●リプレイ本文
●愉しい一時
──とある場所・とある建物
近くには大量の馬車が立ち並んでいる。
それらを管理している御者達が、また近くでのんびりとあつまって談笑している。
ただ、彼等は皆仮面をつけ、その正体がわからないようにしているらしい。
そして、屋敷の中にいるのであろう、彼等の主人の帰りをじっと待っていた。
そこは、闇オークションの会場。
仮面を着けた貴族や商人など、正体が判らないようにしている人々が集まっていた。
1階は開放され、皆が愉しく語り合い、酒を飲み、軽く食事を愉しんでいる。
そして2階では、今回のオークションの商品が陳列され、それを眺めつつ、めぼしい商品を探している者たちもいる。
「ふぅむ・・・・これはまた・・・・」
オークションに出品されている品の中の一つ、装飾の施された綺麗な棺の前で、シェセル・シェヌウ(ec0170)は色々と考えを巡らせている。
出品表によると、それは古代エジプトの王の棺らしく、中には王のミイラや副葬品(装飾品程度のものであり、墓に納められていたものとは違う)も全て揃っているというらしい。
「・・・・アテン‥‥エジプト太陽神の名前か。棺に記されているものはアテンと、それに手を伸ばす王・・・・」
しばし思考を繰り返すシェセル。
そして、ここにくる前に『冒険者酒場マスカレード』で得た情報を、今一度思いかえす。
情報屋のミストルディンによると、今回のオークションでエジプト縁のものは3つ。その一つがこの『王の棺』、残りの二つのうち、一つが『ロード・ガイの至宝剣』『ホルスの護符』。
今回のシェセルの目的である『邪神アポピスに関連する遺物』『アモン神に縁のある物品』の出品はない。
但し、先に述べたエジプト物を好んで落札する好事家もいるらしく、そちらと接近してみるのもいいかと告げられた。
「ふぅ。もう少し歴史について勉強しておくべきだった・・・・」
と告げるシェセルの横に立つ女性が、シェセルに話し掛ける。
「古代エジプトの王アメンホテプ4世の棺ですわね? 装飾に損傷もなく、じつに綺麗ですこと・・・・あなたもこれを落札に?」
そう話し掛ける女性の方を振り向くシェセル。
「いえ、私は・・・・」
と告げて、シェセルは口を紡ぐ。
ここでは迂闊に身分を明かさないこと。
今回のオークションのルールの一つである。
『明かしてはならない』ではなく『明かさない方が賢明』なのである。
「そう、貴方もなのですね。では、また後程」
と告げて、女性はその場から離れていった。
「ふう。それにしてもアメンホテプとは・・・・」
ここでその名前を聞くとは思っていなかった。
過去に戦った事の在る忌まわしき名。忌み嫌われたる王。
もし中にそのミイラが存在しているとしたら?
いや、そんな筈はない‥‥。
あってはならないのである。
それが確認できただけでもよし。
残りの物品のチェックに向かうシェセルであった。
──一方その頃
じっと目の前の卵を見つめるのはレア・クラウス(eb8226)。
その卵のさらに向う、椅子に座っている紳士も、じっと卵を見つめている。
紳士はクラウスに占いを御願いしていた。
最近、商品が売れない、もしくは売れ残ってしまうので、どうしたらいいかということらしい。
「・・・・うーん。これから先の2ヶ月、あなたの頭上に『幸運を告げる星』が見えます。どうやら貴方の近くに、その幸運を招き寄せる方がいらっしゃいますね。その方とより親密になれば、あなたの商売はよりいっそう飛躍する事でしょう・・・・もっと購買相手の年齢層を広げてみれぱ?」
と、『不思議な卵占い』をしているクラウスに、紳士は目から鱗が落ちたような顔をしている。
「そ、そうですか・・・・それは・・・・判りました。では、そのように致します」
と喜んでその場を離れると、別の女性がクラウスの前に座る。
「次、宜しいでしょうか?」
「どうぞどうぞ。それでは何を占いましょうか?」
とまあ、早速占いを開始するクラウス。
ちなみに何故このような事になったかというと、知人に闇オークションに参加する事がばれた為、色々と土産を頼まれたらしい。
が、それら目的の物品の殆どが『どう考えても落札不能』と判断し、預かってきたお金は御小遣いに変換、あとはのんびりと出品物を眺めていたらしい。
そのうち飽きてしまい、一階のサロンにやってくるとジプシーとしての本領を発揮。
踊りを舞い、そして一休みしてから占いの舘を始めたらしい。
「どうも最近、仕事がスムーズに運ばなくて・・・・どうしたらいいでしょうか?」
「はいはい。それでは、目の前の卵に手をかざしてください。そして意識を卵に・・・・」
そう告げると、クラウスも意識を集中。
「うーーん。判りました。貴方の仕事がうまくいかない理由は、『マンネリ』にあるようです。もっと大きな視野で・・・・そう、今までにない方を相手にしてみてはいかががでしょうか?」
その言葉に、女性もまた目から鱗が落ちたらしい。
丁寧に挨拶をすると、その場からスッと立ちさって行く。
「さて、お次の方・・・・と、あらミストルディンさん?」
と、目の前に座ったミストルディンにそう小声で告げるクラウス。
と、そのままミストルディンはクラウスに耳打ち。
「貴方が最初に占った相手は『麻薬密売組織の幹部』、で、その後の女性は『稀代の女怪盗』よ。それじゃあね・・・・」
と告げてその場を立ち去る。
しばし思考した後、クラウスは先程の紳士を探しに向かった。
「先程の占いにあやまりがありまして・・・・どこにいったのですかー」
まあ、賢明な判断ですねぇ。
──そして別の場所では
「ほほう、この剣にはそのような由来が・・・・」
と、別の場所、武具の展示されている部屋で、集まった貴族達が感嘆の声を上げている。
「ええ。この魔剣シュバルツハーケン、伝説によりますとその剣より発する力はかなり強く、風に魔力を付与し、遠く離れた敵ですら切り裂くと言われていまして・・・・」
とカイユ・フラーム(eb2923)が説明を行なっている。
この場に来て落札が不可能と判断したカイユは、そのまま勉強を兼ねて刀剣武具をじっと観察していた、と、そこに何も知らない貴族達がやってきて、カイユにどんな武具なのか問い掛けてきたのである。
作る事にかけては得意なカイユだが、いざ説明となると心許ない。
鍛冶屋仲間で知られている知識の範囲で、色々と説明を付けていく。
「この『忍び鎧・玖人戦鬼衆』というのは?」
と、一人の貴族が真紅に染まったネイルアーマーについて解説を求めてくると、カイユはしばし思考。
「それははるか遠く、ジャパンからやってきた9人の忍びが付けていたという布鎧です。彼等には様々な説話があり、摩訶不思議な妖術を使う子供や火をふく華国の料理人、はては空を自在に飛ぶ忍びまで、様々なメンバーで構成されていました・・・・」
とまあ、説明を行なっているカイユ。
実に愉しそうである。
──そしてサロン
華やかな貴族達の中で、ジェレミー・エルツベルガー(ea7181)は大勢の貴族達と談笑している。
話題は今回展示されていたものについて、それらの装飾の美しさから始まり、詳しい由来、それに刻まれている紋章の話に至るまで、貴族達の求めている『心躍るような説話』を色々と語っている。
「・・・・とまあ、あのブローチにはそのような哀しい出来事があってだな、それが今日、ここで人々の目に触れるということはあってはならないんだ。もし皆様方の中で、あのブローチを手に入れることができたら、頼むからそれは彼女が今なお湖底で眠っていてるあの湖にそっと返してやって欲しい・・・・」
そう話を締めくくると、別の貴族がまたジェレミーに話を振ってくる。
「では、武具のところにあった剣で気になったものがあるのだが、君、それについて判るかね?」
「俺は物知りや吟遊詩人ではない、学者だ。それが学術的なものならば、いくらでも説明してやろう、で、それは何だ?」
とまあ、そう切り出すものの、会話の内容は皆に面白おかしく『非学術的な部分』もまぜての会話であった。
──そして本番・オークション会場
激しいまでに叫び声がこだまする。
次々と出品物が紹介され、『ありえない金額』で落札されていく。
まあ、昨今のベテラン冒険者なら落札できないことは無い金額のものもあったため、それはそれでよし。
その光景を、今回ミストルディンの紹介でやってきたメンツは、じっと見ていた。
だれが何を落札したのか、そしてそれはどこに向かうのか。
自分達が目指していたもの、それについてこれからどうなるのか、それをじっと見ていた。
●強者共がゆめのあと
──パリ、冒険者酒場マスカレード
「疲れた・・・・もう御免だ」
テーブルに潰れてそう呟くジェレミー。
目的のものは手に入れられなかったものの、『武器卸問屋』『海運貴族』『下町の酒場』『自称王族』の4つの人脈を確保。
これからそれらをどう使うか、じっと考えている。
「でも、色々と愉しかったですよ♪〜」
クラウスもまた、大勢の人々の占いが出来て満足。
さすがに人脈は繋げなかったが、彼等の中にはクラウスのおかげでこれから成功するものが出てくるだろう。
犯罪者は勘弁だが。
「まあ、そうだな・・・・俺も色々と勉強ができたし」
とカイユは呟く。
『もふもふ』とかいうシフールの鍛冶師と仲良くなり、連絡先も教えて貰う事が出来た。
これは、カイユにとって大きなプラスであろう。
そして・・・・。
「鼻たれ小僧の玩具に・・・・」
シェセルは落ち込んでいた。
目的であった『ロード・ガイの至宝剣』がとある貴族の手に落ちた。
それはいい。
問題はおちたその後である。
落札した父親が、まだ10歳前後のこどもにそれを渡したのである。
ただの『護身用』として。
貴族の子供である以上、きちんとしたものを身につけること、そして何時いかなる場合でも身を守れるようにすること。
その結果がこれであるから、シェセルにとってはたまらない。
「今からでも遅くはない・・・・」
と呟くと、シェセルは立上がる。
「どうした?」
「あの剣を買い取った貴族を探す。あれはわが祖国の宝、あんな子供が持つものではない・・・・」
と告げて、シェセルは外に出ていった。
ちなみに誰がおとしたのかなんて見当もつきませんて。
まあ、そんなこんなで愉しい一時を過ごしていた一行に幸あれ・・・・。
「あたしの占いでは、シェセルさんの頭上に『不幸の星』が漂っています。それはしばらくのあいだ・・・・ずっと・・・・かなりの間、漂いつづけています。ラッキーアイテムは『癒しのクスリ』、ラッキーナンバーは『5』ですー」
だそうで。
クラウス、最後までありがと。
「ちなみに記録係サンの頭上に『おっぺけぺーな星』が見えています。つまらない噂に惑わされないでください。きっと貴方を見ている人もいます・・・・きっと・・・・多分・・・・いたらいいですね(クスッ)。ラッキーアイテムは『ネズミ』、ラッキーナンバーは『3』でーす」
ほっとけ。
──Fin