の件、考えて頂けますか?」
そう話し掛けるのはクリス・ラインハルト(ea2004)。その横には、責任者であるリスター・ストームが静かに座っている。
アサシンガールの受入先。
場所まではほぼ確定されたものの、そこを管理する事の出来る人物がなかなか見つからない。
関係者は連日酒場・シャンゼリゼに集まり、あーだこーだフォーと頭を捻っていたのである。
それでもある程度話がまとまり、今回の報告となったようである。
「国に不利益を働いた夫人の身柄をプロスト卿預けとし、卿の監視下で領内の『廃寺院』に『従者の少女たち』と共に軟禁‥との名目で折合えませんか?」
そう説得するクリス。
「面白いわねぇ。こちらもかなり状況が変わってきたので、ここで何か仕掛けようとは思っていたのですわ‥‥」
その言葉がどういう意味か判らない。
ただ、そのあとのニライの言葉に、 二人は希望を見出した。
「夫人は現在、監視付きでパリ郊外に住んでいます。ワタシのほうから使いを送っておきましょう。名目はさきほどのものをそのまま使わせて頂きます。あとは‥‥そうですねぇ。一刻も早く、施設を『使える状態』にしておいてください。状況が変わってしまった為、私からの援助はありませんので‥‥」
そう告げると、ニライ査察官は何かを考えていた。
「状況が変わったって‥‥なにかあったのか?」
そう告げるリスターに、ニライは一言。
「対シルバーホーク特化騎士団の件が白紙に戻された。国からのバックアップも含めすべてね‥‥あの石頭、ここ暫くはシルバーホークの影が見えないし、組織は壊滅したので必要ないと判断を下しました‥‥『ブラックソード』はこのまま、冒険者有志による私の私兵扱いとして動いてもらうしかありません‥‥」
窓の外を見つつ、そう呟くニライ。
●ノルマン江戸村〜困惑する人々〜
──村入り口
渇いた風が吹きすさぶ。
入り口には、村の守護坤『わんドシ君』と、冒険者である飛天龍(eb0010)がじっと対峙している。
「この前の借り、返させて貰う」
「面白いワン。このままでは、僕も引き下がれないワン!!」
いや、君は一方的に勝っていただけだから。
そのままスッと拳を握り、構えを見せる天龍。
「そのおとぼけキャラクター故‥‥貴方には致命的な弱点がある!!」
カッと瞳を見開くと、そのまま天龍はわんドシ君に向かって叫ぶ!!
「しふしふ♪〜」
「し、しふしふだワン!!」
──ドゴゴゴゴゴゴコゴゴゴッ
その刹那。
天龍はしふしふ発言で隙の生じたわんドシ君の懐に飛込み、激しく連撃を叩き込む。
「ぐっ‥‥ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
もんどりうって後方に吹き飛ぶわんドシ君。
「毎日しふしふを実践した俺にはわかる。わんドシ君、貴様は『振られたネタはおいしくいただく』ということに‥‥」
そう告げるが、わんドシ君は口許から零れ堕ちる血をグイッと拭うと、ふらふらの体でゆっくりと天龍に近付く。
「へへへ‥‥やっぱり本物の武道家は違うワン‥‥しふしふ!!」
「し、しふ‥‥ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
──ドドドドドドドドドドトッ
今度は素早い連脚を叩き込まれる天龍。
「同じだワン。毎日しふしふを実践したのなら、理論は同じだわん‥‥」
──場所は変わって鍛冶屋トールギス
「遺跡の封印ねぇ‥‥確かに、このアイテムスレイヤー‥‥と、いまは紋章剣ダインスレフか。これがあれば、一撃だよなぁ‥‥」
そう呟きつつ、紋章剣をじっと見ているのは鍛冶師トールギス。
その横では、クリエムが不安そうな表情をしていた。
「ええ。ですから、いつここにシルバーホークの奴等がやってくるとも限らない。そのことを踏まえて、今後どうするか聞きたいんだ」
そう告げているのは風烈(ea1587)。
シルバーホークが遺跡に潜っているという噂を聞いた烈は、シルバーホークが嘆きの塔同様に封印を破るために奪いに来るといった事が起こる可能性があると考え、クリエムとトールギスに知っている事を全て話して今後どうするのか相談しにやってきていたのである。
「最初は依頼を受けた事による義務感でやっていた、今は好きだからやっている。だから、俺でよければ何時でも力を貸すので、呼んでくれ」
そう告げたとき、クリエムは静かに頭を上げる。
「この剣はワルプルギスの剣士のために生まれ変わりました。私は、この剣の運命をを彼に託したのです‥‥今は私が預かっていますが、これは後日、マスター・オズの元に届けるつもりです。全ての剣士はマスターと共にと‥‥」
それで十分。
「なら、俺は俺のできる事をやるだけだな‥‥成長したな、クリエム」
そう告げる烈に、クリエムは笑顔で答えた。
「ならクリエム、早く荷物を纏めて宮村師範の元に。あとは任せた」
そう告げると、トールギスは装備を整え始める。
「マイスター・トールギス、その装備は?」
「前線で戦っている者たちがいる。私もじっとしていられなくてね。なぁに、冒険者としての戦いは出来ないが、鍛冶師としては役に立つだろうさ‥‥。クリエム、あの日が来たら、封じてある私の分身、『5振りの武具』を選ばれた冒険者に‥‥」
「判りました、マイスター」
そう告げると、静かにトールギスは荷物をもって外に出る。
トールギス、出撃‥‥。
「クリエム、一つ聞いていいか?」
遠くに消えていくトールギスを見送ってから、烈がクリエムに静かに問い掛けた。
「ええ」
「マイスターの告げた『5振りの武具』とはなんだ?」
「マイスター・トールギスの心血を注いで作られた武具です。最高傑作にして最強。『翼の双剣・ウィングバスター』『漆黒の刃・デスサイズ』『孤高なる曲刀・パワーショーテル』『魂の拳・神龍ナックル』‥‥とあと一つは‥‥えーっと‥‥」
思い出せないクリエム。
いずれにせよ、マイスター・トールギスみずから封印した武具、かなりの力をもつものであることは間違いはないようで‥‥。
「そんなものがあったとは‥‥」
「マイスターも、いままでに作った武具とはまったく異なるものだということで封印してあったそうです」
「まったく異なる?」
「はい、武具は使うものによっては見を護る道具ともなります。ですが、この『5振りの武具』は、ただ対象物を破壊し、その命を殺めるためにのみ存在すると‥‥それゆえ、あつかうものの心がしっかりしていないと、武具に心を奪われてしまうとか‥‥」
そう告げると、クリエムも頭をブンブンと振る。
「最後に一つ、もし、心が囚われてしまったら、どうなるか聞いたか?」
「はい‥‥武具を使いし者の命が尽きるまで戦う、修羅と化す‥‥そう告げていました」
そしてクリエムはスッと立上がると、荷物を静かに纏め始めた。
烈もそれを手伝うと、そのままクリエムを宮村道場に送ってからノルマン江戸村を後にした‥‥。
●心、ここにあらず〜では何処に?〜
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
「がぁがぁがぁ〜」
中庭で、アンリの声が聞こえる。
その後ろでは、ハルヒ・トコシエ(ea1803)が丁寧にアンリの髪を梳かしていた。
「クスッ。アンリはいつも元気ねぇ♪〜」
「がぁ‥‥でも、もうすぐたたかいなの‥‥がぁ‥‥」
そうボソッと呟くアンリに、ハルヒはそっとアンリを抱しめる。
「戦い‥‥なにが始まるのかな?」
「がぁがぁ。発動するのは魔法陣。一つがふたつ、みっつ、よっつ。悪魔の住まう黒いお城の地下でひとつ。戦いのセレナーデ鳴り響く地でひとつ。古き賢者の住まう城でひとつ‥‥もっとも深い所でひとつ‥‥そして、銀の鷹舞い降りる地で一つ‥‥がぁがぁ♪〜」
そのアンリの言葉を、ハルヒはすべて頭に入れる。
「アンリは‥‥どうするの?」
「アンリは‥‥いかないと。みんながまっているから‥‥がぁがぁ‥‥」
そう告げたものの、両手でアヒルのヌイグルミを弄り、動く気配のないアンリ。
「みんなって?」
「がぁがぁがぁ。選ばれた人たちの魂ががぁ。地下の祭壇でまっているのー。純粋なたましいがあつまって、魔法陣は静かに動くの‥‥」
そしてそのあとに告げたアンリの言葉。
それを聞いた瞬間、ハルヒはアンリを力一杯抱しめた。
「がぁがぁ。アンリも贄に選ばれたの‥‥がぁがぁ」
──ギュッ
「ダメよ‥‥絶対にいかせない。もう離れないからね、アンリ‥‥」
「がぁがぁ‥‥」
そのままアンリは、アヒルのヌイグルミで遊びつづけていた。
●イッツ、ショーターイム〜まだ早いってば〜
──バリ・吟遊詩人ギルド
「あーあああ♪〜」
「‥‥」
そこは吟遊詩人ギルド。
二階の窓から、クリス・ラインハルト(ea2004)の歌声が聞こえてくる。
いや、正確には歌というよりは、発声練習?
「よし、そこまで。大体の音程は理解できてきたか。楽譜は先程見せたとおり、多少はアレンジして構わない。あとは心の赴くままに‥‥」
そう告げているのは吟遊詩人ギルドの異端児『ザンク!!』。
クリスは『ザンク!!』の元に弟子入りし、『メロディ』をより完璧なものにする為の指導を頼み込んでいた。
「はい!!」
「それでは続きを。あ、そうそう。指導最終日は実技テストをするから宜しく!!」
そう告げる『ザンク!!』。
そしてクリスは日夜発声練習から始まり、イメージトレーニング、魔法の訓練、ダンスの練習、衣裳の着つけなど? 様々な特訓を『ザンク!!』と共に続けていた。
果たしてどうなることか‥‥それはまた後日。
●激闘はむなしく〜何故、泣くのです?〜
──シャルトル地方・プロスト領南方とある村
そこは小さな村。
オーガキャンプの手前に位置し、現在はそこが魔獣兵団との最前線となっていた。
ノアと呼ばれているその村は、マスター・オズ率いる『ワルプルギスの剣士』や、プロスト領自警団によってしっかりと護られ、魔獣兵団と一進一退の攻防を行なっていた。
「‥‥こんな状況になっていたとは‥‥」
村の中央、ベースキャンプでルイス・マリスカル(ea3063)がそう呟く。
「この先に、ギュンター君がいるんだろう? だったら行くしかないじゃないか‥‥」
パーンと拳を打ち鳴らし、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)がそう叫ぶ。
ルイスは久しぶりにギュンター君が元気かどうか顔を見に、そしてロックフェラーは江戸村で魔獣兵団襲撃の報告を聞いて、いそぎやってきていた。
「ふう‥‥ようやく到着か。ああ、ルイスとロックフェラーも来ていたのか‥‥」
そう告げたのは烈。
クリエムと分かれてから、烈も魔獣兵団の噂を聞きつけ、ギュンター君達の住む村に向かうところだった。
「ここから先は戦場だから‥‥準備をしていた所だ。烈も行くのか?」
そう問い掛けるロックフェラーに、烈は静かに肯く。
「ということです。私達は、大切な友を助ける為に向かいます‥‥それが危険であることは承知していますが‥‥」
ルイスがベースキャンプの責任者である『ルヴィエ』にそう告げると、ルヴィエは顎鬚を撫でつつ静かに肯く。
「そこまで決意が固いのならとめはせぬ。但し、約束して欲しい。生きてかえってくると‥‥」
そう告げるルヴィエに、ルイスは肯いた。
──そして‥‥戦場
「また来たっ!!」
拳を下げ、脚のフットワークで相手の動きにタイミングを合わせる烈。
目の前からは、漆黒の鎧を纏った3匹のオーガが迫ってくる。
「ウガガガガウガウガガガァァァ」
「ウガッ!!」
素早く走ってくるオーガ。
そして先頭のオーガが、上段から力一杯サーベルで切り付ける。
──シュンッ
その一撃を横に避ける烈だが、すぐ後からクロスボウを構えたオーガが走ってきた。
──ドシュュュッ
烈の心臓目掛けて打ち込まれた弩。
それを間一髪かわし、その後でクロスボウを構えていたオーガの腕にケリを叩き込む烈。
──ドゴォォッ
そのまま体勢を整える為、一旦烈からオーガ達は離れていった。
「ハァハァハァハァ‥‥まったく、只のオーガじゃないとは聞いていたが、ここまでてこずらせてくれるとはな‥‥」
肩で息を切らせている烈。
だが、休む暇もなく、再びオーガは三位一体となり烈に奇襲を仕掛けてきた‥‥。
──一方、別のエリアでは
「は、早いっ!!」
素早く盾を構えてオーガの蹴りを受止めるルイス。
「ウガウガガ‥‥」
何かを叫びつつ、深紅の鎧を身に纏い、アックスを手にオーガが再び間合を取りつつ、ルイスの様子をじっと見ている。
「噂の赤い奴ですか‥‥それにしても、よく訓練されている。実戦なれしているというのでしょうか‥‥」
再び攻勢に出ようとするルイスだが、やはりオーガとの間合を詰めることは出来ない。
「ウガガッ!!」
そしていきなりオーガがラッシュ!!
アックスを構えてルイスに近づいていくと、そのまま連撃を叩き込んでいった!!
──ガギッガギッッッッ
その攻撃を盾で受止めるルイス。カウンターを仕掛けに行こうとすると、再びオーガは間合を外す。
「この素早い攻撃‥‥まさに稲妻の如くというところですか‥‥」
やがてルイスは、オーガの動きに目が馴れていく。
そして素早く反撃に出ると‥‥。
──もう一つの戦場
「ギュンター君!! どこにいるんだぁぁぁぁぁぁぁ」
かつてオーガ達の住んでいた小さな村。
今は生きているものの存在すら感じさせない、只の廃村。
あちこちから死臭が漂い、無残な屍となったオーガ達が転がっている。
──ガタッ
そんな中をロックフェラーは駆けていた。
だが、どこにもギュンター君の姿はない‥‥。
「畜生!! シルバーホーク‥‥なんてことしやがるんだ‥‥」
薄暗くなりつつある空に向かって、ロックフェラーはただ叫んでいた。
「‥‥どうやら、だれもいないか‥‥」
「そのようですね‥‥」
烈とルイスがロックフェラーの背後から声をかける。
「ああ‥‥そっちは‥‥と、ちょっとまて、今薬を」
その二人の姿に、ロックフェラーは慌てて革鞄を開けると、中から薬を探し始めた。
烈、そしてルイス。
手練れのオーガ達を殲滅はしたものの、二人も無事というわけではない。
烈は左手を切断され、両目が潰されている。
ルイスは全身が切り裂かれ、大量の血が流れていた。そして致命傷は、ルイスの左膝‥‥そこから先はなくなっている。
太い気の枝を手に入れ、どうにか杖代わりにしていたようだ‥‥。
──ドサッ
其の場に崩れる二人に、ロックフェラーは薬を差し出した。
「ああ、取っておいてください‥‥もう、効き目はないんですよ‥‥」
「ハアハア‥‥同じく。あの黒い奴等、たいした腕だったぜ‥‥」
そう告げると、二人は静かになっていく。
「誰か‥‥誰か、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
絶叫が村を包んだとき、ロックフェラーの後から、数人の人影が見えてきた。
──そして
「‥‥うあ、これディヴのもるげんすてん。ギュンター壊した‥‥ごめん」
暗い洞窟。
そのなかに灯された焚火の前で、包帯を巻いているギュンター君がロックフェラーに頭を下げている。
その横では、ディヴとニックの二人が、心配そうに治療を受けているルイスたちのほうをジット見ている。
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
その二人に手を当てて、魔法による治療を施している一人のクレリック。
「うあ、あんだーそん神父、だいじょヴぶ?」
「ええ。命はなんとか。これから失った部分の再生を行いますから‥‥」
アンダーソンと呼ばれた神父は、そうギュンター君に告げると、そのままロックフェラーにも話し掛けた。
「あの戦場を駆抜けてくるなんて‥‥無茶です!!」
そう告げると、アンダーソンは静かに治療を続けた。
そして一通りの治療が終ってから、ロックフェラーはアンダーソン神父から様々な話を聞く事が出来た。
彼と数名の神父は、魔獣兵団により襲われた村の人々を救う為にこの地にやってきたということ。
だが、魔獣兵団に追われ、この村近くにまで逃げてきたこと。
村では戦いが終った直後らしく、アンダーソン神父と他の神父達は、生き残った人々を助ける為に活動を開始した。だが、この村にはオーガ以外には、村の入り口を警護していた戦士しか住んでいなかったた。
そのため、虫の息であった戦士をまずは治療し、この村について話を聞いたのである。
そしてアンダーソン神父は、ギュンター君達を助ける為に魔法を施したのだが、忌むべきオーガに対してセーラの加護は届くことなく、奇跡的にギュンターくんとニック、ディヴが甦生に成功したらしい。
「ろっくふぇらー、ギュンター、あんだーそん神父にトール甦生してもらう!!」
その言葉に、ロックフェラーは驚いた。
「確か‥‥トールシはかなり前に死んでいて‥‥それでも甦生できるのか?」
「私一人の力では‥‥」
そして洞窟の奥から、二人のクレリックが姿を表わす。
「二人の意識が戻りました。ですが、まだ動かすのは無理でしょう‥‥」
「まずは体力を取り戻して、それからパリに戻ったほうがいいです‥‥」
そう告げるクレリック達。
その言葉に甘え、ロックフェラーはルイスと烈の体力が回復するのをじっと待った。
そして二人も歩ける程度に回復すると、アンダーソン神父に礼を告げ、パリに帰還することとなった‥‥。
●のるまん江戸村〜危険発生〜
──村入り口
「‥‥ここから先は、通すわけにはいかない‥‥」
目の前に立っている男に向かって、天龍がそう叫ぶ。
スッと間合いを取ると、そのまま構えを固定し、相手の出方を待った。
「あー、それなら、無理にでも通るだけだ。お前のような雑魚には用はない‥‥」
全身筋肉質のジャイアントが、そう告げると構えを取ることなく天龍に向かって歩いてくる。
──シュンッ
「そこまでだワン!!」
天龍の背後から掛けてくる『わんドシ君』。
そして一気に回し蹴りを叩き込むが、その男には通用しない。
ギリギリの所で躱わすと、わんドシ君に向かって拳を叩き込んだ!!
──ドゴォォォォッ
その一撃で、わんドシ君は後方に吹き飛ばされる。
「貴様‥‥よくも宿敵(とも)をををっ!!」
その機動力を生かしてジャイアントの背後に回りこむと、天龍は素早くその頭部に向かって蹴りを叩き込む。
──ガシッ
だが、それは受止められる。
それどころか、脚を捕まれたまま、天龍は大地に叩きつけられた。
──ドゴッ
「ふぅ‥‥ウォーミングアップにもならんか‥‥」
そう告げつつ、男は歩みを止めない。
そして天龍は、薄れ行く意識の中、宮村達の無残な姿を見続けることとなった。
意識が戻ったとき。
天龍は村人からあることを告げられた。
それはある女性が捕まり、連れ去られていったという事。
ジャイアントはそのり女性を見付けると一言。
『贄として、よく成長したものだな‥‥』
そう告げたらしい。
そして当て身を打ち込むと、その女性『大丹羽蛮』を抱え、何処かに立ち去って行ったらしい‥‥。
●パリ〜悲しみを越えて〜
──中央公園
そこには特設ステージが作られていた。
♪〜
聞こえていますか? 私の声が。
もし届いているのなら、教えてください。
貴方は今、どんな思いなの?
そっと、私にだけ教えてください。
届いていますか? 私の思いが。
もし届いているのなら、、教えてください。
私は、何をすればいいの?
そっと、私にだけ教えてください。
♪〜
クリス・ラインハルト、久しぶりのステージ。
『ザンク!!』から教わった事を、クリスはそのステージで披露していた。
そのステージを見つめつつ、ハルヒは崩れていった。
あの翌日。
アンリの姿がなくなっていた‥‥。
「アンリ‥‥どうして‥‥何処に行ったの‥‥」
悲しみが、ハルヒを覆い包む。
教えてください。
今の、貴方の想いの全てを。
〜Fin