俺のケツを舐めろ!!

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:15〜21lv

難易度:難しい

成功報酬:11 G 8 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月29日〜10月08日

リプレイ公開日:2006年10月10日

●オープニング

──事件の冒頭
 それは静かな草原。
 とある自治区・とある訓練施設にて。

「貴様らは人間ではない。
アンデットのクソをかき集めた値打ちしかない!
貴様らは厳しい俺を嫌う。
だが憎めば、それだけ学ぶ。
俺は厳しいが公平だ 差別は許さん。
糞ファイター、豚クレリック、蛆マジックユーザーを、俺は見下さん。
すべてっ、
平等に価値がないっ!!」

 いつものように、部隊長であり教官である『ハートマン・リーアメイ』が、訓練生として送られてきた新米冒険者に対して激しいまでに叫びまくっている。
 その鬼っぷりに、夜中に逃げ出す冒険者もいるらしいが、中には根性でしがみついている奴も存在する。
 だが、そんな奴等にも、ハートマン教官は容赦しない。
 
 無駄口をタレようものならば
「クビをナイフで切り落としてクソ流し込むぞっ!」

 普通に教官を呼び止めようものなら
「口でクソたれる前と後に、必ず『サー』と言え!! 分かったかこのウジ虫どもっ!!」

 とまあ、終始こんな感じである。
 そんな訓練施設にも、いよいよ最終試験のときが来た。
「いいかこの糞野郎共。来週からの演習は、貴様達肥えた豚にとって最後の仕事だ。特別にベテラン冒険者に貴様達の子守りを頼むことにした。豚は豚らしく、最後の抵抗をして見せろ」
 拳を握り締めて激しく叫ぶハートマン教官。
「来週は生きても地獄、死んでも地獄。糞以下のお前たちに安住の時はない。寝る前も、飯を喰うときも、クソする時も、常にお前たち豚は狼に襲われる。そのことを 覚悟しておけ。判ったなこの蛆虫野郎!!」
 それだけを告げると、ハートマン軍曹は静かに立ち去る。

 残された者たちは、自分達が最後の試験である『卒業試験』の為に、生き残る準備をした‥‥。

●今回の参加者

 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea4004 薊 鬼十郎(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb0206 ラーバルト・バトルハンマー(21歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

小 丹(eb2235

●リプレイ本文

●辺境自治区にて
 ──辺境自治区・中央・冒険者養成施設
「今回は依頼を受けて頂き感謝の極みであるっ!! あの児戯にも等しい程の腕しかもっていない奴等の仕上げとしてはもったいないメンバー、とにかくあの糞蟲共を鍛え上げて欲しいっ!!」
 冒険者養成施設では、あの鬼教官のハートマンが冒険者達を歓迎していた。
「盛大な歓迎、ありがとうございます‥‥俺はリョウ・アスカ、よろしく御願いします」
 丁寧にそうハートマンに挨拶を返すのはリョウ・アスカ(ea6561)。
 そしてそのリョウの言葉に、ウリエル・セグンド(ea1662)、薊鬼十郎(ea4004)、シクル・ザーン(ea2350)、ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)が頭を下げて自己紹介をしていく。
「これはご丁寧に。と、それではさっそく現地についての説明をする事にしよう。まずはこちらに‥‥」
 そう告げつつ、冒険者一同を別の小屋へと案内するハートマン。
 その言葉に一行は荷物を手に小屋に入ったが、そこで鬼十郎は室内にいた人物を見て硬直した。
「ん‥‥ああ、アンタたちが冒険者か‥‥」
 欠伸をしつつ、椅子に腰掛けたままそう呟く巨漢。
「ふむ、悪鬼殿は冒険者の方とは面識があったのか。なら話は早い。今回の我々の卒業生の戦闘訓練、実はこの悪鬼殿に依頼をしていたのだ」
 そう呟くハートマンに、他の冒険者は静かに肯くが、鬼十郎だけは疑いの目で見ている。
「ここの施設にも貴方が関っているということは、卒業生ってひょっとして『アサシンガール』なのですか?」
 その問いに、他の仲間たちも一斉に悪鬼を見る。
「阿呆が。ここでの訓練は我が主、シルバーホークとは一切関係が無い。俺もまた、ハートマンに依頼を受けて教官をしていただけだ。それとも、今回の依頼はキャンセルするのかね? 『シルバーホークの関係者が関っていたので依頼をキャンセルする』と、あのギルドマスターに伝えるのかね?」
 クックックッと笑いつつそう呟く悪鬼。
「事の顛末、俺にはよく判らんが。其の程度の理由で依頼をキャンセルする筈がないっ」
「そうだな。ラーバルトの言うとおりだ」
 ラーバルトに続いてアスカがそう告げる。
「ここに居る冒険者は、皆それぞれ覚悟を決めてやってきていた。そんな『下らない』理由でおめおめとパリに戻る筈がない‥‥そうだろう?」
 アスカが他の仲間にそう問い掛けると、皆静かに肯く。
──パンパンパンパン
「グレイトだ。御前ら気に入ったよ。もし暇が出来たら俺の所にこい、戦闘訓練でもなんでもつけてやるよ‥‥」
 手を叩きつつ、悪鬼がそう告げて其の場は収まった。
 そしてテーブルにハートマンが着くと、冒険者達に地図を見せて、現在の状況を説明していった。


●そして実践〜敵はアサシンガール以上〜
──とある森の中
 小屋で教えられた地図を頼りに、一行は静かに森へと入ってくる。
 先頭にはラーバルトとリョウ、中堅に鬼十郎とシクル、そして殿をウリエルが務めていた。

 深い森の中。
 道といえるものはなく、ただ獣道のようなところが存在していた。
 そこをゆっくりと進む一行。
──ガスガスッ
 草むらに巧妙に隠されたトラップをあっさりと見破っていくと、ラーバルトは後方のメンバーに注意を促す。
 鬼十郎は周囲を見渡し、いつでも奇襲に対して迎撃が出来るようにスタンバイ。
 その横ではシクルが鬼十郎の声かけを待ちつつ、やはり周囲を見渡す。

──シュンッ!!
 と、突然前方からクォーラルが飛んでくる。
──ガギィィィン
 手にしたライトシールドでそれを弾くと、リョウは前方の木の上を指差す。
「飛んできた角度から、おそらくはあの辺りだな‥‥」
 そう告げたとき、ラーバルトが一気にダッシュ、そのまま前方の大木目掛けて『バーストアタック』を叩き込む!!
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォッ
 一撃で木が揺れ、上から一人の男が落下してくる。
「‥‥チッ‥‥」
 そう舌打ちをすると、男はそのままナイフを引き抜く。
 銀色に輝く刃に、緑色の異様な液体が塗り付けられていた。
「ここから先はいかせないぜっ!!」
 そう呟くと、そのまま前方のラーハルトの脇をスルリと掻い潜って、その後ろのリョウに向かってナイフを突き刺していく。
──シュンッ
 素早い一撃。
 その一撃をリョウは難無く楯で受止めると、そのまま楯を相手にぶつけ、力押しのパワーチャージを叩き込む!!
「これで‥‥どうだ?」
──ドゴォッ
 そのリョウの一撃で男は後ろに下がる。
 と、その後ろから二人の戦士が剣を片手に間合を詰めてくる!!
──ヒュンッ!! ガギィィィィィン
 その激しい一撃を、ラーバルトはハンマーの柄で受止め、そのまま力任せに相手を後ろに押し付ける!!
「そつのないいい攻撃だな。まさに『教本通り』の攻撃スタイルだ」
 納得し満足しつつ、ラーバルトはそう呟きながらハンマーで攻撃を仕掛ける。
──ドゴォッ
 その攻撃を紙一重で躱わすと、男はカウンターでラーバルトの首を狙ってくる!!
──シュンッ
 ざっくりとはいかないまでも、ラーバルトの首筋にうっすらと血が滲む。
「いい腕だ。だが、惜しい!!」
 そのままハンマーを空高く構えたとき、その横からリョウが踊り出る。
「いいタイミング、ラーバルトのおっさん!!」
 そのリョウの言葉にニャッと笑みを浮かべるラーバルト。
 そして後ろから飛び出したてリョウの攻撃を必死に受けつづける男。
 だが、すでに男は交代を余儀なくされている。

──一方
 シュュュュュュュュュッ
 しなやかに伸びた腕をふるい、広範囲のスマッシュを打ち込んでくるシクル。
 ミミクリーによってシクルの戦闘範囲は幾分伸びている。
 その間合を詰める事が出来ず、別の剣士はシクルと一進一退。
「シクルさん、危ないッ!!」
 その横の草むらから、軽装の戦士が飛び出してくると、今度は鬼十郎が軽装戦士の前に出る。
「なんだ女かよっ!!」
 ニィッと笑いつつ、軽装戦士は鬼十郎に向かって斬りかかった!!
──シュンッ
 刃が風を切る。
 軽装戦士の放った攻撃を難無く躱わすと、鬼十郎は右手で小太刀の柄を握った!!
──チン‥‥
 鈍い金属音だけが響く。
 目に見えない攻撃により、軽装戦士の右肩口から大量の血が吹き出す!!
 目の前で苦しんでいる男を、しかめッ面で見つめつつ、鬼十郎はこう呟いた。
「戦いに感情は不要。ただ斬るだけのモノになれ。目の前に立塞がるモノをただ斬れ。モノがモノを斬る、ただそれだけの事‥‥」
 瞳を捕捉し、じっと目の前の男を見つめる。
──ドクン‥‥
 何かが鬼十郎の中で目覚める。
 今まで眠っていた何か。
 剣の如く、研ぎ澄まされた刃の如く。
 鬼十郎の心に、昔の感覚が呼び覚まされる。
「こっ‥‥この女ぁぁぁ。ひんむいてやるぜっ!!」
 痛みを堪えつつ、軽装戦士はそう叫ぶ。
 だが、鬼十郎の耳には届いていない。
 目の前の何かがさえずり、そして切りかかってきただけのこと。

──ならばどうする?

 何かの問い。
 そして鬼十郎は躊躇なく、目の前の男の肩口に向かってカウンターを叩き込んだ!!

──ザシュッ
「うっ!! うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 絶叫をあげる男だが、鬼十郎はさらに突き刺さった小太刀を肩に向かってねじ込む。

──そうだ‥‥それでいい‥‥
 口許に笑みを浮かべつつ、鬼十郎は何かを呟く。
「‥‥これは‥‥奪う強さ‥‥私の求めているものじゃない‥‥」
 そう呟くが、心の中に目覚めた『殺人衝動』は押さえられなかった‥‥。


──その後方
「‥‥後ろから‥‥右‥‥右前‥‥」
 じっと脚を止めつつも、視線は周囲を走るウリエル。
 敵は近くの茂みに隠れ、その木々を自在に移ってフェイントを仕掛けてくる。
──シュンッ!!
 その木の影から投げナイフが飛んでくる。
「前方左‥‥から‥‥」
 それを難無く躱わすが、その瞬間、後ろから何かが刀を腰溜めに構えて突進してきた!!
「それは囮だっ!!」
 その叫びに素早く反応するウリエル。
 だが、その囮が実は本命である事を察したウリエルは、後方から来た男の攻撃を身体の戦をずらす事で躱わし、肘でその刀を足元に叩き落とすと、さらに左前に向かって『聖劍アルマス』を投げ飛ばす!!
──ザシュッ
 それが木に突き刺さったとき、その影から別の戦士がショートソードを手に襲いかかってきた。
「武器を捨てるとは‥‥愚かな‥‥」
 そのまま一気に間合をつめてきたときも、ウリエルは常に冷静。
「愚か‥‥か‥‥それは」
──ドゴッ
 足元に落ちていた剣を脚の甲と爪先で跳ねあげると、それを素早くキャッチ。
 目の前の男の喉笛目掛けて一気に突き出す!!
──チクっ
 咽に何かが突き刺さる感触を確認し、男は脚を止める。
「地の利は君達にあった‥‥にも関らず‥‥連携も今ひとつ‥‥その程度では‥‥」
 そう呟くウリエルに、男はなにも言い返せなかった。


──さらに場所は正面に戻る
「しかし‥‥そろそろ疲れてこないか?」
 巨大なハンマーを振回し、目の前の戦士のツーハンドロングソードを受け流すラーバルト。
──ガギィィィィィン
「ここでとまる訳にはいかないんだ‥‥ここでっ」
 そう叫びつつ、突然ラーバルトに体当たり。
──ドゴッ
 だが、ラーバルトはそれを身体で受け止めると、そのまま左腕で男を弾き飛ばす。
──ダンっ
 草むらに崩れる男。
 そしてその頭上にラーバルトの放ったハンマーが振りおろされたとき、男は素早く身を捻る。
 そしてどこからともなく口笛が鳴り響いたとき、全員が森の中へと撤退していった。
「逃がしたか‥‥」
 舌打ちするリョウに対して、全員が追跡のタイミングを取る。
 だが、すでに夜の帳が下りはじめていた。
「この村に関しては、彼等の方が詳しいだろう。無理はしないほうがいい」
 そのラーバルトの言葉に肯くと、皆、一時撤退した。


●夜の小屋
──辺境自治区外縁
 静かな夜。
 撤退していった生徒たち。
 だが冒険者達は、どうも何か腑に落ちない感覚になっていた。
 そのため食事をとっとと終えると、皆が小屋で話し合いを始めている。
「あの程度の冒険者なら、パリでゴロゴロしている‥‥何かがおかしい」
 そのリョウの言葉に、皆が肯く。
「俺の相手もそうだったな。ただ闇雲に剣を振回してくる。正に児戯そのものだ」
 ラーバルトがそう告げると、シクルもまた自分の相手の説明を始める。
「中長距離での私の攻撃にも、必死についてくるだけでした‥‥なにか腑に落ちません」
「そうだな。俺の相手もそうだ。剣の軌跡も見極めず、無駄に動いていた‥‥鬼十郎の相手はどうだった?」
 リョウの話し掛けに、鬼十郎も重い口を開く。
「えーっと‥‥うまくフェイントを遣い切れていないし、でも本気で掛かってきていたような‥‥あの程度の腕なら、そのハートマン教官の教えって、あまり‥‥」
 そう告げたとき、鬼十郎はふと悪鬼を思い出した。
「‥‥あれでもまだ本気でない可能性もある‥‥悪鬼が、あんな程度の戦闘技術を教えているとは思えないわ。何か裏があるに決まっています!!」
「だとすると、今回の襲撃は俺達の腕を見る為のもの?」
 鬼十郎のあとに続いて、腕を組んだままリョウがそう呟く。
 と、その横で、ウリエルもその意見に肯いていた。
「俺の相手は‥‥トリッキーな奴だったが‥‥でも脅威ではない‥‥もしあれが、こっちの動きをみていたのなら‥‥」
 そう呟いた時、鬼十郎が皆に声を潜めるように告げる。
──バキッ
 小枝を踏みしめる音。
「お客さんかよ‥‥やれやれ、そろそろ疲れたから眠らせて欲しいんだがな‥‥」
 リョウがそう告げて武器を構える。
 その動きに合わせて、皆がエモノを持ったとき、それは突然起こった。
──バキバキバキバキッ!!
 扉が外から破壊され、その背後から昼間戦った軽装戦士達が飛び込んでくる。

「気を付けろ。この動き、昼間とは比較にならないっ!!」
 リョウがそう叫ぶや否や、彼の目の前の戦士の姿が消える。
──ブシューーーーーーーーーーーーーーーーーッ
 そして突然、リョウの腹部に激痛が走り、大量の血が吹き出した。
「なんだ‥‥今の攻撃‥‥は‥‥」
 肩膝をついてそう叫ぶリョウ。
「アンタの動きは昼間見させてもらったからな‥‥相手の死角を付く、相手の癖を見極める‥‥悪鬼教官が教えてくれた攻撃方法の一つだ‥‥」
 そう告げると、戦士はリョウの周囲を素早く動くと、再び剣で斬りかかった!!

──ガギィィィィィッ
 剣戟の音が響く。
 ノルマン、いや『世界最強のファィター』の二つ名を持つリョウでも、このタイプの相手との戦いは実に久しぶりであろう。
「‥‥少々実戦を離れていたから‥‥腕が鈍ったか‥‥ならちょうどいい‥‥」
 リョウの視線が鋭くなる。
 エモノを求める視線に、少しずつ変化していった。
 

 一方、ラーバルトは軽快なフットワークで翻弄してくる軽装戦士と派手にやり合っていた。
「こっ‥‥この小屋ではハンマーが使えないッ!!」
 止むを得ずラーバルトが拳を握り締め、戦士と殴りあう。
「‥‥こんな小屋では大型の武器は使えないだろう? 昼間見て、あんたの武器が一番危険だったからな‥‥それを封じさせて貰ったよっ‥‥」
 血走った瞳と荒い鼻息、憤怒の表情を見せて戦士が殴りかかる。
──ドゴォッ
 その一撃をとりあえず躱わすラーバルト。
 だが、小刻みなフェイントでラーバルトを翻弄すると、そのまま殴りかえされる暇を与えず、戦士はラーバルトに拳を叩き込んでいく。

「まだ‥‥戦うのですかっ!!」
 小太刀を構えた鬼十郎がそう叫ぶが、男はなにも告げない。
──シュンッ
 一撃目はフェイント。
 弐撃目はまさに本気で切りかかる戦士。
 それをどうにか躱わし、カウンターで戦士を切り付ける鬼十郎だが、今一歩歩幅が合わず。
──ザシューーーーーッ
 逆に、鬼十郎の首筋に薄い傷が付けられた。
 そこから血がにじみ出し、周囲の皆を驚かせている。
「この動き‥‥昼間とは大違い‥‥どうして?」
「ああ、アンタの噂は聞いているよ‥‥たしか‥‥」
 鬼十郎に対してそう呟く戦士の姿が、見る見るうちに異形のものに変化していった。

 それは一匹のオーガ。

「し、神聖騎士っ。それもタロンの‥‥」
「ああ。まあね。と、あんたが鬼十郎だろう? オーガ好きの変わった剣士さん。この姿の俺を切れるかい? 切れる筈ないだろう‥‥」
 そう呟きながら、偽オーガは鬼十郎を切り刻んでいく。
「こ‥‥そんな外見だけのオーガ如きっ‥‥」
 体勢を取り戻して小太刀を構える鬼十郎。
 だが、偽オーガはにやっと笑った後、直に子供のような笑みを浮かべる。
──ビクッ
 鬼十郎の身体がそれに反応する。
 頭では理解していても、鬼十郎にはオーガは切れない。
「卑怯だわっ!!」
「ひきょうちがう‥‥ずのうせん‥‥」
 カタコトでそう呟く偽オーガに、鬼十郎は不意にこう呟いていた。
「助けて‥‥ギュンター君‥‥」

 その鬼十郎の呟きがあった時、ウリエルもまた必死に敵のトリッキーな動きを受け流しつつも反応する。
「昼間の動きが本当ではない‥‥こっちが本当‥‥なら、彼等の『卒業試験』はこれから始まり‥‥」
 そう呟くウリエル。
 そのままリョウも反撃に出るが、敵が室内のランタンを破壊した為、視界が極めて悪くなってしまった。
 そしてそんな中でも、敵の動きに衰えはない。
 ラーバルトもまた傷つき崩れ、リョウもまた身動きが取れなくなっている。
 シクルは部屋の隅に追込まれてスタンアタックを受けて気絶、ウリエルもまた大量の血を流して床に崩れた。
 そして鬼十郎。
 なにも為す術がなく、ただ外見がオーガというだけで何も出来ない。

「あ‥‥みんな‥‥どうしてこんな事に‥‥」
 動揺する鬼十郎だが、自分にも刃が振るわれるという恐怖と、相手がオーガであるという動揺と必死に戦っている。
──どくん‥‥
 何かが体内で蠢く。
「倒さなければ‥‥殺される!!」
 その思いが、鬼十郎を動かした。
(この暗闇‥‥偽オーガの姿は少ししか解らないけど‥‥)
 周囲に意識を集中する。
(敵の動きは気配で判る‥‥けど、刃は気配を出さない‥‥)
 暗闇の中、必死に状況を確認する鬼十郎。
(敵は5人‥‥位置は‥‥)
 頭の中で地図を描き、気配のみを頼りに、敵の位置を感じ取る。
(これとこれが敵‥‥で‥‥リョウさんが動ける‥‥ラーバルトさんは‥‥倒されたフリだけ)
 わずかの動きを読み、最善の動きを考える鬼十郎。
 そして時は来た。
「3‥‥2‥‥1‥‥」
 カウントをおとし、
 そして

「0っ!!」
 誰かが叫ぶ。
 そして一同は反撃に出る。
「この位置ならば、仲間も建物も大丈夫っ!!」
 天井突き破るのもなんのその、ラーバルトは力任せにハンマーを振るう。

──どっごぉぉぉぉん

 その衝撃波は扇状に広がり、敵を傷つけていく。
「あいかわらずいい勘してるぜっ!!」
 ギリギリの範囲で衝撃波から逃れたリョウもまた、力任せに衝撃波を扇状に叩き込んだ!!

──ごぅぅぅぅぅぅっ

 二つの衝撃波を受けて体勢を崩す敵。
 双方向からの衝撃波では、受ける事も躱わす事も適わない。

──きじゅろ、がんばれ‥‥

 鬼十郎の中のギュンター君がそう叫ぶ。
 そしてその声に後押しされるように、鬼十郎の瞳も細く鋭くなる。
「恨みはないのよ‥‥けど‥‥」
 衝撃波が収まるタイミングで、鬼十郎が敵に飛込むと、そのままブラインドアタックを叩き込んた。
──しゅぱーーーっ
 いきなり頬がざっくりと裂ける敵戦士。
 だが、鬼十郎は表情一つ変えない。
 冷徹な仮面を装着した鬼十郎。
 相手はオーガではない、ギュンター君ではない。
 そう何かが吹っ切れた。
 その後方では、鬼十郎に襲いかかっていく敵に向かって、シクルとウリエルが共同で敵を散らしている。
「シクル‥‥上‥‥」
「了解ですっ」
 ウリエルの指示で腕を伸ばし、敵の攻撃を受止めていくシクル。
 そしてウリエルがその間隙をついて攻撃を仕掛けていった。
──シュパーーーッ
 敵の懐に飛込み、まずは相手の武器を使えなくする。
 もし相手が忍者などの類であったならば、この技は有効ではない。
 だが、ウリエルも百戦錬磨、戦った相手の技術がどれ程のものかは、ある程度は肌で感じ取っていた。
「大丈夫‥‥殺しは‥‥しないけど」
 追い詰められる立場から追い詰める立場へ。
 ついに立場は逆転していた。

 翌朝。

 一晩中かかった戦いは幕を閉じ、冒険者がどうにか辛勝となった、


●翌朝・ハートマン教官宅
「卒業試験は森の中だけではなかったようだな」
 翌朝、一同は責任者であるハートマン宅を訪れていた。
 そう叫ぶリョウに対して、ハートマンはさらりと一言。
「襲撃を受けましたか。まあ、それもまた戦いのなかの一つです。ですが、冒険者というのは、常に敵からの攻撃は想定しているとういう事ではないのですか?」
 そのハートマン教官の言葉に、一同は静かに肯く。
「まあ、それでも俺の育てた奴等よりも、冒険者の方が上ということも大体理解したしな‥‥」
 横で椅子に座ってのんびりとしていた悪鬼がそう呟く。
「それでも、あの人たちは貴方の持っている技術の全てを教えたわけではないのでしょう?」
 鬼十郎のその問いに、悪鬼は静かに肯く。
「アサシンガールの事だな」
「ああ‥‥もし教えてくれるのなら、彼女達の戦闘力を‥‥」
 ウリエルが臆することなくそう問い掛けたとき、悪鬼はニィッと口許に笑みを浮かべ、静かに立上がる。
「外で待っている。俺を地に臥せられたら、その時は教えてやるよ。彼女達の戦闘力でも、調整方法や薬のこともな‥‥」
 その言葉に、全員が外に出る。

──そして

「まあ、敢闘賞というところだろう。もし意識があるのなら、そのままで聞いておけ。アサシンガールズの戦闘力は貴様達の戦った卒業生たちとなんら変わりはない。但し、チャイルドはあいつらの2倍程度という所だろうし、エンジェルモードに入ると俺でも押さえつけるのは一苦労だ‥‥」
 そう呟くと、悪鬼は其の場に倒れている冒険者達に再び笑みを浮かべる。
「まあ‥‥そうだなあ。あんた、ウリエルといったな。トリック的な攻撃は、まず相手の出方を伺ってからのほうがいい。後の先という程ではないが、冷静な相手には通用しない場合もある‥‥」
 足元で倒れているウリエルにそう告げると、こんどは木にもたれ掛かって肩で息をしているシクルの元に。
「神聖騎士としてはいい感じに魔法と格闘をくみこんでいる。だが、相手の攻撃に対しての防衛手段をもっと身につけろ。敵の攻撃に対しての防衛手段を身につけないと、万が一の刻は命を落とす‥‥」
 さらに横、どうにか剣を杖のようにして立上がるリョウの元に歩み寄ると、その肩をバン!! と叩く。
「真面に俺に攻撃を当ててくるのはいい腕だ。それに様々な技術もある。回避など気にしないその戦いっぷりは実にいい。が、その攻撃は一対一での戦いにこそ発揮する。多対一の時には躱わす技術も必要だ‥‥もっと腕を上げろ」
 人を誉めない悪鬼がそう告げると、今度は大地にあぐらをかいて座っているラーバルトの元に歩み寄る。
「お前も、奴と同じだな‥‥。奴に告げた忠告、そのままお前にもくれてやる。今度会うときは敵同士になるだろうがな‥‥」
 リョウの方をチラと見て、ラーバルトにもアドバイス。
 そして最後に、大地に崩れて身動きの取れない鬼十郎に近付く。
「躱わす技術はそこそこにあるようだが、当てる技術は未熟だな‥‥それでいて前衛を務めているのか‥‥」
 そう呟くと、鬼十郎の襟を掴んで持ち上げる。
「前衛は、敵を倒して、盾となってなんぼの商売だ。躱わす事に特化しているやつは楯にはなれない。そんな相手は敵からも見切られるだけだ。相手を止めるのならば、それに相応しい腕を身につけろ。楯となるなら相手よりも技術を高めろ。それも出来ず、躱わすだけの奴には、前に出る資格はない‥‥」
 そう叫ぶと、鬼十郎を放り投げる。
「まあ、気迫は買う。あんたの中で眠っているものが目を覚ませば、俺を越えるかもな‥‥」
 そう呟いて、悪鬼は其の場から立ち去った。

 そして冒険者一行もまた、悪鬼にやられた傷を癒してパリへと戻っていった。
 それぞれが、心に何かを背負いつつ。

 戦いは、まだ始まらない‥‥。

〜Fin