●リプレイ本文
●パリでできること
──薬師ラビイ宅
「刃物に塗るタイプの中和剤は無理ですね‥‥」
しずかにそう告げると、ラビィは眼の前に座っているロックフェラー・シュターゼン(ea3120)に小さな壷を手渡す。
「これを飲ませると、アサシンガール達の呪縛は解放できる。その為の薬を作るのでしたら、私は力を貸しましょう。けれど、少女達を危険にする為の薬というのであれば、協力できませんよ?」
そう告げると、別の薬を取り出す。
ロックフェラーは、ラビィの元を訪れると、対チャイルド用の薬を調達していた。
「ええ。中和剤。それも即効性の高いものを‥‥。刃物に塗るタイプは無理ですか」
「そうですねぇ。刃物に固定できるように『粘度』を高くすれば。けれども、即効性は求めないほうがいいでしょうから‥‥」
ロックフェラーが受け取った壷。
「その中には、ガールたちの力を『弱体化』できるように調合した薬が入っているから。それを刃物に塗るといいだろうけれど‥‥でも‥‥やっぱり少女達は傷つくんだよ?」
その言葉に、ロックフェラーも辛い顔をする。
「では、この薬は預かっていきます‥‥」
「ええ。それとそこの優男さん。その薬は危険だよ‥‥」
と、ロックフェラーの話の横で、リスター・ストーム(ea6536)は『超高性能媚薬・桃色吐息1号』という壷を手にとっている。
「え、いゃあ‥‥はっはっはっ」
と渇いた笑いのリスター。
既に解毒剤やカイ服薬などは『ニライ払い』で買い占めたのだが、その壷だけは気になってしょうがない。
「この薬‥‥効果あるのか?」
「ええ。うちの新しい弟子が作った失敗作だよ。匂いだけで相手をその気にっておまちリスター!!」
すでに壷を懐にしまって逃亡するリスター。
まさに鬼に金棒猫に小判!!
そして頭をさげて、ロックフェラーは一路港に向かった。
江戸村まで向かう時間はなかったから。
──船着き場にて
「‥‥それだけの荷物が、竜の背骨方面に流れていると?」
レイル・ステディア(ea4757)は、グレイス商会でマダムから色々と話を聞いていた。
「ああ、大体月に二度。うちからは干し肉と酒樽、衣料品を買いあさっていっているからねぇ‥‥」
そう告げつつ、マダムはレイルにリストを見せる。
「‥‥30人以上はいるということか‥‥それと子供が20‥‥厄介過ぎるな」
物流から敵戦力を調べるというレイル。
だが、得られた情報は絶望の二文字。
●パリ沖合より
──移動中の船・甲板
「それが手に入った地図か‥‥」
リョウ・アスカ(ea6561)はリスター達がニライ経由で入手した『海賊シーラット』のアジトの詳細な写しをじっと見つめている。
「さて、さらに写しておいた地図をここに広げてと‥‥燃えよ俺の煩悩パワー!! 高まれエロス!!」
ごごごごごと煩悩エネルギーを体内に循環し、それを股間に一点凝縮。
そして地図の上でダウンジング開始。
──ピキーーーン
「ここにイイ女がいる‥‥こことここもだ‥‥」
次々とチェックしていくリスターと、それを横目で見つつ、『騎士団より入手した地図』を見ながらリスターのポイントを調べているロート・クロニクル(ea9519)。
「ふぅん。いいとこ付いているな。それが噂の煩悩ハムワーか‥‥」
ロートはリスターのチェックしている場所に、さらに書き込みを加える。
「こことここには貴族が。こっちには多分‥‥と‥‥」
捕らえられている貴族名簿を広げつつ、予測の範囲内でチェックをつけていくロート。
そしておおよそのチェックが終ると、今度は船に載っているブラックウィングの騎士たちにそれを見せる。
「これが予測データ。で、こっちが潜入ルート。まあ、だいたいこんなもので」
ロートがそう告げて騎士達に地図を手渡すと、騎士たちはそれを手にさらに綿密な打ちあわせを開始した。
「‥‥ふう。いい汗をかいた‥‥」
身体を流れる汗を拭いつつ、不破斬(eb1568)がロート達の元にやってくる。
騎士たちとの手合いを追え、一息という所であろう。
「方針は決まったのか?」
「ああ。この地図目を通しておいてくれ」
そう告げて、不破にも地図を手渡すロート。
そしてその打ち合わせのさ中、ロックフェラーはただひたすら倉庫に籠って武具の調整、毒を仕込む為の細工を行なっていた。
●荒れ狂う海
──竜の背骨エリア
激しくうちなる波。
その合間を掻い潜り、ついに海戦騎士団員たちは敵アジトに到着する。
「あとは手筈通りにっ!!」
海戦騎士団長の叫びと同時に、いよいよ戦いは始まった。
奥から飛び出してくる海賊達を相手に、騎士たちは一歩もひかない‥‥。
「子供が出たら油断するな!!」
レイルは騎士達にそう叫びつつ、ディテクトライフフォースを駆使して先に進む。
リスターの誘導で奥へ奥へと進む一行。
やがて回廊が一つになったとき‥‥。
「ここから先は一歩も進ませないわっ!!」
「命が惜しかったら、降伏するのねっ!!」
二人の少女が一行の目の前を阻む。
「悪いが‥‥」
リョウがそう呟きつつ、素早く前に飛び出す。
そしてロックフェラーもまた、手にした武器を構えて飛び出したが。
──ドゴォォォォッ
二人同時に天上に叩きつけられた!!
「なっ!!」
「魔法だと?」
血を吐きつつそう叫ぶ二人に、女の子達はにぃっと笑いつつポーズを取る。
「私達は『魔法特化型チャイルド』よ。見てみて、魔法使いらしいこの可愛い服」
「私達は、パリ一番のおしゃれなウィッチ!!」
そう呟きつつ、一行に向かって一歩も下がらない姿勢を取る。
「私の名前はラヴ」
「私はベリー」
「私達はおしゃれなウィッチ!! ラブ&ベ‥‥」
──スパァァァァァァァッ
いっきに間合を詰めた不破と体勢を整えたリョウが、二人の少女をなますに切り裂く!!
「‥‥不憫な‥‥」
「ああ、全くだ‥‥シルバーホーク、こんな幼子にまで‥‥」
少女達を不憫に思うリョウと不破。
「しかし、危なかったな‥‥」
ロートがそう呟くが、リョウ達はとくに危険ではない。
「俺達は別に‥‥」
「いや、危なかった。あと一歩で取り返しのつかないことに‥‥」
ああ、全くだ。
自己紹介が終っていたら、確かに危なかったな‥‥。
●海の牢獄
──堅牢な岩牢
アジトの最下層。
そこに作られた『洞窟を利用して作られた牢』のあるエリアに到着する一行。
「‥‥こことそっちがいいおんな。そっちは油臭いおっさんだからロートに任せる」
リスターが次々と牢の前を駆け抜けつつ、中に囚われている人たちを確認する。
「アブラ臭い‥‥って」
取り敢えず鍵はロックフェラーが船からもって来たハンマーで破壊し、中の要人達を救助する。
「‥‥おお‥‥助かったのか‥‥」
シルバーホークに捉えられ、身の代金を要求されていた貴族達。
衣服はボロボロになり、かなり衰弱している。
「ああ、とりあえずこっちだ‥‥」
ロートが貴族たちを誘導し、リスターは女性達を抱きし‥‥もとい誘導する。
一つ一つの牢を確認して、最後に見つかった奥の牢。
そこには、大丹羽蛮が眠っていた。
「‥‥蛮っ!!」
力一杯扉を蹴り飛ばし、リスターが中に飛込む。
「あ‥‥ダーリ‥‥ン‥‥」
意識が朦朧とし、焦点の定まらない瞳。
「こんなに衰弱して‥‥もう大丈夫だ!!」
しっかりと蛮を抱きかかえ、いよいよ脱出‥‥。
●ところがどっこい!!
──脱出経路
弱っている貴族達を誘導しつつ、敵と戦いそれらを迎撃し、船まで戻る。
来るときよりも周囲に気を使わないとならない。
「アイヤーっ!!」
突然奇声を上げつつ、武道家が二人眼の前に現われる。
其の手には見た事もない不思議な武器。
「ここから先は一歩も通さないアル!!」
「シルバホーク様に手向かう愚かな冒険者には死を!!」
そう叫びつつ突撃していくが、リョウと不破のタッグの前には一進一退。
激しい剣戟の中で、全てを終らせたのはロートのライトニングサンダーボルトであった。
リョウと不破がうまく少女達を直線上に誘導し、ロートが高速詠唱でとどめを差した。
手加減できる相手ではなかったが‥‥やはりやりきれないものを感じる一行。
「‥‥ふん。使えない餓鬼共だな‥‥」
そう先から聞こえてくる声。
一人の男と、二人の少女。
その男の手には、『深紅のカリバーン』が握られていた。
「貴様‥‥ゼロか!!」
ロックフェラーがそう叫んだと同時に、少女達は慈悲の笑みを浮かべた。
「ロックフェラー。マイスター・トールギスの最後の弟子か。噂には聞いている。『駄作』しかつくれない弟子とな‥‥」
その声と同時に、ロックフェラーはモルゲンステルン2号を引き抜く!!
「駄作かどうか、貴様が受けてみろ!!」
そう叫びつつ走り出すロックフェラー。
「少女達は引き受けた‥‥」
「お前が其の手で引導を渡してこい!!」
リョウと不破が『エンジェルモード』の少女達と相対峙した。
そして後方では、レイルとリスター、ロートが貴族達のガードにはいるが‥‥。
「‥‥あれはチャイルドなのか?」
そうリスターが呟く。
「違うのか?」
「ああ。なんていうか‥‥恐怖を感じないな‥‥」
手練れのアサシンガール達と戦ってきたリスターには、目の前のチャイルド達が『失敗作』に見えていた。
「なら、この戦いは勝てたな‥‥」
次々と大技を駆使してくるチャイルドと、それらを軽々と受け流していくリョウと不破。
この戦いも、最後にはレイルのディストロイとロートのライトニングサンダーボルトで決着がついた。
だが‥‥。
──ヒュンヒュンッ!!
「使えない‥‥実に使えない」
ロックフェラーの自慢のモルゲンステルンが布のように切断されていく。
「くっ‥‥なんだその切れ味は‥‥」
「人の魂を練りこんだ武具。この刃の前には、切れないものはなにもない‥‥」
そう叫んで、ロックフェラーに向かってさらなる一撃を叩き込もうとするゼロ。
──ガキィィィィン
だが、それは突然飛んできた一振りの剣によって弾かれる。
──ドシュッ
そしてロックフェラーの足元に突き刺さった一振りの剣。
「これは?」
そう呟いてそれを引き抜くと、ロックフェラーは素早く身構えた。
「どこの誰だかしらないが‥‥借りるっ!!」
「そんなナマクラが通用するかぁぁっ」
──ガキィィィィン
勝負は一瞬。
すれ違い様にロックフェラーの叩き込んだ一撃は、深紅のカリバーンを一撃で粉砕していた。
そしてゼロの肉体に一撃を叩き込んでいた。
「そんな‥‥馬鹿な‥‥」
──ドサッ
その場に崩れおちるゼロ。
「‥‥悪いが、あんたは投獄させてもらう。その罪を償ってもらう」
ロックフェラーがそう告げ、ゼロを縛り上げる。
「しかし、どこの誰が‥‥」
不思議な柄を持つ剣。
どこか東洋の雰囲気を感じさせるそれを、ロックフェラーはしげしげと見る。
「ほう。三鈷双剣とは‥‥珍しいな」
不破がそれを見て呟く。
「三鈷双剣?」
「不動明王の剣で‥‥まあ、詳しい話はあとだ」
と、突然その剣がスーッと消えていく。
「うおおおっ!! 消えた」
同様するロックフェラー。
と、リョウが皆にさらなる注意を促す。
「まだ先は長い。それに『御客様』だ‥‥」
さらなる敵が、回廊の向うから走ってきていた‥‥。
●そしてパリ
全てが終った。
敵の殲滅作戦。
これにより無益な血がかなり流れた。
救えなかったチャイルド達もいた。
それでも一行は、無事に戻ってきた。
冒険者酒場『マスカレード』では、蛮の体力も快方に向かっている。
生き残ったチャイルド達は皆捉えられ、投獄されている。
ゼロの残した遺産である『カリバーンの製造方法』やそれに関する道具は一切見当たらない。
これで、カリバーンに関する秘密はロックフェラーとクリエムのみが知る事となった。
「‥‥ずっと‥‥待っていたんだよ‥‥」
ベットでそう呟く蛮。
「ああ。俺も‥‥待たせてしまったな‥‥」
リスターが優しく口付けをする。
「もう‥‥話さない‥‥ずっと一緒‥‥」
そのままベットの中で、愛を確かめあう二人。
いつまでも、どこまでも‥‥。
──場所は変わって酒場
「深紅のカリバーンの攻撃を受止め、さらにそれを破壊するだけの力を持つ剣‥‥」
ロックフェラーは悩んでいた。
「この剣もかなりいい武器なんだが‥‥これよりも凄いのか?」
リョウがそう告げて『ウェルキンゲトリクスの剣』をロックフェラーに見せる。
不破もまた、『新藤五国光』をロックフェラーに見せたが、やはりどちらもカリバーン相手では瞬殺であろう。
「不動明王‥‥神代の剣か‥‥しかし誰が?」
そう告げるロックフェラー。
「さあな‥‥ただ、俺達にとって、敵ではないだろうさ‥‥」
リョウがそう呟きつつ、店の外に出て行く仮面の女剣士を見つめつつ、そう呟く。
その腰には、三鈷杵が下げられていた‥‥。
〜Fin