●リプレイ本文
●さて〜楽しいパーティーを始めようか〜
──酒場マスカレード
「‥‥ずっと、あのままなのか?」
椅子に座り、ずっと通りを行き交う人々を眺めているブランシュを見つめながら、無天焔威(ea0073)はそうマスターに問い掛けていた。
「ああ。ずっと‥‥だ」
「記憶は人為的なものか‥‥辛い事から心を閉ざしたのか‥‥」
無表情でそう告げているのは、自身が感情的にならないようにと無意識にしているのだろう。
「さあ‥‥な。そういうのは、エドが詳しかったんだが‥‥ただ‥‥記憶を失ったのではなく、元にもどったという可能性のほうが高いと思うが‥‥」
「どういう事だ?」
「色々と調べてみたんだが。アサシンガールっていうのは、記憶を弄られているらしい。過去の記憶を全て奪われ、新しいアサシンとしての人格が作られたっていう話だ。もしそうなら、今のブランシュは『アサシンガールになる前の少女』という可能性がある。そうなると、焔威の事も覚えていないというのもうなずけるしな‥‥」
マスターからの言葉もそれ以上はない。
そのまま焔威は静かにブランシュの元に歩いて行く。
以前渡した指輪は指にしっかりとついたまま。
大切にしていたのか、ちま人形は側に置いてある。
「‥‥もうお願いも忘れてしまった?」
そう切なげに語りかける焔威。
だが、ブランシュはじっと外を見つめている。
まるで何かを探しているかのように。
──その頃の別席
「出来れば、私の他にも大勢の冒険者の方がいらっしゃいますので、そちらの方の移送お願いしたいのですが‥‥」
アリアン・アセト(ea4919)は別の席で、運び屋のハン・フォードと打ち合わせ。
今回はあちこちと移動する為、兎に角早く確実な移動手段が必要である。
そのためにアリアンが考えたのが、ハン率いる『ファルコン号』の存在である。
このノルマンでおそらく最速とされている運び屋ならばと思い、アリアンは交渉を行なっていた。
「ああ、特に問題はないな。とりあえず停車馬で待機しているんで、用事が終ったら集るように伝えてくれ‥‥」
そう告げると、ハンは静かに其の場を後にした。
●代償は自らの魂
──ニライ宅
「騎士団の方は既に手を打っているのか?」
マクシミリアン自治区に向かう前に、ニライ査察官に魔獣兵団のほうを騎士団で何とかして欲しいと、ランディ・マクファーレン(ea1702)は直接掛け合いにやってきていた。
同じく、シン・ウィンドフェザー(ea1819)とアハメス・パミ(ea3641)もまた、騎士団との連携やニライ査察官との打ちあわせにやってきている。
「ヘルメス情報についての確認がしたいのです。酒場で何かそのような事を告げていたということをきいたので。それと騎士団との共同作戦を提案します」
それはアハメス。
「具体的には?」
「査察官の動かせる騎士団にはヴォルフ自治区を目指し、我々は地下闘技場を経由し現地で合流。
出来れば、物資の供給を要請したいのです。それと、恐らくは閉鎖されているでしょう街道の通行許可を頂きたい」
そのアハメスの言葉には、ニライは静かに肯く。
「騎士団はいつでも動けます。物資についても同様。上からは『ヴォルフ領閉鎖』の声も有りましたけれど、これが最後のチャンスでしょうからねぇ‥‥」
いまいち顔色の優れないニライが、無理に笑顔を作りつつそう告げている。
「体調が悪いのか‥‥」
「まあ、ね。ちょっと‥‥」
──ガタッ
そう告げると、ニライは其の場に崩れ堕ちる。
「ニライっ。誰かいないかっ!!」
シンの叫びに、執事が飛んでくる。
そしてそのまま執事ニライを寝室に寝かせてくると、皆のところに戻ってきた。
「大丈夫なの?」
アハメスの問いに、執事は頭を左右に振る。
「魂が奪われていますから‥‥」
「奪われた? 一体どういう事だ?」
ランディがそう問い掛けると、執事は静かに口を開く。
「これは黙っていて欲しいと言われています‥‥実は」
そう告げると、執事は離れの部屋に案内する。
そこには、一体の石像が安置されていた。
「これを取り戻す為に‥‥ヘルメスと魂の契約を行ったのです‥‥」
そう告げる執事。
そしてシンは、目の前の石像を静かに撫でる。
「こいつのおかげで、俺たち冒険者はニライ査察官との繋がりを持つ事が出来た‥‥そういう事か」
「ええ。口ではなんとでも言います。ですが、あの方は本当はやさしいのです。もっとも、この件についても恐らくは『国益優先』と告げるでしょう。冒険者のフットワークを軽くする為とでも理由を付けて‥‥」
執事はそう告げると、石像に静かに布を覆い被せる。
「なら話は早いか。ヘルメスに奪われた魂も取り戻し、全てを丸く納める」
シンはそう告げると、ツカツカと外に向かって歩きだした。
そしてランディも肯くと、そのまま外に向かって歩きだす。
そして最後に、アハメスが執事にこう告げた。
「石像になった『ギュンター君』は、私があの子を大切に思っている人に伝えておきますから‥‥」
かくして、一行は最後の攻防へと向かう事となった。
●静かな一時〜誰もいないってばっ〜
──プロスト領中央、特設会場
そこはとある結婚式場。
その真ん中で、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)はレナード・プロストと静かにお茶を飲んでいた。
「書き初め?」
「ええ。ジャパン伝来の伝統行事とか。このように‥‥」
静かにスクロールを開くと、オイフェミアはそれを縦にする。
そして借りてきた筆と墨を手に取ると、さらさらさらーーーーっと文字を描いていく。
「達筆‥‥という所ですか。これはなんと?」
「『新年だ 新年年始 断念し』と。意味はその通りで‥‥」
しょんぼりしつつ、そう告げるオイフェミア。
「奥が深いですねぇ‥‥と。さて、そろそろ片付けが始まるようですので、場所をかえましょうか‥‥」
そう告げるプロスト卿の後について、オイフェミアは静かにその場所を後にした。
●最終戦〜階段の魔物・攻防戦〜
──マクシミリアン自治区・地下闘技場エリア
ここまでの作戦は全て順調。
ニライの指示により、騎士団は旧ヴォルフ自治区に突入、最後の戦いが始まっている。
そちらに戦力を削がれた為、このマクシミリアン自治区は手薄となっていた。
そして一行は、隠された通路から地下祭壇を目指す。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
絶叫をあげつつ目前のインプを殴りとばすランディ。
さらに大量のアンデット達には、マスター・オズとシン、マスター・メイスの『ワルプルギスの剣士達』が切り込んでいく。
──ブゥゥゥゥン
激しい音を放ちつつ、次々とアンデット達を撃破していくシン。
「かなり馴染んだようぢゃな」
「マスター。ありがとうございます」
そう丁寧に頭を下げると、さらに奥から姿を現わしたアンデット達を次々と撃破。
そしていよいよ最後の回廊を突破すると、目的地である『地下祭壇の間』にたどり着く。
──キィィィィン
「セーラよ。彼の者たちに加護を与えたまえ‥‥」
アリアンが仲間たちに祝福を唱える。
さらにシンはヘキサグラムタリズマンに祈りを込める。
──カチャッ‥‥ヴゥゥゥン
「生まれ変わった運命剣。今度こそ俺の運命を切り開いてくれっ!!」
そう叫びつつ、焔威も紋章剣改を握り締める。
クリエムの手によって生まれ変わった銀の剣。
その名も『絶対運命両断剣ディスティニーブレード』。
なんて恥ずかしい名前と思うが、クリエムの命名なのでやむなし。
アハメスも借りてきたトールギスの5振りの聖劍『パワーショーティル』を手に構え、静かに深呼吸開始。
「オーラと共に‥‥あらん事をっ!!」
──ヴゥゥゥン
ランディも其の手に握っている『白虎の紋章剣』にオーラを注ぐ。
基礎が出来ていたランディにとって、そこまでは簡単であったが、そこから先の安定が難しかったらしい。
それでも、ここに至るまでにある程度の制御が出来るようになっていたのは流石という所であろう。
目の前の祭壇。
その周囲は白く輝いている。
それは大量の魂。
そしてその中心に、ヘルメスは静かに立っていた。
「あら。冒険者ね。こんなところに何をしにやってきたのかしら?」
ニィッと笑みを浮かべつつ、そう告げるヘルメス。
「全てを終らせる為に‥‥」
白虎を構えつつ、ランディがそう告げる。
「運命を切り開く為に‥‥」
ディスティニーブレードを構えつつ、そう呟く焔威。
「流れる涙を止める為に‥‥」
両手の紋章剣を同時に解放するシン。
「あの子達の未来を切り開く為に‥‥」
──ガチィィィン
両手のパワーショーティルを打ち鳴らすアハメス。
「セーラの導き。そして悪魔は闇に‥‥」
印を組みつつそう告げるアリアン。
「面白いわ。掛かっていらっしゃい」
手近に置いてあった魂を呑み込むと、ヘルメスは元の『アリオーシュ』へと姿を変貌させる。
その手には巨大な大剣と楯。
翼を広げ、冒険者一行に向かって剣を振るった。
●そして‥‥
「セーラよ‥‥彼の者に今一度力を与えたまえ‥‥」
ノートルダム大聖堂に大司教の祈りの声が響きわたる。
やがて、目の前の棺に横たわっていたシンとランディ、アリアンがゆっくりと意識を取り戻した。
最後の戦い。
それはいままでにないし烈なものであった。
全てをぶつける冒険者達に対して、アリオーシュもその全てを解放した。
その結果、ランディとシン、そしてアリアンは絶命。焔威は両腕を失い、アハメスは五感を全て失った。
それでもアリオーシュをこの世界から放逐することに成功した一行は、大聖堂にて全ての傷を癒していた。
騎士団の報告では、ヴォルフ自治区にてオーグラの王を仕留めたという報告もあり、全ては終った。
取り戻した魂はやがて主の元へと戻るであろう。
命を失った大勢の人々も、大司教の加護により少しずつではあるが命を取り戻すであろう。
だが、それでも失ってしまったものは大きい。
エムロードは甦生できなかった。
ブランシュは記憶の全てを失ったまま。
それでも、まだ未来はある。
「それじゃあ帰るとするか‥‥」
シンが一行にそう告げる。
そして皆が肯き、パリへと向かう。
いまだ破滅の魔法陣は起動したまま。
平和を取り戻していないパリには、まだ冒険者の力は必要なのであろう。
〜Fin
‥‥‥
‥‥
‥
「本当に俺のこと忘れているのか?」
バリに戻った焔威は、マスカレードにいたブランシュにそう問い掛ける。
ブランシュは光る球を手に、静かに肯く。
「判らない‥‥」
「本当に?」
「判らない‥‥」
「俺だよ?」
「判らないわ‥‥貴方は誰?」
無表情でそう告げるプランシュ。
「ふぅ‥‥もうダメか‥‥」
やれやれと思い、焔威が腰を上げる。
──グイ
と、その服の裾をブランシュが掴む。
その瞳から涙が溢れていた。
「いかないで‥‥ここにいてほしい。貴方が誰か判らないけれど‥‥心の中でそう告げているの‥‥お願い‥‥」
そのあと、言葉にはならない声が、こうつげていた。
ほーちゃん‥‥。