●リプレイ本文
破滅の魔法陣〜反撃作戦〜
──ノルマン王城敷地内、監視屋敷
静かな応接間。
そこに、クリス・ラインハルト(ea2004)とセイル・ファースト(eb8642)、木下茜(eb5817)、悪鬼こと『秋夜』、アンリエットが座っている。
壁には監視の為に派遣された『ブラックウィング騎士団』所属騎士の『アレックス』が、じっと一行を見つめ、何かが起こった場合はすぐに対処できるよう待機していた。
「南方の魔法陣‥‥あれが貴方の欲した破滅への道筋ですか? 魂を移したアンリに紋章が浮かび、自身が滅する事も貴方は望んだですか? ヘルメスが動き続け魔法陣を弄ぶ‥‥貴方も彼女の掌で踊ってるだけでは?」
クリスが問い掛けているのはアンリエットの中の『シルバーホーク卿』。
ふと、それまで笑顔であったアンリの表情から笑みが消え、口許に笑みが浮ぶ。
『南方の破滅の魔法陣『運命の輪』については、ヘルメスが最終調整を行なっていたから‥‥まあ、俺にとっては、ヘルメスに玩ばれようと何をしようと構わないさ。目的さえ遂行できればな‥‥』
そう告げるシルバーホークに、クリスがさらに問い掛ける。
「なら、その肉体、アンリちゃんの肉体に刻まれている紋章はなんなのです? 貴方自身が滅する事も、全て受け入れたというのですか?」
そう問い掛けると、シルバーホーク自身も苦笑する。
「最終調整の段階で、この紋章が刻まれているのは計算外だった‥‥簡易型破滅の魔法陣『アポカリスプ』。発動したら、この俺を中心に魔法陣が形成される。まあ、全てを無とするのなら、この俺はどんな事も受け入れるがな‥‥」
今だ心の中に黒い炎を燃やしているシルバーホーク。
そしてその瞳がゆっくりと開き、アンリのいつもの表情に変わる。
「あれ? くりすおねーちゃん、おっかないかおしてどーしたの♪〜」
そうきょとんとした表情で問い掛けるアンリを、クリスはぎゅっと抱しめる。
「大丈夫。なんでもないんだよ」
その姿を、セイルと茜は複雑な表情でずっと見ていた。
「噂では聞いていましたけれど‥‥本当にそうなんですね‥‥」
そう呟く茜に、セイルは静かに肯く。
「アンリにはもう聞けないか。悪鬼、幾つか教えて欲しい事があるんだ」
そのセイルの問い掛けに、今まで腕をくんでじっとしていた悪鬼が口を開く。
「ああ‥‥」
「この前、俺の偽物を見たんだが、何か心当りはないか?」
そう問い掛けるが、悪鬼はしばし熟考したのち、あっさりと。
「ないな」
「そうか。それなら構わない。あと一つ、『闇オークション』って知っているか?」
「それは知っている。一般的に表にでない盗品や発掘物、時と場合によるが人身売買につながりそうなものまで競られるって言うアレだな」
その悪鬼の言葉に、セイルが食いつく。
「何処で、いつやるか教えてくれ」
「シーフギルドとかの直轄、もしくはそれに近しい『裏家業』の奴等が開催している。だから、いつ、どこでやるかなんて、それこそ招待されている人間でないとわからないな‥‥」
その言葉に、セイルがガクリと肩を落とす。
「まあ、知っていそうなのは情報屋。そこをつてで当たってみるといい」
その言葉に、三人は屋敷をあとにした。
──パリ・冒険者酒場『マスカレード』
ドダダダダダダダ
駆け足で店内に飛込んでいくのはセイル。
そのままカウンターで常連客と談笑しているミストルディンに、セイルは息を切らせつつ問い掛ける。
「ゼイゼイゼイゼイ‥‥マ、マ、マ‥‥マスカレードはいるか?」
「あら。セイルさんご無沙汰ですね。マスターでしたら。ちょっと故郷にもどってますよ」
「故郷? やっぱりプロスト辺境伯になにかあったのか‥‥」
そう問い掛けるセイルに、ミストルディンが静かに肯く。
「ええ。詳しくは私にも解らないのですけれどね」
そう告げるミストルディン。
と、同じ様に息を切らせて駆けつけてくるラシュディア・バルトン(ea4107)が、やはりミストルディンと話を始めた。
「大至急、教授のレポートの在処、あるいはニライさんの腹心のアレックスさんの居場所を調べて欲しい、それと闇オークションに出ていると聞いた『断片』の行方についてもだ。報酬は幾ら掛かっても構わない!!」
その言葉に、ミストルディンは静かに思考。
「アレックス‥‥ああ、フラッグマンのことね。彼は今、プロスト辺境伯の所に派遣されているわよ‥‥何か、内政で色々とあったみたいね‥‥」
そう告げると、再び思考するミストルディン。
「ロイ教授のレポートは、今だ行方不明。多分屋敷にあるんじゃないかって噂ね。それと『断片』なら、もうすぐ始まる闇オークションに出品されるわよ‥‥」
そう告げられると、ミストルディンは奥から一本のスクロールを持ってきて、それをラシュディアに見せる。
「これは?」
「今回と次回の出品目録よ。何か参考になるといいんだけれどね」
◆第21回オークション出品(一部)
・彫刻家ダーロン作『考えない人』
・ロイ教授著『魔法陣完全攻略マニュアル下巻断片』
・刀匠ダイザー作『サイレントキャリバー』
・西方遺跡発掘物『不思議なタマゴ』
・西方遺跡発掘物『写し身のオーブ』
・竜の背骨難破船サルベージ品『紋章入りペンダント』
・竜の背骨難破船サルベージ品『黄昏戦士剣(12振りのNo5)』
etc
◆第22回オークション出品(一部)
・刀匠マイセルン作『魔剣・ナンダカナー』
・刀匠マイセルン作『神剣・ホントカナー』
・シャルトル南方古き民作『竜の彫像』
・北方小島遺跡群発掘物『鷹の紋章入り長剣』
・北方小島遺跡群発掘物『鷹の紋章入り鎧』
・南方遺跡群発掘物『銀の骸骨』
・南方未探査地域古神殿発掘物『銀の精霊の彫像』
・出所不明『アカスティアの謎の水晶球』
etc
「‥‥なんだか良く判るような解らないような‥‥で、オークションは何時だ?」
「そろそろ始まるんじゃない?」
そうあっさりと告げるミストルディンに、ラシュディアは絶叫。
「それを先に教えてくれ。場所はどこだぁぁぁぁ」
さて、とりあえず合掌といくか。
──某・闇オークション会場
「1200っ!!」
「こっちは1300だっ!!」
次々と競り出される怪しい品物の数々。
情報を元に競りにやってきたセイル&ラシュ&クリスの三名ですが、どうやら競りにでていた物品の最低落札価格が、予算枠の3倍を突破してしまった為、全滅だったそうです‥‥。
●美味しいスープの作り方
──パンプキン亭
「ここまでは問題なし」
そう呟きつつ、仕上がったスープの味を見るエグゼ・クエーサー(ea7191)。
「どれ‥‥ズズッ‥‥」
──カッ!!
そのエグゼからスープを味見させてもらっているカンター・フスク(ea5283)は、一口飲んだ瞬間、えもいわれぬ快感が身体中を襲ってくる。
「あ‥‥こ‥‥これは‥‥見える‥‥愛しているよ大切なラテ‥‥」
♪〜個人のプライベートのため、実名は臥せさせて頂きます♪〜
──スパァァァァァァン
突然懐から『三倍彗星ハリセン』を引抜き、カンターを殴りつけるエグゼ。
「あ、いや、すまん。しかしこれほどのものとはな‥‥材料は? この石碑の写しを調べてみた限りでは、『奇跡の水』がそうと感じるんだが‥‥」
そう問い掛けるカンターに、エグゼと、横で鍋をかき混ぜている店長のサンディが解説を始める。
「グローリアスロードに記されている水だ。それが何かは、さっきラシュディアが送ってくれた断片の解析に記されていた」
「これが、私が汲んできたその水です」
そう告げて甕を見せるサンディ。
「へえ。これが‥‥」
そう告げて一口水を呑むカンター。
「ルードの水です」
──ズキーーーン
あ、カンターの体に激痛。
なんとなくプリティでキュアな気分。
「それでだ。残った『魔法の草』についてだが、ラシュディアの解読、そして俺がもう一度見なおした石碑の解読結果としては『霊草』というものがこの世界の何処かに存在するらしい」
「そうか‥‥」
その説明に、カンターも肩を落とす。
「この辺りの店や傳のある商人ギルドにも話を通してみたが、一人もそんなものについては知らなかった。となると、あとは適当にそれっぽい人間を探し出して‥‥手に入れたのがこの『霊草』だ」
「やっぱりなぁ‥‥って、在ったのか? 何処で、誰がもっていたんだ?」
そのカンターの問いに、エグゼはイヤそうに一言。
「もふもふ‥‥」
あ、ああ、そうね。もっていたね、あのシフール。
「それで、これで完成なのか?」
「いや、本来ならここから熟成と煮込み、詰めがあって一ヶ月かかるが、それは錬金術によってなんとかなるらしい。とりあえずは完成させてくれと、『薬師ラビィ』に頼まれた。ということで、カンター、仕上げに入るから、これから2日間寝ないでがんばってくれ‥‥」
ということで、2日間のスープ作成時間+2日間の錬金術処理により完成した『魔法のスープ』。
それはスープ皿に一杯程度のものであった。
●覚醒
──剣士の居留地
ハアハアハアハア‥‥
息を切らせつつ、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)は手にしている紋章剣に意識を集中。
じっとそれを放出しつづけられるように、そしてそれをずっと一定量で固定できるようにイメージを具現化。
それを、ここにやってきてからずっと続けている。
「ふむ。大体は安定している。しかし、ヘルメスが空間を断ったという事は、かなりの腕があるということぢやな」
マスター・オズがヘルヴォールにそう告げる。
そしてヘルヴォールも一旦刃を収納すると、マスター・オズと話を始めた。
「私も真実かどうか疑わしいとは思いました。ですが、友が、それを見たと告げています。その友は、私に嘘を告げるようなものではありません‥‥」
「空間を断つ刃‥‥断空刃か‥‥不死鳥の紋章剣らしいですね」
マスター・メイスも静かに歩み寄りつつ、そう告げる。
「うむ。さて、ヘルヴォールよ。そろそろ件の場所に向かわなくてはならんのぢゃな‥‥」
そう告げるマスター・オズに、ヘルヴォールはコクリと肯く。
「では、いってきなさい。そして必ず此処に戻ってくるように。The Aura Will be with you・・・・Always 」
●プロスト領封鎖
──プロスト辺境伯城
入り口には屈強な騎士団。
領地内には、ヨハネス領より派遣されてきた準騎士団が巡回し、より一層の防衛ラインが引かれていた。
「で、ではプロスト城には現在はいれないのですか?」
城の入り口で、クリスがそう警備騎士に問い掛けている。
「ええ。辺境迫と執事、そして次期領主であるアルフレッド殿も不在ゆえ、ここに部外者を入れる事は出来ません」
「今、破滅の魔法陣なる禍々しいモノがこの領地内で広がっています。それをどうにかするためにも、ここの地下迷宮の精霊さんの力が必要なんです」
必死に説明するクリス。
「ですが、許可なきものを通す事は出来ません」
そう告げられる一行。
「あの‥‥ワタシ、潜入して調べてきましょうか?」
そう告げる茜だが、それは現在の状況では『命の危険』にすら繋がりかねない。
この地域がヨハネスの管轄となっている現在では‥‥。
ということで、止むを得ずクリス達は仲間たちの元に戻っていった。
──ミハイル教授研究所
「‥‥つまり、ここにはロイ教授はいないのですね?」
入り口でシャーリィ・テンプル女史と話をしているのは茜。
ここでロイ教授から破滅の魔法陣に関するレポートを渡してもらおうと考えていたのだが。
そのロイ教授は既に処刑されている為、どうしようもない。
「‥‥あ、ラシュディアさんにこれを渡しておいてくださいね‥‥」
と、シャーリィが茜に『ロイ・レポート断片』をあずけると、茜はそれを大至急ラシュディアに届けた。
●盗賊の今は‥‥
──旧街道・ちょっと外れた場所
「こ‥‥ここで一体何が在ったのでしょうか‥‥」
乱雪華(eb5818)の眼下には、街道とその両側に森が広がっている。
そのちょっと離れた場所に、直径100mほどの燃え尽きた森がある。
良く調べてみると、その周辺の大地は血によって染まり、そこで激しい戦いが在った事を伝えていた。
そのまま注意深く周辺を調査する雪華。
ふと見ると、近くに腐乱死体がいくつも散乱しているのも確認できた。
「持ち物は何も無し。装備は一切剥がされている所を見ると、どうやら噂の盗賊団のようですね‥‥」
そう呟き、一旦後方でこちらに向かっている仲間の元に移動。
そして報告を受けた一行は、周囲に警戒しつつ、先に進む事になった。
●結界直前まで
──シャルトル・ニライ自治区・ニライ城
誰もいない。
そのエリアは既に避難勧告が行なわれ、殆どの住人はプロスト辺境伯領に移っている。
街の中央からは、巨大な漆黒のドームが見えており、それがかなり近い場所にあることを改めて認識させられる。
「この地図ですと、城の二階から地下に続く廊があるそうですわ」
雪華が地図を見ながらそう呟く。
冒険者ギルドで今回の依頼で向かうエリアの報告書を探し、詳細地図を入手しようとしたのだが、何故かニライ自治区に関する依頼は全て『封印書庫』に厳重に保管されている。
一般閲覧禁止の為、他の依頼などから街道についてのデータと、商人などから聞いた街の地図がなんとかというところであったらしい。
ということで、地図を頼りにやってくる一行。
そのまま無人の城に突入し、そのまま二階の隠し回廊から地下へと向かう。
古くかび臭い通路をずっと進んでいくと、ある場所から『見えない壁』にぶちあたる。
「ここからが本番か‥‥」
セイルがそう呟く。
そしてエグゼが『聖遺物の箱』からスープを取り出す。
グローリアスロードと断片を頼りに作った魔法のスープ。
それを一振り壁に掛ける。
──ホワワワァァァァァァァン
と、透明な壁が虹色に輝き、そして溶けていく。
「よし、作り方はOK、材料もまだある。スープについては全て問題なしだな‥‥」
エグゼがそう告げて、内部に入ろうとする。
が、突然その場の全員の魂が内部に引き寄せられそうになる‥‥。
「‥‥成る程。これは結界がスープによって解かれた為に、より高い魔力を奥で発している。だから皆の魂が吸い寄せられるのですねー」
茜がそう告げつつ、必死に抵抗を続ける。
やがて結界が再生され、その吸引は収まった。
「これで大丈夫です!! 魔力は『竜の宝玉』で補えます。あとはラシュディアさんの解析した方法で全て解決です!!」
そのクリスの言葉に、一行は納得して一旦その場を離れる。
ただ一人、複雑な表情のラシュディアだけが、頭を抱えていた。
(やっべー。まだ魂の開放、解読と解析終ってね‥‥)
一番重要な部分が足りないそうで。
なお、竜の宝玉チームとの合流はできず、報告によると『ほぼ全滅に近い形で、最悪の状態で戻ってきた』そうな。
めでたしめでたし。
〜Fin