●リプレイ本文
●さて、それではこの奇妙な物語の顛末を語ろうか‥‥
──パリ‥‥シャルトル地方・プロスト領
静かな一室。
そこには、6人の貴族達が集まり、目の前の大量の羊皮紙をじっと眺めていた。
「随分と少ないですなぁ‥‥」
「これが、今回の『輝けお嬢様ナンバー1』の申込書ですか?」
「そのようですなぁ‥‥しかし、まあ、有名所の貴族の子女とかの申し込みがありませんか‥‥」
「それはどうしてでしょうかねぇ‥‥」
そんな会話が延々と続いている。
「はっはっはっ。貴族の子女の申し込みがないのは当然でしょうねぇ。何処の貴族の娘さんも、自分がNo1と信じて疑わない。もしくはその逆で、自分がNo1だなんて思っていないかのどちらかです。そんなことなので、申し込みが少ないのは当たり前でしょうねぇ‥‥」
そう笑いつつ呟いているのはレナード・プロスト卿。
「ふむ。成る程ねぇ‥‥」
そうプロストの言葉に肯きつつ、目の前の書類を手にとってじっと眺めているのは、シャルトル地方北方・プロスト領に隣接する『ヨグ領』の領主『ヨグ・ソトース卿』。
「また、それにしても申し込みが冒険者だけとは‥‥片腹痛いですな」
「それもまた一つの真実。ヨグ卿、まずは全ての書類に目を」
そうプロスト卿に促され、ヨグ卿も静かに書類選考を始めた。
●そしてパーティー〜こんな料理が食えるかっ!!〜
──プロスト城特設パーティー会場
「これがプロスト城なのかぁ‥‥」
ぐるりと城内を見渡し、そしてパーティー会場を見上げつつそう呟いているのはハーリー・エンジュ(ea8117)。
静かにパタパタと飛び回りつつ、建物の中を探索している模様。
「あら、そっちにいくと怒られるわよ‥‥控え室はこっちよ‥‥」
そう頭上を飛んでいこうとするハーリーに話し掛けているのはリリー・ストーム(ea9927)。
その横では、リマ・ミューシア(eb3746)とジャネット・モーガン(eb7804)の二人が、プロスト城で働いているメイドに案内されて控え室へ‥‥。
「まあ、いつもの調子で頑張るしかないわ‥‥」
そう自分に言い聞かせているリマとは対象的に、ジャネットは威風堂々と歩いている。
「ホーーーーーーーーーーッホッホッホッ。まったく。どう考えてもナンセンスですわ。私がお嬢様No1なのに‥‥ああ、成る程。この場で私を紹介してもらい、世間に対しての認知度を高めるというのが、今回のパーティーの種子なのですわね‥‥」
そんな高笑いを上げつつ、4名は静かにそれぞれの控え室に向かうと、そのまま着替えてじっと待っていた。
──そのころの不幸な人
「‥‥これぐらいでいいでしょうか?」
静かにそう『メイク担当』のメイドに問い掛けているのはリディエール・アンティロープ(eb5977)。
「え、ええ‥‥どこからどう見ても立派な『お嬢様』ですわ‥‥」
そう告げつつ、リディエールに静かに立つように告げるメイド。
そしてリディエールはそっと立上がると、そのままクルリと一回転。
──フワッ!!
スカートがふわっと舞い上がり、そして静かに下がっていく。
「結構‥‥スースーするのですね」
「えっ‥‥ええ‥‥そうですわね‥‥では、女性としての身の振り方を教えますから‥‥」
そう告げつつ、リディエールに女性に対しての知識を植え込んでいくメイド。
しかし、リディエールは不幸である。
このパーティーの話を聞きつけ、プロスト卿を始めとした貴族達との繋がりを付けようとしたのであるが、パーティー自体は招待状がなくては駄目。
そのため、リディエールは『参加者』として申し込み、この場に居合わせてしまっているようである。
「はぁ‥‥これでプロスト卿と御近づきに成ることができるのでしょうか‥‥」
窓辺で溜め息を付きつつ、遠くの空を眺めているリディエールでしたとさ。
チャンチャン♪〜
●そしてパーティーは動き出す・第一審査
──パーティー会場
「それではっ。これより『ノルマンお嬢様No1決定戦』を開始しますっ」
声高らかにそう叫ぶプロスト卿。
そして会場全体から割れんばかりの拍手が起こった。
まずは踊りと歌、そしてドレスアップの同時審査である。
「それではっ。エントリーNo1番っ!!」
その掛け声と同時に、ハーリーが舞台に踊りでる。
「ハーリー・エンジュです。それではさっそく‥‥」
そう挨拶をすると、ハーリーは自慢の美声と踊りを披露。華麗に枚、それにあわせて歌を奏でる。
「おおー。彼の者は騎士〜。その姿は正に多しく、そして静かに‥‥」
会場全体に響くような力強い声。
そしてそれに合わせた華麗なる舞。
いつしか会場は、ハーリーに釘づけになっていた。
「続いてエントリーナンバー2番っ」
その呼び出しに合わせて姿を表わしたのは、もう、露出ギリギリのリリー・ストーム。
「リリーです。よ・ろ・し・くっ☆」
艶めかしい動きでそう呟くと、リリーはゆっくりと腰をくねらせ腕を怪しく動かしつつ躍る。
拙い踊りであるが、時折見せる扇情的な表情とエロエロの歌で、会場の男性の視線を一気に釘付けにした。
「次はエントリーナンバー3番っ!!」
その声に合わせて、リマが舞台に上がる。
「リマ・ミューシアよ。宜しく御願いします」
そう告げると、リマは手にした羽ペンを剣に見立て、ゆっくりと舞衣を始める。
ある時はその羽根を剣に見立て勇者を演じ、またある時はそれを花束に見立てて巫女を演じる。
それはビザンチンの故郷の村に伝わる剣士と巫女の勇者の物語。
記述は拙いものの、心の底から二人を演じるその動きに、会場は静かに沈黙していった。
「続いてエントリーナンバー4番っ」
その直後、おずおずと舞台に立つリディエール。
「よ‥‥よろしく御願いします‥‥」
そう告げると、リディエールは静かに歌を歌いはじめる。
それほど美味い歌ではない。
踊りもなく、其の場で腕を振り時折歩き、一人の人物を演じているかのように、ただひたすら歌いつづける。
その必死な姿と熱意が、会場の貴族達に伝わっていった。
「最後にエントリーナンバー5番っ!!」
その声と同時にジャネットが舞台に出る。
「オーーーーーーーーーッホッホッホッホッホ。それでは参りますわよっ!! この私の華麗なる舞を特とご覧あれっ!!」
そう会場の隅々に響くような声で叫ぶと、ジャネットは‥‥踊り‥‥いや、‥‥躍っているらしい‥‥。
というのも、ただ腕を上げてふらふらと‥‥。
まるで、墓場を徘徊するズゥンビの如く、奇妙な踊りを舞いつづけた。
●そして頭も動き出す・第二審査
──別室
まず踊りの審査が終った時点で、5名は別の部屋に連れていかれた。
そこに座らされると、プロスト卿が作った学力試験の問題の書かれたスクロールが各員に手渡される。
「教会の鐘が鳴ったら試験は終了です。それでは始めッ!!」
その掛け声と同時に、全員がスクロールを広げる。
「えーーっと‥‥パリから離れているこの人の領地での特産品は‥‥えーっと‥‥」
必死に頭を捻るハーリー。
「貴族としての嗜みは‥‥まずは礼節と‥‥ふんふん、思ったよりも‥‥引っ掛け問題が多いわね‥‥と、こっちは‥‥社交界の‥‥と‥‥」
それなりに頭を捻りつつ答案を埋めていくリリー。
騎士というのは伊達じゃない!!
「まいりましたわ‥‥植物の部分しか判らないわ‥‥」
頭を押さえつつ、リマが解答を断念。
まさか総合試験とは思いも寄らなかった模様。
「‥‥」
その横では、ただ黙々と解答を埋めていくリディエールの姿があった。
(社交界についてはまだ判りませんが、一般的なものでしたら‥‥ふむ、ここでポイントを稼ぎますか)
恐るべしウィザード。
「‥‥『このノルマンでもっとも尊き者は』‥‥ホッホッ。『それは私』と‥‥『伝説に唄われる○○○○は、このノルマンで最も有名な‥‥』‥‥ホホッ。これも『この高貴なる私』ですわっ!!」
実に個性的な解答を埋めていくジャネット。
ここであえて断言しよう。
彼女は冷やかしではない。
この解答こそ、彼女にとっての真実であり、これがその全てなのであるっ!!
●そして技術も動き出す・得意技披露
──そして舞台へ
最後の試験は得意技。
「しふしふ〜♪ パリに花咲く一輪の赤い薔薇、
この火の玉ハーリーの華麗なる空中の舞い、とくとご覧あれ〜」
そう叫ぶと、ハーリーは先程とは打って変わった情熱的な踊りを披露!!
「それでは。ここに大きな布があります。今から鳩を出しますね〜」
そう叫んでいるのはリリー。
兄であるエロインジャーから教わった手品を披露であるが、どうも胸許がぴくぴくと動いている。
やがてその動きが微妙に変化し、ピクッ‥‥ピクッ‥‥と痙攣のように見えていく。
「3・2・1・はいっ!」
そう叫んで布を開ける。
──ボトッ
と、そのタイミングで、リリーの胸許から窒息した鳩が落ちる。
「‥‥」
「‥‥」
会場とリリー、同時に沈黙する中、リリーはスカートの中からメイスを取り出し、照れ隠しの『超常スマッシュ!!』で机を叩き潰すと、可愛く『テヘッ!』と笑う。
力任せの反則技の模様。
次にリマが見せたのはこれまた手品。
インビジブルの魔法を駆使した瞬間移動の魔法である。
そのタイミングといい、錯覚を利用したトリックといい、じつに見事な手品である。
「これで私の手品は終了でーすっ!!」
その途端、リマに対して会場全体が拍手喝采!!
恐るべし、シンプルイズベスト。
「私はハーブについての御話を‥‥」
今までとは打って変わって、リディエールはハーブについての講習会を開始。
どうやら興味のない男性には不評であるが、その連れである女性がリディエールに対して熱い視線を送っているので、これもやむなし。
「それではっ。わたしの得意技を特とご覧アレ。ッ」
そう叫ぶジャネットは、舞台のど真ん中に仁王立ちになり、そして叫ぶ。
──ホーーーーーーーーーーーーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ
会場全体に響く高笑い。
「この私こそ史上最高の切り札。神が与えし美の極致。私そのものが切り札であり、そしてこの私の笑いこそが得意技。それではもう一度ご覧あ‥‥」
ここでジャネットは強制退場。
●そして審査結果
──パーティー会場
会場に作られた椅子に全員が座らされる。
そしてその横で、プロスト卿が静かに手元の羊皮紙を読み上げる。
「それではっ。今年度のノルマンお嬢様ナンバー1はっ!!」
その掛け声の直後、ジャネットが立上がる。
「この私‥‥ジャネットこそが‥‥あ、あらーーーー」
またしても自警団によって強制退場されるジャネット。
ある意味美味しいわ、あんた。
「ハーリー・エンジュ。貴方こそ、今年度のノルマンお嬢様伝説ナンバー1っ!!」
その声と同時に、ハーリーが飛び上がるように喜ぶ。
「あ、あたいがナンバーわんっ!! やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
身体全体で喜びを表現するハーリー。
そして静かにパーティーは続いた。
ダンスパーティー、そして立食と、愉しい時間はしばし続いた。
ハーリーには『プロスト領での滞在費免除』という実に凄い副賞もあたえられたという。
──そしてとあるベランダで
「ふぅ‥‥とりあえずは顔も覚えて貰ったことだし‥‥」
夜風に当たりつつ、リディエールは静かにそう呟く。
「あの‥‥ご一緒して宜しいですか?」
そう話し掛けてきたのはショートカット金髪美形の貴族。
「え、ええ‥‥どうぞ‥‥」
そう告げるリディエールの横に立つと、その貴族は静かに口を開く。
「最高の夜です。お嬢様に選ばれなくて残念でしたね‥‥」
「ええ‥‥」
そう告げる貴族に対して、リディエールはただ肯くしか無かった。
「ですが、私にとっては貴方が最高のお嬢様。この私と目くるめく一夜を‥‥」
「え?」
一瞬何を言われたのか理解できなかったリディエール。
だが、その直後の行動で、意識がぶっとんだ。
──ブッチューーーーーーーーーーーーツ
激しいキス。
そしてその直後、たくましいその貴族の胸に抱しめられる。
(えっ‥‥ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!)
心の中の動揺が隠せないリディエール。
その耳元で、貴族はさらに止めの一言。
「僕と結婚してください‥‥」
(けっ‥‥結婚‥‥この私がこの男性と‥‥でも、私には‥‥いやまて、おちつけ私。‥‥そう落ち着いてください私の心‥‥)
必死に冷静になりつつあるリディエール。
そしてこのあとどうなったかというと。
二人の結末は、月の精霊のみぞ知る‥‥
ちゃんちゃん♪〜
〜Fin