●リプレイ本文
●いろいろなこと・その1
──剣士の居留地
「何が足りないのか‥‥」
自分にそう告げつつ、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)は紋章剣を振るう。
「ふぅ‥‥ヘルヴォールさん、疾風の紋章剣士なのにその特性を生かした戦い方をしていないです」
そのブランシュの言葉に、ふとヘルヴォールは考える。
(疾風の剣士ならではの戦い方‥‥それは?)
しばし考えるヘルヴォールに、マスター・メイスが静かに歩み寄る。
「今だ答えは出ず‥‥いいかヘルヴォール。まだ貴公は『疾風の紋章剣』に認められただけ、その本質はまだ遠い」
と告げると、マスター・メイスは、自分の紋章剣をヘルヴォールに投げる。
「これは?」
「それを右手に、自身のを左手に‥‥そしてオーラを高めるがいい」
──The Aura Will be with you・・・・Always
その瞬間、メイスの紋章剣『無命』からオーラの刀身が生み出される。
そしてヘルヴォールの『疾風』からも。
だが、その吹き出すオーラを制御できないヘルヴォール。
「ち、ちょっと‥‥こんな筈が」
やがて制御出来なくなったオーラの刀身は消滅し、衰弱したヘルヴォールがその場に立っている。
「『業火』『激震』『疾風』。この3振りの紋章剣は、単体ではそれほど強い剣ではない。が、他の紋章剣と共鳴し、同調する事で、心の力を発揮することができる‥‥すなわち」
そう告げると、メイスは自身の無命を受け取ると、そのまま腰に下げる。
「もう一振りの紋章剣をコントロールする事。その為の修練を続ける必要がある‥‥」
「ですがマスター・メイス。もう一振りの紋章剣というのは存在するのですか?」
と告げたとき、マスター・メイスは懐からもう一振りの紋章剣を取り出し、ヘルヴォールに差し出す。
「まだ生まれたばかり。マイスター・クリエムより預かってきた紋章剣だ。属性力は『甲虫』。それが右腕となるように精進するがいい」
と告げる。
ヘルヴォールは静かにそれを受け取ると、すぐさま『二刀流』の為の訓練を開始した。
「そうだ、マスター。マスター・オズはどちらに?」
「今は若きパラディンに訓練を‥‥何かあったのか?」
と告げるマスター・メイスに、ヘルヴォールは静かに問い掛ける。
「今はまだ戦士の身。オーラをより高める為には、騎士となって基礎をさらに磨くことは必要でしょうか?」
と問い掛ける。
「貴殿の心に問いなさい。何故騎士となるのか‥‥そして騎士とはなんであるか」
と告げていった。
──一方その頃
全身に流れるオーラを限界まで体表面に止めつつ、体内をゆっくり循環させる。
オーラを持続させる訓練を、マグナス・ダイモス(ec0128)は続けていた。
この地にやってきて、まずはオーラの持続を学んだマグナス。
午前中はそれに専念し、午後からはパラディンとしての戦闘を学ぶ。
「マグナスの剣は『剛の剣』のようぢゃな。ならば、速度ではなく一撃に重点を置いた戦い方をするのがいいぢゃろう」
と説明するマスター・オズ。
「ですが、私の求めている戦い方では、どうしても隙が出来るのです‥‥」
そう告げると、マグナスは順にオーラを発動させていく。
オーラパワーをシャクティに付与し、そこから生み出されるスライシング。
守りはオーラボディ。
その流れ、一般の戦士や騎士ならば問題はない。が、マグナスはパラディン。
それゆえ、常に上を目指していくのだが。
「オーラエリベイションを常に纏い。そこから必要なオーラを発動していく。その流れで、さらに戦い方を考える必要があるのう‥‥」
と告げると、マスター・オズは、マグナスを岩場に連れていく。
「ここは?」
「剛剣術を訓練するにはいい場所ぢゃな‥‥それ、そこの岩でも真っ二つにしてみるがいい」
とマスター・オズが指差した先には、巨大な岩があった。
それの前でオーラを高めつつ、シャクティを構えるマグナス。
──ズバァッ
素早い一撃を叩き込んでみたものの、岩の表面を切り裂くだけであった。
スライシングの使えないマグナスでは、それ以上の威力は発揮されない。
「ここが限界です‥‥シャクティでは、武器の重さがないまのです‥‥スマッシュでも、重さを威力に載せる事が出来ません」
「ぢゃろうなぁ。シャクティはパラディンの武器であるが、剛剣用ではないからのう‥‥」
と告げると、マグナスに『ファキールズ・ホーン』を投げてよこす。
「インドゥーラの武器ぢゃよ。大寺院では扱い方を学ばなかったか?」
「いえ‥‥」
ずっしりとした重量。
それを両手で構えると、そこにオーラを付与。
静かにタイミングを計りつつ、岩に向かって一撃を叩き込む!!
──ドゴォッ
岩肌がエグれ、先程よりも大きな窪みが出来る。
「剛剣には超重武器。だが、それを使うと速度が落ちる。マグナスの言うカウンター戦法は、むしろ『柔剣術』という分野になる。力ではなく速度‥‥それならは、シャクティを使うのも納得が行く。いずれにしても、剛剣は『攻め』に特化しており、『護り』の戦術はあまりない。それを踏まえて、まずは基礎からぢゃな」
ということで、マグナスは再び基礎体力と剛剣・柔剣についてのレクチャーを受けることとなった。
●いろいろなこと・その2
──シャルトル・プロスト辺境伯領・プロスト城
静かな応接間。
そこで、リディエール・アンティロープ(eb5977)は椅子に座り、ユーノ・ヨハネスと愉しい会話をしていた。
1年振りの再会。
ひょっとしたら忘れられているのではという心配も会ったが、城を訪れたリディエールを向かえたのは、ユーノの熱い抱擁と激しい口付けであった。
そしてそのまま彼女の執務室に案内され、色々と話をしている所であった。
ユーノは現在、このプロスト城で『マスカレード』の補佐官を務めている。
契約期間は1年間、その間に執務官としての勉強を学び、後日自分の父親の納める領地に戻り、そこで執務官としての仕事につく。
今は若いマスカレードの補佐で手一杯らしく、中々リディエールに会いにいけなくて寂しい時間を過ごしていたらしい。
「そうでしたか‥‥ユーノ様も色々と大変でしたね‥‥」
「様はつけないでください、リディエールさん‥‥今は二人きりですから」
と告げると、ユーノはそのまま話を続けた。
しばらくは愉しい話、そして彼女の家の事について。
「私の家は、代々『ある機関』を組織していました‥‥父である『エルハンスト』の指揮下に10の機関があり、それらによって『ヨハネス領』は均衡を保っています。南方からの魔物の軍勢と戦ってきたときも、旧グレイファントム動乱の時も、ただひたすら自治領を守っていたのです‥‥私には兄が居ました。けれど、その兄は件の動乱で命を落とし、私がヨハネス家を継ぐ事になりそうでした」
そう告げると、静かにハーブティーを飲む。
「なりそうでしたということは、今は違うのですか?」
「ええ。弟が生まれました。今は、跡継ぎは弟に任せて、私は自由気ままに生きています」
そう告げてから、再び話を進めるユーノ。
それから数日間は、リディエールはプロスト城滞在を許され、ユーノの手伝いをしていた。
そして最終日に、リディエールは懐から『水妖の指輪』を取り出すと、それをユーノにさし出した。
「あの‥‥これ、よろしければもらって下さい。自分に最も近しい精霊の加護を大切な方に‥‥と、ある方が下さったのです。私も同じ物を身に着けていますから‥‥貴女を近くに感じられるように」
そのままユーノの右手薬指に填めるリディエール。
と、ユーノもふと思い出し、懐から『水妖の指輪』を取り出した。
「私も同じものを持っていました。では、私のはリディエールさんが填めてくださいね」
と、やはりリディエールの右手薬指に付ける。
「では、私はこれで失礼します‥‥また会いに来ても構いませんか?」
「いつでも来てください。職務の関係上、私がこのシャルトルを離れる事は出来ないので、遊びに来て頂けると嬉しいですわ」
とにっこりと微笑む。
そして挨拶がわりの口付けを交わすと、リディエールはそのままパリへと向かっていった。
──その同一時間帯
「‥‥」
静かな沈黙(それは当たり前だな)。
プロスト城地下立体迷宮にて、ロックハート・トキワ(ea2389)は久しぶりの逢瀬を満喫していた。
「‥‥会いたかった」
そう告げつつ、フィディエルを抱しめるロックハート。
手が汚れていること。
自分の生きざまが、汚れている事が、今までフィディエルに会えなかった理由。
いや、そういう理由があると、自分に言い聞かせていただけなのかもしれない。
相手は『水の精霊』。
決して人と交わることは無い。
そんな禁断の恋をしていいのだろうか。
そう考えていた時期があったものの、実際に会ってみると自身の本音しかでてこない。
いいわけなんて必要ない。
いまは自分に素直になろう‥‥。
「私も‥‥忘れられていたかと思ったわ‥‥」
そう告げられ、そっと口付けを受けるロックハート。
「純潔の花‥‥渡しそびれたから‥‥」
と、静かに花束を手渡すロックハート。
そのまましばらくは、ゆっくりとした会話をしている二人。
フィディエルは、地下水脈を伝ってシャルトルのあちこちを動いてるというのをロックハートに教え、そしてこう告げた。
「川や泉には私の友達が一杯居るから、もし何か会ったらその子達に伝えて。私はいつでも貴方の元にやってくるから‥‥」
「ああ。それにしても、ずいぶんと‥‥しおらしくなったな‥‥」
とボソッと呟くロックハート。
と、耳まで真っ赤になったフィディエルが、そのままロックハートの腕を掴んで、そのまま『氷結』。
「そ、そんなこと‥‥そのままそこで頭でも冷やしてっ!!」
と告げてどこかに行ってしまう。
(ああ‥‥やっぱりいつもの調子だ‥‥)
と、氷が解けてからロックハートは思った。
その後、地下に降りていき、アルテイラにヘアバンドを渡すと、そのままプロスト城を後にした‥‥。
●いろいろなこと、その3
──ノルマン江戸村
ガギィィィンガギィィィィィン
激しく打ちなる鋼の響き。
トールギス鍛冶工房では、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)とクリエムの二人が、『ロングソード』の製作を開始していた。
側には、近くの貴族からの『受注書』が大量に置いてある。
ロックフェラー曰、『武具にレミエラを併せるのではなく、レミエラに武具を併せる』というのだ。
その為、あちこちの貴族の元を二人でまわると、レミエラを持っているかいないかを確認し、そのレミエラにあった貴族の為の武器を、オーダーメードで作るということを行なっていたのである。
「それにしても‥‥色々と大変だワン」
側では、完成したロングソードに『彫金細工』を施しているわんドシ君。
「まあそういうな。こっちも久しぶりにフルパワーなんだ‥‥」
「ですね。私もこんなにハンマーを振るったのは一月ぶりぐらいでしょうか‥‥」
にこやかに汗を拭いつつ、クリエムがそう呟く。
そしてしばらくの間、二人はただひたすらに発注された武具を作りつづけていた。
──そしてしばらくして
一通りの注文を終えると、今度は自分の趣味の時間。
「カリバーンの製作がストップしちまってる以上、頼みはエクシアだ‥‥あと二振り、試作品を作ってみたい‥‥」
そのロックフェラーの言葉に、クリエムの創作意欲も急上昇。
「打撃能力を上昇した大剣型と、斬撃能力の限界に挑む刀。その二つを作ってみたいのだが」
とクリエムに話し掛ける。
「エクシアシリーズの作成は、ロックさんしか解らないですから、色々と教えてくださいね‥‥」
と告げて、クリエムはロックフェラーと共に武具作成を開始。
「魔法付与師も待機している。さて、それじゃあ始めるとするか‥‥」
と言うことで、いよいよ作成に入った二人。
クリエムのアドバイスを聞きつつ、まずは巨大大剣の作成。
一昼夜ハンマーを降り続け、鍛え上げた鉄塊。
そこからさらに『魔法炉』に火を入れ、クリエムは『火竜の鎚』を、ロックフェラーは『月雫のハンマー』を使用。
真の部分は漆黒に、そして刃先に向かって緋色が走る剣を完成させた。
握りの長さは1m、そして刃渡り2m。
こんな大剣にも関らず、クリエムでも片腕で持ち上がるというのはじつにいやらしい。
「これがエクシアシリーズですか‥‥」
「ああ。さしずめ2号というとこだな‥‥さて」
そしていよいよ3号の作成に入ったのだが‥‥。
どうにもこうにも、3号の『刀型』というのはじつにやっかい。このノルマンでも、真面目に『日本刀』を打ち出せる人間は数少なく、ロックフェラーやクリエムでも出来なくは無いが、その魔法剣となると話は別。
試行錯誤を繰り返しつつも、次々と生み出される『駄作』の数々に、ロックフェラー自身も落ち込んでいった‥‥。
●いろいろな事・その4
──シャルトル南方・エリア24
その近くには、古くは『破滅の魔法陣』が存在していた。
テッド・クラウス(ea8988)は、その地域にやってくると、かつて魔法陣があった中心地にやってくる。
途中の街道や村などを調査してきたが、どこにも人はおろか魔物が住み着いているというかんじもない。
魔法陣が消滅した後でも、この地は『呪われている』のかもしれないとテッドは考える。
そしてたどり着いた、魔法陣中心部。
そこには古い廃墟が存在している。
元々は『シルバーホーク邱』があった場所。
その地下で、あの破滅の魔法陣が起動したのである。
「いまは、ただの廃墟‥‥ですか‥‥」
ゆっくりとそこを歩くテッド。
だが、いつしか、自身が『監視されている』ことに気が付いた。
「戦う意志はないです‥‥誰ですか?」
そう問い掛けるテッド。 と、その廃墟から、一人の女性が姿を現わした。
「悪い事は言わないわ‥‥早くこの地から立ち去りなさい‥‥」
そう告げたのは、一人の女性。
その身なりから察するに、かなり身分の高そうな女性である。
金髪のストレートヘアー。
そして金刺繍の施されたローブを纏い、手には『賢者の杖』と呼ばれる魔法使いの用いる杖。
様々な装飾品が、彼女の身分を物語っていた。
「貴方は誰ですか? ここで何をしていたのですか?」
そう問い掛けるテッドに、その女性は一言
「私はバアル・ペオル。迷宮の監視者にして、大罪を司るもの‥‥ここにいるのは後始末の為‥‥これでいいかしら?」
そう告げられて、テッドは一瞬だが、その女性バアルの瞳のなかに、黒い何かを感じた。
(ここは、この女性は危険だ‥‥)
そう考えると、テッドは静かにその場を離れる。
今見た事を、誰かに伝えないと‥‥。
このノルマンが滅んでしまいそうな‥‥
そんな予感が、そんな感覚がテッドの中に渦巻いていた。
──Fin