【きゃっち・ざ・すかい】少女の夢を‥‥

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 48 C

参加人数:5人

サポート参加人数:5人

冒険期間:03月21日〜03月26日

リプレイ公開日:2008年03月27日

●オープニング

──事件の冒頭
 草原を渡る風。
 風に靡く髪を掻き上げつつ、いつものように狩りに精を出す。
 少年の家はすぐ近く、父親は数年前のオーガの襲来の時に争いに巻き込まれて死亡。
 その直後、母親は原因不明の病に掛かり、今は床に臥せっている。
 まだ幼い妹が昼間は母親の看病をし、少年は生活費と薬代を稼いでいた。

 そんなある日。
 母親の病が急変し、その数日後にこの世を去った。
 そして悲しみ冷めやらぬまに、今度は妹が母親と同じ病に倒れる。
 日に日に弱っていく妹を看病する為、少年は日夜今まで以上に狩りを続けていた。
 だが、まだ幼い妹の病気の進行は、母親のものよりも早かった。
 今は、もうベッドから起き上がるぐらいしか出来ない。
 そんな妹が窓の外を見ながら、ふと呟いた事があった。

「ずっと前に、魔法使いさんが魔法の箒でお空に飛んでったの。いつか私も魔法使いになって、空に飛んでいきたいな‥‥」

 もう妹の病は治ることはない。
 高い魔法の薬も、妹の病を癒す事は出来なかった。
 それならば‥‥。


●涙の訴え
──パリ・冒険者ギルド
「これが全財産です‥‥御願いです、妹を空に飛ばせてあげてください!!」
 涙を流しつつ、そうカウンターで叫ぶ少年。
 そしててその直後、少年も又、その場に崩れていった‥‥。

●今回の参加者

 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3747 蔵馬 沙紀(35歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)

●サポート参加者

ルミリア・ザナックス(ea5298)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ 乱 雪華(eb5818)/ 陰守 清十郎(eb7708)/ サスケ・ヒノモリ(eb8646

●リプレイ本文

 パリ郊外。
 セーラ神を奉っているその寺院には、毎日多くの礼拝者達が訪れています。
 そして、貴族を始めとする様々な身分の男性達が、この修道院で礼節を始め、様々なマナー、はては騎士見習いとして必要な『献身』の心を養う為に、日夜様々な事を学んでいます。

 そこはブルーオイスター寺院。
 『セーラの漢たち』の学び舎。


「実はな‥‥」
 静かに礼拝堂で司祭に話を始めているのはジュエル・ランド(ec2472)。
 運びこまれたという少年、そしてその妹を助ける為に、少女をここに運んでくるというのである。
 今回の依頼では、少女の病気を癒すのが先決。
 その治療をできるのは阿修羅僧とビショップのみ。
 そのため、この場所を使う事の許可を貰う為に、ジュエルは司祭に協力を申し出ていた。
「判りました。では、こちらでも出来る限りのみとはいたします‥‥」
 そう告げると、次はテラー・アスモレス(eb3668)が司祭に話し掛けた。
「ここの寺院には、ビショップはいないでござるか?」
「残念ですが‥‥ビショップ殿はこの寺院にはいません。本国からノルマンに派遣されているのかどうかも、我々は聞いておりません」
 そう告げられるテラー。
「そうか。ならしかたない。でござるか‥‥」
「では、これをお納めください。ここに運びこまれた少年と、その妹の治療費に‥‥」
 と告げて、蔵馬沙紀(eb3747)が金かの入った袋を司祭に手渡す。
「ありがとうございます。我々に出来る事は全て‥‥二人に、そして彼等を救おうとがんばってくれている大勢の者たちに、セーラの加護のあらんことを‥‥」
 そう告げると、司祭は十字を切る。
「失礼ですが。司祭殿、二人の名前は?」
 そう問い掛ける蔵馬に、司祭は肯く。
「少年はダニエル、妹はミリーといいます‥‥どうか宜しくおねがいします‥‥」
 その言葉に、全員が荷物を最低限まで削る。
 すでに先発で向かっている陰守辰太郎(ec2025)と合流する為に、それぞれが最速の移動方法で少女の家へと向かっていった。



●軌跡は起きるのか?
──パリ・冒険者街のフィームの部屋
「‥‥高千穂なら、今はノルマンにいないが‥‥」
 パラディンのフィーム・ラール・ロイシィは久しぶりの来客であるルミリア・ザナックスにそう告げる。
 ルミリアがここに来た理由は簡単。
 現在、仲間たちの受けている仕事の関係で『病を癒す事の出来る僧侶』を探していたのである。
 そしてルミリアの知る限り、それは阿修羅僧である高千穂しかいないと思ったらしい。
 幸いなことに、高千穂はフィーム付き阿修羅僧としてこのノルマンにやってきているのだが。
「どこに居ますか? 今は一刻を争うのです‥‥」
「私の使いで本国に戻っている。今は高千穂の代わりの阿修羅僧がいるが、彼は『病気を癒す』ことはできないが‥‥」
 あら残念。
 ということで、他に頼る宛もなく、ルミリアはここで力尽きる‥‥。
 パラディンといえども、病魔には打ち勝つには困難であったと‥‥。



●悲劇
──パリ郊外・少女の家
 静かにベットで横になっている少女・ミリー。
 その側では、先にやってきていた陰守が、少女の看護をしている所であった。
「空‥‥飛べるの‥‥」
 そう呟く少女。
 いまにも、その命の灯火が消えてなくなりそうである。
「大丈夫だ。私達は、君の願いを叶えてあげて欲しいと頼まれた。もうすぐ仲間たちもやってくるから、それまでがんばるんだ‥‥」
 そう告げると、ミリーはニコリと弱々しく微笑む‥‥

──ザワザワザワザワ
 と、外が騒がしくなってくる。
「到着しました!!」
 と慌てて室内に入ってくる元馬祖(ec4154)
「頼む」
 と告げる陰守に変わり、元が少女を見る。
(‥‥判らない‥‥全然、このこの病気が何であるかすら‥‥)
 とりあえず衰弱していることは判ったので、少しでも栄養を付けさせることをかんがえると、仲間たちに食事の準備を指示する元。
「これは『赤き愛の石』といって、貴方の病気を吸取ってくれるのよ。これを抱いて、すこし眠っていてね‥‥」
 と告げる元。
「ありがとう‥‥」
 とミリーも告げると、静かに石を抱しめて眠りに付く。
 そしてそのまま元は部屋から出て、仲間たちのいる台所に合流する。
「駄目‥‥このままだと、パリまでもたないかもしれない‥‥」
 元の頬を涙が溢れ出す。
「とりあえず体力が少しでも回復したら、ジュエルの空飛ぶ絨毯でパリに向かう。いずれにしても、この場所では適切な治療はできないだろう?」
 と告げる陰守。
「今は、彼女にとって何が大切かを考えるときですから‥‥元さん、あとはこちらで引き受けますので、寺院へ‥‥」
 そう告げる蔵馬に、元は涙を拭いつつ外に向かうと、そのままフライングブルームで寺院へと向かっていった。

──そして
 1時間後。
 目覚めた少女の顔色はほんのりといいかんじになっている。
 ジュエルと蔵馬の作った食事も少しだけ食べると、いよいよミリーの夢を叶える準備を始める。
「ささ、とりあえず空飛ぶと寒いから着替えてや。防寒着はこっちやな‥‥」
 ジュエルがミリーの着替えを手伝い、蔵馬が出発の準備をする。
 その間、テラーと陰守の二人は万が一の刻の為に周囲の警戒、そしていよいよジュエルの『空飛ぶ絨毯』にミリーが乗り込む。
 後ろから蔵馬がミリーを支えるように抱きしめ、横では彼女のシムルとハトが。
 そして追従するように、テラーがグリフィンに乗り、先導はフライングブルーム・ネクストに跨った陰守。

──フワッ!!
 ゆっくりと飛び上がる絨毯。
 そしてそれに合わせて全員が空を飛ぶ。
「わわわわわっ。飛んでる!! わたし飛んでる!!」
 大きく瞳を開いて、周囲に広がる風景に驚いているミリー。
 今までにない満面の笑みを浮かべていた。
「すごい!! 本当に飛んでいるんだー」
「そうよ。じゃあ街まで急ぎましょうね。街の寺院で、ミリーはクレリックさんに病気を直してもらうのよ!!」
 その蔵馬の言葉に、ミリーはニコリと微笑んで、そのままじっと正面を見つめていた。

──しばらくして
 静かに周囲を見ていたミリー。
 だが、先程よりも元気が無い。
「‥‥もう直ぐだよね‥‥」
 ミリーの言葉が弱々しい。
「大丈夫や。もうすぐやで。もう街の中にはいるから、あと少しの辛抱や!!」
 ミリーの前で、ジュエルが励ます。
「病気が治ったら、その絨毯はミリーちゃんにあげるからね‥‥」
 陰守もそう告げる。
「だから、あと少しがんばるでござるよ!!」
 テラーがそう叫ぶと、ミリーは弱々しく微笑んだ。
(御願い‥‥間に合って‥‥)
 蔵馬がそう心の中で祈る。
 ミリーへの右手をじっと握り締めつつ。

 スッ

 突然、蔵馬の手の中から、ミリーの手が零れ落ちる。
 暖かかったぬくもりが失われ、その手は徐々に冷たくなっていく。
「駄目っ。まだよ。まだいっちゃ駄目っ!!」
 そう叫びつつ、ミリーを後ろから抱きしめる蔵馬。
「見えてきたで!! 寺院や!!」
 既に外では、元の知らせを受けてクレリック達が待機していた。
 そして静かに寺院に降りていく絨毯。
 クレリック達は‥‥。
 静かに十字を切り、ミリーの冥福を祈った‥‥。


●二人はいつまでも
──後日談
 ブルーオイスター寺院にて冥福を祈る一行。
 その墓碑には、こう記されていた。

『夢を叶えたミリーと、強いダニエル、ここに眠る』

 ミリーが死去した翌朝。
 突然病状が悪化し、ダニエルもこの世を去っていった。
 ダニエルは最後に冒険者達にこう問い掛けていた。
「ミリーは‥‥笑っていましたか?」
 その言葉に、一行は言葉もなく肯く。
 そしてそれを見届けると、ダニエルもまた、笑いつつこの世を去っていった。


 セーラ様。
 どうか、二人の魂を救い、貴方の元で幸せに過ごす事をお許しください‥‥。

──エイメン