●リプレイ本文
●さて
全ては明日の為。
残された時間を、冒険者達は走りまわる。
起動した破滅の魔法陣。
それを止める術はまだない。
そして犠牲になった人々を助ける術もまた‥‥。
冒険者達は、最後まで走りつづけた。
●問い掛ける優男
きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ
ヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)の全身が輝く。
「答えよ。我の望むものは『シルバーホークの行動』」
ヴァレスはフォーノリッジを使い、シルバーホークのこれからの行動について問い掛けていた。
──キィィィィン
やがて、ヴァレスの脳裏にあるものが映っている。
それは魔法陣の中央で何かをしている『アンリエット』。
シルバーホークの姿はどこにもない。
そしてヴァレスは直感で判った。
アンリの中にシルバーホークは存在すると。
ならば、問いはもう一つ。
──きぃぃぃぃぃぃぃぃん
「答えよ。我の望むものは『ヘルメスの行動』」
──キィィィィン
その問い掛けに、ヴァレスの脳裏に写ったのは占師のような姿で何処かの屋敷の中に座っているヘルメス。
そこが誰の屋敷なのか、そこまでは断定できない。
けれど、確かにヘルメスはこのノルマンの何処かにいる。
それが判っただけでも今はいい。
なにもチャンスが無いわけではないのだから‥‥。
●走る色男
──ドドドドドドドドドッ
冒険者街をリスター・ストーム(ea6536)が駆抜ける。
その後ろでは、考古学者のロイ教授がリスターから離れないように走っていた。
「待て待て待て‥‥まったく、少しは年寄りを労らんかいっ!!」
「時間が惜しいんっだっ。とっとと教授の残した遺産から蛮ちゃんを助ける方法を探し出してくれよッ」
そう告げつつ、リスターは仲間から預かっていた鍵を使ってミハイル研究室の扉を開ける。
そして中に入ると、早速手にした羊皮紙に記されている部屋に向かい、大量の資料を漁り始めた。
──しばらくして
「ふむ。悪魔の持つ魂分離の術か‥‥」
ロイ教授がどうやらミハイル教授の残した文献の解析に成功した模様。
「なにっ!! ロイ教授、蛮ちゃんを救う方法が判ったのかよっ!!」
リスターが大量の文献の山から飛び出して教授に駆け寄る。
「う‥‥うむ‥‥今から説明するからちょっと離れんかッ!!」
真正面10cmまで近づいたリスターを押しのけつつ、ロイ教授はそう告げる。
「とっとと頼む」
「うむ‥‥と、まずは」
床にチョークで魔法陣を描くロイ。
「儀式に必要なものは魂の器、魂の封じられているオーブ、そして悪魔が一体ぢゃな。それを全て集めてきたら、ここに記されている『反魂の儀式』を行うとしよう‥‥」
「そ、それで、蛮ちゃんは助かるんだな‥‥」
そう告げると、リスターは勢いよく外に飛び出していった。
●歌う少女
がぁがぁがぁ♪〜
パリ郊外のとある草原。
アンリエットが楽しそうに歌を歌っている。
「お父さんアヒルとお母さんアヒルが♪〜」
「二人ならんで」
「がぁがぁがぁ♪〜」
そのアンリェットと一緒に歌っているのはクリス・ラインハルト(ea2004)とラテリカ・ラートベルの二人。
そして少し離れた場所で、ガブリエル・プリメーラとフェリーナ・フェタ、ハルヒ・トコシエ、そしてケイ・ロードライトの4名は、傍らでじっと座っている悪鬼と話をしていた。
「つまり、シルバーホークは転生の儀式を行なって、新たな肉体を手に入れたのですか‥‥」
そう告げつつ、ガブリエルは静かにアンリエットの方をじっと見つめる。
「ああ。今はシルバーホークの魂が休眠しているらしい。その間は、もう一つの魂であるアンリエットが表に出てきているっていうところだな。俺は、シルバーホークの護衛をしているだけだが‥‥」
頭を書きつつそう告げる悪鬼。
「今はアンリの子守なのですねっ☆」
ラテリカのその言葉に、やれやれという表情をしてみせる悪鬼。
「早いところ魂を定着させる必要があるんだが‥‥その為の儀式と碑文が見付からねぇんだ‥‥まったく」
そう告げると、悪鬼はゆっくりと立上がってアンリ達の方に歩いていく。
そしてヒョイとアンリを抱え上げると、その肩の上にのせる。
「ち、ちょっと待ってくださいっ。アンリを何処に付けていくんですかっ!!」
折角の再会を愉しみにしていたクリスが、悪鬼に喰ってかかる。
「ん、そろそろ奴が起きる時間だからナ‥‥屋敷に戻らせて貰うとするよ。アンリに会いたかったら、また朝に遊びに来たらいい。シルバーホークは眠っている筈だから、アンリが起きる‥‥」
そう告げると、悪鬼はアンリを連れて屋敷へと戻っていった。
●走る剣士
──ドドドドドドドドドッ
街道をファルコン号が駆抜ける。
「‥‥アルジャーン‥‥畜生っ!!」
無天焔威(ea0073)は江戸村に向かって走りつづけた。
頼みの綱であったアルジャーンの死体の回収も出来ず、いらだちだけが募っていた。
辛うじてエムロードのもっていた銀の剣を借りる事が出来た為、焔威は江戸村に向かっていた。
──江戸村にて
「ふぅ‥‥これでOKですね」
トールギスの鍛冶工房にて、クリエムは焔威から受け取った銀剣を普通の剣のように見えるよう手を加え改造していた。
「助かる。と、紋章剣の修理は?」
受け取った剣を腰に戻しつつ、焔威がそう問い掛ける。
「まだですね‥‥コアの部分の補修、魔法増幅の為のブラン鉱の加工、そのための特殊なスミスハンマー。マイスター・トールギスのところにある道具では、足りないものがありますから‥‥」
はぁ、と溜め息をつきつつ、クリエムがそう告げる。
「そうですか‥‥すいませんでした‥‥」
焔威の横で、薊鬼十郎(ea4004)がそう告げる。
元々は修理した紋章剣を鬼十郎に貸し出したかった焔威だが、それも無理となってしまった。
やむを得ず、二人は鍛冶工房を後にした‥‥。
──そのころの天龍
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
絶叫をあげつつ、目の前のわんドシ君に向かって拳を叩き込むのは飛天龍(eb0010)。
──キラーン
だが、その拳のタイミングを見切ると、わんドシ君は素早く天龍の足をむんずと掴む。
「いい感じだワン。さてと‥‥」
そのまま天龍をぐるぐる巻きにし、わんドシ君は天龍の顔に大量のハチミツとミルクを混ぜあわせたものを塗り付ける。
「おわわわわわわわっ、な、なにをするーーーーーーー」
──ペタペタ
「楽しいパーティーの始まりだワン」
そう告げると、わんドシ君は天龍を村外れの納屋に連れていく。
そこの中の柱に縛り上げると、そのまま扉を締める。
──ガチャッ
「わんドシ〜っ、縄をとけーーーーーーーーーっ」
──カタタッ
と、闇の向うから、大量の子猫が姿を表わす。
「しふしふー。このロープを斬ってく‥‥れ‥‥」
──ペロッ
そのまま天龍の言葉を気にせず、猫は天龍の頬をひと舐め。
「あう、ちょっとまて、俺は餌じゃ」
──ペロロッ
また別の猫がやってきて、天龍の頬を舐め上げる。
「いや‥‥だ‥‥うわぁぁぁねまて、俺は餌じゃ‥‥と、まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。そこを舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。そこは大切なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
やがて、天龍はぐったりとしてしまったとです。
合掌。
●頼み込む剣士
「‥‥どうしてもダメですか‥‥」
がっくりと肩を落としてそう呟く鬼十郎。
その正面では、ヴァレスがどうしていいかわからないような表情をしていた。
ギュンター君を助ける為の方法。
その助力を得る為に、このノートルダム大聖堂の大司教の元を訪れていたのであるが、その協力を得る事も出来なかったようである。
「皆さんが悪魔と戦い、その為の助力をというのであれば、私達教会は助力を惜しみません。先程お話のあった蛮さんの石化解除についてもです。ですが、死んだ子供の肉体に魂を移すという外法には力を貸すことは出来ませんし、その様な事のために子供の亡骸をというのはいけません。いいですか、セーラは私達に‥‥」
こののち、1時間みっちりとセーラの愛を解かれてしまった一行。
夕方、鬼十郎はあきらめないという表情で教会から立ちさって行った。
●合流した仲間
──パリ・酒場マスカレード
「がぁ?」
奥のテーブルでアンリエットが頭を捻りつつ食事をしている。
目の前には豪華な料理。
そして大勢の冒険者達と、横に座って話を聞いている悪鬼。
「だって、だってギュンター君が‥‥ギュンターくんを助けるのに‥‥」
シクシクと泣いているのは鬼十郎。
あのあと、子供の死体を探して走りまわったらしいが、どうにも発見する事が出来なかった模様。
そしてその横では、リスターがどんよりとした表情になっている。
やはり悪魔を探し出すというキーワード、そこから先に進めなくなっていたらしい。
そしてその横。
「わんドシ君オリジナル‥‥強すぎてしふしふ‥‥」
ぼーっとしている天龍。
あのあと、わんドシ君との決闘を行い、いちげきをたたきこんだ。
そしてその時にヌイグルミの頭が外れ、中から『宮村武蔵』の顔が出てきたときには驚愕した。
ミヤムゥ曰く、わんドシ君というのは『当番制』のマスコットらしい。
ノルマン江戸村や地方の腕に自信のある強者達がなかに入り、色々と訪れた人たちに娯楽を与えていたらしい。
天龍やその他、ノルマン江戸村で戦った事のあるものは、その中がミヤムゥ師匠だったり、何処かのランキング第2位だったりと、いろいろと強者が担当していた事もあるそうで。
そんな中、ミヤムゥの一言。
「大抵の冒険者が手合わせをした事のある『マスター・わんドシ君』は今は旅に出ているから。何処かの空の下にいるとおもうけれどね‥‥」
だそうで。
「‥‥このままじゃあダメなんだ‥‥けれど‥‥どうすることもできない‥‥」
リスターがテーブルにうっ潰してそう嘆く。
「前に進むしかないだろうさ。例えどれだけ時間がかかっても。俺も、ヘルメスには会えなかった。アルジャーンも助けられなかったしな‥‥」
そう呟く焔威の横に、ひとりのウェイトレスがやってきてスープの皿を置いていく。
「お待たせしましたぁ‥‥」
にっこりと笑顔のブランシュことツンデレラ。
ここの酒場でアルバイトとして拾われたらしい。
但し、頭の中には過去の記憶も思い出もなにもない。
何かが有り、全てを失ったブランシュ。
でも、今は焔威の近くにいる。
全てを1からやりなおすしかない‥‥。
そんな事を考えつつ、冒険者一行はじっと静かなランチを楽しんでいた。
神よ。
願わくば、もういちどチャンスをください。
幸せな日々がやってくる其の日が来る為に。
〜Fin