●リプレイ本文
●相手は強者〜勝率1%以下の戦い〜
予測できる敵。
それがいままでにない最強の敵という事もあり、一行は戦う為の準備を続けていた。
──サン・ドニ修道院
そこは小さな部屋。
かつてはエムロードが使っていた小さな部屋。
そこに静かに足を踏みいれるのはノリア・カサンドラ(ea1558)とルミリア・ザナックス(ea5298)の二人である。
「なにもないのですね‥‥」
「ええ。それではこちらへどうぞ‥‥」
そう告げるシスターレイホウの後をついて行く二人。
そして礼拝堂にたどり着くと、そこの中央でじっと待っていたシスター・アンジェラスが、祭壇に納められている一振りの剣を、ルミリアに差し出す。
「これが必要なのでしょう‥‥」
それ以上の言葉はない。
そして二人が其の場をあとにしようとしたとき。
「シスター・カサンドラ。タロンの神殿でファザーが貴方をお待ちだそうです」
──ドキッ‥‥
「え。あ、あはぁーっ、仕方ない。行くしかないかぁ‥‥」
腕を組みつつ肯くノリア。
だが、その頬はかなり引き攣っていた。
──パリ郊外のとあるタロン神殿
「ふう‥‥お待ちしていましたよシスター・カサンドラ」
質素な礼服に身を包んだファザーが、ノリアにそう告げる。
「果てしなくご無沙汰しています、ファザー・センイッチ。とってもお元気そうで何よりです。それではとっとと失礼させて頂きます‥‥」
そう告げて素早く振り向くと、ノリアは全速力で入り口に向かってダッシュ!!
だが、いつのまにか前に回りこんでいるファザーに入り口を塞がれしまう。
「さてボンバーマスターである私から逃れることができるとでも? とりあえず今日は、貴方にとって必要な話をしようかと思いましたのに‥‥」
そう告げると、ファザーはノリアにとある物語を説明した。
それはかつて、この神殿に仕えていた神父『エナッツ』の物語。
彼はタロンより授かりし聖書を片手に、幾多の悪魔と戦いを繰り返していたという。
中でも伝説的なのは、9体の悪魔を立て続けに叩き臥せたという『エナッツの9連続エクソシスト』である。
インプ『アリトゥ』を筆頭に、グレムリン『モトゥイ』、同『イケナグァ』等など。
それらを次々と単身撃破した彼の功績は、その後このタロン神殿でも語り継がれているという。
「ということで、本日はこれを渡しておきたかったのです!!」
ファザーはそう告げると、ノリアに小さな聖書を手渡した。
「これは?」
「伝説のエクソシスト『エナッツ』の残した聖書です。今回は色々と役に立つでしょう‥‥」
そう告げてから、ファザーは静かにノリアを見送った。
──ノルマン江戸村
「では、確かにお渡ししますので‥‥」
丁寧にそう告げつつ、クリエムは目の前で静かに座っているマナウス・ドラッケン(ea0021)に桐の箱を差し出す。
「先日。ベースキャンプに補給に向かった方たちから、ベースキャンプ全滅の報告を受けました。私の師匠、マイスター・トールギスも‥‥」
そう告げるクリエム。
そしてマナウスは、静かに桐の箱を開いた。
漆黒の巨大な弓が、そこには納められている。
「私の‥‥父、兄、そして祖父達の残した文献から作り出した弓『ケンプファー』です」
それを手に取ると、そのままマナウスはケンプファーを箱に納めた。
「確かにお預りします‥‥」
何処まで戦えるか。
マナウスもまた、最後の戦いの覚悟を決めた。
そしてその横では、三笠明信(ea1628)もまた、『トールギスの5振りの聖劍』の一つを貸与される。
「このノルマンを助けて下さい‥‥師匠の仇を‥‥お願いします」
そのクリエムの悲痛な気持ちと共に、三笠はずっしりと思いその武器を受け取った。
──その頃ののるまん神社
パッ!! パッ!!
巫女である徳河葵が傍らに立ち、目の前で行われている祭儀をじっと見守っている。
「‥‥スミマノミコトノミヅノミアラカツカエテマイリテ‥‥」
じっと宮司の唱える祝詞を聞き、岬芳紀(ea2022)は厳粛な気持ちとなっている。
自らも、今回の魔法陣で死んだ大勢の人たちの魂を助ける為に曲を奉じ、そして今度は宮司より直接、これから先の祈願を受けていたのである。
彼の持つ魔法武具が悪魔に対して有効である事も確認し、あとは出発を待つばかり‥‥。
●街道封鎖〜それでも先へ〜
──プロスト領中央手前
街道が騎士団により封鎖されている。
そこでは、大勢の騎士とその近くでテントを張ってじっと何かを待っているミハイル教授の姿があった。
「教授‥‥こんな所で何をなさっているのですか?」
そう問い掛けたのはアリアン・アセト(ea4919)。
「おお、いいところに来た。すまんが、ワシをこの先まで護衛してくれぬか?」
──かくかくしかじか
「成る程。つまり、教授は破滅の魔法陣を止める方法を聞く為に、プロスト卿の元に向かいたかったのですか」
一通りのいきさつをミハイルから聞いたアリアン。
ここに来る前に、アリアンはロイ教授の元を尋ねて魔法陣停止の為の方法を訪ねてきた。
だが、いまだ成果はなかった。
「うむ。しかし、ここから先は一般人は通してくれぬ。プロストはまだあの場所で戦っているのであろう‥‥歯痒くて堪らぬのぢゃよ」
「お気持は判ります。で゜すが、今は教授はパリに戻るべきですわ。魔法陣についてプロスト卿が詳しいのであれば、私達が教授の代わりに向かいましょう。可能であればプロスト卿の手伝いをして、無事にパリに戻りますので」
「ですから、教授はここからパリに戻ってください!!」
そのアリアンとルミリアの説得を受けて、ミハイル教授は止む無くパリに戻る事となった‥‥。
●そして決戦〜階段に潜む魔物〜
──プロスト領中央
街は静まり返っていた。
人の住まう気配もない。
ただ、時折白いマントの漢達が、町の中をうろついている。
そしてそのマントの男に付き従うように、必ず一人の少女がいた。
「‥‥チャイルドとかいうアサシンガール? どうやら街は完全に押さえられてしまったみたいですね‥‥」
偵察をしてきたルミリアが、仲間たちにそう告げる。
「大聖堂はどうでしたか?」
そのアリアンの言葉に、ルミリアは頭を左右に振る。
「ノルマン屈指の大司教がいるのですよ? 悪魔にとって最も忌むべき空間ですから‥‥かなり厳重に警護されています」
その言葉に、一行は策を練る。
そして導きだした結論はただ一つ。
誰よりも早く、最下層を目指す。
敵を恐れず、目的はただ一つ、魔法陣の停止。
そして一行は行動を開始した。
最下層への道は一つしかない。
ならば、いかなくては‥‥。
●立体構造迷宮〜命〜
いくつもの戦い。
「殴りクレリック・ジェネシックノリア参上っ!!」
鋼のフレームによって強化された『エナッツの聖書』を武器に、進化したノリアはただひたすら殴りつづけた。
相手がアサシンガールの最終進化形態といわれている相手であろうとも、ノリアはただひたすらボンバーしまくった。
(この聖書が教えてくれる。どう戦っていいのか、相手の動きをどう見切るのか‥‥)
それはまさにボンバーの連発であった
「任務確認‥‥敵チャイルド撃破‥‥」
三笠は静かに剣を抜き出す。
それはふた振りの剣ウィングバスター。
それを構えると、三笠はただひたすら道を開く為に、チャイルド達を『殺し』ていった‥‥。
まるで、剣に意志を奪われたかのように‥‥
「あーーーーははははははははーーーーーーーーーーっ」
高笑いしつつ走ってくるチャイルド二人。
エンジェルモードに突入したチャイルドに対して、岬は戸惑うことなく武器を構える。
その実力は、あまりにもかけ離れすぎていた。
ただひたすら防戦することしかできかず、さらにその守りすら突破され、岬はすでに瀕死である‥‥。
「ぐっ‥‥ハァハァハァハァ‥‥」
息も切れ、肉体は限界。
──シュタタタタタタタタタタタタッ
そこに駆けつける二人の影。
「ノリアっ‥‥ヘルっ!!!!」
「ルミリア‥‥ヘヴン!!」
ノリアとルミリア、二人の拳がそれぞれのチャイルドを殴りとばす!!
そこにアリアンが素早く駆け込むと、そのまま三笠の傷に手を当てる。
「あの二人に任せれば大丈夫です‥‥」
──ヴゥゥゥゥゥン
傷が静かに塞がっていく。
その治療の最中、アリアンと岬を守っていたのは、『ケンプファー』を構えたマナウス。
(不思議な弓だ‥‥まるで、矢が命を持ったみたいに‥‥)
それは錯覚かもしれない。
だが、ケンプファーから放たれた矢は、高速で駆抜けるチャイルドを的確に射貫く。
殺しはセず、その足を止める為に、マナウスはただひたすら矢を放っていく。
そして岬の怪我が癒えると、最後の階層に突入した!!
●破滅の魔法陣〜起動開始〜
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
その中央では、贄となったシスター・アイの肉体が闇に包まれ始める。
その側では、アリオーシュ・ヘルメスがじっとその光景を見つめていた。
そこに三笠が走りこむ!!
既に携帯しているヘキサグラム・タリスマンは発動し、周囲を聖なるフィールドで守っている。
三笠と共にヘルメスに向かうのはほぼ全員。
「怒りはある…が、エムロード殿は復讐など望むまい、ただ我らが進む道の為に、いざ参る!」
ルミリアもこの最後の戦いに全てを駆けていた。
「‥‥」
──ブゥン
力一杯なぐりかかるノリアだが、ヘルメスはそれをあっさりと躱わす。
「あら。問答無用ね。でも、そんなに強力な武器でも、当たらなければどうということはないのよ」
その途端、エナッツの聖書をヘルメスに向かって投げ付けると、ノリアは切り札を装備する。
──バッ
素早くスカートをまくると、その中から一対のナックルを取り出し装備する。
「そ、そんなものをなんていうところからっ」
「乙女のスカートの中には、危険がいっぱい詰まっているのよッ」
力一杯そう叫ぶノリア。
(危険じゃない、秘密だろそこは‥‥)
そんな岬の突っ込みはおいといて。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
──ガギィィィィィィィィィィィィィィィィン
三笠がウイングバスターを振るうが、それをヘルメスは手にした剣で受止める。
「その輝きはトールギスの聖劍。まあ、私に傷が付くとは思えないですけれどね‥‥」
そう告げるヘルメス。
そのまま三笠は交代し、入れ代わりで岬が突入するが、岬の攻撃はかすりもしない!!
「くっ‥‥実力の違いが‥‥全てではないっ!!」
そのまま体当たりをする岬。
その一撃で、ヘルメスは後に下がる。
そこにルミリアが一気に駆け込むと、手にした銀の剣をヘルメスの胸に叩き込む!!
──ドシューーーーーーーーーーーーッ
それは深々と胸に突き刺さる。
血のようなものが吹き出すが、それは空中に散り霧散化していく‥‥。
「馬鹿‥‥な‥‥この武器は一体‥‥」
ガシッと刀身を掴むヘルメスだが、その途端手が燃え上がる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
それは絶叫。
さらにノリアが走りこむと、ヘルメスを後から抱きかかえる。
──ダンッ
力一杯の震脚、そして大木を引き抜くように抱え上げると、そのまま後方にブリッジ!!
ヘルメスを脳天から床に向かって叩きつける。
──ドゴォォォォォォォォォォォォッ
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
そのまま転がるヘルメス。
ただ床に叩きつけられた程度ならば、ダメージはない。
但し、そこに聖なる結界があったとしたら?
ノリアの叩きつけた場所。
そこはちょうど、岬が『聖なる釘』を床に叩きこんでいた場所である。
岬は、戦闘に入った直後に釘を床の魔法陣に叩き込んでいた。
そしてひたすら祈りを込める。
魔法陣を停止させることは出来なかったものの、それにノリアが気付き、ヘルメスを叩きつけたのである。
「き、貴様達‥‥絶対に許さない‥‥」
それだけを言い残すと、ヘルメスは素早くオーブに向かって走りこむ。
そしてオーブを手にすると、何かを呟いた。
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
大地が鳴動し、闇が急激に広がる!!
「ヘルメスっ‥‥貴様何をっ!!」
「もう遅いわよ‥‥この魔法陣は止まらない‥‥ここで貴方たちは朽ちてしまうのよ‥‥」
それだけを告げると、ヘルメスは素早く其の場からスッと消えた。
急速に闇が膨れあがる。
だが、アリアンはその中に向かう。
「泣いていますわ‥‥」
ただそう告げると、アリアンはシスター・アイの頬をそっと撫でる。
「辛いのですね‥‥」
アリアンの頬を涙が溢れる。
慈愛神の力が、届かない。
魔法陣の発動により、アイの肉体には魂は存在していなかった。
アリアンは、それを瞬時に悟った。
──ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
オーブが悲鳴を上げる。
それはアイの悲しみの声。
「贄を魔法陣の外へっ!!」
岬が叫ぶが、アリアンは頭を左右に振る。
「もう‥‥動かないのです‥‥お願いします‥‥」
アリアンはアイの為に祈りを捧げ始めた。
彼女の魂が救われますように‥‥。
それは、慈愛神セーラの使徒にとって、辛く哀しい事実である。
そしてオーブを破壊する為に、全員が走りだす。
──シュュュュュュュンッ
後方から真っ先に矢を放つマナウス。
ビシッ‥‥
オーブに亀裂が走る。
──ガギィィィィィィィッン
さらにルミリアが銀の剣を叩きつける。
ビシッ‥‥
さらにオーブに亀裂が走り、崩壊が始まった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
そしてノリア。
亀裂の入ったオーブを手に取ると、両手でそれをがっしりと掴み、一気に砕いた‥‥。
その頬からは、涙が溢れている。
タロンの使徒であるノリア。
シスター・アイは、タロンに選ばれたかもしれないのに。
●そして
全てが終った。
一人の少女の魂と引き換えに、魔法陣は静かに力を失う。
ヘルメス逃亡の噂が流れたらしく、プロスト領中央は解放された。
大司教の力で、石化したプロスト卿達もやがて元に戻るであろう。
だが、涙が止まらない。
助けれられる者も助けられなかった‥‥。
失意の念に囚われたまま、一行はパリヘと帰還した‥‥。
残る魔法陣、あと二つ。