ミハイル・ジョーンズ4〜魔の地下迷宮〜

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 89 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月20日

リプレイ公開日:2004年08月15日

●オープニング

──事件の冒頭
「‥‥まったく、教授も懲りない人ですね。今度は一体何処にいくのですかぁ?」
 冒険者ギルドカウンターでは、一人のギルド員が依頼主に向かってそう呟いていた。
 依頼人は相変わらず元気な考古学者、ミハイル・ジョーンズ教授。
 つい先日、海底神殿の調査を切り上げてきたばかりだというのに、もはや次の冒険の依頼を持ち掛けてきたのである。
「うーむ。まるで儂が依頼にくるとロクなことがないというような顔をしおって、まったく‥‥」
 そう告げると、ミハイル教授はカウンターに乗り出して話を続けた。
「今回はかなり凄いぞ。南ノルマンの山岳地帯。伝説級とまではいかないものの、遥か古代に存在していた、何者かが残した地下迷宮があるというのじゃ。その場所の調査を行ないたいのじゃ」
 手にした古い地図を広げると、ミハイル教授は印の付けられている場所を指でトントンと叩いた。
「ははぁ。ここがつまり伝説の土地に繋がっていると?」
 そのギルド員の問い掛けに、ミハイル教授は胸を張ってきっぱりと言い切った。
「いや、それはない。今までに儂の調べていたのは、総て古代の竜信仰に関するものじゃ。伝承とは関係無いわい。ハッハッハッ」
 声高らかに笑い飛ばすミハイル・ジョーンズ。
「それと、今回はちょっと長期間になりそうなのじゃよ。そこの所、実力的に高い冒険者を頼むぞ」
 そう告げると、ミハイル教授は依頼金の詰まった袋をカウンターに預けていった。
「今回はと‥‥古代の地下迷宮ねぇ‥‥いよいよ、あの教授、やばいものに手を出したんじゃないかしら?」
 ギルド員はそう呟きながら。、掲示板に依頼書を張付けた。

●今回の参加者

 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1906 ヴォルディ・ダークハウンド(40歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2705 パロム・ペン(45歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea3448 チルニー・テルフェル(29歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea3826 サテラ・バッハ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea4799 永倉 平十郎(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●まずは現地入りです〜教授って〜
──街道
 ガラガラガラ‥‥
 静かな街道を馬車隊が走りぬける。
 ミハイル教授とその助手、そして今回雇われた人足と冒険者一同を乗せた馬車が、静かに街道を駆け抜ける。
「教授。幾つか質問してもいいか?」
 それはロックハート・トキワ(ea2389)。
「ん? 構わんぞ」
 そのミハイルの言葉に、ロックハートは静かに質問を始めた。
「何故急に、今まで調べていた所とまったく関係ない場所の調査をするんだ?」
「全く関係のない場所ではない。今回の古代地下迷宮も、『古代竜信仰』と様々な接点を持っておる‥‥と、発見した石版の解読結果から考えたわけじゃ。今までに発見した死者の神殿、海底神殿、そして今回の地下迷宮‥‥どんどん真実に近づいておるわい!!」
 そう熱く語るミハイル。
「‥‥今回の遺跡、教授が事前調査をしたときには、遺跡の中に入ったのか?」
「いや、危ないから止められたわい。現地でベースキャンプを作っている連中にもそう伝えてある。わしが到着するまでは、内部には入らないようにと」
 危ない‥‥その言葉が引っ掛かったものの、ロックハートは質問を続けた。
「あらかじめ石版や写本で解っている限りでかまわない。今回の遺跡はどれくらいの規模なんだ?」
「うーむ。詳しい事はまだ解読が終っていないというのが現実。だからこそ、今回はわしの優秀な助手に来てもらったわい。わしらが調査を続けている最中に、彼女にはベースキャンプで写本の解析を頼んである」
 その言葉に、同行した一人の少女がペコリと頭を下げる。
「あと、最後の質問なのだが‥‥伝説の五本の魔剣の事を知っているか?」
 その言葉には、ミハイルはキョトンとした表情を見せる。
「伝説の5本の魔剣? 何か竜と精霊に関する物なのか? それともジーザスの聖遺物? いずれにせよ、わしの専門外じゃな」
 その言葉の直後、ロックハートの頭を押さえながら、フィル・フラット(ea1703)が体を乗り出してくる。
「それにしても、この短期間で何度も冒険者を雇い、その全てにそれなりの報酬と必要経費を用意してるとは…。なあ教授、考古学者ってのはそんなに儲かるのか?」
 そのフィルの言葉に、助手の少女が溜め息を付きながら頭を左右に振る。
「はっきりと申し上げます。成果の上がらない調査の場合、赤字になるだけですわ。今までの竜信仰関係での調査で黒字になったものは存在しません。それ以前の調査関係で、それなりの成果が上がったからこそ、皆さんにこれだけの依頼を行うことが出来たのですから」
 そう告げると、少女はキッ!! とミハイルの方を向く。
「今回の依頼で成果が上がらなかった場合、次からの依頼は無報酬‥‥ボランティアという約束ですから」
 その言葉に、ミハイルは外を眺めながらウムウムと答えるだけ。
「教授、ちょっといいか?」
 それはレイル・ステディア(ea4757)。
「ん? なんじゃ?」
 やっと話が終ったか‥‥とでもいいそうな表情で、ミハイルがレイルの方に向き直す。
「さっきの話に出ていた‥‥ジーザスの聖遺物、それは何だ?」
 神聖騎士であるレイルにとっては、その話に興味があった。
「ふむ。聖書に出てくるジーザスに関する記述の中でも、聖遺物と呼ばれるものは、ジーザスの足跡として貴重なものである。わしの研究室にある写本と地図によると、『ロンギヌスの槍』というのがあってな。まあ、今回の依頼が終った後でも、おいおい冒険者ギルドにでもいってみるわい」
 まあ、これはまた別の話。
「ミハイル爺ちゃんも、レイル兄ちゃんも久しぶりにゅ。この前はオイラを置いてきぼりにしたにゅ!!」
 それはパロム・ペン(ea2705)。
 ミハイル教授の行くところパロムありとも言われるほど、教授の調査には同行していた『トラップマスター』。罠の解除・発見はお手の物という。
「いや、この間のは参加しなくて正解だ。正直キツかった。今回はあんなのはナシということで、な!!」
 パロムの頭をガシガシとつかみながら、ヴォルディ・ダークハウンド(ea1906)がそう告げる。
「い、痛いにゅ!! なにするにゅ!!」
 そんな二人のやり取りを、チルニー・テルフェル(ea3448)はじっと見ていた。
「ねー、教授、教授。今回の遺跡は、フワフワあるかなー」
 白くてフワフワしたものマニアのチルニー。
「ふむ、白くてフワフワ‥‥どうかのう。わしの知合いの貴族の家には、そんな生き物もおったような‥‥今回はどうかのう?」
 ミハイル教授、意外とあちこちに顔が知れているようで。
「‥‥この教授って、結構軽いノリなんだな?」
 ミハイル教授の遺跡発掘隊に初参加のサテラ・バッハ(ea3826)が、同じく初参加の永倉平十郎(ea4799)にそう話し掛ける。
「そうみたいだね。ねぇミハイル教授、地下迷宮ってどんな怪物がいるのかなぁ? 強いかなぁ?」
 その平十郎の言葉に、ミハイル教授が静かに口を開いた。
「うーむ。今までの遺跡は、大抵がアンデットじゃったからのう。どうもわしの行く先にはアンデットが大量に出る。おそらくこれは、参加した誰かの業が深いということじゃな」
 その言葉に、ヴォルディ、ロックハート、パロム、レイル、そしてチルニーの5名が、一斉にミハイル教授を指差した。
「ん? まあそんな事はよい。サテラとフィル、永倉の3名は始めてじゃったな。では、わしのこれまでの冒険譚を‥‥」
 そして3名は、現地到着までミハイルから今までの発掘に関する話を聞いていた。
 なお、途中あちこちで自分を美化する教授を、その話を知るものが次々と突っ込んだのはいうまでもない‥‥。


●地下迷宮〜みなさん入り待ちです〜
──洞窟
 そこは山岳地帯。
 ベースキャンプに馬や馬車を置き、荷物をまとめた冒険者一行は、件の写本に記された地下迷宮の入り口へと向かう。
 隊列を整え、目的地である自然洞をひたすら歩く。
 そして洞窟の奥、巨大な空洞で一同は石造りの扉を発見した。
 扉の大きさは高さ約3m。とにかく巨大で、扉には様々な文字と巨大な竜の紋章が刻みこまれていた。
「ほほーーーーーーーーう。これはこれは」
 そう告げながら、ミハイル教授が扉に近づいていく。
──パチン!!
 と、ヴォルディが指を鳴らす。
 それはある合図。
 ミハイル教授の腕を、フィルと平十郎がガシッと掴む。
「悪いな教授。俺は、戦って死ぬのは本望だが、こんな所で罠にかかって死ぬのは本望じゃないんでね」
 前回の探索、最後の詰めでミハイル教授がへまをやらかした。
 運良く生き延びたから良かったものの、情況によっては全滅であったかもしれない。
「こ、こら、放さんか!!」
「じーちゃん、御免にょ? にょ?」
 パロムがそうミハイルに告げる。
「なんでにょにゅ? オイラの言葉ちょっとおかしいにゅ?」
 そのままパロムは、頭を捻りながら扉に向かい罠の感知。チルニーは真っ直ぐ上昇し、扉の上の方を調べている模様。
「罠はないにゅ。チルニーの方は?」
「壁の向うはおっきい部屋だね。暗くてよく判らないけれど、かなりおっきい部屋」
 エックスレイビジョンで壁を透視したチルニーがそう告げる。
「仕掛けは?」
「ないにゅ。扉は押すだけにゅ」
 そのパロムの言葉に、一同納得。
 そしてミハイル教授を解放すると、そのまま教授は扉の解析を開始。
「全く。このわしがそんなにドジをするとでも思っているのか?」
 そう呟きながらも、ミハイルは扉を調べる。
「‥‥なにもたいしたことは書いてないのう」
「じっちゃん、今までのパターンだと、この先は回廊にゅ。けど」
「この奥は、おっきい部屋なの。灯を用意したほうがいいわね」
 パロムの言葉にチルニーが続く。
「なら、隊列を組んでおいたほうが良いな」
 そのレイルの言葉で、隊列を取り始めた。
 ちなみに隊列はこんな感じ。

〜〜〜図解〜〜〜
・上が先頭になります
・遺跡内部での灯はチルニーとパロム、レイルが担当
・チルニーとパロムはメンバーからランタンを借用
・マッパーはロックハートとサテラが担当
・戦闘時はミハイル教授が荷物の護衛
・また、必要に応じて各員が松明の準備
・戦闘時は永倉は前衛へ

   ヴォルディ パロム   レイル
     チルニー 教授 永倉 サラサ
         フィル 
        ロックハート 

〜〜〜ここまで〜〜〜

「では、いざ深淵をいかん!!」
 迷宮探索は始めてという事もあり、平十郎はかなりワクワクモード。
「では、早速‥‥」
 レイルとヴォルディの二人が石扉をゆっくりと押し開ける。
──ギギギギギッ
 石と石の擦れあう音。
 そしてゆっくりと開かれた扉の先には、広い神殿が待っていた。
 天井まで続く巨大な柱、正面の竜のレリーフ、そして壁にびっしりと刻みこまれた魔法文字。
 そこは、今までに見た神殿の集大成とでもいう感じであった。
 そして。
──カタカタカタカタッ
 前方の暗闇から、ぼろぼろの神官衣を纏ったズゥンビや、錆びてはいるものの、重厚な鎧を身に纏ったスカルウォリアーが姿を現わした。
 その数、ズゥンビだけでも6、スカルウォリアーは1。
「さて、仕事の時間だな‥‥スカルウォリアーは俺が止める!!」
 ヴォルディがジャイアントソードを引抜き構える。
「ズゥンビは引き受ける」
 フィルがそう呟くと、素早く剣を振るう。
──ブゥゥゥゥゥゥンッ
 フィルの先制攻撃ソニックブーム。
 それが戦闘開始の合図となった。
「同じくズゥンビは引き受けます」
 平十郎もズゥンビを潰しに走る。
 その後方では、ロックハートがダガーを構え、レイルとサテラが魔法詠唱開始。
 チルニーは上空へと移動し、周囲を照らす灯となった。
 そして教授は、パロムと一緒に後でチョロチョロと逃げ回っている。
「た、戦えないにゅ」
「うむ。その通りじゃ」
 そんなことを告げている最中にも、すでに戦いは始まった。
 スカルウォリアーと激しい剣戟を繰り広げるヴォルディ。
 残りのズゥンビはフィル、レイル、平十郎の3名が楯となり、後方からはサテラが魔法を次々と繰り出す。
 チルニーは上空から戦況を眺め、ズゥンビの動きを前衛3名に的確に伝え、サテラもその言葉に反応して随時ターゲットを変更。
 パロムはダガーを引抜き、オフシフトを駆使しつつ囮として走りまわる。
 だが、数の上では圧倒的に不利。
 スカルウォリアーを止めるためにヴォルディ一人の戦力を削がれていることも、かなり致命的であった。

 その戦いでは、無傷だったものは一人もいない‥‥。

──そして
「‥‥い、生きてるか?」
 ヴォルディがゆっくりと立ち上がり周囲を見渡す。
 彼方此方にズゥンビの砕けた死体や切り裂かれた死体、凍り付いた肉塊などが散乱している。
「まあ、なんとか‥‥」
 剣を拭い、鞘に納めるフィル。
「流石に、いきなりこの調子だときつすぎる。この先にも、こんなのがいるかと思うとぞっとしてくるな」
 レイルもまた、腕から流れている血を止めるために布で止血すると、周囲にまだ敵が残っていないか確認。
 幸いなことに、この神殿エリアにはもうガーディアンらしき存在も、アンデットの気配も感じられない。
「教授、今日はここのエリアの調査だけにした方がいいと思いますが‥‥皆さん、既に限界のようですが」
 そう告げるサテラの言葉に、ミハイル教授も同意。
 かくしてその日は、神殿エリアのみの調査を行い、1度ベースキャンプへと帰還した。


●2日目〜戦いは無いけれどねぇ‥‥〜
──神殿エリア
 前日の調査結果、このエリアからは二つの隠し扉が確認された。
 一つは正面レリーフ横、ちょうど壁に掘りこまれている竜の口の中に、隠し扉を開く鎖があったのをヴォルディが発見。
 そしてもう一つはレリーフのすぐ前、台座とその上に置かれている竜の彫像。
 彫像の首からは、またしても装飾の施されたペンダントが下げられている。
 その彫像を動かすことで、台座が下にずれて階段が出る。
 こちらはパロムが発見。
 壁の魔法文字はサテラか次々と羊皮紙に写し取っていた。
「参った。文字の解析までは手が回らなかった‥‥」
 そう呟くサテラ。
 壁に刻まれている文字は総て古代魔法語により書き記されていた。
「いやいや、わしの方でそれは何とかなる。とりあえず写して置けるものは全部写し取っておいて欲しい」
 そのミハイルの言葉に、サテラは静かに肯く。
「で、どっちに行くんだ?」
 レイルの問い。
「当然、こっちにきまっているさ」
──ジャラララララッ
 そう呟きながら、ヴォルディが勢いよく鎖を引く。
 と、隠し扉がゆっくりと開く。
「じーちゃん、おいらのほうにゅ!!」
──ガチャッ‥‥ゴゴゴゴコゴゴゴゴコッ
 パロムもそう告げると、彫像を動かし台座を移動させる。
 と、移動した台座の下から階段が姿を現わした。
「その前に‥‥」
 ロックハートがヴォルデイの開いた扉の向うを確認。
「こっちには、敵らしい気配はなさそうだな」
 そしてパロムの開いた階段の方はチルニーが確認。
「とくになにもいないねぇ。音もガサガサッとしか聞こえないよ」
 そうチルニーが告げた瞬間、パロムは急いで台座を元に戻した。
「チルニー。なにもいないならガサガサ言わないにゅ。何かいるにゅ?」
 そのパロムの突っ込みに、ポンと手を叩くチルニー。
「風。風の音。風が流れているのよ」
 成る程。
 ということで、取り敢えず一行はそのままヴォルディの開いた扉の中に入っていった。

──そして‥‥数刻後
 一行は走っていた。
 真っ直ぐに下っていく回廊をとにかく全力で走りぬけていた。
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴッ
 その後方からは、巨大な石の球が転がってくる。
 途中かなり多くのトラップが仕掛けてあった。
 壁からは毒矢が飛び出し、石の隙間からは大気の刃が襲いかかってくる。
 落とし穴のそこは果てしなく暗く、動く壁により退路まで完全に断たれてしまっていた。
 そして止めは下りの回廊。
その回廊に入った直後、天井の一角から巨大な球が落ちてきて、冒険者一同に向かって転がってきたのであった。
「とっとっとっとっ‥‥止まったらぁぁぁぁぁ」
 ヴォルディ絶叫。
「死ぬ‥‥ですか?」
 レイル、務めて冷静。
「嫌ぁぁぁ。こんなところでぺちゃんこはいやぁぁぁぁ」
 チルニーは飛行中。だが、球は天井ほぼギリギリの為、チルニーでも危ない。
「あ、あの球、前衛なら止められませんか?」
 平十郎がそう告げるが、ロックハートが務めて冷静に呟く。
「加速しすぎだな。潰れる‥‥まてよ?」
 その瞬間、ロックハートの脳裏に何かが浮んだ。
「レイル!! 天井を破壊すれば」
 その直後、レイルは荷物をパロムに投げて全力で走り出した。
──キキーーーーーーッ
 そして一定の距離を取ると、振り向いて素早く詠唱開始。
「ま、間に合って欲しいにゅー」
「頼むぞい」
「万が一のときは援護はいるから、頼む」
 パロム、ミハイル、サテラがそのままレイルの横を駆け抜ける。
「一応‥‥用意するか?」
 ヴォルディもレイルの横に止まると、ジャイアントソードを構えた。
「任せました!!」
「運を天に祈る‥‥」
 フィル、そしてロックハートが駆け抜けた直後、魔法詠唱が完了。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
 ヴォルディがジャイアントソードを構えると、天井に向かって力一杯叩きつけた。
 バーストアタックにより、天井に亀裂を走らせる。
 そこに向かって、レイルがディストロイを発動。
 いきなり天井が砕け大量の瓦礫が床に降り注ぐ。
 そして二人は同時に走り出す。
──ガギガギカギガギカギカギカギッ‥‥
 瓦礫により加速度が落ちる。
 そらにヴォルディとレイルの二人は走り出して距離を取ると同じことを繰り返す。
 それを幾度と繰り返しているうちに球は完全に停止した。
「‥‥ふう。一発では止められなかったか‥‥」
 ロックハートがそう呟く。
「いや、止まっただけでも良しというところだな」
 フィルもそう告げると、ようやく一息入れれるという感じでその場に座り込んだ。
「とりあえず、どれぐらい走ったかのう」
「そうだな。地図を作ってみるからちょっと待っててくれ」
 ミハイルの言葉に、サテラが静かに立上がると駆けおりてきた回廊をじっと見る。
 両手で間合を計り、ゆっくりと頭の中で計算。
 はじき出した数値を元に、地図をゆっくりと仕上げていく。
 サテラ、伊達に学問を納めているわけではないようである。
「設計については専門ではないが、大体これぐらいだな」
 サテラがそう告げながら地図を仕上げる。
「ふむ。かなり走ったのう。これは戻るに戻れないということか?」
 そのミハイルの言葉に、サテラが肯く。
「あの球を排除しないと不味い。が、レイルとヴォルディ、二人の連携では、おそらくあの球を破壊するのにはかなりの時間がかかると思う」
 それ以前にジャイアントソードはボロボロに、レイルの魔力は限界になるであろうとサテラは予測。
「先に進むしかないか‥‥」
「!!」
 そのミハイルの言葉に、パロムが何かひらめいた感じ。
「じっちゃん、きっとこの先、あの隠し階段に繋がっているにゅ〜」
 そう呟くパロム。
 と、チルニーが静かに耳を清ませる。
「風の声‥‥この先に聞こえるよー」
 そう告げると、チルニーがパタパタと跳びはじめる。
「やれやれ、もう出発か」
「まあ、多少は体も休まったことですし、先に進みましょう」
 フィルの言葉に平十郎が続く。
 そして一行は、回廊を果てしなく進んでいった。
 
 やがて回廊は十字路にぶつかる。
 十字路の先は巨大な竪穴に繋がっており、まるで奈落の底にでも行きそうな巨大な縦穴が開いていた。
 左右の回廊のうち、左回廊は取り立てて何もない小部屋がいくつも続いていた。
 そこは生活エリアのようであり、白骨死体なども散乱していた。
 とりあえずここの神殿に住んでいた人たちの生活跡を確認し、ちょっとした事などをメモに取ると、一行はそこで一晩の宿を取り、翌日右の回廊へと向かった。


●右回廊〜扉÷鍵=財宝〜
──右回廊エリア
「‥‥ここは、さっき通った場所だな」
「ああ。私の印がついているな」
 マッピング担当のロックハートが、同じくマッパーのサテラに確認を取る。
 右回廊は完全な迷宮である。
 いくつもの回廊がぶつかりあい、突然行き止まったりと忙しい造りをしている。
 そのうえ、古代のギミックのようなものまで作動し、回廊自体がまるで生き物のように形を変えていた。
 地図によると、さっきまでは道があったはずの場所が壁になっていたり、行き止まりが突然小部屋の扉に繋がっていたり。
 とにもかくにもマッパー泣かせの回廊である。
 頼みの綱は、チルニーのエックスレイビジョンと耳。
 それを頼りに、あちこちと移動を続ける一行。
「‥‥この部屋は?」
 それはレイル。
 見た事もない部屋の前に辿り着く冒険者一同。
「マッピングしていないエリアのと混ざりあっているから‥‥」
 再びサテラの頭脳がフル回転。
 パズルを解くかのように、トラップ・ムービングウォール(移動する壁)の法則性を解析。
「この先の回廊からは、壁は固定。ここはその前の扉だな」
 ようやくゴールが見えたらしく、パロムがそのまま扉を調べる。
「ん? トラップはないにゅ」
 そのまま鍵を開けて、扉の先へと進む。
 そこは回廊と、途中に扉が二つ。
 そして奥にもう一枚の扉が有るだけであった。
「‥‥この扉のパターンからいうと、ガーディアンにゅ」
 今までのトラップ、ガーディアン配置パターンからそう割り出すパロム。
「ちょっと待ってて‥‥」
 チルニーがそう告げると、印を組み韻を紡ぐ。
 エックスレイビジョンで内部を透視。
 と、チルニーがクルクルと飛び回る。
「お、お宝〜金銀財宝‥‥とまではいかないけれど、きっとお宝〜」
 その言葉に逸早く反応したのはヴォルディであった。
「何? 金か? 金なんだな?」
 そのまま扉に手を掛けようとするが、直に手が止まる。
「パロム。頼む」
「判ったにゅ」 
──ガチャガチャ‥‥
「ヴォルディにーちゃん、御免にゅ」
 パロム、鍵開け失敗
「ふぅ。ちょっと待ってろ」
 パロムの持っていた道具を借りて、ロックハートが鍵開けに挑戦しようとした。
 が、その道具を受け取ったとき、ロックハートがパロムに問い掛けた。
「これは、鍵開け道具じゃないな?」
「釣り道具を改造したにゅ。即席にゅ」
 今回の依頼でも、パロムはお手製鍵開け道具作成。まあ、出来栄えは『ないよりまし』レベルである。
「なんでこんなもので‥‥」
──ガチャッ!!
 ロックハート、鍵開け成功。
「‥‥ちょっと待て、開いたのは良いが、俺が納得行かない」
 そのまま頭を抱えるロックハート。
 そしてレイル達が武器を構える。内部からガーディアンが出てくる可能性を考えての行動である。
 そして扉が開かれると‥‥。
 そこは財宝が安置してあった。


●最後の扉〜帰り道?〜
──回廊奥
 財宝は後に知合いの交易商にでも売り飛ばすことにして、一行はいよいよ最後の扉にたどり着いた。
 そこには古代魔法語が書き記されており、今までの扉とは一風変わったレリーフも施されている。
「‥‥教授、判るか?」
 そのフィルの問いに、ミハイルも静かに呟いた。
「一対のペンダント‥‥お、ふむふむ‥‥」
 どうやら教授には判ったらしい。
「一対のペンダントというと、この前見せてもらった奴か?」
 レイルがそう問い掛ける。
「うむ。この先に次なる鍵『道標の剣』が安置してある。ただ‥‥最後の部分が‥‥」
 そう呟くと、静かに口を開いた。
「『竜と心を交わせし者よ、心研ぎ澄まし扉を開け。さすれば剣、汝に道を与えん。心通わせぬ者よ、扉の奥に進むなかれ。破滅の拳が、汝を待っているであろう』‥‥という事じゃ」
 その言葉に、一同は戦闘態勢。 
「了解。では、パロム」
 サテラの問いに、パロムが鍵を開ける。
──カチャッ
 あっさりと鍵を開けると、チルニーがエックスレイビジョン発動。だが、扉の向うは見えない。
「こ、この扉、向うが見えない!! 魔法で何か仕掛けてある〜」
 そしてもう一度、パロムがトラップを調べる。が、トラップは仕掛けていない。
「行くぞ!!」
 ヴォルディの言葉と同時に扉が開かれる。
 そこは小さな庭園。
 さわやかな風が流れる。
 何処かで縦穴に繋がっているのであろう。
 石造りの広い部屋の中には、綺麗な庭園が作られていた。
 その中央、小さな泉が湧き出ており、そこに一振りの剣が突き刺さっている。
 そして問題が一つ。
 泉の手前には、拳を構えた人間型の彫像。
 良く見ると木で作られたそれは、今にも動きだしそうな雰囲気を漂わせていた。
「こ、この剣‥‥これじゃ、今回求めていたのは、まさしくこれじゃ!!」
 フラフラと剣に向かって歩きだすミハイル。
──ガシッ
 と、その腕をまたしてもフィルと平十郎が押さえる。
「教授、死ぬ気か?」
 サテラのその言葉と同時に、彫像が静かに動きはじめた。
 そしていきなり走り出すと、ヴォルディ達は戦闘態勢を取った。
「さて、最後の大仕事、無事に片付けてぱーっといこうぜ」
  
 それは激しい戦いだった。
 サテラのウォーターボムが炸裂し、ロックハートのシュライクがゴーレムの肉体を切り刻む。
 魔法での戦闘は必要ないと判断し、レイルは素早く2連撃を叩き込み相手の動きを翻弄。
 平十郎はオーラパワーを刀に附与し、一撃ずつゴーレムの肉体を破壊へと導く。 
 フィルもまた、ゴーレムに素早い残撃を叩き込んだが,その直後ゴーレムのナックルスパートで後方へと吹き飛ばされる。
 命に別状はないものの、それでもかなりきつい。
 さらにゴーレムのラッシュは続き、ヴォルディもまたかなりの痛手を受けた。
 だが、ゴーレムの優勢はそこまでであった。
 全身を切り裂かれ,ゴーレムは殆ど身動きが取れなくなっていた。
 そこにヴォルディが必殺のジャイアントソード・スマッシュEX炸裂。
 命中率はかなり低いものの、当たれば一撃必殺。
 それでゴーレムは粉々にくだけ散っていた。


●そして〜デジャヴュって知ってる?〜
──戦闘直後
 全ての戦いは終った。
 全身これ疲労の塊となった冒険者一同。
「さて、それでは調べるとするか」
「そうだにゅ。じーちゃん、ここはおいらに任せるにゅ」
 パロムがそう告げて,突き刺さった剣を丹念に調べる。
──調査失敗
「じーちゃん、トラップも何も無いにゅ」
 そのパロムの言葉に、一同は一安心。
 だが、レイルは二人の方をじっと見ていた。
(絶対に何かやらかす‥‥)
 そしてミハイルは剣に刻まれた魔法文字を写し取ると、ゆっくりと剣を引き抜く。
──スルリ‥‥カチッ‥‥ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
 途中で何かのギミックが作動。
 そして天井に亀裂が入り崩れはじめた。
「こここ、こっちに隠し扉と階段っ!!」
 チルニーがエックスレイビジョンであらかじめ調べていてくれたらしい。
「こ、このジジィ。また最後にやらかしやがった‥‥」
 そのヴォルディの言葉に、ミハイルはそっとパロムを指差す。
 そのパロムはというと、顔中から脂汗を流しながら走り出した。
「お、おいらのせいにゅー。逃げるにゅー」
 そして神殿に逃げ延びると,一行はそのまま洞窟の出口に向かって走り出した。


●パリ〜とにもかくにも大パーティ〜
──冒険者酒場
 とりあえず神殿は崩壊。
 必要な写本は無事に作成し、一行はパリへと戻ってきた。
 手に入った装飾品などの財宝は、総てグレイシー商会の女将が買い取ってくれたおかげで、冒険者達は懐ホクホク。
「で、教授、その剣には何が記されているんだ?」
 サテラがそう問い掛ける。
 と、ミハイルは例の魔法文字の記された剣を取り出すと,皆に静かに話しはじめる。
「この剣。ようやく魔法王国への道標が出てきたんじゃ。この剣に記されている文字によると、『焔の迷宮』というのがあってのう。ほかの部分の解析が終ったら、そこにでも行こうと思うのじゃよ‥‥」
 そう告げると,ミハイルはウェイトレスに料理を頼む。
 今回はかなりの黒字だったらしく、それはもう豪華絢爛であった。
 なお、その支払いの一部には、パロムが受け取った財宝関係の報酬分も使われていたらしい。
「そ、そんにゃあ‥‥」
 泣きそうな声を上げるパロム。
「最後に失敗した罰だな」
「当然だ‥‥」
「まあ、こんなこともあるということで」
「ご馳走になる」
「パロムありがとうねー」
「今回は教授じゃなかったか‥‥」
「何? 毎回成功したら、こんなにご馳走が食べられるのか?」
 以上、フィル、ヴォルディ、ロックハート、サテラ、チルニー、レイル、そして平十郎でした。
「とほほ‥‥じーちゃん助けて」
 そう泣き付くパロムに、ミハイル止めの一言。
「あ、ウェイトレスさん、これとこれをお持帰りで追加じゃ」
 パロム‥‥合掌。

〜FIN〜