ふらり冒険〜覚悟を決めて行こう〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:16〜22lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月05日〜11月20日

リプレイ公開日:2006年11月13日

●オープニング

──事件の冒頭
 ふぅ。
 その冒険者はギルドの依頼掲示板を見て溜め息をついていた。
「この俺の腕に見あう依頼がないか‥‥」
 ベテランと呼ばれるほどの実力を持つ彼にとって、今いちばん深刻なことは『仕事がない』ことであった。
 ほそぼそと暮す程度なら、色々と稼ぐあてはある。
 だが、そんな事では、腕が鈍る感覚が鈍る。
 冒険者と呼ばれる立場である以上、それは絶対にゆるされない。
 いつ、このノルマンを脅かすであろう事件が起きるか解らないというのに、その腕を磨くにも仕事が無い。
「これで妥協するか‥‥」
 一枚の依頼を剥がし、受け付けに持っていく冒険者。
「すまないが、この依頼を受けたいのですが‥‥」
「えーーっと、その依頼ですね‥‥と、真に申し訳ありません。この依頼ですが、貴方ではちょっと‥‥」
──ピクッ
 冒険者の繭がピクリと動く。
「この俺の実力では足りないというのか?」
「いえいえ、その逆ですよ。あなたの腕でしたら依頼は簡単に纏まるでしょう。けれど、その腕に見合うだけの報酬は払う事が出来ないのです」
「報酬などいい、とにかくこの依頼を頼む」
「そうはいきません。あなたはそれで良いかもしれませんが、これから先に同じ様な事になったら、それこそベテランで依頼を食いつぶしてしまい、後輩若手の育成に問題が起こるではありませんか‥‥せめてこの依頼でどうですか?」
 そう告げて依頼書を差し出す受付嬢のエムイ・ウィンズ
「なになに‥‥えーっと、『お茶会のおさそい‥‥』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
──ビリビリビリビリッ
 いきなり奇声を上げて依頼書を引き裂く冒険者。
「なんでこの俺がお茶会の手伝いをせにゃならんっ!! なにかこう、血湧き肉踊る依頼はないのかよっ!!」
 ダンダンとカウンターを叩きつつ、冒険者は叫ぶ。
「えーっと、そんなものありません。っていうか、もうその依頼は南方に出発してしまっていますしねぇ」
 エムイはやれやれという表情でそう呟くと、依頼書を作りなおす。
「もういい‥‥どこか旅にでもでるさ‥‥きっとこのノルマンでも、この俺の腕を必要だといってくれる奴等がいるに違いない‥‥」
 そう呟いて、男は旅に出た。
 このノルマンの何処かに、きっと彼を必要としている場所があるのだろう‥‥きっと。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea4004 薊 鬼十郎(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5796 キサラ・ブレンファード(32歳・♀・ナイト・人間・エジプト)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ ナノック・リバーシブル(eb3979

●リプレイ本文

●奇跡を信じて
──パリ・冒険者酒場マスカレード
「うーん。最近、あちこちの村で行方不明の人々が出ていますから、ひょっとしたら彼女も何者かに攫われたのかもしれませんねぇ‥‥」
 腕を組んだまま、マスカレードが薊鬼十郎(ea4004)にそう告げている。
 さて、薊鬼十郎(ea4004)とシクル・ザーン(ea2350)の二人は、ギュンター君の居場所を探す為に、冒険者酒場マスカレードに来ていた。
 とりあえずカウンターでマスターと軽く話をしたのち、まずは知人であるリスターの頼みで、彼の彼女である大丹羽蛮の行方を訪ねていたのである。
「何者か‥‥まさか、シルバーホーク?」
 そう問い掛けるシクルに、マスカレードは静かに肯く。
「でも、どうして今頃、蛮さんが?」
「確か彼女は昔の『贄』でしたしねぇ。今も、彼女が贄としての第一候補として狙われていたとしてもおかしくはないでしょうから」
「その攫われた人たちが何処に連れていかれたのかは判りませんか?」
 そうシクルが問い掛けてみるが、マスカレードは頭を左右に振るだけであった。
「えーっと、マスター、宿り木のハーブティーを一つたのむ」
 そう呟きつつカウンターに座ったのは、ラシュディア・バルトン(ea4107)。
「ああ、ついでにそちらの御二人さんも上へどうぞ。ハーブティーでしたら、二階に向かってくださいね」
 そう告げられて、一行は2階席へと移動し、奥でのんびりとスクロールを調べているミストルディンの元に向かった。
「あら、皆さんどうしたのかしら?」
 そう問い掛けるミストルディンに、とりあえず鬼十郎が口を開く。
「ギュンター君の居場所は判りませんか?」
「あら‥‥えーっと、オーガのギュンター君よね?」
「ええ。私の大切な‥‥でも‥‥誤解で喧嘩して‥‥ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 涙ぐみつつそう呟く鬼十郎に、ミストルディンは何かを考えはじめた。
「オーガキャンプは訪ねた? あそこに居なかったら、ギュンター君はトールさんの自宅か剣士の居留地の筈よ。そこに居なかったら、多分‥‥南方の森の奥というところね。エリアコード12、あそこにオーガと共に住まう村が在った筈よ」
 流石は情報屋。
「駄目なんです。その村がもうないから‥‥ふぇぇぇぇぇぇぇ」
 再び泣き出す鬼十郎。
「あとは‥‥ひょっとしたらあそこかな‥‥南方、旧街道の外れ、確か冒険者達の作った砦が在った筈よね? あそこは行き場を失った人たちが集ることがあるのよ。そこにいけば、何か情報があるかもね‥‥もし怪しまれたら、『宿り木のお姉さん』に言われて来ましたっていえば、何とかなることもあるわよ」
 その言葉に、鬼十郎は希望を見出した。
「そっ、それじゃあ逝ってきますっ!!」
「いや、鬼十郎さん、逝くじゃなくてっ!!」
 ドドドッと走り出した鬼十郎に突っ込みを入れつつ、シクルはミストルディンに頭をさげて鬼十郎のあとを追いかけた。
「ふぅ。相変わらず騒がしいわね‥‥と、ラシュディアさん、随分とご無沙汰で。何か情報を?」
 その問いに、ラシュディアは一言。
「ロイ教授を助けたい。何処に囚われているか知っているか?」
 と訪ねる。
 ミストルディンは静かにハーブティーを咽に流し込むと、たった一言こう告げた。
「王宮から離れた離宮の地下監獄よ」
 コンコルド城の敷地内外れに位置する離宮。
 騎士団直下の監獄としても利用されている為、一般の入城は禁止されている場所。
「うわぁぁぁ。駄目だ、それって絶望的じゃないか‥‥」
 頭を抱えつつそう告げているラシュディアに、ミストルディンがさらに追い撃ち。
「異端審問の結果、ロイ教授は悪魔との密通が行われていたという事で有罪、来年早々に死刑が確定しているわよ‥‥」
 単単と告げるミストルディン。
「なんとか助け出したい。どうしたらいいんだ?」
「異端審問官を説得する? 悪魔との密通が在った、いえ、悪魔と共にいたという事でさえ危険なのに、彼の家では悪魔が使役されていた。その事実はひっくり返せるものではないわよ。異端審問所審問官である司祭、実際に刑罰を決定する裁判官、そしてそれらを補佐する騎士達の全てを納得させるだけの理由が必要。それに加えて問題なのは、過去において異端審問として囚われた者たちの罪が全て有罪であり、再審議によって覆されたことはないということよ‥‥」
 つまり、絶望しか目の前には存在しない。
「今のパリには、ヘルメスを倒す為の切り札が必要なんだ。その為にも、ロイ教授の知恵が必要なんだ‥‥」
「その程度の理由じゃあ、審問官は動かないわよ。逆に、審問官にその話をするのは止めたほうがいいわよ‥‥最悪、それを口実に、あそこが動くわ。そうなると、ことはノルマンの問題だけではなくなるわ‥‥」
 声を落として、ミストルディンがそう呟く。
「あそこ‥‥って、ドコだ‥‥」
 そのラシュディアの言葉に、ミストルディンはボソッと一言。
 そしてその単語を聞いた後、ラシュディアも口を閉ざした。
 ミストルディンの口から零れた単語はただ一つ。

『教皇庁』

 であった。



●夢をしんじて
──南方・未探検地域・エリアコード21
「‥‥これで最後か?」
 血で染まった剣を振り、血を落とすリョウ・アスカ(ea6561)。
 その目の前には、幾重もの死体が重なり倒れている。
 どれもオーガ氏族、オーグラと呼ばれるものも入ればミノタウロスも存在する。
 リョウは修行の為にこのエリアを訪れ、付近に点在しているオーガ氏族の集落を襲い、ついでにそこに囚われていた人々の解放を行なっていた。
「それにしても、随分とごつい装備の奴等ばかりだな‥‥」
 死体の持っていた巨大な両手剣を手に取ると、リョウはそれをブゥンとふるう。
 重心がズレていた為、思うように使うことはできない。
 切るというよりも薙ぐ、叩きつけるという事に特化した武器。
 ずっしりとした感触を全身で確かめると、それの柄の部分をじっと調べる。
「この辺りの奴等の持っている同一規格武器か。同じ『人間の鍛冶師』の作り出したものなら、何故オーガ達の為の武具を?」
 そう呟きつつ、リョウはフラリと其の場を離れる。
 次の修行場を求めて。


●己を信じて
──シャルトル南方・剣士の居留地
 こころすましてそれをみよ‥‥
 さすれば、なんじのこころに、ひかりやどり、からだにオーラたかまらん‥‥ 

 焚火の前で、キサラ・ブレンファード(ea5796)とカイザード・フォーリア(ea3693)、デュランダル・アウローラ(ea8820)の三人が座っている。
 その後ろでは、マスター・メイスが祝詞を唱え、これから始まる修行の為の儀礼を行なっていた。
「最近の若者にしては感心じゃな。オーラを学び、オーラと共にあらんことを‥‥」
 マスター・オズがそう締めて儀礼は終った。
「さて、とりあえず基礎からぢゃな‥‥」
 そう告げたマスター・オズに対して、キサラが一つ質問を行う。
「一つ聞きたいことがある。悪魔との戦いにおいての対処でだが‥‥ホルスのような予知能力―は無理としても。危機察知できる業は私の中にあるか耳がよかろうが気配を感じ取れねば意味がない。私の父は神聖騎士だったらしいが私にはその学がない‥‥」
 そう告げると、マスター・オズの方をじっと見る。
 ちなみにこのキサラ、ここにやってきていきなり『‥‥剣士は剣で語ったほうが話が早い』と告げてマスター・オズに斬りかかったという強者。
 もっとも、マスター・オズに隙がどこにも見受けられず、一手打ち合っての弟子入りというじつに歯茶目茶なじゃじゃ馬ぶりであった。

「ふむ。では、その体でまずは感じ取ってみよう‥‥」
 そう告げると、マスター・オズは其の手に紋章剣を構えた。
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 輝く刀身を軽く振りかざし、キサラにむかって構える。
「わしはオーラの何たるかを教えておる。じゃが、そのオーラも万能ではない。良く知ったオーラを感知することは出来ても、全くの他人、それも殺気を放っている者や悪魔を感知するオーラは存在しない‥‥」
 キサラの予想していた解答とは少し違う。
「というと? マスター・オズはどうやって悪魔を?」
「瞳を閉じよ。目で見えるものを感じ取るのではない‥‥殺気は感じ取ることはできるか?」
 そう告げると同時に、マスター・オズが紋章剣を振り上げる。
 それとほぼ同時に、瞳を閉ざしたキサラに、マスター・オズの殺気が伝わっていった。
「ああ。自分に、それも目の前で向けられた殺気は敏感に感じ取れる」
「なら、その感覚を鍛えることぢゃ‥‥もっとこう、目の前ではない、全体、自分の周囲の全てを見るように感じ取る‥‥」
 そう告げられて、キサラは瞳を閉じたまま死角以外の感覚を研ぎ澄ましていく。

 風のせせらぎ
 火のゆらめき
 木々のざわつき
 水の流れ

 一つ一つを感覚で感じ取っていくキサラ。
「キサラよ。今、ここを見ている悪魔が2体。それを感じ取れるか?」
 そのマスター・オズの言葉に、キサラはさらに意識を集中していった。
(ドコだ‥‥こっちを見ているのか‥‥視線‥‥殺気‥‥いや、それとは違う何か‥‥)
 必死に感覚を澄ましていくが、キサラはまだそれを感じ取ることができない。
 ゆっくりと瞳を開けると、マスター・オズをじっと見る。
「どうじゃ?」
「マスター・オズ。私にはそれを感知することはできま‥‥」
 そう告げて、キサラはマスター・オズの背後、後方の茂みから顔をだしている悪魔を見つけた。
「ほっほっほっ。どうじゃ? 木々のざわめきが風によるものか? それとも人の手によるものか? それらの違いもまた、気配を感じ取る為の訓練。キサラはそれを磨くのもよかろうて‥‥」
 そう告げると、マスター・オズは場所を変えてキサラの感覚をとぎすまそうとした。

──一方、マスター・メイスの方はというと
「騎士の剣とは、力なきものを守るためにあるべきもの。しかし、俺は守られるべき相手に剣を向けてしまった」
 そう告げて、静かに剣を引き抜くと、それをゆっくりと構えるデュランダル・アウローラ(ea8820)。
「一つ訪ねたい。デュランダル卿。それは貴方自身の意思で抜いたものなのか?」
 そう問い掛けたマスター・メイスに、デュランダルは静かに肯く。
「ああ。だが、今となっては、それが何故なのか‥‥」
 そう告げつつ剣を納める。
「悪しきオーラの影響か‥‥デュランダル、まずは己の中の悪しき部分との戦いが必要となるやも知れん‥‥」
 そう告げると、マスター・メイスは目の前の泉に手をかざすと、そこから浮かび上がってくる剣を一振り手に取り、それをデュランダルに手渡す。
「意識を剣に‥‥」
 そう告げられ、デュランダルは手にした『蟹』の紋章剣をゆっくりと握り締める。


 The Aura Will be with you・・・・Always

──ヴゥゥゥゥゥゥン
 柄の部分から吹き出した大量のオーラの源流。
 それは形を為すことなく、ただ溢れつづけている。
「デュランダル‥‥それを剣と、刃とイメージしろ。お前のオーラのキャパシティは尋常ではない。だが、今はまだそれを制御できない。怒り、負の感情でそれらを『支配』することは出来ても、それを『纏め、修める』ことはできない。慈悲の心も研ぎ澄ます‥‥」
(おちつけ‥‥イメージする‥‥刃‥‥剣‥‥)
 そのマスター・メイスの言葉に、静かに意識を集中するデュランダル。
 やがて、オーラの刀身は徐々に形を成し、1時間ほどでショートソードの形状を作り出した。
「ハアハアハアハア‥‥こ、これで‥‥」
 そう呟くが、もう限界。
 デュランダルは意識を失って、其の場に崩れおちていった。
「1時間もの間、持続できただけたいしたものだな‥‥まあ、オーラの循環がそれだけしっかりとしたものらしいが‥‥」
 そう呟きつつ、デュランダルを小屋へと運びこむマスター・メイスであった。

──そしてカイザード
 バジッ‥‥バジッ‥‥
 激しく紋章剣を振りつつ、カイザード・フォーリア(ea3693)はマスター・オズと手合わせをしていた。
 既にデュランダルとキサラも手合わせの段階まで突入していたが、それよりも先に資質を鍛え上げたカイザードがまずは立ち会い。
「その重装甲での動き。実にいいセンスをしておるのう‥‥」
 そう告げつつ、次々と紋章剣を繰り出すマスター・オズに対して、カイザードは今の所防戦一方。
 もっとも、ある程度の見極めを行ない、貫通されない程度での『鎧での受け』を続けつつ、マスター・オズの隙を見ては切り付けてくる。
「師匠の教えがいいからだ。まあ、この程度では、まだ正式後継者にはなれないのだろう?」
 カイザードの振るっている紋章剣は、訓練用の『蝙蝠』である。
「まだまだぢゃな。じゃが、筋はいい。あとは紋章剣との相性じゃて‥‥ほれ」
 その言葉と同時に、次はキサラが蝙蝠を受け取り、マスター・メイスに向かって戦いを挑む。
──バジバジバジバジバジッ
 激しい打ち合いの後、キサラは後方に下がる。
「心を水の如く‥‥」
 紋章剣を腰に収めて構えを取ると、そのまま瞳を閉じてゆっくりと意識を集中する。
(ほほう。心眼か‥‥いい感覚を身につけているようだな‥‥)
 そう心の中で呟くと、マスター・メイスもまた静かに切り込むタイミングを計った。
 キサラの中には、小さな点が一つ見える。
 それが、意識を閉ざしつつあるマスター・メイスの殺気。
 それがビクッと動いた瞬間、キサラは刹那のタイミングで紋章剣を抜刀した!!
──バジッ
 それを受止めると、マスター・メイスは切り返しでキサラの胴部に紋章剣を叩き込んだ!!
 ざっくりと衣服が裂けるが、力のコントロールを行なっている為、キサラにダメージはない。
「いい踏込みだ。何が見えた?」
「殺気‥‥その点が‥‥」
 そう呟くと同時に、キサラは瞬時にナイフを抜くと、後方に位置する隠れグレムリンに向かって投げ付ける。
──シュンッ
 それは掠めただけであったが、確かに見えない場所にいた筈のグレムリンを捉えていた。
「短期間でよくぞそこまで‥‥」
 そう遠くから呟きつつも、マスター・オズは目の前のデュランダルと切り結んでいる。
「マスター・オズ。よそ見をする余裕が?」
「おおっと‥‥そうぢゃな‥‥と、ここで右、右、左。グルッと回って‥‥と‥‥」
 踊りを躍るようにデュランダルの攻撃をクルクルと受止めるマスター・オズ。
「こんな。こっちが本気でやっているのに‥‥」
「なにをいう。ワシも本気ぢゃぞ。動きには全て理由がある。動作の流れを作り、無駄な動きをしないのもまた、剣を学ぶ者にとっての修行。流れる剣を押さえるのではなく、流れに任せて新たなる流れを生み出す‥‥と、ほいほい‥‥」
 上段、そして弾かれた剣の軌跡で縁を描きつつマスター・オズに向かって叩き込むデュランダル。
 だが、その流れもマスター・オズの流れにとって止められてしまう。
「うむうむ。その調子‥‥と、おっぉっぉっ」
 その二人の戦いに、マスター・メイスより『無命の紋章剣』を受け取ったカイザードが切り込んでくる。
「では、二つの流れでは?」
「これを止められますか、師匠っ!!」
 カイザードとデュランダル、二人の激しいうちこみが始まったが。
 マスター・オズは二人の動きを確認しつつ、次々と剣戟を二人に向かって叩き込んだ。

 そして、3人の実践トレーニングは最後の日まで続けられていた。


●心を信じて
──シャルトル南方・小さな砦
「待ってギュンター君。私よ、鬼十郎よ‥‥御願い、話を聞いて‥‥」
 砦に到着した鬼十郎とシクルの二人は、入り口で火の番をしていたギュンター君を確認した。
 そしてギュンター君に向かって走り出した鬼十郎に向かって、ギュンター君はモルゲンステルンを構えた。
「違う。お前、きじゅろ違う‥‥きじゅろ‥‥エッェッ‥‥違う‥‥」
 涙ぐみつつ、ギュンター君が鬼十郎を睨みつける。
「違うの‥‥ゴメンネ‥‥実はね‥‥」
 そう話し掛けると、鬼十郎は話を始めた。

 あの村で起こった悲劇。
 奇跡の宝玉を得る為の話。
 そしてそのために行った、あやまち。
 
 過ちといえど、その罪は罪。
 全てを話すと、鬼十郎はギュンター君に近づいていく。
「ギュンター君、私ね‥‥強くなりたい。貴方の後を追うだけの‥‥貴方に嫌われるのを恐れるだけの弱い女でいたくない。だから‥‥もう追わないわ。でも見ていてね、必ず貴方の傍らに立って共に歩ける‥‥愛して貰える女になるわ。そうしたら、私の事‥‥抱きしめに来てね」
 そう呟くと、そっと鬼十郎は優しくギュンター君を抱しめ、その唇に自分の唇を重ねていった。
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥


 やがて、二人は離れる。
「償う。きじゅろは、むらのひとのために償う‥‥もんた、復讐かんがえているから‥‥だから、ギュンタは、もんたを止める‥‥」
 ニィッと笑いつつ、ギュンター君は鬼十郎に笑顔でそう語りかけた。
 まだ完全にわだかまりは解けていない。
 けれど、また少しだけ、鬼十郎はギュンター君を判っていった。
「鬼十郎、ギュンター君。もんたが戻ってきた!! それも‥‥急いでッ!!」
 シクルがそう叫んだとき、二人は砦の外を見る。
 森から血まみれのもんたと、それを追いかけて『少女達』が走りこんでいたのである!!
 素早くキンヴァルフの1000本の剣とクルスソードを構えてもんたの救出に回りこむシクルと、それを追いかけていく鬼十郎。
「あさしんがーる!! きじゅろ、むちゃ!!」
 慌ててモルゲンステルンを構えて飛込んでいくギュンター君と、完全に其の場は乱戦状態となった!!

「ぼ‥‥冒険者っ‥‥近寄るなっ!! アンタたちの助けはいらないっ!!」
 素早く紋章剣を振回すが、その刀身は既にダガー程度に縮まっている。
「いいから下がって!! ここは私達が食い止めるからっ!!」
「そうです!! もんたは砦まで下がってくださいっ!!」
 必死にアサシンガール達の攻撃を弾く鬼十郎とシクル。
 そしてもんたが丘を駆け昇ってくると、入れ違いにギュンター君が駆けおりていく!!
「もんた!! 砦のうまでぷろすとのところまでいく!! しんがりは僕ときじゅろたちで!!」
──ガギィィィン
 そう叫ぶと同時に、ギュンター君は鬼十郎と背中合わせになる。
「‥‥きじゅろ、うしろはぼくがまもる!! だからきじゅろは戦う!!」
 その叫びに、鬼十郎は涙が溢れる。
「一緒に‥‥戦おうね‥‥」
 そのまま二人でコンビネーションを発動。
 二人のその勢いの合間に、シクルのトリッキーな攻撃が組み込まれ、一瞬にして6名のアサシンガール達を相手に一歩も引かない戦いを展開した。
「コンバットコード‥‥麗しき花!!」
 一人のアサシンガールがそう呟いた時、全てのアサシンガール達が一斉に鬼十郎に向かって切りかかっていく!!
──ガキガギガギガギガギカギッ
 その攻撃を正面から受け流す鬼十郎。
 背後はギュンター君が押さえていたが、どうやら数手を受けてしまった模様。
「大丈夫、ギュンター君っ!!」
「うあ!! だいじょぶ。それよりも前、きじゅろ倒れると、ギュンタも!!」
 そう力一杯呟くが。
 既に、ギュンター君の腹部を二つのロングソードが貫いていた!!
「やばいですっ。どうにかしないとっ!!」
 素早く二人の救援に入り込もうとするが、シクルの動きは二人のアサシンガールによって止められてしまった!!
──ヒュンッ!!
 と、突然一本のナイフが鬼十郎の正面のアサシンガールの腕に突き刺さる。
 そして風と共に一人の剣士が駆けこんでくると、素早くアサシンガールの一人を蹴散らした。
「剣撃斬刃っ!!」
 すかさず振り向いてそう叫ぶと、手近にいるアサシンガールに向かって一撃を叩き込む!!
「折角の修行‥‥と言いたい所だが。義によって助太刀だ。リョウ・アスカ推参っ!!」
 そう叫ぶと、アサシンガール達に向かって、リョウは次々とコンビネーション技を炸裂していった。
 そして流れが鬼十郎たちに傾くと、アサシンガール達は撤退を余儀なくされた。
「ふぅ。とりあえずは終ったか。怪我はどうだ?」
 そう問い掛けるリョウに、鬼十郎は頭を左右に振る。
 だが、シクルはギュンター君に向かって走りこむと、ヒーリングポーションを取り出して手渡す!!
「ギュンター君っ。急いでこれを‥‥」
 そう告げるが、ギュンター君は其の場で崩れ落ちる。
「え‥‥嘘でしょ?」
 その姿を眺めつつ、鬼十郎は涙を流しつつ叫んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。ギュンター君っ。しっかりして‥‥死んだら駄目なんだから‥‥」
 そう叫ぶが、もう意識のないギュンター君。
 それでも、鬼十郎の頬をそっと撫でつつ、ニィッと笑い‥‥
「わらって‥‥きじゅろ‥‥」
 そう告げて冷たくなっていった。

 ギュンター君は、その魂を天に戻していった。


●自分を信じて
──シャルトル南方・プロスト領
「マグネシア‥‥うーん。あまり聞かない名前ですねぇ‥‥」
 ラシュディアはロイ教授を助ける為の方法を模索していた。
 そこで、教授の助手をしていたマグネシアという女性の元を訪ねたが、既にどこかに引越ししてしまっていた為、手掛りは跡絶えてしまっていた。
 かくなる上は、困ったときのプロスト卿である。
 そしてやってきたのはいいが、どうにもプロスト卿でもお手上げのようである。
「そうか。何処にいるんだ、全く‥‥」
「あ、そういうことではなくて‥‥つまりですね。そのマグネシアという名の女性、恐らくは考古学とか悪魔についての学問を修めているのでしたら、この私の耳に入っていてもいい筈なのですよ。パリで私も色々と執務をしている事もありますし、そういった方々とのサロンでの語らいの時もあります。ですが、その名前は1度も聞いた事がないのです‥‥その女性は、本当に実在しているのですか?」
 その問い掛けに、ラシュディアも疑問を感じた。
 マグネシアの住んでいた場所を訪ねたときの周囲の人たちの話がどうもおかしかったのである。
 住んでいたという場所は人気がなく、近くの人に聞いても『判らない』という話や『そんな人は住んでいましたかねぇ?』という、実にあやふやな話であった。
 そして何より、その住んでいた場所の管理人いわく、その部屋は誰にも貸していなかったという事実があったから。
「‥‥何か裏があるようですね」
「ああ、それともう一つ。あの異端審問官のアザートゥスだが、彼は今もなお王宮の敷地内にある『異端審問所』にいるらしいが、外には出歩いていないそうだ。プロスト卿、どうにか彼と渡りを付けることはできないか?」
 そう問い掛けるラシュディアに、プロスト卿は静かに肯く。
「まあ、何とかしてみましょう‥‥取り敢えず彼との話し合いの場を作ればOKですね?」
 ということで、とざされた道は一つだけ開いてきた。

 その直後

──コンコン
 誰かが扉をノックする。
「入りたまえ」
「失礼します。お舘様、今、薊鬼十郎と名乗る冒険者が玄関に来て‥‥」
 そうメイドが告げたとき、その横からギュンター君を抱しめた鬼十郎が飛込んできた!!
「プロスト卿っ。御願い‥‥ギュンター君を助けて‥‥プロスト卿は賢者様なんでしょ? 御願い‥‥」
 其の場で涙を流しつつ崩れてしまった。

 あの直後。
 もんたは鬼十郎達の気付かないうちに姿を消していた。
 そして途方にくれた鬼十郎をリョウとシクルの二人が立上がらせ、急いでこの地に戻ってきたのである。
 プロストの計らいで、ノートルダム大聖堂の聖ヨハン大司教が直々に甦生の儀を執り行った。
 だが、ギュンター君の魂は戻ってこない。
 大司教の話では、おそらく『破滅の魔法陣』の影響により、死者の魂が戻る所を失って、もしくは彷徨っているのではということであった‥‥。

 その為、ギュンター君はプロスト卿の手によって石化され、領主の舘で大切に安置されることとなった。
 
 いつか平和な時代が来るまで。
 そして、大切な鬼十郎と一緒に暮せる日がくるまで‥‥。


〜Fin