【ふらりリターンズ】復帰してみよう

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月25日〜10月10日

リプレイ公開日:2007年10月03日

●オープニング

──事件の冒頭
 コツコツコツコツ
 大きな執務机の前で、プロスト辺境伯がテーブルを指で叩いている。
 眼の前には、巨大な羊皮紙と、大量の書面。
 そしてそれらと共に贈られてきた、大量の贈物が壁一杯に並べられている。
「あの‥‥お舘様。また荷物が届いています」
 そう告げて、執事長が荷物を持ってくる。
「ああ‥‥また同じ内容だろう?」
「はあ。全て同じ『ウィリアム国王王妃には、是非私を推薦してください』『我が家の長女こそ、国王陛下の妻に相応しい‥‥』といったものばかりです」
 そう告げると、執事長も溜め息一つ。
「一体、どうしてこんなことに‥‥」
 
 それは先月。
 プロスト辺境伯の家で行なわれたパーティーの会場。
 愉しい催し物が繰り広げられ、愉しい一時が贈られていた。
 そんな中、貴族達の関心は、この一つに集中した。

──ウィリアム国王の王妃となるべき女性はだれだ?

 様々な憶測が繰り広げられる中、プロスト辺境伯がついこのような事を呟いてしまった。
『まあ、王妃に相応しい女性がいましたら、私が国王の御耳にでもいれましょうか‥‥』

 まったく、このノリだけで生きている好事家領主は。

 ということもあって、困り果てたプロスト辺境伯の取った手段は‥‥。


●冒険者ギルド
「おはらっ‥‥ンガンガ」
 あー、あぶない。
「あら、プロスト辺境伯ご無沙汰しています。今回はどうかなさりましたか?」
 ご無沙汰の受付嬢ペリエ・ウィンズがそうプロスト辺境伯に問い掛ける。
「うーー。ちょっと依頼を‥‥これを頼む。報酬はこれで‥‥」
 とつげて、そそくさと退場。
「あら‥‥これは‥‥私も応募しようかしら?」
 あのーペリエさん、貴方、確か好きな冒険者がいらっしゃった筈では?

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4004 薊 鬼十郎(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 いい天気。
 ノルマンはパリ。
 いつものように市政官ニライ・カナイ宅には、これから冒険に出るのであろう冒険者が集ってきていた。
 というのも、ここしばらくの間、ニライ市政官管轄の事件がなりを潜めているからである。

 破滅の魔法陣、南方・竜の民、シルバーホーク残党‥‥

 数をあげればきりがないが、どれもこれもここ最近は静かなものである。

●近況ってどんな食べ物? え? 食べ物じゃないって?
──ニライ宅・執務室
「どうぞ。今年最高のハーブから作り上げたハーブティーです。こちらは口直しの蜂蜜パン。では、私はこれで失礼します」
 屋敷を取り仕切っている執事が、中で座っていた一同にそう告げて退室する。
「さて、色々と話は聞いている。ここしばらくの、私の管轄で起こっていた事件の動向だろう?」
 そう告げるニライに、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)とテッド・クラウス(ea8988)が静かに肯く。
「私達が体験したことは‥‥」
 そう告げて、ヘルヴォールは自分が体験したここしばらくのことを説明、テッド・クラウス(ea8988)もヘルヴォールの話の後に、ゆっくりと話を続けていた。
「成る程なぁ‥‥色々とオモシロイ事になっているのだな。では、こっちの報告を‥‥このパリ市内では、それほど目立った事件はないな。だが、市外では色々といそがしいことが発展している」
 ということで、ここ最近の事件一覧。

・破滅の魔法陣さらに拡大
・ノルマン競馬村の半分が『破滅の魔法陣』に呑み込まれる
・シャルトル南方、エルハンスト領に繋がる街道は『破滅の魔法陣』に呑み込まれる。このため、移動方法は旧街道のみとなる
・旧街道、新街道を中心に、謎の盗賊旅団『真紅の悪魔』が活動中
・謎の吟遊詩人『ミッツォ・アイーダ』、各地の酒場で『生きる』を唱える
・ノートルダム大聖堂のシスター『セトゥチ・ジャクソン』、ノルマン各地の教会で『愛』を唱える

「‥‥破滅の魔方陣がそこまで広がっているとは‥‥」
 じっと地図を見つめつつ、ヘルヴォールがそう呟く。
「ニライ殿、一つ聞いていいですか?」
 テッドがそう問い掛けると、ニライは静かに肯く。
「ああ、構わないが」
「剣士の居留地は無事なのでしょうか?」
「既に魔法陣の呑み込まれている。マスター・オズ殿達は、プロスト城城下街に一時避難している‥‥」
 どうやら、かなり酷い状況になっているようで。
「つまり、剣士の修行はプロスト城城下街に向かうという事か‥‥」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)もそう呟くと、ニライがコクリと肯く。
「そういうことだ。あのやんちゃ娘も一端の剣士になっているからな、うかうかしていると、紋章剣の正式継承者になってしまうぞ?」
 ニライのその言葉は、剣士候補生達にどんな影響を与えるのだろう。
「で、ニライ殿、ガールズ達になにかその後変化は?」
 そう問い掛けているのはセイル・ファースト(eb8642)。
「特になにも。セーヌ・ダンファンにいる子供達は皆元気に育っているし、すでに養子に出ていった子供達も頑張っている。必要ならば、直接見に行ってこい‥‥」
 ということで、ニライはセイルに紹介状を手渡す。
「助かるぜ。これで彼女達に会いに行ける」
「あのー、ニライさん、魔法陣についてですが、あの手の魔法陣の制御方法について見聞はないですか?」
 そう問い掛けているのは薊鬼十郎(ea4004)。
「其れについてだが、今現在、ミハイル研究室の『シャーリィ・テンプル』が古い石碑などを解析し、魔法陣の解除方法を探している。どうやら中和する魔法試薬も必要らしいのだが、それについての製法が‥‥暗号化されていてよく解らないらしい」
 腕をくんでそう呟くニライ。
「暗号解読なら、この俺の出番だな‥‥」
──キラーーーン☆
 輝く前歯、優しい笑顔。
 とっても熱いクールガイ(どっちだ)。
 御待たせしました、皆さんのラシュディア・バルトン(ea4107)でございます。
「まあ、ミハイル教授のいない現在、あの研究室はシャーリィが支えているからなぁ。ラシュ、色々と協力してやってくれ」
 そう告げるニライ。
 だが、ラシュディアはちょっと不満そうである。
「ニライ市政官。その『ラシュ』っていうの止めて欲しいのだが。どうも発音というか、イントネーションが違うような‥‥」
「そうか? まあ、気のせいだ気にするな」
 と告げて、再び話を続けるニライ。
「あと、破滅の魔法陣なんだが‥‥ここ最近、といっても半年ぐらい前に、パリの町の中で起こった小規模の魔法陣展開事件、あれも破滅の魔法陣でいいんだよな?」
 そう確認していのはセイル。
「ああ。詳しい情報はないが、色々と厄介な事は確かだ。と、そういえばセイル、外に客が来ていたぞ」
 そう告げられて、セイルは軽く挨拶をして先にシャルトル方面に移動していった。
 そして残った一行もまた、情報を交換した後、目的地に向かって歩き出した。



●ワルプルギスの夜
──シャルトル・プロスト領内、とある森
「静かに。意識を集中‥‥掌の中にオーラを集めるイメージで‥‥」
 そう告げつつ、目の前に座っている冒険者達の手の中のオーラを見ているのはマスター・オズ。
 パリを出発してから、デュランダルとテッド、ヘルヴォールの3名はマスター・オズの元に合流、そこで紋章剣士としての修行を開始した。
 とりあえず久しぶりという事で、3名はオーラの具現化からスタート。
 元々オーラを使いこなしていたデュランダルとテッドの二人は、そこそこにオーラの具現化はできていた。
 が、ヘルヴォールは今ひとつうまくいかない。
 以前よりもオーラを練り上げ、それを体の中でコントロール出来るように放っている。
 が、それでも今ひとつである。
「ヘルヴォールさん、こうですよ‥‥」
 そう告げる、『仮面』を付けたツインテールの少女。
「判って居るわよブランシュ。まったく、半年も見ていないと思ったら、随分と成長したわね‥‥」
 そう告げて、ヘルヴォールは手の中に出来たオーラの塊をブランシュに投げ付ける。が、練りあげられていないオーラの塊は、直に目の前で散ってしまう。
「私は、ここでずっと修行を続けていたんですからねっ。オーラとは何か、紋章剣士とは。そしてオーラの鷹揚で、私は随分と大人になったのですよ」
 そう告げるのもごもっとも。
 以前よりも身長も伸び、女性として出るとこは出てきて引っ込んでいるとこはさらにくびれてきた。
 これで『ほーちゃん』も悩殺だといわんばかりの成長ぶりである。
「さて、テッド、次は『白虎』を使った実地訓練に入りなさい。デュランダルも『蟹』を使って‥‥ヘルヴォールは『疾風』を持ってブランシュと型の訓練を」
 マスター・オズはそう告げると、それぞれに『紋章剣』を手渡す。
 当然ながら、ブランシュも一振りの紋章剣を手にしていた。
「ほう。ブランシュもついに紋章剣士として認められたか?」
 そう告げるデュランダルに、ブランシュはニィツと笑う。
「メイスさんが回収してきてくれた『激震』。一応今は私が激震のマスターになっているんだよ」
 いたずらっ子のように告げるブランシュ。
 そして一行は、ゆっくりと構えを取ると、紋章剣に向かって意志を併せる。
『白虎と心を通わせる‥‥白虎、僕に力を‥‥オーラと共にあらん事を』
 そう心の中で呟くテッド。
 その心に呼応し、白虎の柄からオーラの刀身がうまれ出した。
 大きさはロングソード位、いい形の刀身である。
──ヴーーーーーーーーーーーーーーーーーン
 低い振動音を上げている白虎。
 そしてそれを振りつつ、テッドは一つ一つの型の訓練を開始した。

──一方の
「‥‥まあ、以前よりはうまく使える‥‥だろう?」
 目の前で身構えているメイスに、デュランダルがそう問い掛ける。
「さあな。まあ、『蟹』の特性が何となくわかってきたという所だろう?」
 そう告げると、デュランダルはオーラを練り上げ、紋章剣に集中。
 そして『蟹』の柄からオーラが溢れ出すと、それは全身をゆっくりと覆っていった。
「tオーラを練り上げた『蟹の鎧』か。いい所まで練り上げているが、まだそれは『オーラボディ』となんら変わりはないな‥‥」
 メイスの手にしている紋章剣の、柄のほうにも刀身が生み出され、双剣モードになる。
──ジッ!! バヂッ!!
 ぶつかりあう刀身。
 弾けるオーラ。
 メイスの執拗な攻めに、デュランダルも少しずつついて行けるようになってきたようで。

──そして
 ヒュンヒュンツ
 風を切るオーラの刀身。
 細身のレイピア状態を維持しつつ、ヘルヴォールが目の前のブランシュを攻めつづける。
「どうやら、一撃よりも数の攻防の方が、『疾風』には向いているみたいね」
 そう告げて、次々とブランシュを攻めるヘルヴォール。
「ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁ。こっちも本気で行くから」
 ブランシュもそう告げると、『激震』の柄にオーラを注ぐ。
 やがて、そこからは巨大な刀身が生み出される。
 刀身だけの長さは2m。
 それをゆっくりと構えて、そして瞬時に激しい斬撃を叩き込んでいくブランシュ!!

──ドゴッ、ビジィッ、バギィィィィィィィィィィィィィツ
 
 激しい音と飛び交うオーラ。
 それらをギリギリで躱わしつつ、ヘルヴォールも連撃を繰り出している。
「いい感じ。久しぶりに調子が戻ってきたみたい‥‥」
 
 そして、それぞれの訓練を見ていたマスター・オズは、ニコリと笑うとこう告げた。
「そろそろ、正式継承も可能かのう‥‥」
 どうかのう‥‥。



●破滅の魔法陣ランラランラン
──プロスト領
 大勢の人たちで、街はごった返している。
 シャルトル南方からの難民を受け入れたプロスト城城下街。
 そこの人ごみをかき分けつつ、鬼十郎とラシュディアはミハイル研究所に向かった。

──ミハイル研究所
「ラシュディアさん、随分と御久しぶりです!!」
 ニコニコと微笑みつつ、ラシュディアに抱きつくシャーリィ・テンプル。
「ん‥‥ああ。シャーリィも随分とご無沙汰だったな。どうだ?」
「色々と大変なのよ。とりあえずこっちを見てください」
 そう告げて、ラシュディアとシャーリィは奥の研究室に移動。
 その後ろを、鬼十郎がついて行く。
 そして行き着いた先には、大量の石像が安置されている。
「これは‥‥石化した人‥‥魔法じゃあないか‥‥どういうことだ?」
 瞬時に対象を鑑定し、そう判断するラシュディア。
「破滅の魔法陣付近‥‥旧街道で発見された『冒険者』のなれの果て。見て判るとおり、装備もなにもない、真っ裸での石化よ。石化能力を持つ魔物かナニかだと思うけれど、真っ裸っていうのがどうもねぇ‥‥」
 そう告げて戻っていく二人。
「旧街道といえば、確か結構前に『盗賊団』が出たっていいましたよね。あれはどうなったのですか?」
 鬼十郎の問いに、シャーリィが頭を左右に振る。
「どうにも。今だ盗賊団は活動を続け、通りかかる『冒険者』にのみ鉄槌を叩き込んでいるらしいわ‥‥と、ラュディアさんのさがしものはこれでしょう?」
 そう告げてから、シャーリィは数枚の石碑をラシュディアに手渡す。
「これ‥‥これは『ロイ教授』の残した断片か?」
「ええ。回収できたのはその3枚の断片のみ。でも、なんとかなるかしら?」
 そう告げるシャーリィ。
 そしてラシュディアはゆっくりと解析を開始。
「‥‥結界破壊の魔法薬。スープと呼ばれる魔法のポーション‥‥4つの命と引き換えの儀式‥‥って、悪魔と取引きするかんじだな‥‥ここまでは瞬時に判ったが、どうも難しい」
 そりゃそうだ。
「この研究所に安置しておきますから、いつでも見に来てくださいね」
 そう告げられ、ラシュディアは静かに肯いた。

──場所はかわって、プロスト辺境伯のお城
「さて、これが街道を越える為の許可証、こっちが魔法陣に近付く為の手形です‥‥」 
 そう告げて、プロスト辺境伯は鬼十郎とラシュディア、セイルの三人に通行許可証などを手渡す。
「ありがたい。助かるぜ」
「一刻も早く、魔法陣を消去しないといけませんからね」
 ラシュディアと鬼十郎はそう告げて、プロスト辺境伯に頭を下げる。
「ええ。その通りです。今の所は特に変化なく、ここ一ヶ月は魔法陣が拡大するということも起こっていません。時折、腕に自慢の冒険者が魔法陣に向かって走っていくらしいですが、魔法陣から突然現われる『闇の腕』に捕まって引きずり込まれてしまうらしいですから‥‥」
 その言葉に、二人は息を呑む。
「ロイ教授の遺産、プロスト辺境伯の所にはないのか?」
「ありませんねぇ。けれど、時折『闇オークション』では石碑断片が出展されているようですよ。興味がありましたら、今度参加してみるといいでしょう」
 セイルの問いにそう告げるプロスト辺境伯。
「では、その時は頼む!!」
 そう告げると、セイルは再びプロスト辺境伯に質問をする。
「実は‥‥」
 そう切出し、セイルは自分が見た『アサシンガール達』の背中に浮かび上がる刻印について説明をする。
「‥‥ということなんだが。それらを解除する方法はないか?」
 そのセイルの言葉をゆっくりと頭の中で反芻すると、プロスト辺境伯はゆっくりと解答を告げた。
「現時点では、私でも不可能。悪魔系の魔術の秘儀か何かであろうから、それを設置した悪魔が解呪するか、もしくはそれを刻みこんだ悪魔自体を消滅させるか‥‥」
 その言葉に、一同は息を呑む。
「ああ‥‥そうか。あと一つ。ヘルメスと対峙した時、奴の言っていた神殺剣というモノを知らないか?」
 その言葉に、プロスト辺境伯はなにかを思い出し、ゆっくりと話を始めた。

 それは、このノルマンより遥か東方、インドゥーラという国の昔話。
 
〜遥かな昔、三柱の神々が発生したとき、彼等の影から闇の神々と言われる者達が生まれ、世界を混沌の中に追い込んだと言われています。
 生まれ出でた暗黒神は、アシュラからは破壊神シヴァ、セーラからは混沌神ラリィミューン、タロンからは司法神アートモニッヒと伝えられています。
 しかし三柱の神々より大いなる力を授けられたアミジースと言う名の少年が、カリスマレスという名の剣をもち、暗黒の神々と1000日間渡る戦いを繰り広げました。最後に彼は自らの命と引き換えに暗黒の神々を一つの箱の中に封印しました。
 この箱はパンドーラの箱と呼ばれ、名剣カリスマレスが形を変えた物と言われています。この箱が開かれるとき、パンドーラの箱は剣に戻り、再び戦いの中へと戻っていくと伝えられています〜

「この物語の中の『カリスマレス』という剣が『神殺剣』。で、こちらの文字にあてはめると『カリバーン』というものになるそうです。つまり‥‥」
「神殺剣カリバーンか‥‥」
 ラシュディアがそう呟くと、プロスト辺境伯はコクリと肯く。
「えええーーーーっと。整理整理。で、ということは、その神殺剣っていう剣は、インドゥーラでしか作られないっていうのか?」
 セイルがそう問い掛けると、プロスト辺境伯は頭を左右に振った。
「インゥードラという国では、特別な魔法武具を作りつづけている『鍛冶屋の村』というのがあると、以前パラディンのフィームさんから伺いました。そこで認められた鍛冶師は、世界各地でその腕を振るっているとかで、このノルマンにも、『鍛冶屋の村から出た、神殺剣を打ち出す事の出来る鍛冶師』というのが存在するそうです‥‥」
 その言葉に、セイルは表情を明るくした。
「そ、そいつは?」
「名工トールギス。今はその技術を継承している『マイスター・クリエム』と『ブラックスミス・ロックフェラー』が居ます。二人ならば、あるいは‥‥」
 セイルにも聞き覚えのある名前。
 そしてその場にいる誰もが知っている、 二人の鍛冶師。
「‥‥そういうことか。希望は十分にある。では、俺はちょっと席を外させて貰うぜ」
 そう告げて、セイルは外に飛び出した。

──ギュンター君の個室
「ぎ‥‥ぎゅんたーーくーーーーん」
 なみだを浮かべつつギュンター君の元に駆けていく鬼十郎。
 今だギュンター君は石化したまま。
 どこも変わらず、そのままのギュンター君である。
「待たせてごめんね。でも、もうすぐ、もうすぐだよ。必ず助けるから‥‥また一緒に歩こうね」
 そう告げて、石化したギュンター君の頬をそっと撫で上げる鬼十郎であった。

──セーヌ・ダンファン
 沈黙。
 亡くなった子供達の墓前に、セイルは静かに祈りを捧げる。
 プロスト辺境伯の元を離れ、セイルは単独で(といっても、悪鬼とアンリエット、護衛騎士2名は同行)セーヌ・ダンファンにやってきていた。
「では、俺達はこれで。クリスがまた近いうちに遊びに来ると思いますので‥‥」
 そうバルタザール延長に告げるセイル。
 ここに来るときも、セイルはクリスからの紹介状を持ってきていた。
 その為、話はスムーズに終ったのである。
「ええ、いつでもどうぞとお伝えください。『貴方の妹』達も、元気にしています。いつも貴方のことをお話ししているのですよとね」
 ここの少女達にとって、クリスはお姉さんなのである。
「了解した。確実に伝える‥‥では」
 そう告げて、入り口の外で待っているラシュディア達と合流。
 一行はいよいよ『南方・破滅の魔法陣結界直前』へと旅立った。



●剣士の称号
──シャルトル・プロスト領内、とある森
 試しの儀式。
 本来、ワルプルギスの剣士は、紋章剣に問い掛けるという『試しの儀式』が存在する。
 現在、正式伝承者が認められているのは以下の剣のみ。

白鳥 :マスター・オズ
無命 :マスター・メイス
龍  :伝承者行方不明
蛇  :伝承者行方不明

 それゆえ、残った剣の伝承者を決める必要がある。
「‥‥つまり、私達にそれを行なえと?」
「試しの儀式か‥‥」
「それはいつ頃なのですか?」
 ヘルヴォール、デュランダル、テッドがそうマスター・オズに問い掛ける。
「年内‥‥早ければ、来月にでもというところじゃろうなぁ‥‥」
 ホッホッと笑いつつ、そう告げるマスター・オズ。
「随分と早いな‥‥何かあるのか?」
 デュランダルがそう問い掛けると、横に座っていたマスター・メイスが静かに一言。
「破滅の魔法陣を破壊する為には、どうしても必要なこと‥‥悪魔を討つ」
 そう告げると、メイスが一枚の地図を開く。
 巨大な破滅の魔法陣と、その周辺地図が記されている。
「このままだと、年内にはこのシャルトル地方全てが破滅の魔法陣に呑み込まれる。それを阻止しなくてはならない‥‥」
 ゴクッと誰もが息を呑む。
 この戦い、シャルトルに住む大勢の命が掛かっている‥‥。



●破滅の魔法陣
──破滅の魔法陣最前線エリア
「‥‥まあ、色々なことがありましてと‥‥」
 遠くを見つめつつ、悪鬼が誰にということもなく呟く。
 彼の足元には二人の死体が転がっている。
「何が『色々な』だ。素直に『盗賊団に襲われた』と言えっ!!」
 息を切らせつつ、瀕死の重傷のセイルがそう呟く。
 その横では、巡礼者の杖を片手に周囲を探っているラシュディアと、その横に立って同じ様に周囲を見渡しているアンリエットの姿があった。
 ちなみにセイル、盗賊団によって瀕死になった訳ではない。
 今立っている場所に問題が在っただけのこと。
 彼等の前方『50m』には、漆黒の巨大な壁がある。
 つまり、セイルは『魂の一部』を魔法陣によって『握られた』だけ。
 奪い取られてはいないので、死ぬ事はない。
 ただ、その状態体が長く続くと、危険ではあるが。
 対悪魔装備+ヘキサグラムタリスマン。
 セイルとラシュディアはそれらを発動させていたにもかかわらず、セイルは迂闊にも魂を握られた。
 ちなみに悪鬼は、華国4千年の神秘の力によってガード(というか魔除けの護符)、アンリエットに至っては、背中の刻印が発動、破滅の魔法陣を『無力化』している模様。
 あ、護衛騎士は死にました。

「納得がいかん‥‥魔法使いでありがっちりと身を固めているラシュディアが耐えているのは判る。アンリエット、その刻印の力もまだ許せる。だが、悪鬼、なんでお前は?」
 そう呟くセイルに、悪鬼は一言。
「鍛え方が違う。もっと鍛えろ」
 だと。
「さて、これからどうするかだな? 鬼十郎、何か判るか?」
 ヘキサグラムタリスマンを大地に置き、じっとそこで意識を『護り』に集中している鬼十郎。
 ただ一転、壁の向うを凝視している。
「‥‥壁が少しずつ流動しているのが判る。その中に、黒く蠢いているものも‥‥」
 壁に見える大量の影。
 それがなんであるのか、鬼十郎には判らない。
「セイル、君には?」
 今度は瀕死のセイルに問い掛ける。
「あ‥‥ああ。影っていうか、死んだ人たちの魂が壁を作っているんだろう?」
 その言葉に、ラシュディアが壁を見直す。
 蠢いている黒い影は、確かに人の姿をしていた。
「‥‥そういう事か‥‥」
「破滅の魔法陣壁は魂を食らう。その食らった魂の力は、ここに留まり、新たな魔法陣の壁を作り出し、『魂の負の感情』を力として成長している‥‥」

──ニィッ
 
 と、ラシュディアの視界で『セイルの魂』が微笑んだ。
 ハッと気が付いて振り返ると同時に、悪鬼が悟ってセイルに向かって鉄拳!!
──ゴフッ
「死、死ぬだろうがぁぁぁぁぁ」
 そう叫ぶセイル。
「いや、死んでいたな‥‥何が見えた?」
 そう問い掛けるラシュディアに、セイルは一言。
「見えた? いや、何も見えていないが‥‥聞こえたなぁ‥‥」
 そう。
 セイルにははっきりと聞こえた。
「泣き声‥‥女性と、少女と‥‥餓えていた‥‥愛情に‥‥食事と‥‥」
 涙が溢れる。
 どうしてか判らない。
 ただ、セイルは感じた。
 魔法陣起動の時の犠牲者たちの心の悲鳴。
 ちっちゃいアイちゃんや、大勢の魂。
「ギュンター君の魂の一部も、まだ残っていたんだね‥‥」
 鬼十郎には見えた、壁の向うのギュンター君の魂。
 これが、甦生の邪魔をしているのだろう。
「‥‥ラシュディア、解放の為のキーワードは、全て断片に揃っている‥‥解けるか?」
 そう呟くのは、側で壁を見ていたアンリエット。
 だが、その声はシルバーホークである。
「解いてみせるさ」
「だが、それだけでは駄目だな‥‥」
 そう告げるとアンリエットの肉体はその場に倒れた。
──おっと
 ヒョイッと抱き上げる悪鬼。
「これ以上は限界だな‥‥ラシュディア、引き上げる」
 その悪鬼の言葉に、一行はゆっくりと振り返る。
 そして鬼十郎も見た。
 ギュンター君やデイヴ達の魂が、少しだけ壁に綻びを作ってくれていた事を。

──Fin