●リプレイ本文
●やってきました〜困った剣〜
交易船が水平線の彼方へと消えていく。
冒険者一同は、この小島に無事にたどり着くと、早速周囲を見渡した。
小高い丘の中腹にある鍛冶小屋。
その横にある、これまた小さい小屋が、今回の依頼人の住む家なのであろう。
「初めまして。ギルドからの依頼で参りました」
務めて丁寧にそう挨拶を行うのはシン・バルナック(ea1450)。
その横では、セシリア・カータ(ea1643)が丁寧にお辞儀をしている。
「お、ご苦労様です。早速だけれど、この剣なんだよ‥‥」
そう呟きながら、鍛冶師は奥からローグソードが収まりそうな箱を手にして戻ってくる。
そして静かに箱を開く。
剣の柄には綺麗な宝石。
刀身は太陽光を浴びて綺麗に輝いている。
「ほぅ‥‥」
シンがそう呟いて、剣を静かに手に取る。
「試し切りは行なったのでしょうか?」
セシリアもまたそう問い掛けて、シンから剣を受け取る。
「ん? 試し切りねぇ。そこの樹‥‥これで切ったんだけれどさ‥‥」
鍛冶小屋の近くに直径50cm程の樹の切り株があった。
もっとも、切り株の高さが、人間の胴体の高さぐらいの所で分断されていることから、剣で真っ二つにしたという所なのだろうか?
──ゴクッ‥‥
あまりの事に喉を鳴らすシン。
「では、確かにお預かりします」
セシリアは務めて丁寧にそう挨拶をすると、皆の待っている野営地へと向かっていった。
──一方野営地では
鍛冶小屋から少し離れた場所に野営地を設営し、出発の準備をしているのはテュール・ヘインツ(ea1683)。その横ではセシリアも野営地設営の手伝いを行なっている。
「確か、前に来たパーティもこの当たりで野営していたんだな」
トール・ウッド(ea1919)が、石で作られた簡易釜戸や、テントなどの作られた跡をみてそう告げる。
「‥‥薪はこれぐらいあれば足りますか?」
アハメス・パミ(ea3641)が近くの森から薪となる木を調達してくる。
「ああ、それだけあれば大丈夫だろう」
ジャン・ゼノホーフェン(ea3725)がそう告げながら、荷物の確認を行なっている。
「あとは、大切な荷物はないですか?」
ゼフィリア・リシアンサス(ea3855)も寝袋などを荷物から取り出し、シンから預かったテントの中に放り込む。
この人数を納めるテントというものは誰も持ってきていないため、シンのテントに皆の荷物を詰めることになったらしい。
皆が寝るのは自前のマント、もし毛布を持っているものがいたら、木と木の間にロープを張り、そこに毛布を張って作るようである。
幸いなことに天気は晴天。
雨でも降らない限り、大丈夫なようである。
「あとは、シン殿が戻ってきてからだな」
オレノウ・タオキケー(ea4251)も自分の荷物の再チェックを行なった後、静かにそう告げて一休み。
そしてシンが鍛冶師の所から戻ってくると、一同は早速これからの打ち合わせを行なった後、活動を開始した。
●初日
──剣調査班
「その剣は、俺だけが打ったんじゃなくてね‥‥」
同行していた鍛冶師が、調査班にそう告げる。
「それはどういう事ですか?」
セシリアが静かにそう問い掛ける。
「俺のじいさんが初代。だが、完成間近に死んだから、親父がその剣の仕上げをする筈だった。その親父も、剣が真面に打てるまでに時間がかかりすぎちまって。仕上げを始めてからあと一息の所でやっぱり‥‥それで俺が、最後の仕上げを行った、いわば3代分の根性と魂がはいったという事になるのかな‥‥」
そう告げると、鍛冶師はそのまま森の中へと歩いていった。
その言葉をもう一度噛み締めると、シンは剣を手に取り、静かに構えた。
「昔、先生が言ってたな‥‥いかなる名剣も使い手次第で力を生かすも潰すも出来る。剣を取る者は相手を殺めるのではなく、他者を守る事が出来て初めて剣士となる‥‥っと」
静かに太陽光に輝く剣。
カチャッと刃を返し、ブゥンと一振り。
その手応えや、軽い!!
「剣よ‥‥君はその力をなんのために‥‥誰のために使いたいんですか?」
再び剣を振るう。
風を斬る音が周囲にも伝わる。
「アハメス、どう思う?」
そのまま刃を納めると、アハメスは受け取った剣を静かに鞘から抜く。
「美しいな‥‥まるで太陽神でも宿っているようだ」
手にしっかりと馴染む感触。
そしてアハメスは一通りの型を試してみる。
アハメスの納めている技は全部で5体系7技。
そのどれもが、剣の力に呼応するように、いつもより軽く滑らかであった。
「‥‥凄い‥‥この剣は、持ち主の力を読み取っているようにも感じる‥‥」
そしてアハメスは本能で悟った。
この剣は『なにかの目的の為に作られた存在』であると。
「誰か、模擬戦に付き合って下さい」
そのアハメスの言葉にゼフィリアが手を上げる。
「その前に、魔法との呼応反応を調べてみたいのです」
そのまま剣を受け取ると、ゼフィリアは静かに剣を構え、魔法の詠唱を開始。
ホーリーフィールドを発動させる。
だが、魔法に対しては反応しない。
「‥‥うーん。魔法には反応しませんわ」
そう告げると、ゼフィリアは素早く剣を振るう。
シンの時と同じ様に、剣は風を斬る。
「確かに名剣。手に取った感触が、まるで手の延長のようですわ」
そう呟くと、ゼフィリアはアハメスに頭を下げて、模擬戦を申し込んだ。
──おなじく洞窟調査班
剣の調査は戦闘班にまかせて、こちらは洞窟や島の調査班。
「‥‥足跡か‥‥」
洞窟の近くで、ジャンが足跡を確認。
「対象はまだ洞窟の中だろうか?」
そのオレノウの言葉に、ジャンは難しい顔。
その横では、テュールが静かに魔法詠唱。
「‥‥魔物じゃない‥‥」
「んー、獣でもない‥‥」
サンワードで次々と対象までの距離を問い掛けるテュール。
テュールのレベルでは、まだ対象との距離がある程度しかわからないため、テュールは『魔物との距離』『獣との距離』『人間との距離』という三つの質問を次々と繰り返していた。
だが、対象があまりにも曖昧なため、太陽は優しく答えてくれた。
『判らない‥‥』と。
「ううう。対象がはっきりしなさすぎる‥‥」
泣きそうな表情でそう告げるテュール。
「まあ、そう落ち込むな。まだこれからだ」
そのまま3名は足跡を辿り静かに移動。
そしてたどり着いたのは、小さな泉であった。
そこで足跡を再度確認。
「人数は一人。人間か‥‥どういうことだ?」
流石はレンジャーという所であろう。
ジャンが注意深く、持ち前の知識を動員して調査を行った。その結果、対象が人間であるということまでは確認。
「人間? 人間型モンスターじゃなくて?」
そう問い掛けるオレノウ。
「ああ。ボロボロだけれど、靴跡だ。オークやゴブリンが、人間の使いそうな造りのブーツを履いているとは思えないしな」
そう告げた時、オレノウが何かを発見。
「‥‥手桶か。焼き印まで丁寧についているとは」
それは何処にでもあるような手桶。ただ、誰かの所有物であったらしく、見た事のない焼き印まで記されていた。
「どれ‥‥」
ジャンとテュールもそれを受け取って見る。
が、どうもよく判らない。
「1度皆の元にもどってみたほうがいいな」
そう告げると、3名は1度ベースキャンプへと戻っていった。
──一方トールはというと
「‥‥思ったよりも、簡単な依頼なのかも‥‥」
ベースキャンプとはほぼ正反対の位置にある海岸。
そこには一隻の小舟が打ち上げられている。
どうやら座礁した船か何かから逃げてきたものらしく、中には喰い散らかされた食べ物や空になった水袋などが転がっている。
そして近くには、作られて間もない墓のようなものまである。
小舟の板で作られた簡単な墓碑には、『共に生きていた友の為に』と記されている。
「小舟には焼き印か。これが船の名前で、こっちが旗の紋章‥‥ふむ」
トールは一通り調べた後、一旦ベースキャンプへと戻っていった。
●そしてベースキャンプ〜夜のおはなし〜
──夕食
「‥‥」
夕食を食べながら洞窟調査隊、そしてトールは昼間の調査果の報告を行なっていた。
と、アハメスはトールの見た小舟、そしてオレノウの持ってきた手桶についている焼き印と、その船の名前をじっと考えていた。
「アハメス、どうかしたのですか?」
そう問い掛けるセシリア。
「その小舟の名前‥‥私が知っている船と同じ名前だ。私が一ヶ月ぐらい前に受けた依頼。それは『座礁した船からの遺品回収』だった‥‥」
そしてアハメスは静かにその時の様子を語る。
どうやら、小舟の持主は、そのときに脱出した船員が乗っていたと推測される。一ヶ月以上も流れ、ようやくこの島にたどり着いたときには仲間は誰も居ない。
島の反対側で、生きるためにあちこち走りまわり、洞窟に逃げ延びたというところであろう。
「もしその話の筋で考えると、洞窟の中にいるのは生き残った船員ということになるか。なら、明日にでも洞窟にいって助けるべきだろう」
そのシンの言葉に、一同は肯く。
「で、剣の力については?」
そう問い掛けるテュール。
と、シン、セシリア、アハメス、ゼフィリアの4名は、各々が新しい武器を見せる。
「ま、まさか皆、魔法の武器?」
トールが慌ててそう叫ぶ。
「いや、あの鍛冶師の打ってくれた武器から、自分達のを選ばせてもらった。今まで使っていた武器が、使い物にならなくなったからな」
シンがそう告げる。
一体何があったのかと、オレノウが問い掛けたとき、セシリアが中程から真っ二つになったクルスソードを取り出した。
「この通りなんです」
そう言いながら、件の名剣を取り出して、その刃をクルスソードの刃に当てる。
──スッ‥‥
静かにソードを引いたとき、まるでバターでも切ったかのような軽い感触で、クルスソードが真っ二つになる。
「‥‥マジかよ」
トールが真顔でそう呟く。
「何なら試してみますか?」
セシリアがそう告げて、トールに名剣を手渡した。そして自分は『3枚目』のミドルシールドを構えると、トールに向かって静かに呟く。
「遠慮はいりませんわ。全力で切りかかってきてください」
その言葉に、トールは剣を軽く振る。
──ブゥン
風が切り裂かれる感触。
「ならば!!」
いきなり全身の筋肉が膨張する。
呼吸を整え、剣に全身全霊を注いでいく。
トールには理解した。
この剣で切れないものは存在しないと。
そしてトールは力任せの一撃を叩き込んだ。
──キン!!
軽い金属音。
そしてシールドはいとも簡単に真っ二つになり、その刃はセシリアの肩口にめり込んでいく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その光景を見てテュールが絶叫!!
「トール兄ちゃんがセシリア姉ちゃんを殺したぁぁぁぁぁぁ」
そう叫ぶのも無理はないぐらい、トールの一撃は極っていた。
「クスッ‥‥テュールさん、大丈夫ですわ」
そう告げて、肩を見せる。
衣服は見事に切り裂かれているものの、傷一つ見当たらない。
「‥‥なるほど。こいつは厄介な代物だな」
トールは瞬時に理解した。
「魔法に反応するかも試してみたのですが、特に反応はないですし‥‥。魔法の剣のようで、実はそうでないし‥‥」
ゼフィリアもそう告げる。
「切れ味については、恐らくはこれ以上の剣となると、本当の魔法剣クラスしかないだろう。それも伝承クラス‥‥魔剣とか聖剣といった類になるだろう。が、これは魔法の剣ではないし半端な力持っているナマクラな剣なんだ」
シンのその言葉に、ジャンもようやく理解。
「命有るものは切れない‥‥か」
シンがコクリと肯く。
「対象が生きていなければ最強、だが生きているものに対してはダガーにも劣る。この剣を打ったものがどんなことを願って剣をうったのか、それは今はもう判らない」
シンが静かに告げる。
「アイテムスレイヤーか。面白い」
オレノウも静かにその剣を受け取ると、その刃を自分の首にトントンと叩く。
本当に傷一つ付かない。
そして一行は、ゆっくりと体を休めると、翌日の『探査・説得』の為に英気を養った。
●そして
全てが終った。
隊列を組み洞窟の奥へと向かった冒険者達。
途中で巨大ネズミや巨大蝙蝠などにも遭遇。やはり名剣では、巨大ネズミや巨大蝙蝠には傷一つ付かない。
そして洞窟の奥で一人の人物を発見。
アハメスの話のとおり、逃げていた人間はあの船の船員であった。
だが、ちょっと話が違う。洞窟の奥に逃げていた船員は、船が座礁したときに他の船員から貴重品を奪っていたのである。。
それをそのまま持ち逃げし、仲間と共に山分けにして、ほとぼりが覚めるまで隠れているつもりだったらしい。
だが、仲間はここにたどり着く途中で死んでしまったらしく、一人でここに隠れていたようである。
必死に抵抗しようと、ナイフを持って身構えたが、トールが名剣を手に、洞窟の中の鍾乳石を音も無く真っ二つにして見せたため、船員は素直にその身を預けた。
そして名剣は‥‥
「もし、この剣が必要になったときには、いつでも私の元を訪ねてください。貴方たちになら快くお貸しできます」
そう約束して、名剣は鍛冶師の元で、時がくるまで静かな眠りについた。
そして帰り道。
「シン、新しい剣の切れ味は、本当に今までのものと代わらないんだな?」
トールがそう訪ねる。
トール自身も、新しい武具と交換して貰ってきたのであるが、どうもシンの剣の方が切れ味が良さそうに感じた。
「さあ‥‥どうでしょう。貴方の持つ武器が貴方を主と認めたら‥‥ですね」
シンはそう含んで告げると、クスッと静かに笑みを浮かべた。
〜FIN〜