●リプレイ本文
●黙ってワインを作りなさい!!
──とある村
さて。
冒険者ギルドの依頼を受け手、一行はてくてくとやってきましたくだんの村。
一通りの挨拶を終えた頃にはすでにどっぷりと日が暮れている為、一行は宿に一晩泊まり、そして翌日の早朝から行動を開始した。
──注意してみよう
「いいですか。皆さんは極力、その武道家の女性には近づかないでくださいね‥‥」
井戸に集っている村人達に、セタ(ec4009)はそう説得している。
「ええ。判りました」
「でもねうちの人はいつ頃になったら仕事をしてくれるのかしら?」
「本当。早く樽を作ってもらわないと、困るのですよね‥‥」
そんな話があちこちで聞こえる。
「まあ、とりあえずは私達にお任せください‥‥」
と告げて、セタは一時その場から離れる。
「もし、酒場で聞いた情報が確かなら、相手は悪魔アリオーシュのヘルメス。俺達が戦ってみた所で、勝てる見込みは全くないからなぁ‥‥」
そうセタは集った仲間たちに告げる。
あらかじめ、ヘルメスという女性の情報については、リディアが冒険者酒場シャンゼリゼにてベテラン冒険者から話を聞いている。
それゆえ、かなり内心は危険を感じているようだが。
「もっとも、男性達はその女性の色香に惑わされているのではという話も聞きましたし、そこの所をなんとかしてみるか、若しくは正面からの交渉という方法が理想的ですね‥‥」
アミイ・オールドリッジ(ec4010)がそうセタの言葉に繋げる。
「とりあえず、1度偵察してくるのが早いだろう‥‥」
そのリディアの言葉で、セタも一緒に偵察に向かう事となった。
──まずは聞き込み
「ふむふむ。その女性‥‥『武道家の玲鈴』は、一週間前から村の外れにやってきて、野宿をしているのだな?」
そう今回の依頼人から話を聞いているのはフランシス・マルデローロ(eb5266)。
「ええ。朝は早くから、夜は日が暮れるまで、毎日男達を誘惑して‥‥」
困り果てた表情の依頼人。
「ということは。一つ御聞かせ願いたい。同じ女性として、話に出てきた武道家は男達にとって魅力的な存在だと思うか?」
そう告げられると、依頼人は静かに肯く。
「‥‥とにかく、このままではワインが作れなくなります‥‥どうにかしてください」
──一方
「つまり、朝と夕方、食糧を玲鈴の元に運んでいるのが、その『相棒の女性』ということなのね?」
カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)は別口からの情報収集。
『玲鈴』の『相棒らしき女性』についての情報を集めていた。
「ええ。そうなんです」
「あとは‥‥その女性の外見なんか教えてくれますか?」
「ええっと‥‥年齢は‥‥20歳前後ぐらいかな? 背はこのぐらいで、金髪の長髪、多分その人も武道家じゃないかな?」
そう告げる女性に、カーテローゼがさらに問い掛ける。
「どうして?」
「ええっと、以前、パリで見掛けた華国の衣服を身につけていましたから‥‥」
──さらに別の切り口から
「ギルドから来た者なのだけれど‥‥ちょっとお話を聞かせて頂けないかしら?」
今度はリディア・レノン(ec3660)が村娘さんたちに聞き込み中。
「ええ、おつとめの最中ですけれど、どうぞ」
にっこりと笑みを得浮かべ、そう告げる村娘。
「例の女武道家の元に通う男性についてなんですけれど。何かこう、変わったような様子はありませんか? 表情が変だとか、視点が定まっていないとか‥‥」
そう問い掛けられて、村娘はしばしし考える。
「まあ、鼻の下を伸ばしていますねぇ‥‥視点は、まあ特に変わった所はありませんけれど‥‥」
そう告げると、何かを思い出そうとしている。
「何か他には?」
「うーーーん、特に変わった所はないですねぇ‥‥」
どうやら、それ以上のことは判らない模様。
●鍛練
──武道家の住んでいる草原
大勢の男達が、一列に並んで何かをしている。
「ハッハッハッハッハッハッハッハハハッハッハッハッハッハッハッ」
全員が統一された掛け声を揚げつつ、正拳突きをしている。
綺麗な突き、そしてそれを、ゆっくりと歩きながら見ているのは『玲鈴』という名の武道家であろう。
「はい、そこ、腕が下がってきたわよっ☆ もっと真っ直ぐに打ち込まないと、護れる者も守れないわよん!!」
甘い声でそう男達に囁く玲鈴。
良く見ると、衣服の露出は高く、太股の部分などは殆ど全開になっている。
胸許は大きく開き、上から覗きこむと危険極まりない。
(‥‥あんな服装で不潔ですっ)
そう呟くリディアだが、セタの意見は違う。
(‥‥随分と基礎をしっかりとしているな。色香で騙しているというよりは、あれは『地』でやっているだけで、訓練自体はまともですね‥‥)
ということで、一通りの偵察を終えて村に戻った二人。
そしてその少し後で、男達も村に戻ってきた。
「ちょっといいか?」
フランシスが男達に話し掛ける。
「あ、冒険者さん達ですか、ご苦労様です。一体何かあったのですか?」
そう問い掛ける村の青年に、フランシスは話を始めた。
「お前たちは、武道家に教えてもらっているのだろう? 俄仕込みで役に立つと思っているのか?」
「何も知らないよりは。ここ最近は、ノルマンのあちこちで悪魔がどうとか言う話は聞いていますから。いつ、この村にも災厄が訪れるとも限りませんし‥‥」
と告げる青年達。
「なら、その女武道家をどうおもう?」
「真剣に、色々と教えてくれますよ。まあ、御色気があるのもありますけれど、ぼくはそれよりも『大切な人を守る技』を教えてもらっている事に感謝しています」
と告げる。
「そうか‥‥邪魔したな‥‥」
フランシスはそう男達に告げて、その場を後にした。
●そして力尽くの説得
──まずは村の外
「他人に教える位には腕に覚えがあるのでしょう?」
早朝。
カーテローゼは男達を他の仲間たちが説得している最中に、玲鈴に喧嘩を売りにやってきた。
男達がチャームされているのならば、その根幹はこの女。
根幹を叩けば、男達は元に戻るということであろう。
「ええ。御手合わせでよろしければ」
そう告げると、玲鈴は抱拳礼の構えをとり、静かにカーテローゼに対して身構える。
その構えに対して、カーテローゼも一撃必殺の構えを取って対峙したが‥‥。
(‥‥本気だ‥‥この女、本気で強い‥‥)
カーテローゼの動きが止まった。
相手がたいした事なければ、叩きのめして男集の目を醒ませられる。
が、目の前の玲鈴は、本物である。
かなりの実戦経験を積んだ、本物の武道家であろう。
間合ならば、カーテローゼの槍の間合のほうが長い。
突き、いなし、薙ぎ、払い‥‥槍の攻撃パターンは縦横無尽。
だが、どの攻撃をしかけても、玲鈴は全て返してくる。
相手の実力は、対峙した自分だからこそ判るのであろう。
「‥‥この村から手を引いて欲しい。今、この村は収穫した葡萄でワインを作るのに手一杯なんだ‥‥」
そう槍を収めて告げるカーテローゼ。
「ふぅん。でもまだ駄目。基礎がまだ終ってないわ。今休むと、型が崩れるのよ‥‥そんな半端な覚え方だと、戦いになってもただやられるだけよ」
その玲鈴の言葉にも一理ある。
騎士であるカーテローゼには、武道家として、半端な事を教えたくないという玲鈴の気持ちは理解できた。
が、ギルドの依頼という事もある。
ここで引く事も出来ない。
──村にて
早朝。
朝一番に、村の男達が武道家の元に向かう為に入り口に集っている。
そこに、いよいよ冒険者一行が姿を現わした。
「もし? よろしいですか?」
そう告げて、リーディアが女武道家の元へ行く途中の男達に話し掛けていた。
「あ、おはようございます。こんな早朝に、一体どうしたのですか?」
そうリーディア達に問い掛ける青年達。
「いいこと、皆、困ってるわ。仕事をして貰わないと困るそうです。大体その女武闘家さんのどこが良いのです?」
そう告げるリーディアに、みな口々に良い所を話はじめる。
「まあ、魅力的な所とか」
「可愛い所とか」
「ちょっとエロティックなところとか」
「強い所とか」
「うちのかみさんよりも胸がデカい所とか」
「なんといっても、武道家として、俺達に武術を教えてくれている所とかかな?」
そう告げている青年達。
「聞き入れては頂けないのですね‥‥、もしかして、チャームでもかけられているのですか?」
今度は、セタがそう告げて、持っていた小太刀の柄で一撃叩き込む!!
──ドゴッ‥‥
青年は、それをなんなく躱わそうとするが、腹部に直撃した。
「そん‥‥な‥‥筈ないでしょ‥‥」
腹部を押さえつつ、そう呟く青年。
だが、セタはその青年を見下ろして呟く。
「もし正気だったとしても、大事な仕事をほったらかしにする様な方に容赦はいりませんよね」
「それに、いまのセタさんの一撃さえ受止められない武道が、一体なんの役に立つのですか?」
リーディアが止めといわんばかりに告げる。
「それにですね。武道家さんに良いところを見せたくて修行していても、彼女はいずれ旅へと戻ってしまうんですよ? それよりは大変な仕事をしている村の女性を大事にして、ハートをゲットした方がずっと良くないですか?」
おおっと、アミィが正論を告げる。
「‥‥そうだよな‥‥あの人は、そのうちいなくなってしまうんだよな‥‥」
と、一人の青年がボソリと呟く。
そして一人、また一人と村に戻って行った。
「ふう。どうやら納得してくれたようだな‥‥」
フランシスがそう呟き、ウンウンと肯いている。
「でも、あの武道家も、適当な事をしていたわけではないみたいですし。ま、依頼はこれで完了ですね」
カーテローゼがそう告げて、その場はしめくくられた。
●そして
──村にて
男達は其の日から仕事を再開した。
武道家の玲鈴は、荷物をまとめてこの村から立ちさって行く。話では、また別の村で武術を教えるのだそうだ。
玲鈴のことを『ヘルメス様』と呼んでいた女性も姿をしてしまい、一行はゆっくりとパリに戻っていくことにした。
「それにしても、玲鈴が噂の『ヘルメス』でなくて、よかったな」
フランシスがそうつげつつ、街道を歩く。
「まあ、玲鈴さんも悪気が会ったわけではなく、天然だったという事で」
アミイがそう告げたとき、カーテローゼが街道前方から歩いてくる玲鈴の姿を確認した。
「あら、さっき分かれたときは真後ろに向かって歩いていた筈なのに‥‥」
そう告げるカーテローゼを横目に、リディアが玲鈴に手を振る。
やがて、その人は一行の近くに寄って来た。
「玲鈴さん、どうして向うから?」
そう問い掛けるセタに、目の前の玲鈴はニィッと笑う。
「玲鈴? 私はヘルメスといいますれけど‥‥貴方たちは?」
その声
その姿
その笑み。
「ほ、本物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
絶叫を上げてパリに向かってダッシュする冒険者達。
まだまだ、かれらの冒険ははじまったばかりなのです‥‥多分。
──Fin