●リプレイ本文
●スープは完璧、あとはいつでもいけます
──パンプキン亭
「‥‥これで全て完了だな‥‥」
エグゼ・クエーサー(ea7191)はバンプキン亭の厨房全てを使って、最後の追込みの準備を行なっていた。
ホール部分では薬師ラビィが、グローリアスロードのスープの完成を心待ちに待っている。
これが最後ならばと、残っていた材料全てを駆使して、スープを作っているエグゼ。
そのサポートに店長のサンディも必死にがんばっていた。
「出来上がったスープから順次渡しておくれ。こっちで最後の精製をするからね」
薬師ラビィの言葉に、エグゼは笑いつつ親指を立ててみせる。
──その日の午後
パンプキン亭に来客があった。
竜の洞窟に向かうチームのメンバーが二人、竜に飲ませて落ち着かせる為にスープを作りたいと申し出てきたのであるが、残念な事にここでは今は作れない。
だが、どうしてもということで、エグゼは試験をしてみた。
竜を納得させるだけの腕があるかどうか。
そして結果は残念ながら、その味が竜を満足させるに至らないと判断するエグゼ。
彼等は立ち去り、エグゼは再び作業に戻った。
●片身の剣と開放された魂の行方
──サン・ドニ修道院
「確かに、彼の紹介状ですね」
シスター・ディアマンテは渡された紹介状をじっと確認すると、にこやかにクリス・ラインハルト(ea2004)にそう告げた。
「ではよろしく御願いします。教えて欲しいことは‥‥」
そう話し始めるクリス。
ディアマンテ宛の紹介状を書いてもらい、彼女を訪れたクリス。
「魔法陣の現状確認と、この件に関する王宮の動きについて。それと‥‥『魔法陣に囚われし魂が解放された時の対応』について。よろしかったら‥‥」
そう告げられて、ディアマンテはしばし思考。
「現在の魔法陣については、拡大する速度を大幅に遅らせているわ。正確には『誰かが進行を阻んでいる』というのが正しいわね‥‥」
その言葉に、クリスは肯く。
「次に王宮の動き。これについては全くなし」
「ええっ!! どうしてですか?」
そう告げられて、ディアマンテは重い口を開く。
「ヨハネス領のセフィロト騎士団、そしてニライ自治区の残存騎士団が、今回の事態を収集するために活動しているわ。最悪の事態には『ブランシュ騎士団』と『パラディン』が動く事になっているから。これについては議会が承認しているし、そうなった場合は、このノルマンでの『冒険者』の立場がかなり厳しくなるから‥‥」
その言葉に、クリスはなにか重い力を感じる。
「そんなことにはなりません!! 冒険者は‥‥私達は‥‥グスッ」
涙目で訴えるクリス。
その頭をそっと撫でつつ、ディアマンテはにこりと微笑む。
「大丈夫。貴方たちは優しい心を持っているから、かならず成し遂げるわ‥‥そして」
そう告げて、ディアマンテはクリスに一つのペンダントを手渡す。
「もし囚われている魂が解放されたら、このペンダントを掲げてあげてね。彼等を導いてくれるから‥‥」
そしてディアマンテは十字を切った。
──そして
「ご無沙汰しています、シスター・アンジェ」
丁寧に挨拶をしているのはやはりクリス。
そのままアサシンガールズの墓に花を添えてお祈りを告げると、いよいよ本題に入る。
「エムロードちゃんの遺品『銀の剣』は、こちらに納められているのでしょうか‥‥」
目的はただ一つ。
対ヘルメス戦での対抗武器である。
「あの剣の現在位置については、私達もどこに存在するのか確認できていないのですよ‥‥」
そう告げて頭を下げるアンジェ。
「そうですか‥‥」
「ひょっとしたら、あれは『ノートルダム大聖堂』に納められているのかも知れませんわ。訪ねてみてはいかがですか?」
「そうですね。貴重な御時間を戴いてありがとうございました‥‥」
そう挨拶を返すと、クリスはテッテケテーっと飛び出していった。
●奇跡を信じて
──冒険者酒場マスカレード
2階の席は現在貸し切り。
そこに集っている大勢の冒険者達が、破滅の魔法陣と竜の住まう地についての最後の打ち合わせを行なっていた。
「それじゃあ、闇オークションで最後の彫像を入手すればいいのね?」
そう告げているの竜の宝玉チームのバード。
「そこでですね、ミストルディンさん、私の身元を保障するというのを一筆書いて頂けませんか?」
そうミストルディンに頼み込んでいるのは、やはり同じチームの女剣士。
今回はオークションに向かうらしい。
「ええ、別に構わないわ。あとで割り符を渡すわね」
そう返答を返すと、そのままミストルディンは皆の話し合いをじっと聞いていた。
そして護衛の騎士もまた、その会話中、ずっとどこかにズレが生じていないか耳を傾けている。
「そう言えば、今回、あの旧街道に出現する盗賊はそっちのチームで対処してくれるんだったな。助かる」
やはり同じチームの騎士がこちらの破滅の魔法陣チームにそう頭を下げる。
「それは構いませんよ。お互いに出来る事をがんばって、このシャルトルを解放しましょう♪〜」
そうクリスがにこやかに告げる。
かくして一行は、いよいよ目的地へと向かっていった。
目的は違えど、このシャルトルを解放するため。
全ては、この戦いに掛かっているのである。
●プロスト城攻防戦
──地下立体迷宮
プロスト城地下立体迷宮の奥で、ロックハート・トキワ(ea2389)は久しぶりにフィディエルと出会う。
「久し振り、だな。‥‥会っていきなりですまないが‥‥このままでは、今年の終わりにはこの地方が魔法陣に飲み込まれるらしい。これから、其れを止めに行く‥‥何か知っている事があれば、全て教えて欲しい」
真摯な瞳で、真直ぐ見据えてそう告げるロックハート。
「大切な何かを見付けないと駄目ね。囚われた魂の核、少女を悲しみから救う術は一つだけ。あの子の両親が使っていたもの。それを見つけ出さないと、他の魂は解放できても、あの子はずっと独りぼっち‥‥」
そう告げると、静かに噴水の水の上に立つ。
「いい? その子が全ての鍵。その子の魂は、両親との思い出以外では解放されない‥‥どんなに優しい言葉も、あの子にはとどかないから‥‥」
そう告げると、フィディエルは消えていく。
「待ってくれ‥‥少女の魂を解放するには‥‥」
そう問い掛けるロックハートだが、答えは帰ってこなかった。
──そして第9階層
「ロザリオか‥‥」
更に地下に降り、小さな神殿にたどり着いたロックハート。
そこでアルティラに、ロックハートは問い掛けていた。
核となった少女を救い出す方法を。
「ええ。二つのロザリオと一つの歌。それを見付けて届けるのがいいでしょうけれど‥‥それが今、どこにあるのか私にも判りません‥‥それがあれば、全てが解決するというのに‥‥」
哀しい瞳でそう告げるアルティラ。
「けれど、それを届けたとき、少女は全てを知るでしょう‥‥自分が核となって、このノルマンを滅ぼしかかっている事を。そのとき、少女の魂はどうなるのか‥‥」
今は時間がない。
その方法を見付け出さないと、このノルマノンは崩壊する。
ロックハートは走った。
全てを終らせる為に。
●そして解読
──プロスト領・ミハイル研究所
「あーーっ。ちょっとまったぁぁ」
大量の資料。
木下茜(eb5817)が届けてくれた写本。
そして今し方ロックハートが持ってきた情報。
それらが今、ラシュディア・バルトン(ea4107)の中で一つになった。
そう。
解析が『ほぼ』完了したのである!!
「ど、どうですか‥‥破滅の魔法陣、消せますか?」
そう問い掛ける茜に、ラシュディアが出した解答は一つ。
「絶対無理、駄目、あれは消せない」
「ふざけるなラシュディアっ!!!」
「ふざけていない。今の時点では、どこまで消せるか判らない。まず、このチャートを参照してみろ」
スラスラと羊皮紙に流れをかき出すラシュディア。
■プリティらしゅ☆の魔法陣消滅作戦
1.魔法のスープで外周の結界を消滅させます
2.その瞬間に吹き出す瘴気や魂を吸い込む力を、すべて『宝珠』で中和します
3.中心に存在する魔法陣の、3つの贄の全てをまず消滅させます。
この場合の贄は取り込まれて、さらに強い意志を持つ魂。これらは消滅した時点で再生する事も出来ません。
その贄は以下の通り。
・カトリーヌ
・トールギス
・エムロード
消滅させる方法は、彼等に関係する思い出の品。
それで消滅させられます
4.最後に中心核の破壊。
この核はもっとも強い力をもつ『シスター・アイ』の魂であり、それを静め、破壊しなくてはなりません。
破壊し静めるには、『二つのロザリオと一つの歌』が必要。
それ以外では核は消滅しません
5.最後に、ひょっとしたら魔法陣を生み出したヘルメスとのバトルがあるかも知れません。
その場合は、ヘルメスの『消滅』を持って、魔法陣は完全に消え去るでしょう。
「あうち‥‥」
今のロックハートの心境である。
「なんだよ、なんでここまで最後にアイテムが足りないんだっ!!」
「うるせぇ。茜がオークションで持ってきた最後の写本と今までのヒント、そしてロックハートのヒントを元に俺が生み出した魔法陣完全消滅マニュアルにケチつけるなぁぁ」
「判った判った。で、この作戦を遂行するにあたって、足りないものはなんだ?」
そう問い掛けるロックハート。
「今からでも間に合うのでしたら、私も協力します」
そう告げる茜だが。
ラシュディアは指で羊皮紙をトントンと叩く。
「この手順3の思い出の品全て、手順4のロザリオと歌‥‥これがないことには」
最後のヘルメス消滅は気にしていない模様。
●最後の突入
──ニライ城
えーーっと。
今回、盗賊はやってきませんでした。
そりゃあ無理もない。
先月、どうやらかなりの戦力が削られた為、立て直しが必要なのでしょう。
ということで無事に一行はニライ城に到着、ここで最後の時間ギリギリまで粘ることにした。
──ダカダッダカダッ
遠く旧街道から駆けてくるグリフォン。
その背中には、宝珠を手にした騎士が載っていた。
「あとは任せたっ!!」
そう叫んで宝珠を手渡す騎士。
そしてそれを受け取ると、一行はいよいよ最終作戦を決行した!!
──破滅の魔法陣結界正面
「いくぞ‥‥」
エグゼがそう告げて、手にした聖遺物の箱から壷を取り出す。
それに入れられているスープをかけて、結界は消滅する。
──ゴゥゥッ
突然内部から、大量の『漆黒の手』が伸びてくる。
「でも、これで‥‥」
宝珠を手に、正面に突き出すテッド・クラウス(ea8988)。
と、全ての魔力が宝珠から吹き出し、それに触れて触手は消滅。
そしてその宝珠から放出される魔力によって、一同の周囲には小さい結界が生み出される。
「えっと、ラシュディアさん、このあとはどうするのですか‥‥」
そう問い掛けるクリスだが、ラシュディアは『魔法陣消滅作戦』をクリスに手渡す。
「ここで終り。今はこいつは消せない」
「ちょっとまった、どうしてだ?」
ヘルヴォール・ルディア(ea0828)もそう叫ぶが、クリスより手渡された作戦書を呼んで絶句。
「あのあとパリに戻ってまたここに‥‥」
「無理だな。全てがどこにあるか判っていない。直に回収できたのは、トールギスの遺品であるこの剣のみ」
そう告げて、ロックハートは江戸村から借りてきたトールギスの剣を取り出す。
「それでもなんとかなるのか?」
テッドが問い掛けるが、今は進むしかない。
「やるだけやってみる。中央の魔法陣の紋様解析がどれぐらいで出来るか」
そう告げると、一行は真っ直ぐに中央に向かった。
●最終防衛ライン
──破滅の魔法陣中枢エリア
そこには巨大な魔法陣が広がっている。
そのなかには4つの台座と、その上に燃えている4つの青白い炎。
そして中央では、巨大な水晶の中に眠っているシスター・アイの姿があった。
「いや、まてまて‥‥結界は3つの筈だろう」
エグゼがそう問い掛けたとき、ふと一つの炎に向かって走り出した!!
「誰か手を貸してくれ!! この中にニライが入れられている」
エグゼがそう叫んで、炎の中に手を突っ込む。
素早くヘルヴォールと二人がかりでニライの体を抜き取るが、既に鼓動は止まっている。
「燃えているのは‥‥ニライさんの魂‥‥体は抜け殻だから」
テッドがそう告げて、マントでニライの体を包む。
そしてニライの回りで燃えていた炎は消えていった。
「取り敢えず、炎は一つ消す。頼む」
そう告げて、ロックハートがヘルヴォールにトールギスの剣を手渡す。
「私がか?」
「ああ、トールギスは鍛冶師。その彼が打ち出した最高傑作の一振りで、その魂を切り捨てろ‥‥彼の想いを、剣で晴らせ」
ラシュディアの叫びと同時に、ヘルヴォールが剣を振る!!
──バッギィィン
炎と剣が同時にくだけ散り、剣は砂になってきえていく。
そして台座の炎が一つ消える。
「残り二つの残留している魂の解放。一つは‥‥カトリーヌの無念を誰かが晴らしてくれ。彼女にとっての無念が解らないし、思い出のアイテムもわからねぇ」
その言葉の全てを、クリスは涙で濡れてつつ羊皮紙に書き留める。
そのままラシュディアは、床の文字を解析。
「エムロードの無念‥‥それがわからねぇ‥‥彼女は、どうして囚われたんだ。死んだ場所はパリなのに‥‥どうしてここに囚われている。なにかが、エムロードの魂を放していない」
ダン!! と魔法陣を殴りつけるラシュディア。
そして残った一つ。
中央のシスター・アイの魂。
それらを解放しなくては、全てが終らない。
「ラシュディア‥‥どうする?」
ロックハートがそう問い掛けると、ラシュディアはシスター・アイの水晶の横に何かを記していく。
「ロイ教授の遺産‥‥ここに魔法陣を記して」
何かを記し、そこに『宝玉』を安置する。
そして何かの言葉を呟いた時、その魔法陣は輝きはじめた。
「い、一体どうなったのですか‥‥グシグシッ」
泣いているクリスに、ラシュディアが一言。
「宝玉の固定化。ここからこれを外すには、俺を殺す必要がある。ロイ教授の最後の書に記されていた切り札で。俺にしか使えない。それもこの1度のみ」
ガクッと膝を付くラシュディア。
そして宝玉から放出されている魔力は、残った柱に吸収されていく。
●そして
──破滅の魔法陣外
そこにあるのは、半径100mのドーム型の結界。
その外周は再び閉じられたが、いつでも『魔法のスープ』によって開かれる。
莫大な魔力を得て、魔法陣はその力を弱めつつあるが、この大きさで固定されてしまった。
もし、あの宝玉の魔力が底を付いたら、再び活性化するであろう。
それまでに、なんとか完全な消滅を遂行しないと‥‥。
思い足取りで、一行はパリへと戻っていった。
最後の最後、それを為しえてヘルメスを倒す為に。
──Fin