●リプレイ本文
●命の価値と仲間の絆
──冒険者酒場・マスカレード
「全く。どうしてこう、厄介な仕事を持ってきますかねぇ・・・・」
情報屋のミストルディンは、頭をポリポリとかきつつ、テーブルの上の羊皮紙をじっと睨みつけている。
その場には、リスター・ストーム(ea6536)とネフィリム・フィルス(eb3503)の二人がおり、それぞれがニライについての情報を求めていた。
「さてと。まずリスター、ニライの現在捕まっている場所はここ、王宮内離れにある『異端審問官の詰め所』の地下。牢獄になっている所に囚われているわね。内部構造は一切不明、あそこに潜り込むだけの勇気は持ち合わせていないわ」
そう告げながらも、概略を地図に書き込むミストルディン。
「アザートゥスみたいなごろつきが異端審問官になるなんてねぇ。その背後で手引きしている奴は?」
ネフィリムの問いに、ミストルディンは一言。
「ノルマンにある黒の教会の一つ、南方にある『エヴァンジル教会』の司祭が、アザートゥスを異端審問官に推薦、それを認可して権限を与えたのが、ノルマン施政官の一人であるアンブル卿ですね。彼はヨグ卿の従兄弟でもありますから、アザートゥスについては色々と話を聞いていたのでしょう」
その言葉を脳裏に叩き込む二人。
「これは推測なんだが。異端審問側の不当性を示す証拠や資料を入手出来そうな保管場所、それらについて心当りは?」
「あるとしても、異端審問官詰め所しかないわねぇ。それ以外の所に隠してあるとは思えないし。もしあるとしても、シャルトルの『エヴァンジル教会』程度しか想像が付かないわよ・・・・ちなみにその教会の場所は・・・・」
別の地図にエヴァンジル教会を書込むミストルディン。
その場所、なんとシャルトル南方のさらにはずれ。
「・・・・彼が異端審問官になる際の審査になにか不正が在ったとか?」
「あったかも。でもねぇ・・・・それを証明するものがどこにもないわよ。今からそれを探してと言われても時間かかるわよ・・・・。エヴァンンジル教会まで往復するだけで8日。調査に最低7日は欲しいわね」
それでは時間がない。
「なら、あとはこれしかないのか・・・・」
バン、と羊皮紙の把を叩くネフィリム。
「それは?」
「あたしの世話になっている海戦騎士団の署名。一応ニライさんを信じている人たちのを集めてきたから、これを手にヨハン大司教の所に直談判に向かうしかないわねぇ・・・・」
そう告げるネフィリム。
「そっちは任せた。こっちはこっちで、ニライを助け出す!!」
そう告げて、リスターは外に飛び出した。
──聖サン・ドニ寺院別院
小さな花畑に囲まれた小さな寺院。
パリ郊外のサン・ドニ寺院の別院として作られ、サン・ドニで学んだ子供達が次に訪れる聖なる学び舎。
そこの庭で、オルフェ・ラディアスとクリス・ラインハルト(ea2004)の二人は、シスター・ディアマンテと謁見を許された。
「失礼します。シスター、お茶をお持ちしました」
シャルトルのセーヌ・ダンファンにいたアサシンガールの一人『マティエール』も、今はここにお世話になっていたようである。
「マティエールちゃん。もうすっかりよくなったみたいだね☆」
「はい」
とまあ、愉しそうな会話の中、オルフェはシスター・ディアマンテから、今回の異端審問の正当性について問い掛けていた。
「・・・・アザートゥス異端審問官の行動など、全てにおいて今ひとつ納得が行かないのです・・・・」
「でしょうねぇ。彼等『アザートゥス』率いる異端審問官についてですが、彼等はとある貴族とその背後にいる司祭から『ノルマンにはびこる悪魔を廃除せよ』という使命を受けています。それを下した貴族はノルマン施政官の一人であり、ニライの上官でもある『サー・アンブル』と、彼の信仰する司祭『ファザー・ラファール』です」
そのシスターの言葉を次々とメモしていくオルフェ。
「どうしてニライさんが?」
「彼女が悪魔と取引きをし、オーガの子供を助けたという情報が裏ではもうかなり流れています。そして一連のシルバーホーク関係、その背後の悪魔ヘルメスの存在、ニライ査察官は悪魔と深く関りすぎてしまったのですよ・・・・」
「サー・アンブルとファザー・ラファールについて教えて頂けますか?」
そう問い掛けるオルフェ。
「サー・アンブル。シャルトル南方のエルハンスト領下自治区『アンブル』の統治官。そして『エルハンスト・ヨハネス』の側近にしてノルマン施政官の一人。ファザー・ラファールはその地のセーラの教会の司祭です。そして二人とも、裏の顔は『セフィロト騎士団』のメンバーです」
その言葉に、クリスとオルフェは絶句。
「何処かで聞いた名前・・・・」
「そう。なにか・・・・駄目だ、誰かがそんな話をしていたような・・・・」
恐らくはシャンゼリゼでの冒険者達の噂話なのであろう。
「いずれにしても、彼等が背後に居る以上、一筋縄では動きません。もっとも、ニライさんも切り札があるからこそ、静かに捕まっているのでしょうけれどねぇ・・・・」
そう告げるディアマンテ。
だが、それ以上は何も語らなかった。
──冒険者ギルド2階執務室
ギルドマスター不在の為、幹部がレイル・ステディア(ea4757)の相手をしている。
──バサッ
先日の予言事件で貰った手袋をテーブルの上に差し出すと、レイルは静かに話を始めた。
「これは友好の印と聞いた、国の安寧の為に奮闘した俺達冒険者の我侭に少し耳を傾けて欲しい。良き隣人を失うのはギルドにとっても痛手だろう」
そう告げると、レイルは副官の反応を待った。
「意見を告げよ」
「ニライ・カナイ査察官を助ける為に必要だ。このノルマンにある『ジーザス教黒』の最高位への謁見許可が貰いたい」
「すぐには出来ぬ。我等ギルドがいかな力をもっていても、ジーザス黒教会に対しての謁見許可は申請してから審査を受けねばならぬ。黒教会に顔の効く貴族であるならば、いかようなこともできよう。だが、このノルマンで、ジーザス黒を信じている貴族がどれほどいるとおもう?」
その副官の言葉に、レイルは下がらない。
「ならば教えてくれ。ジーザス黒を信仰している貴族を」
「やれやれ。紹介できたとしても、いまはその者はこの世にはいない。グレイファントムという名前に聞き覚えは?」
ある。
「・・・・それ以外はいないのか?」
「紹介は出来ない。私の知る限りでは、彼だけだ」
その言葉から、それ以上の真実は問えない。
レイルは止むを得ず、外に出ていった。
──その後
「・・・・レイルさん、アザートゥスの背後の教会、わかりましたよ」
ブラックウィング騎士団の一人が、レイルの元に報告にやって来る。
元々レイルは、ニライの部下にそれらについての情報を探してきて欲しいと頼んでいた。
そしてようやく手に入った情報が一つ。
「それは何処なんだ?」
「ここから4日のシャルトル南方・エルハンスト領です。そこの『黒教会』が、アザートゥスを後押しして異端審問官として任命しました。その後継者には施政官も関与しているらしいです」
その言葉を聞いて、レイルは絶句。
「・・・・時間がない・・・・畜生!!」
取り敢えず、それらの情報を手にマスカレードへと向かうレイル。
そしてそこにいた面々との情報交換を行ない、今後の作戦を考えることにした。
●真実
──パリ・ニライ宅
「何か・・・・絶対に何かある筈。絶対にニライを救う手だてが・・・・」
カンター・フスク(ea5283)は、ニライ宅を来訪し、そこの執務室で様々な文献資料書類と戦っていた。
ここには良く来ていた為、執事もカンターを信頼し、執務室に案内してくれたのである。
「ここ最近のニライの仕事は?」
「シャルトル南方のエルハンスト領内部査察での報告書を・・・・それは・・・・と、これです」
そう告げて、カンターに書類を差し出す執事。
「・・・・南方の最南端。すぐ近くに隣接しているのは旧グレイファントム領と未探査地域と・・・・」
どこかにかならず綻びがある。
それを信じて、カンターはただひたすら調査を続けていた。
だが、エルハンスト領については、怪しい点は存在しない。
むしろ、どこにでもある普通の領地であり、旧グレイファントムや南方のオーガの軍勢とも互角に戦っていたという実績すらある。
自治領には10名のセフィロト騎士団と、その配下である遊撃騎士団100が配置されており、治安は当然ながら、多くの領民にも親しまれている。
「にもかかわらず・・・・どうしてニライは?」
それらの書類の最後に、ニライの残した筆跡で『要注意観察』『情報提供協力者:ヨグ・ソトース卿』の文字が記されていた。
「執事どの。これ、なにか解らないか?」
そう告げて執事に書類を見せるカンター。
「・・・・これですか。残念ですが、私には詳しい事は判りかねます・・・・」
それ以上の情報を得ることは出来なかった。
●頼みの綱
──シャルトル・プロスト領
大勢の人たちでごった返しているルプロスト領。
その奥に在るプロスト城では、現在とある話し合いが行なわれていた。
「・・・・成る程。事情は理解できました」
プロスト辺境伯の執務室で、薊鬼十郎(ea4004)がプロスト辺境伯に一連のできごとを説明していた。
その上で、鬼十郎はプロスト卿に協力を仰ぎに来ていたのである。
「以前ニライさんは酒場で、『もし私に何か在った場合、シャルトルの『プロスト辺境伯』の元に報告してくれ』と言っていました。もし、ニライさんを助ける方法があるのでしたら、お力を貸してください」
そう哀願する鬼十郎。
「そうですねぇ・・・・まあ、私が直接伺えば構わないのですけれど・・・・今のこの地を離れるというのは無理でしょうから・・・・」
そう告げて、プロスト卿は窓の外をじっと見た。
ちょっと離れてはいるものの、旧街道付近の森にまで侵食している『漆黒の巨大な球体』。
それがなんであるのか、鬼十郎は直に理解した。
「まさか・・・・破滅の魔法陣?」
「ええ。ここ最近になって急速に膨れあがりました。近くの村人達も、私の街に避難してきています。ですから・・・・」
そう告げて、プロスト卿は一枚の羊皮紙を取り出し、何がを書き込んでいく。
そしてチェストから小さなペンダントを取り出すと、それを布に包んで鬼十郎に羊皮紙と共に手渡す。
「どうせ貴方たちのことです。強引にでもニライ卿を救出するのでしょう。その時はこれを使ってください・・・・」
その羊皮紙を見たとき、鬼十郎は全身の力が抜け、鳥肌が立った。
「・・・・え・・・・あ・・・・こ・・・・これ・・・・」
「シーッ。大切な物ですから、懐にしまっておいてくださいね」
聖ヨハン大司教とプロスト辺境伯の署名入り身元保証書。
それがある限り、異端審問官がニライに手を出すということは、聖ヨハン大司教を、ノルマンのセーラの使徒を敵に回すことになる。
それを受け取ると、鬼十郎は急ぎパリに戻っていった。
●強行作戦
──パリ・異端審問官詰め所
深夜のパリ。
コソソソソツと闇に紛れて建物に近寄る影が二つ。
「・・・・」
「・・・・」
こっそりと見張りに見つからないように裏口に回りこむ。
建物がすでに王城内にある為、建物の外に歩哨はついていない。
(・・・・随分と頑丈な鍵だが・・・・)
扉に掛かっている鍵を『いとも簡単に』外すと、リスターは扉の向うの音を確認。
(中の様子がわからないですけれど・・・・)
クリスがリスターにそう耳打ちする。
(いない。いたらその時だ)
そう呟きつつ、静かに扉を開くリスター。
──キィィィィィィィッ
ランタンの油を垂らしていた為、殆ど音はしない。
そして静かに中に人が居ないのを確認すると、二人はそのまま地下の牢獄に向かった。
──ニライの独房
鉄の柵がしっかりと作られ、そこに扉が填められている独房。
いくつもある独房には、かなりの人々が収容されていた。
その中の一番奥に、ニライは閉じ込められていた。
そーーっと他の人々に気付かれないよう、二人はそっとニライの元に向かう。
と、奥で毛布の上に座り、じっと通路を見ているニライの姿を確認。
「・・・・全く・・・・」
二人の姿を見て、ニライは瞳を細くしつつ、ニャッと笑いながらそう呟いた。
「おい、助けに来てやったぞ・・・・小さくてもイイ女だからな、アンタは」
「大丈夫ですよ。口の悪いしふしふ一人抱え込む余裕くらい、ボクたちまだ持ってるですよ☆」
そう告げる二人だが。
「ふむ。そうだな。では帰るとするか」
あっさりと告げるニライに、クリスとリスターは忘然。
「ちょっと待て。ニライ、ずいぶんとあっさりというようだが・・・・まさか、迎えに来るのを待っていたのか?」
「ああ。一人で帰ると危険だしな。きっと来ると思っていた。それに、切り札を使うタイミングも必要だし・・・・」
──ギィィィィッ
ニライの言葉の直後、突然上の扉が開く音が聞こえる。
「やばいっ・・・・」
素早くリスターはインビジブルを発動、クリスもまた、壁の近くでファンタズムを発動させ、その場に巨大な箱を作り、その影に隠れた。
「・・・・ニライ。貴方の処分が決まりましたよ」
そう話し掛けているのはアザートゥス。
「釈放か?」
「いえいえ。貴方は処刑です・・・・どうやら冒険者達が貴方を助けようと動いているという『密告』がありましてね。貴方には、『今、この場で』死んでもらう事になりました・・・・」
そう告げて、アザートゥスは牢の鍵を開けると、懐からナイフを引き抜いてニライに襲いかかる。
──ガキィィィッ
だが、ニライは素早く腰からダガーを引き抜くと、その一撃を受止めた。
「悪いな。脱走ではなく、釈放という形で帰らせて貰う・・・・」
そう告げると同時に、リスターはアザートゥスの首筋に一撃を叩き込む。
そして意識が無くなっていくのを確認してから、クリスとリスター、そしてニライの3名は、その場を『堂々』と、出ていった。
「ニライさん。私の所に隠れてください」
帰り道で、クリスがそうニライに告げる。
「その方が良い。いつまた、アザートゥスが動くか・・・・」
リスターもそう告げるが、ニライは頭を左右に振る。
「私は人として間違ったことはしていない。セーラに誓ってそう告げよう。慈愛の神セーラなれば、私を救ってくれる・・・・心配を掛けたな・・・・」
そう告げて、ニライの家まで送ると、その場で二人はニライと別れた。
──そして
ニライは何事も無かったかの用に自宅に戻る。
但し、今までの倍以上の護衛を配置し、いつでもアザートゥス達の報復に対処できるよう。
ジーザス黒の教会が直接動くまでは、まだ当分の間ニライは安全であろう。
だが、その平穏な時間がいつまで続くか・・・・。
──Fin