●リプレイ本文
●可能性に全てを賭けて!!
──酒場マスカレード
「‥‥」
沈黙。
二階のテーブルには、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)とカルル・ゲラー(eb3530)、そしてフードで顔を覆っているブランシュが座っていた。
「‥‥ブランシュお姉さんの悩みは、その大切な人に会えない事なんだ‥‥」
聖職者らしく、ブランシュの想いを受止めているカルル。
「アトランティスにいったのは判るの‥‥でも、私は月道管理局には入れないから、月道を通っていくことはできないの」
そのブランシュの言葉に、ヘルヴォールも肯く。
「今の所、あんたの助かる道は一つもない‥‥理不尽な話かも知れないが、運がよくても永久に牢獄の中。捕まったら二度と、太陽の下を歩くことは出来ないからねぇ」
ニライから受け取った手紙をバックにしまいつつそう告げるヘルヴォール。
と、カルルはブランシュの手をぎゅっと握り締め、静かに話を始めた。
「お姉さんに人の温もりが分かるなら、一杯のスープに込められた愛情が分かるなら、お姉さんが受けた優しさをほんの少しでいいから他の人にわけてあげて‥‥」
そう告げたとき、一人のシェフがスープを差し入れていく。
「これでもどうぞ‥‥」
そのままスープを飲み、ブランシュは静かに何かを考えている。
「罪を償う為に、新たなる道を目指すのもよいでしょう。かのインドゥーラのパラディンを目指すのもよいかもしれませんし、また‥‥」
と、次々と新たな道を提案するカルル。
「‥‥どっちにしろ、ここにいるともう何時ばれてもおかしくはないから、何処かに身を隠す必要があるだろう‥‥」
そう告げてから、ヘルヴォールはブランシュに静かに話しかける。
「拳士の居留地。受け入れてくれるかどうかは解らないけれど、どうする?」
カルルの告げた提案の一つ『幸せを護る』。
マスター・オズのもとでブランシュは何かを見出すことができるのかもしれない。
「連れていってください‥‥」
それで話しは終った。
●命の価値
──シャルトル南方・セーヌ・ダンファン
「ごくごくごくごく」
つぼに入っている苦い薬を、静かに飲んでいる少女達‥‥。
クリス・ラインハルト(ea2004)とジョセフ・ギールケ(ea2165)、カタリナ・ブルームハルト(ea5817)の三人は、薬師ラビィの家で完成させた『アサシンガール用の中和剤』を持って、とにもかくにも全力でこのセーヌ・ダンファンにやってきたのである。
そして一通りの手続きを追え、どうにか少女達の前にたどり着く事が出来た。
「あらあら、どうしたのですか?」
心配そうにそう話し掛けてくるバルタザール夫人に、クリスは途切れ途切れの声で力一杯叫んだ。
「ハアハアハアハア‥‥急いでこの薬をみんなにっ!!」
その言葉に、バルタザール夫人も急いで残った6人の少女達を居間に呼び戻すと、そのまま残りの薬をジョセフから受け取り、少女達に与えていた。
「ぷはー」
苦々しい顔をしながら、薬を飲み干す少女達。
「お姉さん、この緒薬は何?」
年長の少女が、クリスに問い掛ける。
「もう大丈夫。そのお薬はね、みんなを幸せにするんだよ‥‥」
瞳に涙を浮かべつつ、クリスはそう告げる。
「えへへ。よかった‥‥」
ニィッと笑みを浮かべた少女。
そして一人、また一人と少女達はクリスとジョセフの元を訪れると、そのまま丁寧にお礼を告げていた。
「ふぅ。これで俺の仕事も終りと。アフターケアは俺の仕事じゃないよな?」
ジョセフがクリスに問い掛ける。
「ぎりぎりまではここでみんなを見てあげてほしいの」
そう告げるクリスに、ジョセフは静かに肯くと、窓の外を眺めていた。
(‥‥危なく財産没収だったが‥‥危なかった‥‥)
いや、ほんとにさ。
──一方、その頃のカタリナ
「あれから、また保護されたんだ」
護衛騎士とバルタザール夫人、その二人から今の情況を聞いていたカタリナが、素っ頓狂な声をだしている。
「ええ。ここ最近ですが、『セフィロト騎士団』という方々が、隠れていたアサシンガールと彼女達を使って悪い事をしていた盗賊達を捕まえたそうで。風の噂に此処を聞きつけて、この前連れてきてくれたのですよ」
その騎士の言葉に、バルタザール夫人は捕捉を加える。
「いま、ここに残っている少女達は全部で6人だけ。あとから保護された子供達の殆どはは、もう‥‥」
──ヒュルルルル‥‥
静かに窓から風が流れてくる。
「そっか。うん、でもこれからもきっと保護されてくる少女達はいるんだろうな‥‥」
そう告げると、カタリナは静かに立上がる。
「バルタザール夫人、もう大丈夫。みんな幸せにできる薬ができたんだからね。哀しい思いはしなくていいんだよっ!!」
ニィッと精一杯の笑顔をみせるカタリナ。
そしてバルタザール夫人も、静かに肯いて一言。
「ありがとうございます‥‥」
●故郷の人たち
──ノルマン、とある通り
異国の文化が多く入ってきているパリの中でも、その通りはちょっと変わっていた。
住んでいる人たちの殆どが華仙教大国から移ってきた人たちばかり。
通りにはパリらしく花の名前が付けられているが、大抵の人は『ノルマン華仙街』と呼んでいた。
そこの、とある華仙料理店にて。
──大極飯店
「老人(ラオイェ)‥‥、ここ最近何か変わった事はないかのぅ?」
紅天華(ea0926)は店の主人である『王(ワン)』に問い掛けていた。
「この前、ここに完顔阿骨打師父来ていたアルヨ。あの悪鬼追いかけてここに来たって話していたけれど」
そう告げられて、天華の表情は曇っていった。
「なんともいえぬ悪い予感がする‥‥当たらねばいいのだが」
そうつぶやきつつ、王老人の方を向く。
「悪鬼だけならまだしも、その悪鬼を追いかけて『紅家』の暗殺者達もこっちにきているアル。そういえば、大姐も家名『紅』。どこか繋がりアルカ?」
「冗談。あっちは伝承流派の本尊、私とは全く関係がない‥‥。それより、その暗殺者達の居所は判るか?」
無表情でそう告げる天華に、王老人はゆっくりと話しはじめた。
「ここでのアジトは判っているアル。でも、なにも問題は起こしていないし、かなり優秀な情報屋から悪鬼の話を探っていたという噂アル」
その話を聞いて、天華はとりえず場所を聞き出し、今後の対策を練ることにした。
●賢者の教え
──シャルトル・プロスト領・プロスト城
『えええぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』
居間から聞こえるカタリナとクリスの絶叫。
それも無理はない。
「つまり、このプロスト城地下にある立体構造迷宮に住んでいる精霊達の力を借りれば、アトランティスへの道は開くという事ですか?」
クリスがプロスト辺境伯に確認の為にそう問い掛けていた。
二人はプロスト辺境伯の元にやってくると、アトランティスに向かう道を訪ねていた。
と、偶然か奇縁か、プロスト辺境伯はその事実を知っていたのである。
「ええ。親友であるミハイル・ジョーンズは、精霊達に認められてかの地に向かったのですよ。とある場所からね」
「それじゃあ、その精霊さん達に力をお借りできれば、ブランシュさんも‥‥」
だが、それが贖罪に繋がるかどうかはプロスト辺境伯でも判らない。
「新しく精霊武具を揃える必要もあります。ミハイルは精霊達の加護を受け、認められたからこそかの地に向かう事ができたのですよ。ブランシュが精霊達の信頼を得られるかどうか、私には判りません」
それでも可能性は見えた。
「精霊武具を揃える探索。そしてブランシュが全ての精霊に認められれば、月道は開くんだよねっ!!」
カタリナの叫びに、プロスト辺境伯はニコリと肯く。
「もしその探索を始めるのであれば、ここの地下に住んでいる『月精霊』のもとを訪れなさい。その上で、探索を開始したほうが良いでしょうけれど‥‥」
「けれど?」
クリスが問い返す。
「精霊に詳しい考古学者が必要です。かなり高度な精霊碑を紐解ける存在も、古代魔法語に精通している人も。ミハイルは自分でできましたが‥‥まあ、冒険者ですから、彼方此方にそっちの知合いは多いでしょう。確かミハイル研究室に出入りしていた『ラシュディア』なら、貴方たちの力になるでしょう。頑張ってくださいね‥‥」
そうつげると、プロスト辺境伯は旅支度を始めた。
「どちらかにお出かけで?」
「ええ。知人とちょっと裏オークションにね。では」
そう告げて、プロスト辺境伯は『鍛冶屋・びっくり鈍器』の店長と共に旅立っていった。
●そしてブランシュ
──剣士の居留地
「‥‥渋いのう‥‥」
剣士の居留地の奥、沼地の畔にある小屋の前で、マスター・オズが渋い顔をしつつそうつぶやいていた。
「やはり無理でしょうか‥‥」
その前ではヘルヴォールとローブを身に纏っているブランシュが座っている。
ふたりはこの地を訪れて、マスター・オズの元にブランシュを匿ってもらうことにしたのである。
そして全てをマスター・オズにつげると、静かに答えを待っていた。
「ワシとしては、この子をここに止めておくのには反対はせん。じゃが、それでよいのか? 其の子の罪はどうするのぢゃ?」
その問いに、ヘルヴォールは答えられない。
「この地で剣士として修行する。そこから先、お前はどう生きる? 正体を隠し、自らの罪を償うべく一生を剣士としてこの地でいきるのか?」
その言葉に、ブランシュも難しい顔をする。
「私は‥‥会いたい人がいるから‥‥」
そのつぶやきにマスター・オズは無表情でこう告げた。
「ヘルヴォール。この少女の罪は一生消えぬ。無慈悲にうばった多くの命、それはもう救われぬ。ならば、この子はそれらを償うべく生きなくてはならぬとワシはおもう。今一度考え直しなさい。この少女は‥‥罪を罪とおもっていないようぢゃ‥‥」
「ならばマスター、せめてこの地に彼女を匿ってください!! 私は時折此処を訪れ、彼女の様子を見に来ます」
必死にそう叫ぶヘルヴォール。
だが。
「一生を隠れて過ごすのか‥‥」
そう告げたとき、ブランシュが堰を切ったように話し始めた。
「私は、私はアトランティスに行きたいの。その為ならどんな事でもするから!! 罪を償えっていうのならどんな事でも。だから、私をアトランティスに‥‥あの人の所に‥‥」
──ふぅ
しばし沈黙の後、マスター・オズが溜め息を付いた。
「この地はただしき道を歩むものの住まう地。そのために訪れるものがいるのならば、追い出すことはない。近くに空いている小屋もある。勝手に使いなさい‥‥」
そう告げて、マスター・オズはゆっくりと立上がる。
「ヘルヴォール。其の子の生きる道は茨の道。例え剣士になれたとしても、この地を、ノルマンを離れる事は私は許さぬ‥‥紋章剣の、ワルプルギスの剣士として、その時は少女の命を持って。その罪を償ってもらう‥‥。今一度、其の子の処遇、考え直すのぢゃ‥‥」
●銀の鷹舞い降りて
──パリ郊外・シルバーホーク邱
パリに戻ったクリスとカタリナ、そしてジョセフの3人は、パリ郊外にあるシルバーホーク邱を訪れていた。
「がぁがぁがぁ。みんなで愉しくがぁがぁ♪〜」
家の庭では、クリスとアンリエットが歌を歌って愉しい一時を過ごしている。
そしてその近くでは、ジョセフが執事であるウォルターから差し出された御茶の『生贄』となっているところである。
「‥‥こ‥‥このハーブティーは‥‥さわやかな香りと一口目の味わい、口の中に広がる花の香りが嫌みでもなく鼻から抜けて‥‥そして喉を通り過ぎてからのこの口に残る味わい‥‥」
──ゴクゴクゴクゴク
そう叫んでから残りを飲み干すジョセフ。
「ほっほっほっ。愉しんで頂けましたか?」
「ええ‥‥このハーブティーのレシピは? 単一の花ではないだろう?」
「ほう。判りますか。これはですね‥‥」
なんだか、ハーブティー談議に花を咲かせているウォルターとジョセフ。
そしてその近くでは、カタリナが悪鬼に『玩ばれて』いた。
──ガシガシガシガシッ
次々とオーラソードを悪鬼に振るうカタリナ。
さすがの悪鬼も、オーラソードを素手で受けることは出来ない為、カタリナの腕を『化勁(かけい)』で流していく。
「ふん。直線的な攻撃だな。オーラ使いならもっと頭を捻れ」
そう告げつつ、カタリナの胸に手を添えると、そのまま気合一閃!!
──ドッ!!
いきなり5mほどふっとばされるカタリナ。
衝撃は体内を駆け巡り、全身が動かない。
「こ‥‥この‥‥」
「今ひとつ切れが悪いか‥‥もう少し鍛えてから‥‥そうだな‥‥」
ふと、悪鬼は何かを思い付く。
「アビスで鍛えてこい。俺は荷物を補充したら、またアビスに潜る。縁があったら、そこで会うとしよう‥‥」
それだけを告げて、悪鬼はカタリナを担いで庭に向かう。
「カ、カタリナさん!!」
悪鬼に背負われているカタリナを見て、クリスは言葉を失う。
「お、おいーーーっす。見事に負けましたとさぁ☆」
あ、カタリナ潔し。
「またしばらく留守にする。ウォルター、アンリを頼む」
「ええ。特に問題はないです。急がずに、ゆっくりと探してきてください」
そう告げられて、悪鬼はクリスの方を向く。
「ということだ。まだしばらくは、アンリの世話を頼む。たまにでもいいから、遊びに来てやってくれ‥‥」
そうつげて、クリスの髪をクシャクシャッと撫で上げると、そのまま他のアサシンガールと共に旅立っていった。
「‥‥なんだろう‥‥」
ふと、クリスの頬を涙が伝っている。
「なんだか‥‥もう‥‥あえないような気がする‥‥」
悪鬼の後ろ姿を見て、クリスは哀しそうにそうつぶやいた。
──Fin