●リプレイ本文
●真実と虚実の曲線
──パリ・冒険者酒場マスカレード
「詳しいことまでは、私達でも判らないわねぇ‥‥」
そうカウンターで呟いているのは、情報屋のミストルディン。
グレン・アドミラル(eb9112)は今回の件について、なにか一つでも手掛りがないかとミストルディンの元を訪ねていた。
「例えば、侵入経路やウィザード・李の手口、その時点でのセフィロト騎士団の動き、どんなことでもかまいません!!」
「と告げられても。たかがこそ泥一人、それもこのパリから離れている場所の情報なんて、そうそう見つからないわよ。ま、調べておくのなら、少し時間をくれればいいけれど?」
「急ぎ必要なのです。この一件、複雑な背後関係があるかも知れないのです!!」
と力説するグレン。
「うーん‥‥」
「あ、そうそう。でしたら、セージでありウィザードであるという観点から、華国の人物が絡んでいるかもしれません。そちらでの情報はありませんか? 特に、最近になってこのノルマンにこられた重役の方とか?」
と方向性を変えて問い掛けるグレン。
「華国からの重役といえば、完顔阿骨打殿ですね。あの方は華国人でセージっていう稀少な存在らしいですから」
「では、その方にお話を伺うという方向で?」
「でも、今月の15日に月道を経由して華国に帰るって言っていたわよねぇ‥‥他国を経由するとなると、もうノルマンにはいませんし、華国にもまだついていないかもしれませんわ」
その言葉に、グレン失望。
「となると‥‥李という人物を知るものはいないと?」
「そうなるわねぇ‥‥ごめんなさい。お力になれなくて」
ということで、グレンも急いで他の仲間たちと合流。
そのままヨハネス邱に向かう事となった。
──ヨハネス自治領・ヨハネス邱
家宝の護符を取り返す為、アビスに向かって欲しいという依頼。
それを受けて、一行はまずその護符がどんなものであるのかを詳しく知る為に、ヨハネス邱にやってきていた。
大きな建物、まあ、領地持ちの貴族のものとしては、若干小さいようにも感じる。
正門の上には、ヨハネス家の家紋である『大樹と宝玉』が掲げられ、その横には御衛士が二人、立番をしていた。
「ノルマン冒険者ギルドから依頼の事でやって参りました」
そう丁寧に挨拶をする薊鬼十郎(ea4004)。
そしてそのまま立番は1度屋敷に戻り、そして数分後に再び戻ってくる。
「お舘様がお待ちです‥‥こちらへどうぞ」
そう告げられて、一行は屋敷の中の居間に案内される。
「はじめまして。私がエルハンスト・ヨハネスです‥‥」
そう告げて一行の前に姿を表わしたのは、身なりのしっかりとした一人の男性。
身長は180近く、綺麗な金髪を短めにカットして纏め上げている。
服装はあまり派手ではなく、かといって質素すぎるというものでもない。
華美ではないが、立場的にそれなりにというかんじであろう。
「今回の依頼を受けまして、1度詳しいお話をと思いましてやって参りました」
そう丁寧に告げるのはエルリック・キスリング(ea2037)。
「それで早速なのですが、今回奪われた『護符』について、その形状や効果など、できるかぎり教えて戴きたいのですが」
とラシュディア・バルトン(ea4107)が説明を付け加える。
「ええ、かまいませんよ。一枚持ってきましょう‥‥」
と告げて、ヨハネス卿が執事に何かを持ってこさせる。
それは紫の布に包まれた一枚の護符。
作りは布と羊皮紙の混成、それに記されているのはラテン語と古代魔法語、そして紋章の組み合わせ。
「これは一対の護符の片方『セーラの刻印』です。盗まれたのはこれの対となる『タロンの刻印』。効果については、私はこの手のことは不勉強でして。先祖代々に伝えられる刻印とかで、先先代が稀代の魔術師に依頼して、護符の形に作りなおしてもらったらしいのです」
と告げるヨハネス卿。
「手にとって構いませんか?」
そう告げたのは、ディアーナ・ユーリウス(ec0234)。
セーラの使徒として、彼女はその護符に興味が出たのであろう。
「ええ。クレリック殿でしたらどうぞ‥‥」
と告げられて、ユーリウスはそれを手に取る。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ
と、手にした瞬間、様々な言葉がユーリウスの脳裏に走りはじめる。
そして瞬時にそれを布に戻すと、ユーリウスは上気した顔で一言。
「す、凄い‥‥これ一枚で、セーラの聖典に匹敵する‥‥魔法も、全て‥‥」
その言葉に、ラシュディアは記されている文字の解析を始める。
(確かに、刻まれている古代魔法語と紋章は、聖なる魔法物品を示している‥‥価値にしてみても、これ一枚と『聖ヨハン大司教』と同率に近いか‥‥これってまさか、聖遺物か?)
と様々な憶測が脳裏を走る。
「これの使い方については?」
と問い掛けるラシュディア。
「家宝故、大切に保管してありました。使い方といいましても‥‥私はこれを『聖書の代用』として使っていただけでして‥‥」
と告げる。
「では、ヨハネス卿はこの護符の本来の使い方を知らないということですか?」
護符に手を当てて、すぐさま手を引いたエルリックがそう問い掛けると、ヨハネス卿は静かに肯いていた。
(聖遺物クラスの代物ですか‥‥私達のように、神の代行者や使徒であるものにとっては、これは確かに欲しい代物ですが‥‥一人の人間が、これを所持していていいのでしょうか‥‥)
エルリックの心の中の葛藤。
「では、とりあえず私達はアビスに向かいます。ご吉報をお待ちください‥‥」
と告げるエルリック。
「ええ。それではよろしく御願いします」
●変異と変貌
──真アビス外
「ハーイ。いつもお元気なパラーリアさんにお手紙デース!!」
と、フラフラと飛んできたシフール便。
現在、一行はアビスに突撃する為の準備を終えて、外にある酒場『なにもかも絶望亭』で静かに食事を愉しんでいた所である。
「あ、秋夜さんって‥‥悪鬼さんかな?」
ゴソゴソと手紙を開くパラーリア・ゲラー(eb2257)。
そして開かれた手紙には、以下のような文面が記されていた。
────────────────────────
李興隆について
元々は華仙教大国にて完顔阿骨打の元、魔術を勉強。
その後『飛家』にて死体を操る術を学び、諸国漫遊ということで諸外国に向かっているという記憶はある。
が、それも俺が華仙教大国から出る前の話、今から20年以上も昔だと思う。
そのため、現在、李がどこで何をしているかは不明。
ただし、気を付けなくてはならないことは、奴は『竜牙の鈴』を持つキョンシー使い。
アンデッドが敵としてあらわたれ場合、半端なく強い可能性があるので注意すること。
秋夜
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「こ、これはかなり危険ですねー」
とボソリと呟くと、今の手紙を仲間たちにまわして読ませる。
「ふむふむ。とりあえず、この状態では色々と注意することが多すぎるということだな」
「敵がセージクラスとなると、こっちの魔法対策も一通りされる可能性があります。かといって、魔法使いの弱点である『近接戦闘』については、話に出てきたキョンシーによって守られている可能性がある‥‥ということですね」
ロート・クロニクル(ea9519)の呟きに、水無月冷華(ea8284)がそう告げる。
「まあ、いずれにしても、先に進むしかありません!! ここでなんとか手柄を立てて、そしてギュンター君を!!」
おお、鬼十郎が燃えている!!
──第六階層
ザワザワザワザワザワザワザワザワ
アビス第6階層。
そこは、いままでとは違う異様な雰囲気に包まれていた。
かなり大勢の冒険者がそこで狼狽し、無事に戻ってきた者たちが傷の手当を受ていた。
「第6回廊からの生還者は2名!! あとは全滅だ!!」
「第8回廊に向かった奴等は全滅した。死体の回収も不可能、今まで見た事のないトラップだ!!」
「こちら第一回廊。現在ミノタウロスの軍勢と交戦中!! 仲間がやばいんだ、誰か助けてくれ!!」
とまあ、かなり騒がしい情況になっていた。
「とりあえず、ウィザード・李の向かった回廊について聞き込むとするか‥‥」
ということで、皆さんで情報収集開始となりまして。
◆エルリックの得た情報
・アビスの内部構造がかなり変化しているらしい。
・今までに使っていた地図は全て使えず、さらに見た事のないトラップによって、行く手が遮られてしまっている。
・階層自体は今までのように複雑ではないらしいが、各エリアごとに通過ゲートが存在、それに見合った鍵が必要
◆鬼十郎の得た情報
・アビスの内部構造がかなり変化しているらしい。
・今までに使っていた地図は全て使えず、さらに見た事のないトラップによって、行く手が遮られてしまっている。
・24の回廊は今まで通りだが、繋がりが複雑になっている。
・第一回廊の通過ゲートの鍵は、第18回廊の途中の小部屋にあったらしい
・今まで単独で動いていた魔物が、群れを成している
◆ラシュディアの得た情報
・攻勢防壁は今まで通り機能している為、カベや通路、扉を破壊することは不可能
・回廊によっては、一度に『3名の1パーティー』しかいけない場所などもあり、攻略はかなり難しくなっている。
・通過ゲートの鍵には、『彫像』の形をしているものや『武具』の形をしているものもあるらしい
◆冷華の得た情報
・今回のアビスの変化は、『李興隆』というセージが事件の発端らしい
・『李興隆』と、共に行動している『女性冒険者』が第一回廊から突入してから、突然このように変化した
・どの回廊にも、かならずレンジャーは必要だろうさ
◆ロートの得た情報
・回廊を巻き込む形での『範囲魔法』は、全て攻勢防壁によって反射もしくは消滅される
・バースト系の剣技は、自身の武具を破壊しておわる。それは、かなり高位の魔法の武具でも当てはまる
・『普通壊れネーよ』というぐらい頑丈な武具ですら、あっさりと破壊されてしまった
・回廊のあちこちには、見た事のない『人間たち』が徘徊している
◆パラーリアの得た情報
・第8回廊は『全ての武器・防具を棄てよ』と記されている『通過エリア』がある。そこから先に進まないと、かなりまずいらしい
・第20〜24回廊は、入り口が巨大な石壁にょって閉ざされている。そのカベには『24の指輪』を填める穴が存在してい。
・よ、おじょーさん一人? うちのパーティーにこない?
・へい彼女。よろしかったら我々のパーティーに来てくださいませんか?
◆グレンの得た情報
・どこの回廊かは解らないが、『完全魔法無効化空間』が存在するらしい
・どこの回廊か解らないが『完全武具無効化空間』というものもあるらしい
・どこの回廊かは解らないが『2400Gで開く扉』があるらしい
・いかなるペットも、アビスに入った瞬間に死んでしまうという噂が‥‥
◆ディアーナの得た情報
・すいません、リカバーください
・頼む、リカバーくれ
・御願いです。この子にリカバーを‥‥
・あんたクレリックだろ、こいつを助けてくれよ!!(と、死んだ仲間を抱しめつつ叫ぶ)
・この回廊で死んだ場合、魂が戻ってこない確率がかなり高い
◆ミケヌの得た情報
・はーい。ボク、子供の遊び場じゃないわよ!!
・あちこちにある扉には『魔法の鍵』というものも存在するらしい
・どこの回廊かは解らないが『精霊力遮断空間』というのがあるらしい
・どこの回廊かは解らないが、『神霊力遮断空間』というのがあるらしい
・とにかく危険、まぜるな注意
──ということで、集ってみて‥‥
「‥‥今までとはまったく違うな。とりあず、実際に向かうしかないだろう」
と告げるラシュディアに、一同は肯く。
そしてもっとも手軽で、今の所実害のない『第14回廊』に突入したのだが‥‥
「この扉に触ると危険だぜ!! どう危険かというとだなっ!!」
と、回廊奥の扉を調べていたミケヌ(ec1942)ミケヌがそう叫ぶ。
ちなみに現在まの階層は21。
ここまで到達するまでに、ほぼ持ってきていたポーション類は殆ど遣い切った。
トラップの解除&解析はミケヌの仕事。
当然ながら、扉の全てを調べていたのだが、ここにきて『レンジャー殺し』と告げられるトラップに引っ掛かった。
『接触型魔法発動タイプ』と分類されるそのトラップは、調べる為に触れた時点で魔法が発動するという、じつにいやらしい代物である。
それでいて、扉の表にはそれらしい仕掛けは一切存在しない。
全て『裏』に仕込まれているのである。
「と、とりあえず解呪を。ラシュディア、いけるか?」
そう叫ぶロート。
ちなみにミケヌの体は、扉に触れていた部分から徐々に石化している。
ディアーナの『ディバンク』により、魔法のトラップと言うことまではわかったものの、まさか接触型とは考えてもいなかったであろう。
ミケヌは、このトラップを初めて、身をもって知ることとなった。
「もう右腕は扉と一体化しちまっている。ここは俺に構わず、先にいけっ!!」
と叫ぶミケヌだが、その扉が開かないと先に進めないのである。
「わ、私はニュートラルマジックは使えません‥‥」
と告げるディアーナ。
「やむをえません。ここから先には向かえぬという事でしたら!!」
──ズバァァァァァッ
と、石化したミケヌの腕を叩き斬るグレン。
そのまま石化の進行が止まる所を見ると、『ストーン』の魔法ということでもないらしい。
とにかく、このまま先に進むのは危険と判断した一行は、帰路につくことにした。
●顛末
──パリ・冒険者ギルド
とりあえず『任務失敗』の報告をヨハネス卿の元に報告すると、一行はパリに戻ってきた。
アビスに突入してわかったこと。
預かってきた全てのポーション、解毒剤などをフルに駆使しつつも、殆ど全員の魔力が『枯渇』し、魔法の発動が阻止されてしまった。
さらに回廊の先の部屋では、常に炎が渦巻く場所や『アンデッド・ウォリアー』とでも呼んでみたい屈強無敵なキョンシーが徘徊しているなど、無事に回廊を出てこれたのが奇跡である。
それらの報告をヨハネス卿に説明した所、今回は調査という事で報酬は支払うということ、そしてまた機会があったら、アビスに潜って取り返してきて欲しいということを説明された。
とにもかくにも一行は、新たなるアビスとの戦いにしばらく時間がかかりそうで‥‥。
──Fin