●リプレイ本文
●まずは小手調べを
──パリ・冒険者酒場マスカレード
「ふむ。つまり、これらの物品は今回『競り落とされなかった』ということか?」
静かなカウンターで、アンリ・フィルス(eb4667)がカウンターの中のミストルディンにそう問い掛けている。
アンリがここにやってきた理由。
それは、裏オークションに出されていたアイテムなどの行方を探す為である。
「そうね。競り落とされなかった物品は全て『オークションハウス』と呼ばれているギルドの支部で管理されているわよ。その場所については極秘なので、私も判らないわね」
と告げるミストルディン。
「うむむ。ということは、再びオークションにかかる日が来るのをまつしかないということか‥‥」
「ええ。で、もう一つの仕事、『カリバーンの7武具』『竜騎士カリバーンの血筋』については、現在調査中。血筋については、ほぼ諦めたほうがいいわよ。『竜の民』と連なっている家系みたいだから」
「そうか‥‥しかし参った。競り落とされているのなら、交渉で買いなおすという事も出来るのだが。落札無しで次にまわるとなると‥‥」
としばし思考するアンリ。
●剣士としての資質
──シャルトル・剣士の居留地
「疾風‥‥もし私の心構えが間違っていたのだとしたら教えて…お前は私に何を望むの?」
皆が集って食事をしている焚火の周りで、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)は静かにそう呟く。
其の手には、一振りの紋章剣・疾風が握られていた。
「問い掛けても、紋章剣は答えない‥‥」
と、静かに告げるマスター・メイスに、ヘルヴォールは口を開く。
「マスター・メイス、マスター・オズ。過去に、紋章剣士として試しの試練を越えたのに、紋章剣自体が答えてくれなかったことはあるのですか?」
そう問い掛けると、二人は肯いてからゆっくりと立上がる。
「紋章剣は、その持主の心にたいして呼応する。すべての紋章剣には属性があり、それはその主の生きざまにも関係してくる‥‥例えば‥‥」
と告げると、メイスが腰から紋章剣・無命を取り出してソードを形成する。
「無命は、己の命と引き換えに、全てを護る力。それに呼応するには、私自身が、全てを救うという心を常に持っていなくてはならない‥‥」
と告げると、スッと刀身をしまう。
「では、この疾風は?」
「それは、対となる紋章剣が有って、初めて本当の力を発揮する。単体でも十分強いが、『疾風』『業火』『激震』は、二刀流の為の紋章剣でもあるのぢゃ。ヘルヴォールは試しを終えた。だが、疾風がそれを認めていないのは、何か事情があるからじゃろう‥‥」
と告げる。
「では‥‥」
と告げると、ヘルヴォールはゆっくりと立ち上がり、試しの洞窟に向かう。
「待ちなさい。まだ、彼が戻ってきていない‥‥彼も又、試しの試練を受ている最中ぢゃよ‥‥」
──その頃の彼
「うあぉぁぁぁああ」
絶叫を上げつつ、洞窟を転がりつづける。
握られている紋章剣は『蟹』。
デュランダル・アウローラ(ea8820)は紋章剣士となるべく、最後の試練を受ていた。
握り締めている紋章剣から発せられる激痛。
それらを和らげる為に、己の体内のオーラの波長を合わせる。
それが出来ると痛みは収まり、紋章剣のコントロールが可能となる。
だが、蟹から放出されているオーラは常にその波長を変えてくる為、デュランダルにとってはかなり厳しい試練であった。
「波長の変わるオーラを‥‥体表面で受止め‥‥」
走る激痛。
だが、それもやがて波長を合わせられるようになりつつある。
「イメージは蟹‥‥その本質は、強き甲羅と強靭な刃‥‥」
オーラによる装甲の発生までは、まだまだできない。
けれど、やがて蟹から発せられるオーラが暖かく感じたとき、紋章剣が静かに輝く。
──そして
ふらふらとした足取りで皆の元に戻ってくるデュランダル。
「ふむ。成果はあったようぢゃな‥‥紋章剣『蟹』の正式継承者として、デュランダル、貴殿を認めよう‥‥」
その言葉に、デュランダルはニィツと笑みを浮かべ、そしてその場で意識を失った‥‥。
「‥‥デュランダルさんも、ヘルヴォールさん。皆ががんばっているのなら、わたくしも‥‥」
三笠明信(ea1628)もまた、マスター・オズの元で修行をしている。
彼の課題は『目の前の巨岩を砕く』である。
パラディンである技をもってすれば、それはさほど難しくはない。
だが、それでは駄目なのである。
三笠は、それらの技を使うのではなく、剣士としての原点に返っていた。
両手で握り締めている日本刀。
静かに、ピンと張り詰めた空気の中、正しい動作で巨岩に一撃を叩き込む。
──ガキィィィィィン
激しく撃ち鳴る刀身。
だが、巨岩はその一部が欠落しただけであり、砕けることはない。
「ものの本質。人にはそれぞれタイプが存在する‥‥大まかに分けると、『柔の剣』と『剛の剣』。三笠殿の中には『剛の剣』が本質として眠っているようぢゃが、それは‥‥誰かから譲り受けた力か。あるいは『血脈』かのう‥‥」
と告げると、マスター・オズは静かに巨岩の上に立つ。
「わたくしの父が‥‥『剛の剣』でした」
「それに反発して、『柔の剣』を求めるか。それもよいぢゃろうが、道は険しいぞ‥‥」
と告げると、フワッとその場から飛び降りる。
「全てのものに耳を傾けなさい」
と告げると、マスター・オズは、その場から静かに立ちさって行った。
──そして
静かに湖の正面で紋章剣を構える。
それは静かに鳴動すると、光の刀身を生み出した。
「疾風の紋章剣‥‥その記す道は『流れゆく。そしてそれを断ち切る』。ヘルヴォール‥‥ようやく認められたか」
と告げるのはマスター・オズ。
疾風の紋章剣は『大切なものを護る為』の剣ではない。
守りの剣ではなく、攻めの剣。
それがようやく理解できたとき、疾風はヘルヴォールを主と認めた。
「紋章剣『疾風』の正式継承者として、ヘルヴォール、貴殿を認めよう‥‥」
その言葉の後、ヘルヴォールは意識を失う。
ただ、その表情は笑顔で満ちていた。
●剣よ‥‥今、お前に命を吹き込んでやる
──パリ・冒険者街・もふもふの鍛冶工房
ガギィィン
激しく撃ちなる鋼の音。
全身から吹き出す汗をものともせず、一心不乱に剣を打っているのはロックフェラー・シュターゼン(ea3120)。
「次は水にいれてや。冷やして‥‥そのまま鍛えこんで」
もふもふの指示のもと、ロックフェラーは『魔法剣エクシア』の作成を行なっている。
従来型の魔法剣作成方法で、素体となる剣に『魔法を付与』をするという方法である。
実際、現在市場に出回っている魔法剣のおよそ9割がその作成方法であり、ロック式の『魔力核型魔法剣』というのは、まだ確立している技術ではない。
唯一『ディンセルフ式魔法剣』というのが魔力核を用いているのだが、その技術は現在クリエムしか使えず、さらにロック型とも少し違う。
「ふぅ‥‥これでいいのか?」
と、完成した魔法剣を手にするロックフェラー。
「そやな。で、あとは‥‥」
と、もふもふが奥で休んでいた『魔法付与師』を呼んでくる。
そして奥でそれらの作業が終わったら、こんどは試し切りの時間。
「で、俺の番かよ‥‥」
と呟いているのは、今回様々な実験材料、もとい実験に協力してくれるセイル・ファースト(eb8642)。
──カチャッ
完成したばかりのエクシアを手に取るセイル。
「‥‥なんだこの剣。重さがないぞ」
と呟く。
「どれどれ‥‥と、おお? なんだこれ?」
確かに軽い。
まるで持っているのか解らないぐらいに軽い。
「そやろ。どんな重装備でも、持っている事を感じさせない剣『エクシアシリーズ』や。それと対になる全身鎧も作れば完成やな」
と呟くもふもふ。
──シュンッ!!
力一杯エクシアを振る。
と、とんでもない速さで振られた剣の軌跡が見えなかった!!
「‥‥これ、まずいだろ?」
とセイルが告げる。
「ああ。とんでも武器だな。このまえの『ザンバスター』といい‥‥」
と告げて、ロックは口を止める。
今、このエクシアを打ち出したのは『ロックフェラー』であり、もふもふは指示をしていただけ。
「ま、まあ、さて、仕事仕事」
と、慌てて話題を反らすと、ロックは預かっていた『霞刀』の打ち直しを開始。
「そういえば、もふもふ。前に月雫のハンマーで鉄打ったら、使い物にならんくらいだったが微量に魔力宿ったんだよ。これ、どういう現象なんだ?」
「あ、それはやな。『月雫のハンマー』から魔力が注がれたんや。打ち手が魔法に精通していると、さらに膨大な魔力が付与される。そういう方式やな」
「なら、このハンハマーで適当な武器を打ち直したら、それらも全て微弱な魔力をおびて、悪魔との戦いにも使えるということか?」
──ガギィィィィンガギィィィィン
そう告げつつ、預かっていた霞刀に向かって月雫のハンマーを撃ちおろすロック。
「無理やな。ナマクラな剣にそのハンマー振りおろすと」
──バギッ
「砕けて使い物にならへんで」
と告げるもふもふ。
と、ロックフェラーは金床の上で粉砕された霞刀を、目を丸くしてじっと見つめていた。
──そしてニライ宅
「茶菓子はないぞ」
いつもの執務室で、ニライ・カナイ市政官が来客であるセイルにそう告げる。
「ああ、別にそれはいい。それよりもニライさん、あんたに色々と教えてほしいことがあったんだ‥‥」
と告げると、セイルはゆっくりと話を始めた。
「ファースト査察官について教えてほしい。まず査察官になってからの行動。具体的に、どいういうスケジュールで何処をまわっていたとか、そういうのを知りたいんだ」
と告げる。
「査察官になってからは、ノルマン全域をまわっていた筈だな。私の後釜ならばシャルトル地方の領主の元を全て。あの地区は大小合わせて30位の自治区があるからな。それらをまとめている『プロスト辺境伯領』に向かい、一つ一つまわっていたのであろう? 細かいスケジュールについては、報告書を見ない事には無理だな」
「それは、俺でも見れるのか?」
「関係者以外は閲覧禁止だ。市政官クラスでなければ。私はまだ体調が戻ったばかりで、それらの仕事はこれからだが‥‥なにか判ったら連絡をしよう」
その言葉を待っていたセイル。
「助かるぜ。ああ、それど、今現在の『ファースト査察官』の立場は?」
「今もなにも変わらない。相変わらず『ノルマン各地を回っている査察官』ということ以外は、裏の事情を知るものは存在しない。つまり、王城や騎士団の認識も『ファースト査察官は現在も査察を続けて各地をまわっている』ということになっている」
複雑な心境のセイル。
「で、最近の情報は? 何処かで見掛けたとか?」
「ああ、ほれ‥‥」
と、羊皮紙の束を手渡すニライ。
それには、ここ最近で『ファースト査察官らしい人物』を目撃したという報告が。
「この情報だと、最後に確認されたのは『真アビス』に入った所で終っている。つまり‥‥」
「ああ。まだ中に居る。それも『辺境迫』もな。4月からは、プロスト辺境伯領は実質『エドワード・プロスト辺境迫代行』が納める事で決着は付いた。そして代行補佐官に『ユーノ・ヨハネス』が4月より正式に就任することになったが‥‥」
それは願ったりの結末。
今まで閉ざされていたプロスト城の門が、4月に開門されるのである。
「なんとか、早く辺境迫も連れ戻さないと」
ということで、セイルのはそのままニライの元を立ち去る。
そしてマスカレードのミストルディンにも情報を売ってもらったが、ニライから聞いた話以外には入手できなかった。
●魂の器
──王宮外苑・練兵場
そこは、主に城につかえている騎士たちが訓練の為に使用している訓練場。
その一角で、虚空牙(ec0261)と『秋夜』が、互いに拳を握り、じっと構えている。
すでに対峙してから1刻。
お互いに相手がどう動くのかを読みつつ、最善の一手を思考している。
──バツッ!!
そして空気が動く。
その刹那、空牙の体が大地に叩きつけられている。
「‥‥ふぅ。さすがは兄弟子‥‥勝てないか」
と呟きつつ、ゆっくりと立上がる空牙。
その滋養半身には、瞬時に付けられたのであろう無数の拳のアザが叩き込まれていた。
そしてそれは、秋夜の体にも付けられている。
「まあ、今の動きはいい。あとは相手の動きを瞬時に見て、刹那の時間に動くようにする事だ‥‥それができるようになると、相手の呼吸だけでどういう動きか判る‥‥じゃあな」
と告げると、秋夜はそのまま館に戻る。
「付き合おう。それに聞きたかった事もあるしな」
と告げると、二人は『アンリ』の眠っている部屋へと向かっていった。
──そして
静かにベットに眠っているアンリエット。
ここ最近、この『眠り』から目覚めることがない。
アンリエットの中の『シルバーホークの魂』が、活性期に入ろうとしているのだろうと、秋夜が告げていた。
「悪鬼‥‥李興隆という男を知っているか? そいつが妙なことをしてくれたお陰で、レンジャーがいないとアビスに潜れなくなってしまった。まったくいい迷惑だ」
そう問い掛ける空牙。
「李興隆は完顔阿骨打の弟子にしてキョンシー使い。李家の賢者だな。相手にはしないほうがいい。奴は、様々な情報網を駆使して、使える死体をかき集める。それこそ、指の骨一つでも回収されたら、その骨だったものが敵となる可能性が高い」
と告げる秋夜。
やがて言葉もなく、空牙はその場を後にする。
●そして漁ります
──ミハイル研究室
そこは大量の資料の眠っている部屋。
「まあ、ここの資料でしたら、好きに調べて構いませんよ‥‥でも、かなりありますよ?」
と、フォルテュネ・オレアリス(ec0501)に話し掛けるシャーリィ・テンプル女史。
「ありがとうございます。でも、やらなければならないのです。ここに、『明日へと繋ぐ資料』が眠っている筈なのですから」
そう告げると、フォルテュネは同行してきたクロムウェルと共に書庫の資料を調べはじめる。
「古き刻印‥‥血の代償‥‥これは違いますね」
「古の結界、流れる運命‥‥これもちがう‥‥」
「人として‥‥涙のかけら‥‥これもちがいます。本当にあるのでしょうか?」
と呟くクロムウェル。
「ある筈ですわ。ミハイル研究所といえば、このノルマンでは有名な考古学者。彼の残した遺産には、きっと謎を解く手掛りが」
「隠者の仮面‥‥これって、ジェラールの仮面ではないのですか?」
クロムウェルが見つけた写本を、フィーネに見せる。
「これですね。古くは『ハーミット』と呼ばれていた賢者の『呪いの仮面』。その悪しき意志と魂を封じ込めてあると‥‥」
それ以上の部分はかすれていて解読不能。
ということで、ぎりぎりまで解読を続けていたが、それ以上は判らなかった。
──Fin