●リプレイ本文
●街道を越えて件の地へと
──平原
おだやかな旅。
そう告げると、実に聞こえはいい。
パリを離れ、街道を離れてすでに2日。
まもなく山岳地帯にはいる。
順調に進めば、夕方には話に出ていた『廃墟』にたどり着く。
「そういえば、あの貴族様のお話も、不思議なお話でしたね」
それはアルシャ・ルル(ea1812)。
出発直前、アルシャは酒場に出向いて、依頼者である貴族から『小さいときに聞かされていた物語』について問い掛けてきた。
貴族の話によると、それは昔の物語。
とある所に小さな村があったそうで。
そこは貧しい小さな村。
ある日、その村に小さな災いが起こったそうで。
その災いを鎮めるために、村の人たちは力を合わせて戦ったらしい。
だが、災いは収まることなく、村の人たちは一人、また一人と倒れていった。
そんなある日、村人の一人が、神より啓示を受けたらしい。
その啓示によって、村は救われ、ふたたび元の平穏な日々を取り戻した。
だが、啓示を受けた村人は、その代償として自らの命を捧げたらしい。
それに気が付いた村人は、村を救ってくれたその若者の志を胸に、同じ過ちを繰り返さないと近い、村の真ん中に若者を称える碑を作ったらしい。
「‥‥っていうお話なの」
そのアルシャの話に、冒険者一同は耳を傾けている。
「そっかあ‥‥でも、その物語だと、村は助かっているんだよねー」
レム・ハーティ(ea1652)がそう口を開く。
「確かに。その物語には続きはないのですか?」
ゼルス・ウィンディ(ea1661)が問い掛ける。
「ここまでは貴族様が覚えていた部分なの。そのあとが曖昧でね。ふたたび災いが襲いかかったとか、なんかあって、村は神に見放されて滅んだらしいの」
アルシャがそう返す。
「その『災い』というのが鍵かしら? 神に見放されたというのも気になりますわ」
エレアノール・プランタジネット(ea2361)がそう呟く。
実はエレアノール、目的地の近くの村を通るときに、その廃墟についての話を聞こうと考えていた。
実際に途中、一つの村を通ってきたのだが、そこでは『廃墟』については全く知らされていない。
彼女達と同じ様に、昔冒険者達がその村を通過し、廃墟を目指したらしいが、何も得ることなく帰ってきたらしい。
「貴族様の話、途中の村の話‥‥その廃墟というのは、本当に物語の中にしか存在しない空想のものなのかもしれないわね‥‥」
いくつもの情報をまとめ上げ、エレアノールがそう呟く。
「まあ、実際に現地に向かえば済む話だ。廃墟ということは、何かが出る可能性も考えられるしな‥‥」
ダギル・ブロウ(ea3477)が静かにそう告げる。
「俺の聞いた話も、さっきのものとほぼ変わらないな‥‥」
それはラシュディア・バルトン(ea4107)。
彼もまた、出発前に冒険者酒場で聞き込みをしていた。
あちこちの卓にワインを持っていっては、聞き込みを行なってきた。
「あの貴族のように物語を信じて、廃墟を捜しに向かったパーティもいたらしい。ただ、そいつらは草原地帯に入ったときにオーガに襲撃されて逃げてきたって言っていたし‥‥」
冒険者達からはたいした噂話は手に入らなかった。
ただ、ここから先、オーガ達のテリトリーに入らなくては、廃墟のある山岳エリアまでは進むことが出来ないという事は判った。
「オーガ‥‥剣と金貨の祝福を。皆に幸いがあるように」
ユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)が両手を組み、そう神に祈った。
「普通は、神の祝福じゃないの?」
レムの鋭い突っ込みには、あえて耳を貸さないユージィン。
かくして冒険者達は、オーガの生息する草原エリアへと突入した。
そして、実に何事もなくたどり着いてしまった‥‥。
──廃墟
山岳地帯に広がる丘陵。
その一角に冒険者達はたどり着くと、荷物を降ろして休息を取る。
やかで、日が落ちはじめたとき、冒険者達は信じられない光景をみた。
前方に広がる丘陵地帯に、突然廃墟が姿を現わした。
作りなどはかなり古いものであろう、いくつもの建物の跡地や舞台のようなものまで、様々な建造物の跡がそこには広がっている。
「太陽が出ている間は、マジカルミラージュで廃墟の上に蜃気楼を生み出して隠していたようですね‥‥」
ゼルスが静かにそう呟く。
やがて夜のとばりが降りてくると、マジカルミラージュの効果が途切れる。
おそらくはまた朝日が昇ると、自動的にマジカルミラージュが発動し、廃墟は蜃気楼によってただの丘陵へと姿を変えていたのであろう。
「今までの冒険者達は、この地に夜まで留まってはいなかったのでしょうね。だから、こんなに幻想的な光景を見ることが出来なかった‥‥」
エレアノールがそう告げる。
──フゥゥゥゥゥン
既に月が上り、一同は野営の準備をしていた所であった。
と、風と共に、いくつもの光の球が浮かび上がる。
やがてそれは、一つに集まっていくと、一人の少女の姿を取り始めた。
「出たか!!」
ダギルがロングソードを素早く引き抜くと、少女に向かって身構える。
「待ってください!! その少女を良く見て!!」
ユージィンが今にも襲いかかりそうなダギルを制し、そう告げた。
その少女は涙を流している。
もちろん実体ではないらしく、涙は大地に吸収されず、その手前で消えていく。
「殺気も感じられません。何かを訴えているのでしょうか?」
アルシャはそう告げると、剣に掛けていた手をそっと外す。
「ゴースト‥‥無念の塊だね‥‥何かを伝えようとしているんだ‥‥」
レムがそう告げると、パタパタとゴーストに向かって飛んでいく。
レムの知っている限りでは、ゴーストは命を持つ者に対しては、あきらかな敵対意志を見せるはず。
なのに、今、目の前のゴーストはそういったそぶりを見せていない。
「何かを伝えたいんだね。ごめんね‥‥ボクには、君の‥‥ゴーストさんの声は届かないんだ‥‥」
そう少女に向かって呟くレム。
その双眸からは涙が溢れている。
クレリックであるレムには、その少女の悲痛さが感覚的に理解できた。
それゆえ、何もしてあげられない自分が歯痒かった。
やがて、少女はフワリと光の玉になって漂いはじめると、廃墟のある場所に集まり、消えていった‥‥。
「あの場所に‥‥あの子がいるんですね‥‥」
エレアノールがそう呟く。
「明日になったら、あの場所を調べてみましょう。そうすれば、何か判るのでしょ?」
ゼルスもまた、泣いているレムの頬をそっと撫で上げると、涙を拭ってあげた。
●真実〜それは哀しい物語〜
翌日、冒険者達は蜃気楼の中にふたたび入っていった。
眼の前に広がる廃墟。
その中央より少し離れた場所に、先日の少女のゴーストが消えていった建物がある。
「あ‥‥」
その建物の跡地を見て、ユージィンはふと告げる。
「ここはタロンの神殿かぁ」
白、つまりセーラの神聖騎士であるユージィンにとっては、あまり近づきたくはない場所であろう。
「大丈夫だ。呼吸をしているものは俺達のみ‥‥それに殺気も感じ取れないだろ?」
ラシュディアがダギルにそう問い掛ける。
「ああ。今のところは、敵意なんてものはこれっぽっちも感じねぇ」
ダギルとアルシャの二人は、常に周囲に殺気が満ちてくるかどうか意識を集中している。
「‥‥ここ、この辺り‥‥」
レムが、昨日の夜にゴーストの消えていった場所に降り立つ。
「ちょっとまっていろ‥‥」
静かに印を組み韻を紡ぐラシュディア。
と、一ヶ所地下に続く隠し扉をラシュディアがクレバスセンサーで感知。
「開けられますか?」
そのゼルスの問いに、ダギルとユージィンが隠し扉に手を書ける。
「いくぞ」
「そーれいっ!!」
──バギィッ!! ギィィィィィィ
蝶番が砕け、恐らくは掛けられていたのであろう隠し扉の鍵も砕け散った。
それと同時に、ゼルスが印を組み韻を紡ぐ。
「この奥からも、人の呼吸は感じられないわ」
そのゼルスの言葉に、一同は隊列を組み、ゆっくりと地下室に続くであろう階段を降りていった。
その階段の先には、石造りの扉があった。
恐らくは食糧などを貯蔵するためのものか、若しくは大切な何かを安置しておく場所なのであろう。
その扉にも閂が外から掛けられていたが、すでに腐って崩れていた。
「開けるぞ、準備はいいな」
ダギルがそう告げて扉を開く。
──ギシギシギシィィィッ
重い音が階段に響く。
そして扉が開かれた先には、信じられない光景があった。
大量の白骨死体。
何者かによって、この場所に閉じこめられていた者たちの無残な姿が、そこにあった。
そしてその白骨達は、ゆっくりと立上がると、冒険者達に向かって襲いかかっていった。
「‥‥神よ。この者たちの、囚われし魂を開放したまえ‥‥」
そう告げると、ユージィンがクルスソードを引き抜く。
「ユージィン!!」
レムが叫ぶ。
だが、ユージィンは静かに告げた。
「彼等は、この場所で無念の死を遂げたのです。その無念さが、彼等を死ぬことのない苦しみに捉えているのです。レム、貴方もクレリックなら、感情に囚われずに自分の成すべきことをするのです!!」
平和主義のユージィンとしても、この光景は見るに絶えられなかった。
そのユージィンの言葉に、皆同じ気持ちであったのであろう。
有るものは剣を引抜き、またあるのは魔法詠唱を開始する。
ただ、皆切ない気持ちと、悲しみだけが、皆の心を吹きぬけていった。
──そして
全てが終った。
白骨は総て砕け散り、囚われていた魂が光となって一つ、また一つと天に昇っていく。
「‥‥辛かったのね」
その光が弱々しく輝いているのを、アルシャは見逃さなかった。
そして幾つかの光が集まり、先日の少女の姿を取る。
その顔には笑みが浮かび、レム達に向かって静かに頭を下げた。
『ア・リ・ガ・ト・ウ』
言葉には出てこない。
けれど、少女の口は確かにそう動いていた。
やがて少女も光となり、天に昇っていった。
そして壁の一部に、ある真実が刻まれていた。
この村は、貴族の物語にあった村であることが記されている。
だが、この村を納めていた村長がある日狂気に陥り、次々と自分の気に入らない村人を地下に閉じこめていったのである。
冒険者ギルドなどない古い時代。
村の中の情報は外に漏れることなく、狂気に陥った村長を誰も止めることが出来ずに、この村は滅んでいった。
冒険者達は外に戻り、件の石碑が立っていたであろう場所を調べてみた。
と、そこにはマジカルミラージュの発動媒体であろう石碑がその場に残っていた。
村の噂を聞きつけた者たちが、好奇心でここにこないようにと、後にここを訪れたジプシーが残していったものらしく、それらしい記述も石碑には掘りこまれてあった。
そのジプシーも夜まで留まってはいなかったらしく、ゴーストには出会うことは無かったのであろう。
「どこの誰か判らないけれど、村を護ってくれてありがとう‥‥」
レムが静かにそう呟く。
その言葉に呼応したかのように、石碑は自らの使命を終えて砂のように散っていった。
蜃気楼に隠された廃墟は、ふたたび自然の空間に触れることが出来たのである。
●そして酒場〜貴族に報告〜
「なるほどねぇ‥‥哀しい物語だったねぇ‥‥」
瞳から涙を溢れさせながら、貴族のボンボンがそう呟く。
今回の冒険の出来事を、アルシャとレムが記した羊皮紙を元に、レムが面白く脚色を加えて物語にした。
「冒険というのは、話に聞くのと自分で行くのとでは大きく違うものです。いつか、あなた自信も冒険にでてみてはいかがでしょうか?」
ゼルスがそうボンボンに話し掛ける。
「あー。そのうちそのうち。おいらは剣も振れないし、魔法だって唱えられない。何かを調べるような技術もないし、専門的な知識もないしね‥‥あーっはっはっはっ。あるのは権力とお金だけさ」
そう笑っているボンボンを横目に、頭を傷めている冒険者達であった。
〜FIN〜