●リプレイ本文
●いつものように幕は開きまくり
──パリ・船着き場
天気晴朗。
風穏やか。
旅立つには丁度よい日。
さて、今回の依頼人は薊鬼十郎(ea4004)。
目的地は、パリ沖合にある無人島の調査。
そこに隠されている伝説の魔導兵器『ディスインテグレーター』を求めて、そして莫大な借金の返済の為に、一行は向かう事になったのだが。
いかんせん、その沖合に向かう為には船が必要。それも川下りの定期航路船ではなく、もう少し大型の『大型帆船』が必要。
もっとも、そのような船を持つ商人が、このパリには数名いるわけで‥‥。
──グレイス商会
船着き場の近くに倉庫を構えるグレイス商会。
今も大勢の人夫達が、下りの船に荷物を積みいれている最中であった。
「ふぅん‥‥なるほどねぇ‥‥」
と、それらの指揮をしている恰幅のいいマダムが、目の前で困った表情をしているラシュディア・バルトン(ea4107)にそう呟く。
ラシュディアは以前、マダムの帆船の世話になった事がある為、今回もどうにかならないかと頼みにヤってきていたのである。
「どうですか? もしお金が掛かるのならできる範囲内で支払います‥‥」
と頭を下げるラシュディアに、マダムはニィッと笑いつつ、手持ちの羊皮紙にサラサラと何かを記して手渡した。
「往復の旅費+貸し切りという事で水兵達の人足代、食費、船の修繕維持費など。そんだけかかるけれど?」
ああっ、ラシュディアが石化している!!
「ママママママママダム!! この金額だと、俺達の借金の○×倍じゃないか!!」
「だろうねぇ‥‥で、ここからが交渉だよ。冒険者としては、どんな条件を持ってくる?」
と、愉しそうに問い掛けるマダム・グレイス。
「‥‥遺跡から回収されるお宝。それで足りない分を補填するっていうのは?」
「必ず宝が出るっていう保証は?」
「この俺の考古学者としてのプライドを賭けて」
と自信満々に告げるラシュディア。
「じゃあ、もし宝が回収されなかったら、しばらくあんた、『グレイス商会専属考古学者』だよ?」
「上等!!」
「ならOK。みんなをよんどいで。出発の準備が出来たら、定期航路で海まで出るから。そこから『交易船グレイス・ガリィ2番艦』で向かうからね」
ということで、とりあえず情況は好転。
そのままラシュディアは一行の元に戻ると、早速出発の準備をする一行であった。
──その頃
「うあ、ろっくいないー」
「いないね。どうしよっか?」
鍛冶屋『びっくり鈍器』の入り口で、ギュンター君と鬼十郎の二人がそう呟いていた。
ここにきた目的は一つ。
ギュンター君は新しい自分用の武器を作って貰いにやってきたのである。
愛用のモルゲンステルンがない現在、ギュンター君は市販品のハンマーを手にしている。
だが、どうしてもしっくりとこないらしい。
「うーー。またあしたくる」
「でも、明日はきっと海だよ? もう時間がないよ?」
「‥‥またこんどくる。ろっく、きっといそがしい」
「そうだね。じゃあいこっか」
ということで、二人もそのまま一行の元に合流したのであった。
●旅は道連れ世は父ちゃん情けなくて涙ででくらぁ!!
──船上
ということでも、無事に河を下り河口で待機している交易船『グレイス・ガリィ2番艦』に乗り込んだ一行。
そのまま帆船は帆を上げて、風に乗っていざ出発。
「こ、この子が‥‥私の大切な、こ、こ、恋び‥‥」
──もじもじくねくね
そう皆の前でクネクネしつつ呟いている鬼十郎。
「うあ、はじめまして、ぼくぎゅんたー。きじゅろのなかま」
その言葉にガクッと崩れ落ちる鬼十郎。
「ほう。噂はかねがね。ベイン・ヴァルだ。よろしく頼む」
とガシッと挨拶するベイン・ヴァル(ea1987)。
「プハーーーーーーーーーーーーーーーーーーツ。あたしは鼎(かなえ)さね、よろしく」
と酒を飲みつつ握手する御堂鼎(ea2454)。
「カンターだ。まあよろしく頼む」
「よろしく!!」
ブンブンとカンター・フスク(ea5283)や御堂、ペインと握手するギュンター君。
「侍の鳳・双樹です。鬼十郎さんからお話は聞いておりました。よろしくお願いしますね♪」
とにこやかに挨拶する鳳双樹(eb8121)。
「シェセル・シェヌウだ。よろしく」
と同行してきたシェセル・シェヌウ(ec0170)も挨拶。
もっとも、シェセルは考古学者であるラシュディアと、今回の目的の遺跡に興味があった模様。
「ガルシア・マグナスである。よろしく!!」
と、がっちりと握手するガルシア・マグナス(ec0569)だが。
「う‥‥うあ‥‥よろしく‥‥」
と、ギュンター君、ちっょと後退。
「ん? どうした? 自分はギュンター君と友達になりたいだけだ。なにもしないから安心しろ」
と告げるガルシアに、ギュンター君は一言。
「あざーとすとおなじにおいした。けど、がるしあいいひと?」
と問い掛ける。
「ああ。悪い人ではない。我が主タロンに誓おう」
と告げると、ギュンター君も一安心。
「‥‥は、はじめまして‥‥」
と最後にやってきたのはプリティ・ラシュ☆。
どうしたものか、突然変身してしまったらしい。
「うあ、きれいなひとはじめまして‥‥」
と、ギュンター君が一瞬ボーッとした。
──ムムムッ
「ぎ、ギュンター君、そろそろ訓練を開始しましょー」
と、慌てて鬼十郎がその間に入ると、そのままギュンター君を連れて甲板へ。
「プッ‥‥」
その光景を後方で生暖かく見守っているカンターでしたとさ。
●ラシュディア教授と不可思議な遺跡
──上陸・そして遺跡探索へ
「これでよし‥‥と」
上陸して、目的のエリアへと移動した一行。
元に戻ったラシュディアが地図を広げ、そして遺跡のあった廃墟も確認すると、シェセルがベースキャンプを設営。
そしていよいよ探索が開始された。
まずは遺跡周辺の調査。
だが、これは半日でほぼ完了し、とくにあやしいものは発見できなかった。
「とりあえず、明日からは遺跡内部の調査にはいるとしよう‥‥まあ、この後は自由行動で、明日に備えてくれ‥‥」
というラシュディアの意見で、一行はとりあえず休息タイム。
愉しく歌い笑い、ギュンター君に稽古を付けるマグナスなど、みなが思い思いの時間を過ごしていった。
そして夜。
見張りを順番に立てて、一行は明日に備えて眠りにつく。
順に見張りにつき、今の時間は鬼十郎とギュンター君の時間。
「こ、これ!ギュンター君に持っていて欲しいの‥‥一番仲が良いって証の指輪」
と、鬼十郎は顔を真っ赤にして、『誓いの指輪』をギュンター君に手渡した。
「うあ、おなじのもってる。きじゅろのもらったから、これ、ぼくのあげる!!」
と、ギュンター君は鬼十郎の薬指に『誓いの指輪』を付けた!!
──ハフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
もうなんというか、突然ロマンチックが止まらないモードに突入した鬼十郎。
胸がドキドキハートバクバク。
「い、いいの? アタシが貰って‥‥」
「きじゅろだからだいじょぶ。それ、とーるのつくったゆびわ。ぼくのたからもの」
その言葉に、鬼十郎のドキドキが収まる。
「そう。トールさんの大切な思い出なのね。いいの?」
と問い掛けると、ギュンター君はコクリと肯いた。
このままいっきに押したお‥‥おっとっと。
奥手だったギュンター君を年上のお姉さんが優しくリードの筈が、そんな気分はすでに消滅。
そのままギュンター君の横に座り直すと、そっと抱きしめた。
●遺跡よいとこいちどはおいで、さのよーいよい
──遺跡内部
入り口はしっかりとトラップまで仕掛けてあった。
近くには泉があった為、そこで双樹が『雲母ちゃん』に頼んでパットルワードを発動。
「この遺跡には、人が近寄った形跡はないそうですね」
と双樹が告げると、カンターが入り口に刻まれていた小さい文字を確認。
「‥‥異世界の9つの神? あーっ、判らない。ラシュディア、この文字読めるか?」
とカンターがラシュディアを呼ぶ。
「ああ‥‥これは参った‥‥どこか遠くの魔法語だな‥‥」
とラシュディアも解読不能。
「俺が見ようか?」
とシェセルがラシュディアの元にやってくる。
そして刻まれた文字を見て、静かに一言。
「アセト、オシリス‥‥俺の母国の神々の姿を刻んであるが‥‥何故?」
と、文字の解読に入る。
が、アラビア語では無い為、解読は不可能。
「とりあえず、はいっちまったほうがいいんじゃねーの?」
と酒を飲みつつ呟く御堂の意見で、ペインとシェセルがトラップの解除を行ない、静かに扉を開けた。
──そして
地下迷宮。
出現するアンデッドの群れ。
ミノタウロスが徘徊し、オーグラが駆け巡る。
大量のトラップとジャイアントスコーピオンなどのインセクトが行く手を阻む。
ある時は毒蛇、ある時はトラップ。
地底の大ホールと、そこを流れる流砂。
それらの危険を次々と突破しつつ、一行はいよいよ『名もなき王の墓』の玄室にたどり着いた。
「あーあ。もう酒がきれちまったね。だれか予備もっていない?」
と周囲に問い掛ける御堂。
「さっき回収した酒ならあるが?」
と、大量の宝物を背にしたカンターが、荷物の中から酒の入った壷を取り出し、それを御堂に投げる。
「ありがとう。グビッ‥‥ぷはーーーーーーーーーーーーーーーーー。これはきつい酒だぁね」
と告げつつも満足そうに飲む御堂。
「この玄室の扉の向うに、古き魔導兵器『ディスインテグレーター』があるようだが‥‥準備はいいか?」
と一行に問い掛けるラシュディア。
「ああ。かまわぬ」
と告げるガルシアと、静かに肯く一行。
──ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
重い玄室の扉を開くと、その奥で静かに立つ女性を見た。
姿はどこか遠くの貴族のような姿。
異国のような服装に身を包み、なにか『巨大な錫杖』を手にしている。
「貴様‥‥一体なにものだ?」
と叫ぶペインに、その女性は静かに振り返ると、ニィッと笑う。
「これが伝説の魔導兵器‥‥ウフフッ‥‥」
とその錫杖を静かに振り上げる。
「私は‥‥バアル様の使徒。この錫杖は渡さない‥‥」
と告げる。
その刹那、冒険者達は一斉に走り出した。
彼女の口から出た『バアル』という名前が危険であるから。
もし彼らの知るバアルと同一人物ならば、それは絶対に渡してはいけない。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
素早くダガーで切りかかるペインだが。その攻撃は全て交わす使徒。
さらに続く双樹と鬼十郎、シェセルの攻撃も全て交わすと、そのまま印を組む。
「まだだっ!!」
高速詠唱でライトニングサンダーボルトを放つラシュディア。
その直撃を受けてフラフラしているところに、カンターとガルシアが一気に間合を詰めた!!
──ズバァッ‥‥スパーーーーーーーーーーーーーーン
愛用のヘラクレスの剣で使徒の胴を分断するガルシアと、宝のなかに入っていた宝剣でその首をスライシングしたカンター。
そして使徒はその場で消え、錫杖だけがそこに残った。
「‥‥スライシングなんて使えないのに‥‥この剣が教えてくれた?」
と自分の放った技に驚くカンター。
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
と、突然大地が鳴動し、遺跡が震える。
足元の石があちこちで崩れ落ち、そこの無い空間に次々と落ちていった。
「こ、これ以上は危険だ‥‥とっとと逃げるぞ」
と叫ぶと、一行はそのまま外に向かってダッシュ。
魔導兵器ディスインテグレーターもその空間の落ちていった。
さらに。
「こ。この荷物が危険だ‥‥」
と、カンターは走りつつも宝を手から棄てていく。
重過ぎて、脚が間に合わないのである。
そしてどうにか地上に戻ると、一行はベースキャンプへと戻っていった。
●そして
──パリ・冒険者酒場マスカレード
無事にパリまで戻ってきた一行。
カンターのポケットに入れてきた宝石などを売り飛ばして、自分達の出費はどうにか損失無し、もうけなしという状態。
「さて‥‥これからどうするか‥‥」
と頭を抱えるラシュディア。
「どうかしたのですか?」
と鬼十郎が問い掛けると、なみだを浮かべながら叫ぶラシュディア。
「借金が‥‥また返せない‥‥」
と呟くラシュディアに、鬼十郎は一言。
「あれ? 言ってませんでしたっけ? 返済しましたよ」
とあっさりと。
「な、ん、だ、と? それは本当か」
その問い掛けにコクリと肯く鬼十郎。
「そっか‥‥ならいい。いいんだ‥‥」
ということで、骨折りぞんのくたびれもうけ。
それでもホッと一息を付けたラシュディアであったとさ。
──Fin
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
‥
そして後日。
「ラシュディア‥‥旅費分の宝は?」
グレイス商会に呼び出されたラシュディアに、マダム・グレイスがそう問い掛けた。
「あ、ああ‥‥それは‥‥」
さて。
ラシュディアの苦悩はもうしばらく続く。