●リプレイ本文
●一か八かの大勝負
──ニライ宅
「うま!!」
だから、なんだようまって。
ニライ・カナイはカンター・フスク(ea5283)から差し入れられたプリンを食べつつ、感動に浸っている。
「だろう? 僕の作ったものが不味いわけはない。それよりもニライ査察官、あのスープの話だが、心当りがあるのか?」
そう問い掛けたカンターに、ニライは静かに肯く。
「もうかなり昔の話だから忘れていた。あの物語のスープを再現しようとした料理人が一人、このパリにいた。名前はアレク・ロード。確か『パンプキン亭』というレストランのオーナーだな‥‥今はもうこの世にいないけれど」
その言葉に、カンターはまだ諦めの色をみせない。
「なら、そのスープのレシピを知っているものは? 弟子でも誰でもいい。紹介してくれ」
「弟子はいないが、娘が一人いたな。確か‥‥サンディとかいう娘が。それと、そこに出入りしている料理人なら‥‥冒険者街に住んでいる、エグゼ・クエーサーがそうだったはず」
おっとぉ。
「エ‥‥エグゼ? ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
あ、それは驚くわな。
「仕方ない、あいつに聞くとするか‥‥それはそうと、もう一つ頼みがある」
瞬時に立ち直ると、カンターはニライに話を振る。
「セーヌ・ダンファンに行くからプロスト辺境伯に紹介状を書いて欲しいと一筆書いてくれ」
「たわけ、それが人にものを頼む時の言い方か?」
素早く突っ込まれるカンターだが。
「エグゼ屋での食事一ヶ月無料でどうだ? 一筆書いてやる」
「よし待っていろ、直に書いてやる」
あ、あんたらなぁぁぁぁ。
ということで、ニライから紹介状を受け取ったカンターは、そのまま横でじっと一通りの話を聞いていた、とれすいくす虎真(ea1322)にバトンタッチ。
「あー、すいませんが、私にも紹介状を書いて頂けると助かります。それともう一つ、実はシルバーホークに関する事なのですが」
その虎真の言葉に、ニライの瞳が細くなった。
「なんだ?」
「シルバーホーク関係者全員を『指名手配』して欲しいのですよ」
「ン? 既に手配書は出まわっている。全ての地域の騎士団、自警団にも手配書は回っているぞ。見るか?」
そう告げると、ニライは手配書を虎真達にみせた。
『指名手配:悪鬼 生死問わず、賞金1500G』
『指名手配:アンリエット 生死問わず 賞金3500G』
『指名手配:アサシンガール 生死問わず 賞金500G』
「あの‥‥できれば悪鬼の罪状のところに、ロリコン疑惑も付けてほしいのですが」
──ブッ!!
その虎真の言葉に、飲みかけのハーブティーを吹き出すニライ。
「ロリコン疑惑か‥‥。一つ聞かせて欲しい。ロリコンは罪なのか?」
「ええ。ロリコンですから。思い込んだら命懸け。一押し二押し、三に押し、押してだめでも押しまくってきますから‥‥」
あああ、虎真、かなりの冒険者を敵に回したような気が。
「考えておこう」
「それと、手配書ですが、シルバーホーク関係者はアサシンガール達と悪鬼、アンリエットのみなのですか?」
「ええ。それ以外の人たちは別に罪を侵しているという『証拠』がないのですよ‥‥」
何か口惜しそうにつげるニライ。
「そうですか。あとロイ教授の釈放? とか無理ですかね。対悪魔用オブサーバーとして力を貸して欲しいですし」
との言葉には、ニライはやはり口惜しそうに一言。
「ロイ教授は先日、処刑された。罪状は脱走‥‥詳しい話は今度。私は、ロイ教授の『最後の頼み』を届けなくてはならない。すまんな」
そうつげると、ニライは二人を見送ってから急ぎ出かけていった。
──パリ・冒険者街の外れ・マグネシアの隠れ家
モフモフッ‥‥
埃が室内を舞い上がり、ラシュディア・バルトン(ea4107)の視界をうばい去る。
「うわっ‥‥まったく‥‥これでなにも無かったら、もう洒落になんねーぞ」
そうつぶやきつつ、ラシュディアは室内を調査する。
肝心要のロイ教授の研究施設は、もう中はもぬけのからとなっていた為、手がかりが全くない情況になっていたのである。
止むを得ず、マグネシアの隠れていたという建物に突入すると、そのまま室内を調べていたのだが、これまた手掛りはなにもない。
「ふぅ‥‥どっしょうもないか‥‥」
窓を開いて外から入ってくる空気を胸一杯に吸い込む。
そこでは子供達が愉しそうに走りまわり、平和そのものである。
「はぁぁぁぁぁぁ。どうするか‥‥」
そう呟いた時、ふと、背後からなにか気配を感じ取った。
「!!」
瞬間振り向いてそこに立っている何かを見たが‥‥。
「やはりここか。まあ、大方の予想を裏切らない所はさすがだな」
パタパタと飛んでいるニライ査察官と、その護衛騎士の『アヴォン』『ヴィヴィット』が立っていた。
「はぁ‥‥なんでここに?」
「ロイ教授の研究室に向かったと聞いてな。どうせここにくるだろうと思った」
そう告げると、ポン、と一枚の布をラシュディアの方にに投げる。
「研究室に残されていたものはすべて焚書されてしまってなにも残っていない。唯一、その布だけが、ロイ教授が『生きていたときに』残したものだ。お前に渡して欲しいと託された」
その言葉に、ラシュディアは愕然とした。
「生きていたって‥‥まさか」
「うむ。先日、ロイ教授は『脱獄』の罪を問われ、逃走していた通路で殺された‥‥」
「脱獄? 一体どうやって? 牢獄は異端審問官によって厳重に鍵がかけられていたんだろう? 中からは開く筈が無いじゃないか!!」
「ああ。鍵は外から開けられていた‥‥が、牢の警護をしていたやつの報告では、『鍵をうばわれた』と言っていたらしい‥‥」
──ガシッ!!
拳を壁に叩きつけるラシュディア。
そして手渡された布を開いて、これまた愕然とする。
血で綴られた、みたことのない文字配列。
巧みに暗号化された『古代魔法語』。
一般の人では判別不可能。
そして古代魔法語を学んだ人物でも、これの解析はほぼ不可能であろう。
「『‥‥悪魔を封印する『封印剣』について‥‥彼の宝玉は『悪魔を封ずる』力を持つ。彼の者たちを‥‥の‥‥から開放し、‥‥に封ずる』‥‥難しすぎる‥‥」
読める範囲での単語を広い集め文章化する。
それでも判らない単語が並びすぎている。
「ふむ。やはり読めるか。さすがはミハイルの弟子。それじゃあ、それはお前に預けておく。うまく解読してくれ‥‥じゃあな‥‥」
それだけを告げると、ニライはその場を立ちさって行った。
「‥‥ロイ教授。貴方の命、決して無駄にはしません!!」
●恐るべし好事家
──とある場所、とある時間
そこは裏オークション会場。
表に出まわらない様々なアーティファクトが、そこでは次々と競り落とされていた。
「ここで、今日、あれを見ることができるのか‥‥」
ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)は、プロスト辺境伯と共にこの場所にやって来ていた。
目的は、出品される『月雫のハンマー』。
ちなみにロックフェラーの最高予算は29G。
「アア、余り予算は気にしないでください」
とのプロスト辺境伯の言葉に、内心はドキドキしつつもロックフェラーは静かに時を待った。
「それでは、エントリーナンバー23。『月雫のハンマー』。鍛冶師として、これは見逃せない物品です。まずは50Gから!!」
いきなり予算オーバーだが、そんなことにもめげずにロックフェラーは競りに参加。
「55Gっ(ロックフェラー)」
「こっちは65Gだ」
「あらあら、私が75で落札しましょう」
「なら‥‥85Gッ(ロックフェラー)」
「ぬぬぬ。なら100Gッ」
「あらあら。ではここで一発。150G」
その途端、他の参加者達がビットを止める。
「150G。それ以上はいませんか?」
その声に、ロックフェラーはプロスト辺境伯の方を見る。
「必要でしょう?」
「ああ‥‥だけど‥‥」
そのロックフェラーの信じようを察してか、プロスト辺境伯が一言。
「500G」
その途端会場がざわつく。
だが、それ以上のビットはなかった。
──そしてノルマン江戸村へ
江戸村に戻ったロックフェラーは、ただひたすらに『簡易型カリバーン』の作成を開始。
次々と試打ちしては潰し、を繰り返し、日本刀型のカリバーンを完成させたが。
──キン!!
試し切りでどうしても刃が欠けてしまう。
「‥‥魔力も微弱、材料が普通の鉄だからか?」
神世の炎・力の炉、この二つを用いず、月雫のハンマーのみで打ち上げた逸品。
通常の刀よりは幾分ましであるが、やはりカリバーンほどの切れ味は生み出されない。
そしてなにより、刀の強度の問題。
「畜生っ!!」
再び炉に放り込み、ロックファラーは時間の許す限り刀を打ち続けた。
●修行〜ワルプルギスの剣士として〜
──剣士の居留地
「‥‥アビスか。厄介な場所ぢゃぞ」
カイザード・フォーリア(ea3693)は、マスター・オズの元を訪れると、剣士としての修行を再開した。
目標は『アビス』。
そこを制覇するためにどのようなことが必要か、カイザードはマスター・オズに訪ねていた。
「生きとし生けるものは生者の門よりくぐりぬける。果てしなき回廊と無限の罠。まるでそこは、生きているかのごとく‥‥」
「師よ、教えを」
「見るのぢゃ。全てのモノを、そして全てを調べる。決して無理はせず、引く事も忘れず。慢心・過信は命を奪い取られる‥‥さて、始めるとしようか」
そのままカイザードは、マスター・オズとともに修行を開始。
「紋章剣はオーラの力を増幅する。ならば、オーラボディや禁忌の技も通して発動すれば効果が増えるのですか?」
その問いに、マスター・オズは静かに肯く。
「紋章剣は、それを扱うものの呼び掛けに呼応する。が、禁忌の技は使えぬ‥‥それは『暗黒面』に陥ったものが見る忌まわしき技ぢゃよ」
まだカイザードは紋章剣との盟約を結んでいない。
修練の為に、『蝙蝠の紋章剣』を手渡され、それなりの力は付けてきた。
だが、まだ『蝙蝠の紋章剣』は呼応しない。
「‥‥ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ」
柄を利用手で構えると、カイザードは全身を流れるオーラを制御し、刀身を強くイメージする。
ロングソード程の刀身が生み出され、さらにそれはバスタードソードクラスの刀身に広がる。
「はぁぁぁぁ‥‥はぁはぁ‥‥」
それを維持しつつ、マスター・オズとの訓練を続けるが、まだ刀身形成は10分程度しか維持できない。
「時間、そして密度。それらのバランスが取れていない。己の中で生まれるオーラ、それをより増幅するイメージを強めると、蝙蝠はその力を解放してくれるぢゃろう‥‥」
「オーラの到達点‥‥そのイメージ‥‥」
そのまま蝙蝠の紋章剣を静かにかまえると、オーラの流れの中に、紋章剣も加える。
──カシャァァァァン
突然柄がスライドし伸びる。
そして同時に刀身が生み出され、カイザードの手の中には『ツーハンドソード』クラスの刀身が形成された。
輝くオーラの奔流は、そのまま刀身を維持できずに大気に散っていく。
だが、その一瞬だけ、蝙蝠はカイザードを認めた。
「‥‥これが‥‥」
紋章剣を媒体として高まるオーラ。
だが、それは同時に、さらなる制御の難しさをカイザードに告げ、新たなる門に導いていった‥‥。
●子供達との出会い〜ライバルとの出会い
──セーヌ・ダンファン
プロスト辺境伯の元で情報を探したが特にそれらしい話をきく事が出来なかった為、カンターは手土産として『プロスト辺境伯メイド隊』の服を五着受け取ってから、このセーヌ・ダンファンにやってきていた。
すでにクリス・ラインハルトやジョセフ・ギールケたちはこの地を離れてしまっていた為、入れ代わりでやってきた所である。
「そーれ、あったかいスープをどうぞ♪〜」
ブランシュの目を冷まさせた特製スープを子供達に差し入れするカンター。
その横では、虎真が少女達に針仕事や家事手伝いの極意を伝授していた。
「‥‥そこは‥‥ああ、そうじゃなくて‥‥ここに糸を通して‥‥あうあう」
実際に自分でやったらどんなに楽か。
だが、ここは少女達の為、虎真は自らの奥義『虎真式家事活殺法・そこはかとなく御手伝い』を子供達に伝授していった。
しかし、虎真、意外と家事はうまかったのね。
──数日後・ノルマン江戸村
「では、ここでの許可ということで」
ノルマン神社で行われていた出店の店割。
縁日の出店をどこで出すか、それを『おみくじ』で決めていた所に虎真はギリギリ到着。
なんと一等地、『入り口入って直に右』を無事にゲット。
そのままご無沙汰していた宮村道場を訪れて軽く一汗。
「久しぶりに会ったら、また身体鈍っているわねっ!!」
「いえ師匠、こう見えても闘技場で‥‥ああ〜」
──ビシバシビシバシビシビシビシビシビシッ
激しく鍛え上げられる虎真。
君が闘技場で腕を上げている間に、宮村師範もかなり腕を上げていた模様。
──バタッ
そのまま崩れる虎真に、わんドシ君が一言。
「功夫が足りないワン」
「うるさい‥‥それよりもわんドシ君、赤くなったら三倍、なんて安直な事言ったら座布団没収。赤い彗星とか真紅の稲妻も不可だ」
「‥‥なら、今日から僕のことを『わんドシ君シード』と呼ぶワン!!」
──そして場所は変わってパリ
カキーーーンカキーーーン
冒険者街の一角に、とあるものがつくられていました。
それはオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)の手作りの石像。
自分の等身大の像を漆喰等で作り出し、ストーンを施して、自宅前に設置していたのでした。
「うんうん。いい出来だね」
確かに。
彼女の腕前で細部まで丁寧に作られたそれは、見た目には『石化されたオイフェミア』である。が、もしこれに魂が入って動き出したら‥‥恐いよなぁ。
●封印剣
──シャルトル・ミハイル研究室
ラシュディアは静かに死霊となるスクロールを集め、それらの情報を研究員達にまとめて貰っていた。
その横で、ラシュディアは、ニライから受け取った布の解析を続けていたのである。
「参った‥‥これはなんなんだ?」
そのまま広げられた布の文字を写し取り、スクロールの上で解析を続ける。
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悪魔を封印する『封印剣』について。
輝く宝玉。
それを『聖なる剣』の柄に填めよ。
彼の宝玉は『悪魔を封ずる』力を持つ。
彼の者たちをとこしえの肉体から開放し、封じの剣『聖劍カリバーン』に封ずる。
悪魔はそこから出ることなく。
ツルギハ‥‥の洞窟に‥‥安置し、‥‥にて固定せよ。セーラとタロン、二つの力持て封印を施せ‥‥
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「‥‥よくわからないが、ロイ教授、あんたの無念、俺が‥‥」
──Fin