●リプレイ本文
●のんびりといってみる?
──シャルトル・剣士の居留地
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ」
静かに呼吸を吐き出す。
そして再び吸い込む。
体内に入り込んだ息吹をオーラに導く。
それを体内循環し、全身に巡らせる。
腕に昇ったとき、オーラを紋章剣に行き届かせる。
そして発動。
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
静かに鳴動する紋章剣。
それを手にしたまま、セイルは静かにオーラを解除する。
そして大地に突き刺さっている魔法剣エクシア2号を引き抜くと、それを静かに構える。
「・・・・どうぢゃ? 何が違うかわかったかのう?」
そうセイル・ファースト(eb8642)に問い掛けるのはマスター・オズ。
「オーラの循環を高めるのが紋章剣。そして、純粋に破壊力のみを追求したのがエクシア2号・・・・」
その言葉に、マスター・オズは静かに肯く。
「なら、エクシアの限界は見えたか?」
「限界? まだ初手すらあやういというのに?」
と告げるセイル。
「では、エクシア2号を貸してみなさい・・・・」
「ああ」
とエクシア2号を手渡すと、マスター・オズはそれを手に静かに呼吸を高めていく。
やがてエクシア2号の刀身が鳴動を開始し、オーラによるコーティングが施されていく。
「そこの岩を投げてみなさい」
と告げるマスター・オズに、セイルは近くにあった岩を手に取り、放り投げる。
──スパァッ
まるでバターでも斬るかのように、石は真っ二つに分断されていく。
「す・・・・凄い・・・・なぜだ?」
「この刀身に使われている金属、そしてハンマーがエクシア2号に力を貸している。切断力よりも破壊力を高めたこの剣にオーラを施す。そうすることで破壊力は斬撃力に変換される。作り手の気迫が感じられるいい武器ぢゃよ」
と告げて、エクシア2号をセイルに手渡す。
「この武器を高めるため・・・・今よりも誰よりも強く。大切な者を護るため。そしてこの手に届く全てを失わぬ為に・・・・俺に剛剣術を教えてくれ・・・・」
と頭を下げるセイル。
「長く険しい道程ぢゃよ。先人達の歩んだ道を進むのは・・・・」
と呟くと、マスター・オズはクルリと振り向くと、ゆっくりと歩きはじめる。
「今暫くはオーラの修練から。そののち基礎を、そして型を・・・・」
その言葉に肯くと、セイルはさっそく霧の向う、マスター・オズの待つ修練場へと歩み出した。
──一方その頃
「つーまーりー。紋章剣『甲虫』は、守りと攻めを両立させる対極の紋章剣な訳。それをうまく使いこなさないと、バランスを失ってオーラを枯渇させてしまうか、オーラが暴走する訳ね?」
紋章剣士となったブランシュが、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)に説明を始める。
そのヘルヴォールはというと、右手に『疾風』左手に『甲虫』を握り締めて、静かにオーラを練りこんでいく。
「二つのバランス。どちらも均一に・・・・」
「そうそう。まずはそこから、パランスを片寄らせる『オーラブースト』はまだまだ先なんですよっ」
と告げる。
「攻めのオーラと守りのオーラ・・・・」
──ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
二つの紋章剣は共鳴を開始。
だが、右手の『疾風』の刀身のほうが強く鋭く形成され、左手の『甲虫』は短く弱い。
そしてその状態が1分ほど続くと、ヘルヴォールは意識が朦朧としてくる。
「あ・・・・この朦朧とした感覚は久しいな・・・・」
ふらふらとしたなかで、ヘルヴォールは意識を失った。
「ふぅん。中々オーラの消費が激しいものだな・・・・」
すぐ近くで『蝙蝠の紋章剣』を使って修練をしていたルミリア・ザナックス(ea5298)がそう呟く。
「ルミリアさんは剛剣術でしたね。どうですか?」
とブランシュが問い掛けると、ルミリアは苦笑いを浮かべる。
「我はまだ基礎修練ゆえ・・・・この程度だな」
と、腰のシャクティを引抜きコマンドワード発動。
そこから静かに構えを取ると、目の前の岩に向かって静かに一撃を叩き込む。
──スッ・・・・
それは抵抗なく岩を切断していくが、途中で止まってしまう。
「す、凄い・・・・」
茫然とするブランシュに、ルミリアは静かに肯く。
(ま、まさか成功するとは・・・・思わなかった・・・・)
いつもならガギッと弾かれ、そしてまだまだと呟くルミリア。
だが、今、この瞬間だけ偶然成功。
今の状態に力と速度が加わったときの破壊力は半端なものではない。
「ま、まあ、基礎をしっかりと続けていけば、ブランシュにもできるようになる。精進するんだな・・・・」
と告げて、ルミリアは立ち去る。
そして霧の向うの修練場に向かうと、再びマスター・オズの元で、一から基礎固めを続けていった。
──そして2日後
「では、マスター。俺はこれで。またここに来る事をお許しください」
そうマスター・オズに挨拶しているのはマグナス・ダイモス(ec0128)。
2日前からこの地でマスター・オズに修行を付けてもらっていたマグナスは、2日間の『剛剣術・基礎修練』を終えて、次の目的地へと向かっていく。
目的地はシャルトル南方・エリア24〜26の旧シルバーホーク自治区エリア。
そこは既にあちこちの村が復興作業を行なっている為、色々と情報が聞けると思ってやってきた。
特に気になっていた『大森林に向かった調査隊が行方不明』ということについて、色々と聞き回っていた。
その結果、幾つかの情報を手に入れる事が出来た。
・大森林の奥に、人知れず小さな教会が存在している。そこはかつて『悪魔崇拝者達の聖域』であったのだが、異教徒弾圧を受けてさらに森の奥に追込まれてしまったらしい。
・その教会の近くに、石化した人々の彫像が散乱している。すでに崩れたり破壊されてしまっている為甦生はほぼ絶望的。
・森の中から、時折人の歌声が聞こえてくる。近くの奴等はそれが『悪魔の呼び声だ』と脅えており、聞こえてくる夜は全ての窓を閉じてひっそりとしてしまう。
「ふむ。バアル・ベオルという女性については何か知らないか?」
とマグナスがあちこちに聞き込みをしてみたが、それらしい情報は最終日まで見つからず‥‥。
●まったりどっしり
──とある舘
「では、この『聖母の彫像』は1500Gでハンマープライス!!」
次々と競り落とされていく盗品の数々。
ラシュディア・バルトン(ea4107)は友である薊鬼十郎の頼みを受けて、彫像となったギュンター君を闇オークションから取り戻そうとやってきた。
場所と潜入方法はミストルディンから100Gという高値で聞き出し、そして割り符を手に入れて現地へ。
前日の下見会でギュンター君の彫像があったことを確認すると、いよいよ当日となった。
「あと二つ‥‥」
そう呟きつつ、じっとギュンター君が出品されるのをじっと待っていた。
そして
「エントリーナンバー28。人語を解するオーガのギュンター君・彫像。石化解除すれば貴方の元に愛らしいオーガが!!」
その司会の言葉に、次々と高額ベットが開始された。
「800G」
「850だ」
「私は950まで」
「パパーアレ欲しいよ」
「ハッハッハッ。仕方ないなぁ、ママには内緒だぞ!! 2000G!!」
という感じで、次々とセりあがっていく。
(もう2000Gかよ‥‥)
足元に置いてある金貨袋を睨みつけてそう告げる。
鬼十郎からの資金提供が間に合わず、事情を説明してマスカレードから借り受けた金貨の山。
「2400。これ以上はありませんか?」
その司会の言葉に、ラシュディアがベット!!
「2500だ」
「ハハッハッハッハッ2600Gといきましょう」
と、ラシュディアの更に上が出る。
「まだだ‥‥2700」
「では2800で」
「2900‥‥」
マスカレードからの資金は3000G。もう限界である。
「3000Gまでいきましょう。どうですか?」
その貴族の勝ち誇った笑みに、ラシュディアは最後の切り札を出す。
──ガバッ
と懐から自分の財布を取り出し、それを金貨袋の上に放り投げる。
「3140。是以上はでないぜ‥‥どうする?」
と呟くラシュディア。
だが、さすがの貴族も限界らしい。それ以上のベットはない‥‥。
「では、ギュンター君の彫像、3140Gでハンマープライス‥‥」
──カンカァァァァァァァン
ハンマーの音が鳴り響く。
これであとは、ノートルダム大聖堂で石化の解除を待つばかり‥‥。
──一方その頃
「ふむふむ。それは大変でしたねー」
シャルトル・プロスト辺境伯領内・セーヌ・ダンファン。
クリス・ラインハルト(ea2004)は久しぶりにガールズ達の元を訪れる。
そこで最近になって仮領主となったマスカレードとその側近とも合流。
二人に出会って話を聞くまでは、クリスは居間のプロスト領の領主がエルハンスト・ヨハネスであると信じていた。
その為、領内で色々とヨハネス卿の噂を聞く為に、吟遊詩人ギルドに手配してもらった『紹介状』も必要なし。
街のあちこちの酒場を訪れてみたものの、以前と全く変わらない光景に目をパチクリしていたらしい。
そこで偶然通りかかったマスカレードを発見、現在に至るという事である。
「ああ。全く困ったものだよ‥‥」
そう呟くと、マスカレードは側で遊んでいる子供達をじっと見る。
「ヨハネス卿の統治下になったら、このセーヌ・ダンファンは解体される予定だったらしい。まあ、それはなんとかなったが」
「が? なにかあるのですか?」
「色々とな。辺境迫という名を受けた親父の仕事を継ぐということ。即ち『南方蛮族』との戦いがまっているとは‥‥」
シャルトル南方・未探査地域から時折やってくるオーガの軍勢。
それを迎撃するのが辺境伯の受けた任務である。
「それは大変なのですけれど‥‥この場合は?」
と、クリスは横に座って静かに話を聞いている『クリス専属御衛士の秋夜』に話し掛ける。
ちなみにここに来る前に王宮に差し入れを持っていった所、外出許可が出た為、悪鬼、アンリエットと共にやってきたということである。
「冒険者に依頼するのが早いと思うが‥‥」
「南方のオーガの軍勢は、今までとは一味も二味も違います。統率された軍勢、僅かではありますが、戦闘技術の向上、そしてなにより、奴等の装備に『レミエラ』が確認されているという事です」
と告げるマスカレード。
「またレミエラか。あの技術が一般に広がってから、どこでもそんな話を聞くが‥‥そんなに凄いのか?」
と秋夜がクリスに問い掛ける。
「僕は使ったことないから‥‥悪鬼さんは?」
「そんなものに頼るほど弱くはない‥‥」
との事。
「まあ、後日改めて冒険者ギルドを通じて依頼は出しますよ。それまでレミエラ対策でも行なってみてください」
と告げるマスカレード。
「があがあがあ♪〜、キラキラ光のレミエラの星。でも、みんなまとめて燃えるとこわれるの。ガアガア♪〜」
と、近くで話を聞いていたアンリエットが口ずさむ。
「ふぅん。そんなに弱いんですか?」
とクリスが問い掛ける。
「ああ、これなんだけれどな‥‥」
と、マスカレードがレミエラをテーブルの上に出す。
「こんなちっちゃいものなんですか?」
と、レミエラを掌の上にのせるクリス。
「ええ。それでいて、非常に脆いのです」
とマスカレードが受け取ると、それを『ダガーの柄』でガシッと叩く。
その瞬間、レミエラはくだけ散った。
「まあ、それでもそこそこにつよいでしょうね。ただ、この技術には『デビルの力』が関係しているとか‥‥」
とまあね色々と話に花が咲いていく一行。
そんなこんなで、クリスはのんびりとした休暇をプロスト領で過ごすこととなった。
その途中で、情報収集の限界にぶつかったラシュディアと、甦生の終ったギュンター君も合流。
いきなり騒がしい事態になってしまった。
なお、とある日、セーヌダンファンに『プリティらしゅ☆』がご降臨なされたという噂があったとかなかったとか。
●そして
一同、それぞれ帰路に付く。
無事に修行を終えた者、何かを見切れなかったもの、様々な情報を得た者など。
それらの情報は、きっとこれからの役に立つだろう。
そして‥‥
静かに街道を進むマグナス。
その前方から、一人の女性が歩いてくる。
一見すると貴族の令嬢、だが護衛らしい人影はない。
「失礼。お嬢さん、まさか一人旅ですか?」
と丁寧に問い掛けるマグナス。
「いえ‥‥貴方に忠告をね‥‥」
とくすりと微笑むと、女性は静かに間合を離す。
「南方には関らないよう。それにアビスにも‥‥貴方たち冒険者全てに対して忠告します。これ以上、我々の『領域』を犯すのであれば、私達は全力をもつて『貴方たち冒険者』を廃除します‥‥」
そう告げる瞬間、マグナスは咄嗟に腰から剣を引抜き、一撃を叩き込む。
──スッ
と、その一撃を人差し指と親指でつまむように受止めると、そのまま静かに消えていった‥‥。
「今のが‥‥まさかバアルか‥‥」
すでに周囲には誰も居ない。
マグナスは急いで走り出した。
今聞いた事実を冒険者達に伝えようと。
──Fin