●リプレイ本文
●代書屋マジスティア営業開始
──パリ市内商業区・代書屋マジスティア
「‥‥とまあ、手続きは大体こんなものだな‥‥」
店内カウンターで色々と説明しているのはマジスティア店長。
腕を汚している為、実際に代書をしてみせることは出来ないが、必要な道具などの場所は全て説明。
あとは本番を待つばかりである。
「思い焦がれ、かといって気の利いた言葉が上手く見つからず伝えきれないもどかしい気持ち‥‥わかる、よーくわかるぜ」
腕を組んで肯くハルワタート・マルファス(ea7489)と、横で店の外に置く立て看板を持って外に向かう神楽鈴(ea8407)。
「フンフンフンフンフフンフンフンフーーン♪〜」
何かの鼻歌を歌いつつ、陽気に外に看板を置くと、そのまま神楽は店内に‥‥
──ステェェェェェェェェェェン
と、突然何かに躓き、神楽は前のめりになって転倒。
その際に偶然掴んだジェラルディン・ブラウン(eb2321)のスカートは、音を立てて縦に裂け、華麗なる太股があらわになった!!
「#&?’※★△×■!!」
あ、悲鳴が声になっていないし何言っているかわかんないし。
「おおっと」
瞬時にバックバックの中から、礼服のマント部分のみを素早く取り出し、ジェラルディンの下半身に巻きつけるテラー・アスモレス(eb3668)。
「あ、あの‥‥すいません‥‥」
耳まで真っ赤になったジェラルディンがそう告げて、そのまま1度着替えの為に奥の部屋に走っていく。
「ジェル、ごめんねー。あたいも悪気はなかったんだよー」
と叫ぶ神楽に、奥のジェラルディンからは一言。
「ええ、大丈夫ですよ。ちょっと驚いてしまって‥‥」
というドタバタ劇のさなかにも、ユリア・サフィーナ(ec0298)はマジスティアさんから細かい話を聞いていた。
「では、書面などはこちらの棚で、用途に応じて棚が違うという事で?」
「ああ。王宮や官庁に提出する書面は大体これで、封蝋はこれ、それに押す印はこれを。うちの代書と判るし、それで手続きの一部が飛ばされるようになっているからね‥‥」
と、細かい手続きを説明しているさなかにも、さっそく来客がやってきた。
●ケース1『ノルマン騎士からロシア出身貴婦人への恋文』
この代書は比較的簡単。共に公用語はゲルマン語である。
「具体的にはどのような内容で?」
そう問い掛けるのは担当となった神楽。
「一人の騎士として仕えるべき方です。その方にたいしての恋文と思って頂ければ‥‥」
依頼人はかなり堅い。
騎士道一直線というかんじの、正にプラトニックな愛なのであろう。
「では、早速‥‥」
スラスラと恋文を認める神楽。
武士道を駆使しつつも、このノルマンで騎士に相応しい文章を‥‥。
ということで完成したものは、騎士らしいちょっと固めで、それでいて日本風に『詩吟』を含んだ『華のある』代書となった。
「う、うむ‥‥これで大丈夫ですか‥‥」
ちょっと複雑な表情の騎士に、神楽が耳元でボソッと一言。
『知的な部分を見せるのも、時には必要ですよ。相手によってはそれがきっかけということもありますから‥‥』
まさにジャパニーズスタイル。
ということで、神楽の代書が終ったとき、他のメンバーも既に様々な代書に入っていた。
●ケース2『商人ギルドに提出する出店許可証』
担当はユリア。
「堅苦しい文章は苦手なのですが‥‥」
と呟きつつも、規定の書面に規定の文章をスラスラと丁寧に書き記していく。
「あ、そこの部分、こっちの文章で‥‥」
と告げる商人にも、笑顔でニコリと微笑む。
「このようにですか?」
と書き直した文章は、ちょっとだけ砕けた感じで読みやすい。
「ああ、そんな感じだね。あとは、ギルドの人の心にも響く申請書を。そうだねぇ‥‥うちは子供が3人いて、その子達の食事代も稼がなければならないと‥‥」
と、哀しい心情を説明する商人。
──ガバッ!!
と、ユリアは商人の手を握り締める。
「大丈夫です。どんなに困難でも、セーラ様は貴方も見守っています。必ずや、救いの手を差し伸べてくれるでしょう‥‥」
「あー、セーラ様の手よりも、今は貴方の手を‥‥」
と告げる商人。
と、ユリアも我に帰り、再び申請書を作りはじめた。
●ケース3『一目惚れの彼女に送る甘くて切ないセレナーデ』
担当はハルワタート。
で、今回の相手はラテン語しか話せないタロンの修道女に当てる手紙。
「まあ、ぶっちゃけると、『好きだ、俺の女になれ』っていう感じで」
とあっさり告げる男性に、ハルワタートは溜め息一つ。
「はぁ‥‥そんな事では、意中の女性を口説くなんてできませんよ‥‥」
と告げると、ハルワタートが書面の作成に入る。
「こんな感じの出だしからどうですか?」
『頬を撫でる風が、柔らかく花の香りを孕み。春の足音を間近に感じて、ふと足を止めれば道端に咲く花が、まるで貴女の笑顔の様に輝いておりました‥‥』
と説明するが、目の前の男性は、なにかくすぐったいらしい。
首筋を書きつつ、真っ赤な表情でこう呟いた。
「そ、それは俺のガラじゃねぇな‥‥」
ちなみに依頼人、無骨でいかついマッチョのジャイアント。上半身は常に裸の木こりのおっさん。
そんなおっさんが、こんなに甘い文章を‥‥。
「ですが、意中の女性を射止めるにはねぇ‥‥」
と、愉しそうに書面を作っていくハルワタート。
実に愉しそうである。
●ケース4『遠く故郷にいる両親に、自分の元気を伝える手紙』
担当はテラー。
「実家がキエフとは、中々お主、見所があるでござるな‥‥」
と、同郷のよしみでそう告げると、テラーは早速手紙を作成開始。
「あ、僕は読み書きまったく駄目ですが、両親はちゃんと読める人ですから‥‥」
「うむ。承知仕った。『拝啓、春光うららかな季節となりましたが、ご両親様においてはいかがお過ごしでござろうか‥‥』と」
その横でウンウンと肯いている青年。
「そして‥‥『故郷では何かとお世話になりながらご無沙汰ばかりで申し訳ございませぬ。まだ肌寒い季節ではござるが、風邪などひかぬよう体調には十分注意して楽しい冬をお過ごし頂けると幸いでござる』と‥‥」
硬い。
そして何か変。
けど要点は押さえている‥‥のか?
「ええ。これでいいです。ありがとうございました!!」
と喜んで手紙を持っていく青年。
「うむ。これで万事なにごともなし!!」
チャンチャン。
●ケース5『告白された相手を丁寧に振る手紙』
担当はジェラルディン。
「お付き合いをお断わりするのですか?」
と哀しそうな言葉で問い掛けるジェラルディン。
「ん‥‥ああ。うまくまとめてくれ。アッチが勝手に惚れてきてしまっただけで、俺はそんな気はなにもない‥‥」
と告げる美形の青年。
「では、依頼ですから‥‥」
とさらさらと、やんわりと、それでいてしつこくなく、相手に変に期待を持たせないようにとどめをさす文章を作りあげるジェラルディン。
(うう‥‥このような手紙を作るのは、とっても心が痛みます‥‥)
良心の呵責に襲われつつも、ときおり青年に問い掛ける。
「お相手の女性はどんな方ですか?」
「どこかの令嬢らしくてね。プラトニックでもと言われたけれど、俺はその女性には興味が無い」
「では、その女性を『貴方の好みになるよう努力して頂く』というのは?」
「無理だね‥‥」
とあっさりと告げる。
そのまま哀しい気分で手紙を書き上げると、青年はそれを手に、迎えに来てくれた『彼氏』にぴったりと寄り添って店から出ていった‥‥。
「あ、あはは‥‥そういうのってありですかー?」
●そして休憩を挟んで
午後の仕事の前に、一行は郊外のすぐ近くの丘に向かう。
ハルワタートの案内で、ノルマン美味い所観光を行なった後、バスケットに弁当を作ってもらい一行は食事を取る。
そして英気を養った後、午後の仕事に付いた。
そんな日々が過ぎて、依頼期間は終了。
様々な人たちの愛憎模様を感じつつも、一行は『精神的大疲労』を引きずりつつも、家路へと戻っていったとさ。
チャンチャン♪〜