【クォヴァディス】いけませんご主人様

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 44 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月29日〜09月03日

リプレイ公開日:2008年09月06日

●オープニング

──事件の冒頭
 静かに草原に風が吹きぬける。
 かつて、そこは『彼』の領地であった。
 旧グレイファントム領内・ウェルト自治区。
 そこの若き領主であるウェルト・クム・ダルシード7世(名前ばかりごりっぱだが、実際は貧乏貴族)は、目の前の光景を見つめていた。
「あのグレイファントムのおかげで・・・・私は全てを失ってしまった・・・・」
 詳しい話は過去の依頼報告書を参照して頂きたいが、彼は偽名を名乗って『旧グレイファントムの地下闘技場』に出資をしていた。
 まあ、その金額もたいした物ではないが、罪は罪ということもあって領地没収という警抜に課せられた。
「まあまあ。ご主人様にはこの私め『クーファ』がついているではありませぬか? さあ、気を取り直していきましょー!!」
「クーファ・・・・お前はいつも元気だなぁ・・・・」
 と、まだ幼いウェルト家付きメイドのクーファに呟くと、ウェルトはとりあえずパリへと向かっていった。

 これが数年前の出来事・・・・。


●光あるところに影がある・・・・というけれどね
──パリ・冒険者酒場『マスカレード』
 ふぅ。
 溜め息ばかりが零れてくる。
「ご主人様。そろそろ仕事の時間ですわ。とっとと稼いでこないと、ここの宿代も払えませんわ!!」
 とテーブルで酒を飲んでいるウェルトに告げるクーファ。
「しかしなぁ、クーファ。私はお前と違って肉体労働は向いていないのだよ。私は魔導師、知力が勝負なのだよ?」
「ですがご主人様。その知力を生かした仕事が一体何処にあるというのですか? たしかに高い魔力を有し、魔法の知識は万全。4大精霊全てとの魔法契約も終えたご主人様ではありますが、いまやただの『へたれ』でしかありません・・・・」
 そこまで言われても、ウェルトはテーブルで酒を飲んでいる。

「さて、そろそろ今回の報酬を分けるとしようか」
「ええ、今回はかなり楽勝でしたね」
「第7回廊自体は難しいけれど、第6階層手前の『横道回廊』には、アビス攻略に関係ない回廊と宝がまだまだ眠っているらしいですからねぇ・・・・」
 そんな冒険者の会話を側で聞きつつ、ウェルトは報酬である宝の分配をじっと見ていた。
「クーファ・・・・冒険者って、稼げるのか?」
「ええ。お忘れですかご主人様。私達の住んでいたグレイファントム領の悪事を暴いたのも冒険者ですよ。それはもう、実力のある冒険者は千金をも簡単に稼ぐというではありませんか」
 というクーファの言葉に、ウェルトはガバッと立ち上がり、外に向かって歩き出す。
「クーファ・・・・私は冒険者になってお家再興をすることに決めた・・・・」
「『はぁ。やっとやる気を出してくれましたか』。では、この私めもご一緒しましょう・・・・」
 ああっ、クーファ言葉のイントネーションちがうし。
 しかも何気に一部ジャパン語だし。


 これが数カ月前の出来事。



●強引、矢の如しというけれど・・・・いわない
──パリ冒険者ギルド
「ですから、この依頼は貴方には無理です」
 きっぱりと目の前の『新米冒険者』であるウェルトに告げるビスタ・ウィンズ。
「何故だね? この私ウェルトは元は貴族、冒険者訓練所を首席で卒業したいわばエリート。この私に出来ない依頼などない。それが何故、君には理解できないのかね?」
 とえらそうに告げるウェルト。
「では簡潔にご説明しましょう。依頼料が低い、この敵は雑魚すぎてダメなどと言い続けて、今まで初歩の依頼すら満足に出来なかった貴方に、いきなり『暴れドラゴン退治』などという高レベルな依頼を完遂することは出来ません」
 おいおい、そこまでいうかよ。
「なんだとぉぉぉぉぉ」
「それと一つ。この依頼は複数のメンバーによって初めて可能なのです。あなたとその従者程度では、到底・・・・」
 と告げつつ、ビスタはクーファの装備をじっと見る。
(なななな、なによこの小娘。オーガリング10個標準装備? しかも全身魔法装備でがっちりと身を固めているなんて・・・・なによその背中の巨大なケース。一体そのなかにどんな武器が入っているって言うのよっ・・・・箱の紋様は『マイスター・トールギス作』ですってぇぇぇぇ・・・・こんのぉ小娘がぁぁぁぁ)
 あ、かなり私情が混ざっていますねぇ・・・・
「では、もう一度仲間でも募って来てください。その上で、貴方に依頼を御願いすることにしましょう・・・・」
 といわれ、ウェルトは急いで冒険者酒場・マスカレードに向かって走り出した!!

──ダン!!
 勢いよく扉を開くと、ウェルトは大声で叫んだ。
「誰でもいい。この私と共に、暴れドラゴンを退治しにいかないか?」

●今回の参加者

 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb8221 アヴァロン・アダマンタイト(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

●大地を被いつくす
──パリ郊外・とある村
「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。おいクーファ、本当にこんな所にドラゴンが出るのか?」
 欠伸をしつつ、横で冒険者と打ち合わせをしているクーファにそう問い掛けているのは、ウェルト・クム・ダルシード7世。
 今回彼が受けた依頼は『暴れドラゴン退治』。
 それに賛同した冒険者達と、依頼のあった村にやってきたのである。
「で、現在の出現ポイントはどこなの?」
 広げられた地図を眺めつつ、リリー・ストーム(ea9927)がそう依頼人に問い掛けている。
「現在地点はここの大森林。で、過去に被害の在った村はこことこことここ。で、ドラゴンは直線上に移動しているので、次は確実にこの村ということになります」
 そう説明をする依頼人。
 だが、そのドラゴンの現在の出現ポイントが、あまりにもあやふやなのである。
 ただ、近くの大森林を大きく丸く囲んだだけ。
 それでは正確に場所を知ることは出来ない。
「森林ならば、私の出番ですね・・・・」
 そうクァイ・エーフォメンス(eb7692)が呟くと、その横でアヴァロン・アダマンタイト(eb8221)が静かに呟く。
「いずれにせよ、私は最低限皆を守ろう。今回は女性が多いので、私は皆の盾となろう」
 と告げる。
「あ、ああ・・・・楯ねぇ・・・・それよりもだ、俺、ここにくる前にちょっとギルドで詳細を聞いたんだが、ドラゴンのタイプまでは詳しく判らなかったんだが、そこの所、どうなっているのか?」
 セイル・ファースト(eb8642)がそう依頼人に聞くが、依頼人は頭を捻る。
「タイプですか? ドラゴンはドラゴンでしか・・・・」
「ああ、そうか、いや済まない。ドラゴンにも色々な種類がいてな。その種類によって対処が変わってくるんだ」
「はぁ・・・・まあ、直接見たほうが良いかと思いますが、そこそこに大きい奴ですよ」
 と一言。
「まあまあまあまあ。そんならうちが偵察いってくるで。そやなー、一刻だけまっててくれへんか?」
 と呟くのはジュエル・ランド(ec2472)。
「でしたら、このクーファめもお供しましょう。
 ウェルト様はその間に出撃の準備を!!」
 と告げるクーファ。
「ほな、ちょっといってくるで、ま、直もどるでな」
「あ、あたしも同行しますわ。ロスヴァイセで上空から見てみたいものですから」
 と告げて、ジュエルとクーファ、そしてリリーが建物の外に出ていった。
「ふぅ。では戻るまでに準備を終えておこう」
 とウェルトが荷物のチェックを開始。
「初心者だけあって、基礎はしっかりとしているようだな?」
「まあ、それが一番大事な事だ」
 セイルとアヴァロンがそうウェルトに告げる。
「ああ、魔導師たるもの、常に周囲に対して冷静な目を持たないといけないからなぁ。冷静さを欠いては、後衛バックアップとしての責務を果たせぬ」
 とキッパリと言い捨てる。
「ふぅん。色々と考えているんだな。ではわたしもそうするか・・・・」
 クァイもゆっくりと武具の手入れを開始。
 そしてだんだんと、その場にいるメンバーの中にも緊張感が生まれはじめる。
 これから戦う相手はドラゴン。
 一歩も引く事は出来ない。
 アヴァロンはさらに、今回の依頼で見事ドラゴンを討ちまかし、ドラゴンスレイヤーの称号を得ようとも考えていたらしい。

──一方そのころ
 zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
 大森林の木陰でで眠っているドラゴン。
 その上空では、フライングブルームに跨ったクーファ、ロスヴァイセに乗っているリリー、そして自前で飛んでいるジュエルの姿があった。
「ええ、そうよね。確かに『依頼』を聞いてこなかった私も悪いですわ。けれど、こんなのが相手だと思うと、私哀しくなってきますわ・・・・」
 とリリーが眼下のドラゴン達を眺めて呟く。
「最悪やな。リリーさん、これ、もっと高位のドラゴン相手の方が楽でっせ・・・・」
 ジュエルもそう告げると、クーファはやれやれという表情をしてみせる。
「ご主人様は、いったい何を考えていたのでしょう・・・・」 
 と呟く。
 彼女達の眼下には、体長1m程度の褐色の皮膚のドラゴン達がのんびりと昼寝をしている。
 俗に言う、『フィールドドラゴン』である。
 それが、この大森林を被いつくしているのである。
 数を簡単に数えてみても50以上はいるであろう。
「あんなの、あたし一人でも大丈夫よ・・・・」
 そう呟いて、リリーは皆の待つ村へと引き返す。
 その後ろから、ジュエルとクーファも引き返した。



●巨大ドラゴンの方がまし?
──依頼人の村
「はぁ? フィールドドラゴンの群れ?」
 リリー達の報告を聞いて、セイルがあっけに取られる。
「そうなのよ。あんなの簡単に倒せるし、とっとと依頼を終えて残った時間はバカンスと洒落込みましょう?」
「大量のフィールドドラゴンか。まあ、依頼である以上は遂行するだけだ・・・・」
 と告げるアヴァロンと、無言で荷物をまとめて出発準備をしているクァイ。
「では御願いしますね・・・・」
 と依頼人が告げると、一行はその草原に向かって移動開始した。

──しばししてから
 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
 一行が村の外に出たとき、遠くから大地の鳴動が聞こえてくる。
 その激しいまでの振動が近付くにつれて、一行は最悪な光景を見てしまった。
 遠くから一心不乱に走ってくるフィールドドラゴンの群れ。
 ただひたすらに、大森林の中を走ってくる。
「ウェルト卿、今こそアンタの力を見せる時だ!」
 そうセイルが叫ぶと、ウェルトも真剣な表情になる。
「クーファ、ライトニングスタッフを」
「はいなご主人様!!」
 そう告げつつ、背負っていた箱からライトニングスタッフを取り出すと、それをフェルトに手渡す。
「おい、いったいどうするつもりだ?]
 そうアヴァロンが叫ぶと、フェルトは一言。
「全力でライトニングサンダーボルトを発生させるだけだ・・・・」
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
 スタッフが共鳴を開始、そしてその中に仕込まれていたレミエラと風の精霊がさらに共鳴を開始!!
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
──バリバリバリバリバリバリバリバリッ
 一直線に伸びた雷撃がフィールドドラゴンの先頭に直撃!!
 絶叫を上げるフィールドドラゴンだが、さらに暴走は加速!!
「おおお!! これはヤバイでぇ!!」
 ジュエルは上空に退避。
「それじゃあいきますか・・・・」
 静かにそう告げると、上空に待機していたリリーが低空飛行でセイル達のもとにやってくる。
「作戦は若干変わったけれど、いけないことはないわね」
 と呟くと、ロスヴァイセに跨がったままブレイブランスを構える。
──フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 リリーの全身をオーラが包むと同時に、フェイスガードを降ろす。
「ジーザスの加護あれ・・・・」
 そう呟くと動じに、リリーはロスヴァイセを全力で走らせる!!
 その加速度+オーラ+慈悲の心によって、リリーの突撃した先のフィールドドラゴンは瞬殺。
 さらに加速で駆け抜けると、こんどは上空で反転して側面からチャージを叩き込んでいった!!
──ヒュヒュヒュッ!!
 次々と打ち込まれる矢。
「ふぅ・・・・一つ一つ的確に・・・・」
 そう呟きつつ、手にしたドラゴンファングに矢を番えると、リリーの突撃に巻き込まれたフィールドドラゴンを打ち抜いていくクァイ。
 リリーほどの派手さはないが、確実に弱っているフィールドドラゴンに止めを刺していた。
「怒りで我を忘れるほど興奮しているのなら、誘導は聞かないから・・・・なら止めに使うだけね・・・・」
 うむ、的確な作戦ですね。
 そのクァイの前方では、突撃してくるフィールドドラゴンに向かって、一撃一殺を続けているアヴァロンと、おなじく全体攻撃を駆使して戦っているセイルの姿があった。
「全く・・・・貴方の奥方は、ずいぶんとお強いようで・・・・」
 そう呟きつつもカウンターでスマッシュを叩き込んでいるアヴァロン。
「世界最強の主婦だな・・・・」
 と呟きつつ、スマッシュの威力を衝撃波に転換して、広範囲の敵を瞬殺するセイル。
 そんなこんなで、1時間後にはフィールドドラゴンは一掃されていた・・・・。

「なんだ、もうおしまいか? この程度では物足りないではないか?」
 ウェルトがそう告げる頃、リリーもロスヴァイセからフラフラと降りる。
「セイル君・・・・もうあたしダメ・・・・」
 と呟くと、そのままセイルの胸に倒れていくと、そのまま意識を失うリリー。
「奥方は大丈夫大か?」
「ああ、全力で戦って、疲労困憊なだけだ。しばらく休ませておくことにしよう」
「はいはい、ではこちらの仮設ベースキャンプにどうぞ!! 皆さんのお食事も全て用意させていただきました。ささ・・・・」
 と、ナイスタイミングで姿を表わすクーファ。
 そしてそれまでの光景を一部始終見ていたジュエルは、ただひたすらに頭を捻っていた。
「しっかし、なんでこんな時期にドラゴンが群れを成して暴れているんや? おっかしいなぁ・・・・」
 それについてはまた後日。
 とまあ、なんだかんだで依頼を全て遂行する一行。
 そのまま依頼人に一連の報告を行うと、いそいそとパリに戻っていったとさ。

 なお、ウェルトとクーファも真っ直ぐにバリに帰還、そのまま冒険者ギルドの近くに家を借りると、いよいよお家再興作戦が開始されるらしいが、そんなことはまた後日。

──Fin