【命のバトン】そしてフラリと〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月07日〜12月17日

リプレイ公開日:2005年12月15日

●オープニング

──事件の冒頭
「判ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 絶叫を上げるロイ教授。
 とある箱を手にしつつ、ロイ教授は研究室で何かを見付けたのである。
「な、何が判ったのですか?」
 ミハイル研究室からやってきた考古学者の卵達が、ロイ教授にそう問い掛ける。
「魔法陣の停止方法じゃよ。贄の魂を吸取ったオーブ、それを止める方法がわかったのぢゃよ」
 そう叫ぶと、ロイ教授はとある箱を指差しつつ話を続ける。
「この『聖遺物箱』にオーブを納めるのぢゃよ・・・・」
 それは、30cm四方の小さな箱。表面には金銀宝石をふんだんに使用されており、かなり豪華な造りとなっている。
「これがなにか?」
「この箱には悪魔は触れること敵わず。魔の力にて発動している魔法陣なら、オーブをこれに移す事で注がれる魂の流れを止めることができるのぢゃよ」
 ポン、と手を叩く研究員。
「それで、その後はどうするのですか?」
「知らん」
「し、知らんって・・・・」
「少なくとも贄となったものの死は免れる。この箱が近くに置かれている限りはのう。そこから先はまた別の話じゃて、オーブから魂を分離の摩る方法を考える必要がある」 
 キッパリと言い切るロイ教授。
 そして窓の外を眺めつつ、ロイ教授はボソリと呟いた。

「ミハイル・・・・そなたの意志、わしが受け継いでみせるぞい・・・・」

●今回の参加者

 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea3120 ロックフェラー・シュターゼン(40歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea4004 薊 鬼十郎(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5180 シャルロッテ・ブルームハルト(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

アハメス・パミ(ea3641)/ クラウス・クラバート(eb2179

●リプレイ本文

●全ては大切な友の為
──酒場マスカレード
「うーん。あのエリアは現在立ち入り禁止になっていて、あのあたりの情報を得るのは非常に難しいのよねぇ‥‥」
 難しそうな表情でそう告げているのは、情報屋のミストルディン。
「せめて、ギュンター君達が何処に連れていかれたのかだけでも、なんとかなりませんかっ!!」
 必死にミストルディンから情報を得ようとしているのは薊鬼十郎(ea4004)。
 これから向かう『ヴォルフ領』について、今は一つでも情報が欲しい一行。
 とりあえずは全員が酒場マスカレードにやってくると、そのままミストルディンから情報を聞き出しているところである。
「うーん。最後の情報では確か‥‥旧グレイファントム領ヴォルフ自治区‥‥領主の舘だったかな‥‥でも、真面に正面からって‥‥」
 場所が判っただけでも充分と、鬼十郎は一気にダッシュ!! といきたいが、その行動は他のメンバーに止められる。
「それで、ヴォルフ自治区にはどのように向かうと良いのでしょうか?」 
 そう問い掛けているのはシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)。
「移動はプロスト領より南方へは封鎖されているから‥‥騎士団とかと同行しない限りは無理ね。となると、旧街道から回ったほうがいいかしらねぇ‥‥」
「旧街道か。ちょっと厄介だな」
 そう呟いているのはロックフェラー・シュターゼン(ea3120)。
「どうしてやっかいなのー?」
 レン・ウィンドフェザー(ea4509)がそうロックフェラーに問い掛ける。
「魔物の巣窟。山賊の狩り場。旧街道は決して安全な道ではないということよ‥‥」
 煙管を吹かしつつ、ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)がそう告げる。
──ダン!!
「でも、そこしかないというのでしたら、行くしかありませんっ!!」
 テーブルを叩きつつ、鬼十郎が叫ぶ。
「となると、江戸村にはいけないか‥‥」
 ロックフェラーが頭を抱える。
 旧街道は確かに早く行くことができる。
 但し、ノルマン江戸村とは逆の方角からプロスト領に入る為、江戸村には立ち寄れない。
「いそぎで江戸村に向かい、さらに引き返して途中から旧街道‥‥ロスは2日ってところね‥‥どうする?」
 ミリランシェルが指を折りつつそう告げる。
 が、すでに全員の腹は決まっていた。
「私がロックフェラーさんと先に江戸村に向かいます。そこで情報を得てすぐに引き返し、旧街道入り口で合流するというのはいかがですか?」
 クリス・ラインハルト(ea2004)が全員に提案する。
「となると‥‥うーん‥‥」
 腕を組んで考えるロックフェラー。
「誤差1日。それでモルゲンステルンを仕上げるか‥‥」
 どうやら結論に達した。
 一行は、早速行動開始。ロックフェラーとクリスの二人は真っ先にノルマン江戸村へ、残った一行はさらに別行動を開始した。

──ロイ考古学研究室
「‥‥つまり、ヴォルフ領の魔法陣は他のエリアのものと違うという事ですか?」
 そう訪ねているのは鬼十郎。
 なにはともあれロイ教授の元に魔法陣に着いての情報を得る為にやってきたのであるが、ロイ教授は難しい顔で頭を捻りつつ、唸っていた。
「どうもなぁ‥‥腑に落ちんのぢゃよ。他の魔法陣の配列は、この通り‥‥どのエリアも旧遺跡群やムーンロートの発生ポイントとして調査されている場所ばかり。しかし、ヴォルフ領にはそれらしい伝説や記述もない。地下に遺跡が広がっているという噂も、ワシは耳にしたことはないのぢゃが‥‥忘れているだけなのかのう‥‥」
 パラパラと写本をめくるロイ。
「ぢぢい、とっととおもいだすのー。そこがいちばんじゅうようなのー」
 乱暴な口調でそう叫ぶレンの方を向きつつ、ロイはさらに一言。
「あと付けの魔法陣だとしたら‥‥何か別の意味ももっている可能性がある‥‥」
「それはどういうことですか?」
 シャルロッテがそう問い掛ける。
「魔法陣と贄。まあ、ワシの専門分野ぢゃが‥‥悪魔との契約ぢゃな‥‥」
 その言葉に、一行は息を呑む。
「つまり、ギュンター君を連れ去った‥‥アンダーソン神父が、悪魔との契約の為に?」
「そこが腑に落ちないのぢゃ。複合型だとすると、最悪全てが無に帰す‥‥そんな危険な賭けをするとは‥‥うむむ‥‥」
 それ以上はなにもでてこない。
 一行はそれでも先に進むしか無かった。


●ノルマン江戸村〜とりあえず情報〜
──江戸村・難民受入用簡易集会所
「どどどどどどどこにいったのですかー」
 動揺の色を隠せないのはクリス。
 アンリエットを見たという人の証言を手に入れたクリス。
「あー、パリの郊外で‥‥どこだったかなぁ‥‥行商の帰りに見掛けたなぁ‥‥がぁがぁって‥‥」
 まさしくそれ。
「パリ郊外ですね‥‥よかった‥‥」
 取り敢えずホッと一安心のクリス。
 ここに到着して、ロックフェラーとクリスは早速情報収集を開始、それを終えてからロックフェラーはトールギスの鍛冶工房に引き篭った。
 クリスも又、個人の情報収集を終えて、あとはロックフェラーを待つばかり。
──ガラッ
 やつれた表情で姿を現わした。ロックフェラー。
「出来たのですか?」
「ああ‥‥マイスターの言うとおりだ。俺には鋼の声が聞こえ始めた‥‥その色、輝きが判ってきたという所だな‥‥」
 そうして出来た一品を手に、いよいよロックフェラーは仲間たちと合流。


●果てしなき戦い〜時間が足りないっ〜
──旧街道〜旧ヴォルフ自治区
「これで最後ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ドッゴォォォォォォン
 激しい一撃を最後のオーガに叩き込むミリランシェル。
 旧街道に入ってからは、一行はただひたすら戦いの連続であった。
 今は少しでも早く向かいたい。
 なのに、次々と姿を表わす魔獣兵団の尖兵達。
「もう‥‥げんかいなのー」
 其の場にへたりつくレン。
「もう少しです‥‥間もなく私達のキャンプに到着しますから‥‥」
 そう告げたのは、途中で合流したワルプルギスの剣士『マスター・メイス』。
 レンは彼から、マスター・オズが健在であること、今はヴォルフ領に潜入し、内部の調査をおこなっている事などを聞き出した。
 もっとも、マスター・オズは途中で負傷し、今は近くの洞窟にて傷を癒しているらしい。
 そこにたどり着くと、レンはマスター・オズに静かに話し掛ける。
「‥‥とーさま、マスターにはまだおしえてほしいことがいっぱいあるっていってたの」
「うむうむ。シンか。彼はいい剣士となるぢゃろう‥‥案ずるな‥‥今は汝らの目的を遂行しなさい‥‥オーラと共にあらんことを‥‥」
 それがマスターオズがレンに告げた言葉であった。

──ヴォルフ自治区・旧領主の舘
 そこはまさに激戦区。
 迂闊に近付く事も許されない難攻不落の要塞であった。
 周囲はかなりの数のオーガ達魔獣兵団によって護られており、迂闊に近付く事もできない。
 数の上でも圧倒的不利、さらに加えて、魔獣兵団はフィールドドラゴンをも使役していた。
「うかつにはちかづけないのー」
 こっそりと遠くからその様子を見ている一行。
 だが、どこにも付け入る隙はない‥‥。
「ふぅ‥‥突破口を開く必要があるか‥‥」
 ミリランシェルがそう呟くと、静かに武器を引き抜く。
 そしてその横では、レンもまた覚悟を決めたような表情で静かに立上がった。
「ロックフェラー、あんたも男なら、しっかりと護衛をつとめなよっ!!」
「きじゅうろう、しっかりがんばなのー‥‥じゃあね‥‥」
 そう告げると、ミリランシェルとレンは敵陣に向かって走り出した!!
「ちょっと待って!! 私も戦うっ。そんなのダメよっ!!」
 そう叫ぶ鬼十郎だが、クリスが鬼十郎の肩を掴む。
「二人が道を開いてくれたんだよッ。私達は、急いでギュンター君達を助けるの‥‥」
 そう告げると、クリスもまた静かに立ち上がる。

♪〜
今は‥‥戦うときじゃないの‥‥
そう。
思い出して。楽しかった一時‥‥
今は、争うときじゃないの‥‥
そう。
思い出して。安らかな一時‥‥
♪〜
 
 それはクリスのメロディ。
 鬼十郎とクリス、そしてロックフェラー、シャルロッテは、メロディによって戦意を喪失した警護のオーガ達の横をすり抜ける。
 正門の向こうからは、激しい戦いの音と、レンのものであろうグラビティキャノンの衝撃波が伝わってくる。
「退いた退いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。このあたいの相手はお前たち雑魚じゃないよっ!!」
 魔力の籠った木剣ではない。
 ロックフェラーが江戸村から借りてきた巨大なデスサイズを構え、大見得を切るミリランシェル。
 その背後では、紋章剣を構えたマスター・メイスと、口の中に木ノ実を放り込んでモグモグしているレンの姿があった。
「めいす、ありがとうなのー」
「オズの頼みですから‥‥それにシンの娘さんを見殺しにはできませんよ‥‥」
 そう告げている最中にも、次々と魔獣兵団は3人に襲いかかっていった‥‥。

──一方・地下迷宮では
「‥‥ギュンター君っ!!」
 そこは破滅の魔法陣。
 中央には、すでに生命を失い屍となったディヴとニック、そして今にも命の灯火が消えそうなギュンター君の姿があった。
「ふぅ‥‥ここまで来るとは対したものですねぇ‥‥」
 そう告げながら、一行のほうを振り向くのはアンダーソン神父。
「アンダーソン神父、思いだして下さいっ!!」
 そう叫ぶと、クリスは瞬時にメロディを発動。


神の御手よりこぼれた雫、我、掬い上げ海と成さん。
聖母の御胸をはぐれた子鳩、我、止り木を差し出さん。
凍えし大地、冬枯れの森。我が腕に抱き温めん。
御言葉刻みし我が心、止むるものは無かりせば。


「歌によるまやかしですか?」
 頭を振りつつそう叫ぶアンダーソンに、シャルロッテは素早く説教開始。。
「セーラ様にお仕えするあなたがなぜこのようなことをされるのですか。神はこのようなことを望んではいません‥‥悔い改めなさい」
 そう叫ぶが、アンダーソンは静かに口許に笑みを浮かべるだけである。
「神か‥‥私は‥‥この魔法陣により『神を越える』のだよ‥‥純粋なる贄により、彼の者を呼び出し、我もその眷族となる‥‥最高じゃないか‥‥はーっはっはっはっはっ」
 狂っている。
 其の場に居る誰しもがそう思った。
 そしてその時。
 床一面に広がる魔法陣が輝いた。
「ギュンター君っ!!」
 そう叫びつつ鬼十郎が走り出す。
 シャルロッテはその異変に気付き、素早くホーリーフィールドを展開させる。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
 刹那。
 室内の気温が急激に下がった。

──外では
「‥‥きけんなの。はつどうするの‥‥」
 レンが、その異変にも気が付いた。
 外で戦っていたレン。
 その感覚は、今でも脳裏に焼き付いて離れない、忘れたい感覚であった。

──そして中
「来たきタキタキタキタキタキタぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 歓喜にもにた声で叫ぶアンダーソン。
 そして彼の足元の魔法陣が輝いた瞬間、そこから巨大な手が伸びてきてアンダーソンを鷲づかみにすると、そのまま魔法陣のなかに引きずり込んだ。
「鬼十郎さんっ。フィールドに戻ってきてくださいっ!!」
 そう叫ぶシャルロッテ。
 そしてロックフェラーが飛び出し、鬼十郎に向かって走り出す!!
「やばいっていうのは判った。だから戻ってくれっ」
 そう叫ぶ。
 だが、鬼十郎はようやくたどり着いたギュンターくんに何かを語りかけている。
「辛い時にいつも側に居て上げられなくて‥‥ゴメンね」
 ギュッと抱しめ、そう告げる鬼十郎。
「でも、これからは離れないわ。ねぇ、また一緒に冒険に行こうよ。二人で歌を歌いながら旅をしよう。美味しい御飯も作ってあげる。寒い日はこうしてずっと抱きしめていてあげる。望む事、なんでもしてあげる。だから御願い‥‥戻ってよ!戻って来てくれなきゃ‥‥私‥‥行くわよ!そっちまで追って行っちゃうから!」
 そしてそっと口付けした瞬間。
「鬼十郎っっっ!!」
 ロックフェラーが叫ぶ。
 魔法陣から伸びた腕が、鬼十郎に掴みかかったのである!!
──ドン!!
 それは一瞬の出来事。
 鬼十郎は強い力で其の場から押し飛ばされた。
「な、なにっ‥‥一体なにがっ!!」
 そう叫ぶと同時に、鬼十郎は見た。
 魔法陣の中に戻っていく巨大な腕を。
 其の手の中に、握り締められ、苦しそうにもがくギュンター君を。
「きじゅろ、にげてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ぎゅ‥‥ギュンター君ッ。このっ!!」
 素早く木刀を引き抜くと、鬼十郎は魔法陣の中央に向かって走り出した。
 だが、ロックフェラーがそれを制したのである。
「やばすぎるッ。駄目だ危険過ぎるッ」
 必死に鬼十郎を止めるロックフェラー。
「放して‥‥放してよっ‥‥ギュンター君が‥‥ギュンター君っっっっっ」
 その声は、ギュンター君に届いていただろうか。
 やがて腕は魔法陣の中に消えていった。
 そして広がる闇。
 中央には、深紅に輝くオーブが安置されていた。
「鬼十郎っ。まだ大丈夫だっ‥‥オーブが輝いている‥‥ギュンター君は生きているっ‥‥」
 ロックフェラーはその言葉に確信は持てない。
 だが、そんな感じがした。
 そして鬼十郎は急いでギュンター君の命とも言えるオーブを手に取ると、それを『聖遺物の箱』に納めた。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
 闇は休息に消えていく。
 そして残ったのは、虚脱感。
「うっ‥‥ううう‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 絶叫する鬼十郎。
 その涙は、乾れはてるまで流れていた。


●そして帰還
 なんとか敵陣を突破し、パリヘと戻る一行。
 ミリランシェルやレンもまたかなりの手傷を負っていたものの、シャルロッテによってその傷は癒された。
 だが、鬼十郎は茫然自失のままとぼとぼと歩いている。
──きじゅろ‥‥
 ふと、鬼十郎の耳に声が聞こえる。
 素早く振り返り、周囲を見渡す鬼十郎。
「どうしたのです?」
 クリスがそう問い掛ける。
「今、ギュンター君が‥‥」
──きじゅろ、げんきだす、ぎゅんた、だいぢょぶ‥‥
 そして声は途切れる。
 パリへの道中。
 それ以上はなにも聞こえない。
 魔法陣の発動、そして現れた巨大な腕。
 魔法陣の完全発動は阻止したものの、失った代償は大きかった‥‥。

〜Fin