●リプレイ本文
●いつまでも
──冒険者酒場・マスカレード
今回の依頼人である鳳美夕(ec0583)。
彼女に現在のノルマンの様々な出来事を説明する為に、大勢の冒険者がそこには集っていた。
「ではまず。つい最近の出来事としては、悪魔ヘルメスの作りだした『破滅の魔法陣』がありましたっ」
と、元気に説明を開始するクリス・ラインハルト(ea2004)。
そののち、破滅の魔法陣の顛末を説明し、続いて現在の情況を説明。
主に、ここ最近になって暗躍している新シルバーホークの首領と思われているエルハンスト・ヨハネス卿と彼の手下であるセフィロト騎士団、そして『二つの薔薇家』ローゼンメイデン家とローゼンクロイツ家について。
但し、その中でもアンリに関する部分には触れることなく説明を続けていたクリス。
「では、次に我から‥‥」
と告げるのはルミリア・ザナックス(ea5298)。
「あたし達からは、剛剣術についてよ‥‥」
と、昏倒勇花(ea9275)も話を始める。
その場に居合わせていたセイルや柊静夜(eb8942)、美夕、シャロン・オブライエン(ec0713)もルミリアと勇花二人のレクチャーでも、ある程度の体の裁き方や踏込みのタイミング、そして基本的な部分について学んでいた。
「‥‥これは、おもったよりも‥‥無理‥‥いや、けれど‥‥」
セイル・ファースト(eb8642)はホールの机を除けて型をなぞる。
だが、その動きに全身の筋肉が悲鳴をあげる。
「人間では扱えぬ膂力を無理矢理引き出す危険な奥義です。一度行っただけで命を失う事もありえます、くれぐれも使用はなるべくお控えを。我もまだまだ基礎訓練を積んでいる段階ですし」
「もしこれを学ぶのでしたら、マスター・オズがこれを実践で教えてくれるわよ‥‥」
と、勇花も補足。
そしてある程度の訓練を終えると、いよいよ一行は最初の目的地へと向かっていった。
●薔薇の屋敷
──ノルマン北方丘陵地帯・古い廃墟
冒険者ギルドに残っていた、古い報告書。
それらの中から、クリスが気になってやってきたのがこの場所である。
一階部分、そして地下施設の殆どは、以前やってきた冒険者によって調査されていた為、現在はまったくといってよいほどもぬけの殻である。
「さて‥‥では、早速調査を開始しましょー」
と、勢いつけて調査を開始した一行。
「‥‥とりあえず、この付近には悪魔の姿は現在確認できぬな」
天使の羽のひとひらを燃やし、周囲を確認したルミリアがそう告げる。
「同じく。石の中の蝶も静かなものね」
勇花も指輪を確認し、一行はそれぞれ別れて調査を開始した。
・クリス&ルミリアの発見
「‥‥むむむ。これは‥‥」
一階部分の書斎らしき場所。
すでにほとんどのものは崩れ、形として残っているものは極わずか。
その中から、クリスが発見したのは、指輪を一つ。
それは『封蝋』に押す家紋を施した指輪であり、その形状は『大樹と宝玉』を表わしている。
「確か‥‥ヨハネス家の家紋でしたか‥‥」
「ほう。先に話の出ていた奴だな。なんでその家紋がここに?」
そう問い掛けるルミリア。と、クリスはさらに何かを探す。
だが、それ以上はなにも見当たらなかった。
・セイル&美夕の発見
地下最下層。
そこに描かれていた巨大な変形魔法陣。
その形は『巨大な樹』と、その中に記されている10個の紋章、そしてそれを繋げる道。
その紋章には古代魔法語らしき文字が記されていたが、どうもセイルには意味不明。
そしてなによりセイルが気にしていたのは、この空間に漂っている『血の匂い』。
「最近、ここで何かがあったな」
「この床の彼方此方にある血の跡も、そんなに古くはありませんね‥‥」
と呟きつつ、美夕は床の絵柄を全て写し取る。
「‥‥いやな空間だ。まるで、誰かに監視されている感覚がする‥‥」
実際にはなにも見つからない。
だが、セイルはここにこれ以上いるのは危険と判断し、美夕が写しおわるのを待つと、上の階に戻っていった。
・静夜&ヘルヴォールの発見
「‥‥何かを引きずっていった跡ですよね‥‥」
屋敷の裏。
ちょうど勝手口の当たりで、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)と静夜の二人は、なにかを引きずっていったような跡を確認した。
それは裏の勝手口から始まって、近くの街道まで続いている。
「大きさから考えると‥‥オーグラとか、そのサイズだな」
「でも、いったいなんでしょうか?」
そう呟きつつも、二人は何か痕跡が残っていないかを捜していた。
だが、それ以上はなにも確認できなかった。
・勇花&シャロンの発見
「いい天気よね」
「ああ。そうだな‥‥」
崩れた正門、そしてその中庭にあたる部分に建ててあった貯蔵庫。
そこを二人は調べていた。
だが、そこに転がっていたのは白骨死体。
それも、あちこちには傷があったり、なにかによって焼かれていたような傷が付いている。
それらの傷は、どうやら切り傷や魔法によるものではないかという想像に達し、以前ここを訪れた冒険者によって殺された何かであろうと推測。
そのまま内部を調べていたが、特になにも見つける事は出来なかった。
そして一行は、1度集ってお互いの情報を交換後、再び気になった部分を調査。
だが、それ以上はなにも見つける事が出来なかった為、その場をあとにすることにした。
●剛剣術
──剣士の居留地
静かに湖を見つめるヘルヴォール。
彼女の目の前には、一人の人間が立っている。
湖面に静かに立つその人物。
そのものと心を通わす。
それがヘルヴォールに与えられた試しの試練。
そのものを呼び出すまで、ヘルヴォールはじっと自らのオーラを高めていた。
そして呼び出したものの、何かを告げようとしているその存在の意志を掴む事が出来ない。
(まだか‥‥まだだめなのか‥‥)
じっとそのまま意識を集中するヘルヴォール。
試しの試練は、まだ続いている。
──そのころの一行
「‥‥つまり‥‥こういうことか?」
マスター・メイスの目の前で、セイルが静かに武器を構える。
その横では、勇花やシャロン、ルミリア、美夕がそれぞれことなった構えを見せる。
「剛剣術には二つの種類があるというのを御存知でしょうか?」
そう告げるメイスに、ルミリア達は静かに肯く。
「我が聞いたのは『攻め』と『護り』の剛剣術だ」
そのルミリアの言葉に肯くメイス。
「では、自身がそのどちらに適性を持つかというのは?」
それにはついてまだである。
各々、基礎をまずは学ぶ事から始めている。
すでにインドゥーラで学んできた勇花やルミリア、美夕、シャロンは基礎は出来ている。
だが、セイルは別。
「まあ、自身に適した型というものがあれば‥‥まずは見せてあげましょう」
と呟くと、メイスは巨大な岩を片手で持ち上げると、ルミリアに向かって投げる。
「パワー6割で!!」
そのメイスの言葉に、ルミリアは体内の気を高め、岩を手にした直刀で真っ二つに叩き斬る。
──ガクッ!!
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
そのまま膝から崩れ、呼吸を整えるルミリア。
「メイス殿。我はこれ以上は‥‥」
と、初撃での限界を説明。
「なら。美夕、パワー4割!!」
と、続いて岩を美夕に投げるメイス。
「ええぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ」
──ゴイーーーーーン
そのまま直撃を受けて、美夕気絶。
「次。勇花、パワー5割!!」
「え、いや、あたしはまだそこまで」
──ゴィィィィィィィィィン
続いて勇花、除けきれず直撃、気絶。
「次、シャロン。パワー5割」
「上等!!」
──ガギゴイィィィィィィィィィィィィン
素早く武器を振るい直撃したものの、そのまま岩のパワーに負けてシャロンも気絶。
「‥‥ゴクッ」
その光景をじっと見て、セイルは息を飲む。
「メイス殿、俺にも頼む!!」
「うむ。ならば、この岩を真っ二つに。動かぬ岩を破壊するのは容易いだろう。が、剛剣術により、これを二つに断ち切れればよし‥‥」
その言葉に、セイルも静かに体内の気を循環させる。
(来た‥‥この俺の中の力‥‥それを一点に凝縮して‥‥)
体内のあちこちの力を線で繋ぎ、点に集める。
そしてセイルは素早く一撃を叩き込む!!
──ゴイィィィィィィィィィィン
そのまま衝撃で弾き飛ばされると同時に、セイルの全身に劇痛が走る。
「い‥‥いて‥‥て‥‥体が‥‥うごか‥‥」
「まあ、会話が成立するということは、セイルにも素質はあるか。このまま修行を続けましょう‥‥」
と告げて、全員が一休み。
と、メイスと入れ代わりに、マスター・オズも姿を表わす。
「マスターオズ殿。実はご相談が‥‥」
ルミリアはすぐさま立上がると、マスター・オズの元へと向かう。
「パラディンと紋章剣士の方々との連携について。それとこれからの連絡方法や‥‥ここ最近になって姿を現わした悪魔の対処についてなど‥‥」
と、色々と話を始める。
やがて痺れつつも近づいていく他のメンバーも交えて、今後のことについて色々と打ち合わせを行った。
連絡については、直接此処を訪れるかシフール便で問題はないらしい。
パラディンは政治関連については干渉できぬ為、紋章剣士がその代役を務められるように動く。といっても、まだこの地での紋章剣士はそれほど多くはないため、当面は剣士の育成に重点を置くらしい。
「以前、ヘルメスが呟いたベルフェという名前についてだが、ベルフェゴールではないだろうか‥‥」
と告げるルミリア。
もっとも、その名前を冠として持つ悪魔は如何なる文献にも存在していない為、ルミリアもそれが正しいとは思っていない。
そしてそれは、その場の誰もがそう思った。
悪魔ではない可能性すら存在しているのである。
「フィーム殿もこの地に居られます。親書など先方へお伝えする事があればお預かり致しますが?」
と、ルミリアが告げるが、特にオズからはなにも無かったらしい。
「さて、明日からは直々に教えを始めるとしよう‥‥あの子も試しの試練が終るまでは、時間が掛かるであろうからな‥‥」
と告げて、翌日よりマスター・オズの指導の元、オーラの制御、剛剣術に置ける呼吸法についてなどを学びはじめた。
──そして数日後
「マスター・オズ。『不死鳥の紋章剣』に勝つ方法を教えて欲しい‥‥」
と頭を下げるセイル。
「紋章剣には紋章剣。より強いオーラをコントロールできれば。そして、より強い剣術を身につければ‥‥」
と告げる。
「なら、俺に紋章剣の、オーラを教えて欲しい」
「ならば。紋章剣士として、修行を始めましょう」
と、いよいよ紋章剣士としての修行を始めたセイルであったとさ。
──そのころ
「はぁぁぁっ」
全身にオーラをみなぎらせ、ルミリアの持つ『蝙蝠の紋章剣』の連撃をとにかく『素手で受け流す』勇花。
「まだまだ‥‥The Aura Will be with you・・・・Always」
そう告げると、紋章剣の力を少しだけ(というか、正式伝承者ではない今のルミリアではここが限界)解放して、勇花にさらなる連撃を叩き込むルミリア。
素手での紋章剣との戦いをマスターしようとしている勇花と、もっとも自分に相性の良い紋章剣を貸与してもらい、訓練を開始したルミリア。
その二人の攻撃を横目に、シャロンと美夕の二人は、仮面のパラディンの指導のもと、基礎訓練を『強行』されていた。
「あと素振りを5000ずつね。その次は、少し休んで、型の訓練。二人には『エジェット』の型も教えましょうね‥‥」
と、にこやかに説明しているのは先日やってきたフィーム。
天位じきじきの訓練ということで、シャロンと美夕は最初はかなり硬直していた。
そして現在、その硬直は完全に解け、今はただ、限界を越えた訓練に悲鳴を上げている。
「質問です!! その『エジェット』の型とはなんでしょうか?」
美夕がそう問い掛ける。
「八部衆龍位の生み出したパラディン専用体術。剛剣術ではなく、オーラソードを基礎とする『アジット』と、華国武術の合わさった技巧型剣技っていうところね‥‥」
おお、それはすごいが、大丈夫かいな?
ということで、二人はその修練を開始していた。
●そしてパリ
──王宮・離れの舘
道中、シャルトルの大聖堂を訪れたクリスと静夜。
聖ヨハン大司教のお話によると、破滅の魔法陣によって囚われていた魂はその殆どが解放され、あるべき場所に戻っていったという。
肉体を持っていた者は甦生され、既に肉体が滅んでいた者の魂は神のみもとに。
それを聞いて、クリスと静夜はとりあえず一安心。
そのままパリに戻ってきたということでした。
「随分と元気になったですねー」
「もうすっかり元気なのー、ガアガア☆」
クリスのその言葉に、愉しそうにそう告げているアンリエットと、近くで窓の外を眺めている悪鬼。
「はじめまして。柊静夜と申します」
「ああ、はじめまして。ニライ・カナイだ。このノルマンの市政官を務めている」
と、居間の椅子に座って挨拶をしている静夜と、最近になってようやく体調が戻ったニライ市政官。
「でも、ニライさんもすっかり元気になって良かったですね♪〜」
と告げるクリスの言葉に、ニライは苦笑い。
「まあな。もっとも、市政官としての仕事が貯まっていた為、しばらくは王宮から出ることは出来ない。それに、現プロスト領の時期領主選定の責務も任されてしまったからな‥‥」
と告げるニライ。
「市政官どのが、プロスト領の領主任命を?」
と告げる静夜に、ニライが静かに肯く。
「ああ。とりまとめという事で、私が陛下より拝命している。まあ、いまのままプロスト辺境伯が姿を表わさなければ、ヨハネス卿でほぼ確定だろう」
「それは駄目です!! あの人の正体は新シルバーホークの当主なんですっ。そんな人に領地を任せるだなんて、それもプロスト辺境伯の‥‥グスッ‥‥」
と涙ぐむクリス。
「確定ではないが。そのシルバーホーク当主という完全なる証拠を持ってきてくれ。ならば止める事も出来よう。が、現状、ヨハネス卿によって仮統括されているプロスト領は平穏に保たれている。私流に言わせてもらえば『益ではあるが損ではない』という所だ」
常にノルマンのことを考えているニライにとっては、確定した情報・証拠がない限りは与えられている情報から推測するしかない。
「そんな‥‥ニライさんなんか大嫌いですーーーー」
と、涙を吹きつつ飛び出していくクリスであったとさ。
──そして
全ての試練は終った。
最後の試し、己との意志の疎通。
それらをクリアした筈なのだが、疾風の紋章剣は、ヘルヴォールに答えを示さない。
手にした紋章剣は、ヘルヴォールのオーラに呼応しない。
「何故? どうして‥‥」
そう問い掛ける。
だが疾風は何も答えなかった。
──Fin