●リプレイ本文
●ふらりと何か?
──パリ・自警団詰め所
最近巷を騒がせている『女性限定殺人事件』。
被害者は体の一部を切り取られているというこの猟奇的な事件を解決する為に、今、3名の冒険者が静かに立ち上がった。
「ここ最近の情況がこれですか」
大量の資料が眼の前のテーブルの上に広げられている。それを一つ手に取りつつ、三笠明信(ea1628)がそう呟く。
「ええ。時間帯も現場もバラバラでして。とにかく、どうしたらいいものか全く見当もつかないというのが現状でして」
自警団長のジョージが静かに告げる。
「とりあえず私は聞き込みに向かいますね」
と鳳美夕(ec0583)が告げて外に飛びだす。
「四肢及び胴部、はては臓腑全てにいたるまで」
書いていて気分が悪くなる三笠だが、一つ気になることが。
「これらの欠損部分、繋ぎあわせると首より下の部分が完成しますね・・・・ということは、次に狙われる可能性があるのは?」
「おそらくは首から上でしょうけれど、どういう基準があるのか見当がつきません」
そう告げるジョージに、三笠はまたしばらく考え込んだ。
──一方その頃
「随分と久しぶりだな」
ラシュディア・バルトン(ea4107)はそう告げつつハーブティーを飲む。
「全くだ。で、今回はどんな無理難題だ?」
そう告げているのはニライ・カナイ市政官。
彼女の屋敷を訪れたラシュディアは、此処最近のパリの情勢について、特に殺人事件について何かしらないか問い合わせたいらしい。
「あ、あたしはですね。確か一年前くらいに、ニライさんが兎さんに持ち去られた、『ある秘密結社のボスの魂をとある器から引き離す為に必要な』指輪の行方がどうなったか知りたかったのですよ」
そう告げているのは、ラシュディアの横に座っているクリス・ラインハルト(ea2004)。
「ああ、この指輪の事か?」
そう告げつつ、ニライ市政官は戸棚に置いてあった宝石箱から、指輪を一つ取り出す。
「ああっ、それなのです!! それがあればアンリエットは普通の女の子に戻れるのです!! ニライさん御願いです!! それを貸してください!!」
そう哀願するクリスだが。
「それは無理だろう」
と告げつつ、クリスに指輪を手渡す。
「それを使えるのは、アンリエットの中にシルバーホークの魂を入れる要因を作った悪魔か、それよりも上位の存在だ」
と告げる。
「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
頭を項垂れてガックリするクリス。
「まあ、それでもいいというのなら、その指輪はクリスにくれてやる。すきに使ってくれ。で、ラシュディアは?」
と問い掛けると、クリスが一言ボソッと呟く。
「せめて、ヘルメスの上司という悪魔が判ればいいのですけれど・・・・グシグシッ」
『バアル・ベオルだろう?』
ラシュディアとニライが同時にクリスに告げる。
「ほへ?」
その言葉に呆気に取られているクリスをよそに、ラシュディアは話を始める。
「ラシュディアも追いかけているのか?」
「ええ、ニライさんも何かお知りのようですね。少し情報を頂けると助かるのですが」
「情報ねぇ・・・・私よりもアビスに向かった方が早いだろう。それと、アビス攻略を現在行なっている『ヨハネスの配下達』『八仙娘々』の方が色々と知って居ると思うが?」
そう告げると、ラシュディアは静かに肯く。
「では、そちらについては後日連絡先を教えて頂くという事で。本日の本題は『女性殺人事件』についてですが、知っている事があったら教えて頂きたいのですけれど」
そう告げると、ニライの瞳がニィッと細くなる。
「また面倒なものに首を突っ込んでいるな。正直に告げよう。私は色々と知っているが、一切『教える事はできない』。そういうことだ」
その言葉に、ラシュディアは納得。
「ではこちらで独自に動くとしましょう」
「ああ、そうしてくれ。あ、もし街に戻るのなら、今度来るときは『宿り木のハーブ』でも差し入れてくれ・・・・」
と告げる。
そしてラシュディアはその場を後にして、急いでマスカレードに向かう。
「どどどどどういうことですか?」
「事実を知っていてニライが動けない。つまり、犯人は『上層貴族』の誰かということだ。そしてそれらについては『宿り木のハーブ』が知っている。そういうことだ!!」
ああ納得ということで、クリスも了解した。
●おひさしぶりですくそじじい
──シャルトル・ミハイル研究所
コンコン・・・・
「失礼します。こちらにミハイル教授がいらっしゃると聞いてやってきたのですが・・・・」
と扉の外でシェセル・シェヌウ(ec0170)が声を掛ける。
「ちょっと待て、いまあけるから」
とアトランティス帰りのミハイルが返事をする。
「シェセルと申しますが、ミハイル教授にお話を伺いたくてやって参りました」
と挨拶をするシェセル。
「うむ。入るがよい・・・・」
ということで、今に案内されたシェセル。
そしてラシュディアに書いてもらった紹介状を未灰るに手渡すと、静かに話を始めた。
「実は、私の祖国エジプトから奪われた遺物やアポピスについていろいとお話を伺いたいのですが」
「エジプトの方か。それは御苦労で・・・・と、エジプトから奪われた遺物と言われても、ここには数点のミイラや副葬品がある程度でのう・・・・いずれもこのワシがこの地で発掘したものであり、そちらのものという保証はどこにもないのう」
ということで、二人は研究室で様々な意見を交換したのだが、特にシェセルが興味を示したものは『ロード・ガイと常世』の伝承について。
「エジプトの王なのか? そのロード・ガイというのは?」
「ええ。そうです」
「ふむ。わし、アトランティスでロード・ガイの伝承は聞いてきたし、ロード・ガイの『使徒』については、むこうの世界で会ったからのう・・・・」
と告げると、シェセルはいてもたってもいられなくなった。
「そ、その話について詳しく教えて頂きたいのですが」
「今は無理ぢゃな。わし、アトランティスで見聞きしたもの全て記録している最中でのう。その作業が終るまでまって欲しいのぢゃ」
「では、それが終るころにはまた来ます・・・・そのときは是非」
ということで、シェセルは喜びつつその場から立ちさって行った。
──一方そのころ
毎日を教会ですごす。
日々の務めを繰り返し、日々を神に感謝する。
ビショップという高位の立場にありながら、司祭たちと共に生活を送っている。
本来なら他の者の範となるべきビショップ職を賜りながら、道に迷い、このノートルダム大聖堂にやってきたエミリア・メルサール(ec0193)。
日々の生活の中から、聖ヨハン大司教から教えを受けようと、日々を過ごしてきた。
そしてある日、エミリアは聖ヨハン大司教に直接話をする機会を得る事が出来た。
「聖ヨハン大司教様。私は様々な土地で様々な者たちと触れ合い、自身をさらに高める事が出来ました。そのような生活の中で、悪というものについて独自の見解をもつに至りました・・・・」
「ほう。それはどういうものですか?」
「悪とは悪を為したものを示すのではないかと。正しき道に従っているオーガ達にも救済は訪れるのではないかということです。私は先日、オーガキャンプという所に行って参りました。そこには私達の主であるセーラ様が奉られており、彼等はジーザスの教えを賢明に守ろうとしています・・・・」
その言葉に、聖ヨハン大司教は安堵の表情を見せる。
「それはよかった・・・・」
「ですが聖ヨハン大司教様。彼等は汚らわしきカインの末裔です・・・・にも関らず、聖ヨハン大司教様は彼等の存在をお許しになるのですか?」
その問いに、聖ヨハン大司教はただ一言。
「セーラの教えのもと、主の赴くままに・・・・です。汚らわしきカインの末裔なれど、彼等は汝を悔い改め、正しき道を示そうと努力しています。そのようなものたちの魂の救済を行うのもまた、セーラの教えかと」
「それは詭弁です!!」
そう断言するしかない。
自分の心がまだ迷いを棄てきれていない以上、聖ヨハン大司教の言葉も理解できる。
だが、ビショップとしての立場もある。
「そうかもしれません。ですが、私は彼等を試しました・・・・傷ついた彼等に対して、セーラによる癒しの加護を行なったのです・・・・」
その言葉に、エミリアは真剣に聖ヨハン大司教の瞳を見つめる。
「そしてセーラは彼等に対して、癒しの光を与えました。あるものは、その失われた命をも取り戻したのです・・・・ビショップ・エミリア。もしセーラが全てのカインの末裔を許さないのであれば、セーラの加護は彼等には与えられなかった・・・・違いますか?」
「イエス・マイ・ファザー・・・・ですが」
「大勢のオーガ達に癒しを施しました。そして、今、あのキャンプに生きている者たちにのみ、セーラは癒しの力を与えたのです。彼等はセーラによって選ばれました・・・・この事実は、教皇の元にも報告を行っています・・・・奇跡だと」
そこまで告げられると、エミリアも静かに納得する。
そして自身の考えも又、新しき道を進むのかもしれない。
●もんたの未来
──シャルトル・プロスト城地下立体迷宮
「ふぅん。まあいいわ。この子を連れていくっていうのなら、あたしは別に構わないわよ」
静かな空間。
中央に噴水があるその場所で、フィディエルがそう薊鬼十郎(ea4004)に呟く。
早馬を飛ばして、鬼十郎はこのプロスト城にやってきた。
目的は一つ、地下で氷漬けにされている『もんた』を助ける為に。
今、竜の民の村に一人で居るシィを助けられるのは、もんたしかいない。
「御願いします・・・・」
そう頼み込む鬼十郎。
と、その言葉に肯くと、イフリートがその場に姿を表わし、アイスコフィンにて凍り付いているもんたの解凍作業を開始した。
──そして30分後
ドサッ・・・・
全ての氷が溶け、もんたがその場に崩れ落ちる。
「もんた君、シィさんが苦しんでるのよ! 御願い目を覚まして! 彼女を救えるのは、もんた君だけなの!」
必死にそう叫ぶ鬼十郎。
「シ・・・・イ・・・・」
ゆっくりと立上がると、もんたがそう呟く。
だが、その瞳はどこか遠くを見つめているように感じられる。
「判る? シィちゃん。あなたと同じ竜の民・・・・今は独りぼっちなの」
その言葉と同時に、もんたのとの中にオーラソードが生み出される。
カッと見開いた瞳は赤く充血し、素早く鬼十郎に向かってもんたが斬りかかった!!
──スバァァッ
魔力をおびていない武器では、オーラソードを受止めることは不可能。
その一撃を真面に受けて、鬼十郎の左腕が肩の付け根から切断された!!
──ブシュュュュュュ
大量の血が吹き出し、一瞬鬼十郎の意識が消えそうになる。
「そう・・・・まだダメなの・・・・」
哀しい瞳で、鬼十郎がそう呟いた瞬間、もんたは再びフィディエルのアイスコフィンによって冷たい氷の中に閉ざされてしまった・・・・。
●そして幸せな朝
──パリ・王城・離れの建物
チュンチュンチュンチュン・・・・
雀の鳴き声で、クリスは静かに目を醒ます。
ベットの横には、悪鬼とアンリエットが静かに眠っていた。
あの後、ラシュディアと別れたクリスは、そのまま王城へと向かう。
そしてその離れにて監視生活を送っている悪鬼とアンリエットの元にやってくると、そこで愉しい一時を過ごしていた。
「まだ眠っているのですね・・・・悪鬼さん」
ニッコリと微笑むと、クリスはゆっくりと体を起こし、横の椅子に置いてある衣服を手に取る。
そして悪鬼が目覚めないうちに急いで着替え、身仕度を整えると、そのまま朝食の準備を開始する。
♪〜
鼻歌混じりの朝食の準備。
一見するとどこかの新婚のようだが、アンリエットがいるのでどちらかというと『幸せな家族の食卓』であろう。
「今日の食事は『シタビラメのバター焼き』。悪鬼さんは今日も朝からお仕事なのですから、しっかりと食べないといけないのです!!」
とまあ、そんなこんなで食事の準備をすると、眠っている悪鬼とアンリを起こしに向かう。
「悪鬼さん、そろそろ起きないといけませんよっ!!」
と悪鬼の耳元で囁くと、そのまま悪鬼がクリスの方を向く。
「ああ・・・・」
そのままクリスを抱しめると、そっとクリスの唇に・・・・。
「あーーー。悪鬼、クリスおねーちゃんとチューしてる!!」
「は、はわわ、ち、違うのよアンリちゃん。チューしてるけどこれはね、あのねあのね・・・・はわわわわ」
真っ赤な顔で台所に走っていくクリス。
「ということだ。アンリもそろそろ起きた方がいい・・・・」
と何も無かったかのように告げると、悪鬼も着替えてリビングに移動。
そして着替えたアンリも集まると、その場で愉しい食事が始まった・・・・。
こら記録係、落ちはどこだ?
●そして暗躍する何か
──自警団詰め所
「調査中止ですか!!」
例の女性殺人事件を追跡調査しているラシュディアと三笠の耳に、自警団長から届いた一言。
それが『調査中止』の命令だった。
「それはどういうことか説明して貰いたいな」
そうラシュディアも告げる。
確かにここまで細かい調査をして、今更になって調査中止というのは納得がいかない。
特にラシュディアについても、ミストルディンから得た情報『最近になって大切な一人娘を病気で失った貴族』についての話を聞けたにもかかわらず、突然の中止命令。
これには納得がいきようもない。
「自警団としても『上からの命令』である以上は動けない。ここから先は『冒険者』として動いてくれ・・・・」
と告げられる。
「上からの圧力・・・・かなりやっかいですね」
そう告げる三笠に、ラシュディアもまた静かに肯くしかなかった・・・・。
「ということは、今日でおとり捜査はおしまいですか・・・・」
と呟く美夕。
ラシュディアのもたらした情報を頼りに、その『病気で死んでしまった貴族の娘』の姿を真似て夜になるとあちこち『囮』として徘徊していたらしいが、それも終り。
「ふぅ。今回のこれは、かなり深いな・・・・とりあえずは解散して、後日また調べるとするか・・・・」
ということで、一時的に調査チームは解散となった。
なお、美夕はそれ以前に天龍八部衆筆頭のフィームの元を訪れ、自身の修行の成果について問い合わせてみた所『本国に報告のち、可能であればこの地において『パラディンへの道』の修行の続行を行うものとする』という返答を頂いた模様。
ふむ、それはそれで大変だぞ?
──Fin