海賊迎撃作戦!!

■ショートシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月18日〜08月26日

リプレイ公開日:2004年08月22日

●オープニング

──事件の冒頭
「‥‥あーーーーっ。全く腹が立つ」
 冒険者ギルドカウンターでは、受付けのギルド員に向かって一人の女性がそう叫んでいた。
 依頼人はノルマンの交易商人。
 『交易船バイオレッド・キャット号』を操るギャブレッド貿易の女主人、マダム・シャローン・ギャブレッドその人であった。
 スレンダーではかなげな美女に見えるマダム・シャローン、最近になって売出しはじめた交易商人らしい。
 あちこちに手を出しているらしく、ライバルのグレイシー商会とは犬猿の仲。
「兎に角、実力のある冒険者を10名。この金額以内で見繕って欲しいのよ。依頼内容は『海賊に荷物奪われたから、それを取り返す』。よろしいかしら?」
 そうシャローンが呟いた時、ギルド員の瞳がキラーンと輝いた。
「‥‥マダム・シャローン。ちなみに海賊っていうのは、『シーラット団』ですか? もしそうなら‥‥この金額じゃ人は来ませんよ?」
 その言葉にドキッとしながら、シャローンはしかたないと言った表情で、お金の詰まった袋を二つ、カウンターに放り投げた。

 海賊『シーラット団』からの荷物の奪回。

つい先日、イギリスよりノルマンに帰ってきた交易船『グレイス・ガリィ号』も襲われたらしい。
そのときはなんとか逃げきったらしいが、その海域は交易商人にとってはもはや『鬼門』とも言えるようだ。
しかし、今回はそのシーラットからの荷物の奪回。
下手すりゃ死人さえ出ることだろう。
「これでいいわね? 海賊シーラットから荷物を取り返す。現場海域までは私の持っている船を一隻回します。私は同行しません。恐いから」
 それだけを告げると、マダム・シャローンは冒険者ギルドを後にした。

──そして
「‥‥この依頼、成立するかどうか怪しいわね。命懸けっていうより、死にに行くようなものじゃない?」
 そう呟きながら、受付嬢は掲示板に依頼書を張付けた。

●今回の参加者

 ea1450 シン・バルナック(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1558 ノリア・カサンドラ(34歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2193 ベルシード・ハティスコール(27歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4276 アクア・メイトエル(23歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●出港前の打ち合わせ〜港にて〜
──商船前
 そこは小さな港町。
 つい先日までは、ここは開港祭で大いに賑わっていた。
 まだ酔いも冷めやらない港湾関係者や、祭りが終ったためにようやく積み荷を降ろし始める商人などが、早朝から大勢作業している。
「今日はこの街から出発ですね。随分と此処には縁があるようで‥‥」
 それはミリランシェル・ガブリエル(ea1782)。
 ちょうど横に歩いてきたレム、ノリアの二人も、そのミリランシェルの言葉に静かに肯く。
「今回の依頼で使うのはこの船だね。まだ擬装は終っていないんだ」
 ノリア・カサンドラ(ea1558)がマストに掲げられている帆を見ながらそう呟く。
「あ、ノリアさん、マダム・シャローンが来たみたいだよ」
 レム・ハーティ(ea1652)が、船に近づいているマダム・シャローン・ギャブレッドを確認。
 一行はそちらに移動を開始する。
 ちなみにこの3名、つい先日までこの港で行われていた開港祭に参加。
 翌日には、この海賊退治の依頼を行なっているという、まさに強者達である。

──甲板上では
「良い感じですね。これなら、何処をどう見ても商船に見えますよ」
 それはシン・バルナック(ea1450)。
 甲板上で擬装作業を行なっている船長の横で、シンも自分の手伝える事があったら手伝いますと告げ、作業を行なっていた。
「随分と動きづらいドレスですね‥‥」
 それはベルシード・ハティスコール(ea2193)。作戦上、彼女は商家のお嬢様を演じることになったようである。そのため、程度の良いドレスを一着シャローンから借り、それを身につけていたのである。
「まあ、中々いい着こなしですね。私なんてこれですから」
 水夫の衣服を借り、男装してそう呟くのはクレア・エルスハイマー(ea2884)。
 このような擬装を行うのなら徹底した方が良いというのが彼女の意見。
 普通の商船に、女性乗組員というのも今ひとつなので、彼女は男装した模様。

──そしてミーティングルーム
 中央甲板下の船倉。
 そこは冒険者達が仕えるようにと、寝具などが運びこまれていた。
 その一角にテーブルが設置されていたため、一同はそこで最終ミーティングを開始。
「海域については、この港に止まっている商船の半分近くが、そこを通過する必要性があるらしい‥‥」
 トントンと海図を指で叩きながら、我羅斑鮫(ea4266)がそう告げる。
 彼とノリアは、出港前に港で情報収集活動を行なっていたらしい。
「どういうことなのですか? この先の港町には、大きく迂回しても大丈夫じゃないのでは?」
 皆の頭の上をパタパタと飛び、地図をスーッと指でなぞりながらアクア・メイトエル(ea4276)がそう告げる。
「今アクアが記した位置。ここは暗礁、こっちの島に向かう此処も暗礁。加えて海流が複雑に絡んでいるらしく、このラインがもっとも安全な海路として使われている‥‥だからこそ」
 我羅が最も出現しているポイントを指で指し示す。
「ここ。海流が最も荒れている、幾つかの海路の接触点。それでいて暗礁とは背中合わせのこの『竜の背骨』と呼ばれているポイント、このDポイントこそ、あいつらが最も襲撃しやすい場所として選ばれている‥‥」
 そこまで調べるのには、かなりの船を回って聞き込みをしてきたのであろう。
「そのポイントまでは、取り敢えずは多少の警戒だけで十分ということか」
 シンがそう呟く。
「奪われた荷物の殆どが、好事家相手の調度品らしいわね。まあ、それほど多くは無いとは言っていたけれど‥‥」
 ノリアがそう呟きながら、マダム・シャローンから聞き出した『積荷』のリストをゆっくりと説明。
「‥‥ちょっと待って下さい。それぼとの大量の積荷、どうやって取り返すのです?」
 務めて丁寧な口調のゼルス・ウィンディ(ea1661)。
 今回の作戦では、戦闘班と積荷奪回班の二手に分かれることになっている。
 そのため、どちらの班も迅速かつ大胆な行動を求められる。
「相手を制圧、その後、力自慢が荷物の積み込という所か‥‥厄介な事になりそうだな」
 それはグラン・バク(ea5229)。
「では、最後の調整にはいりますか‥‥」
 そうゼルスが溜め息まじりに呟くと、全員で細かい部分の打ち合わせを開始した。


●竜の背骨〜危険海域突入〜
──メインデッキ
 早朝。
 海流は激しさを増し、船が大きく揺れはじめる。
 我羅の示した海域に突入してすでに1時間。
 周囲には朝靄が立ちこめ、視界がかなり悪い。
 シンがイギリスよりノルマンに渡って来たときも、早朝のこの場所、Dポイントと呼ばれている場所で襲撃にあった。
「シーラット団。何時でもかかって来なさい。ここで前回の借りは返させて戴きます」
 シンは既にやる気十分。
 そしてその直後。

──ピリリリリリリリリリリリリリッ
 見張りからの連絡が突然響く。
「さて、仕事を始めるとしましょうかね‥‥」
 思わず地が出るミリランシェル。
 そしてシン、ノリア、ミリランシェル、我羅、グランと行った前衛戦闘チームがスタンバイ。
 レムとゼルス、ベルシード、クレア、アクアの5名は後方に下がり、いつでも魔法援護が出来るように準備。
 作戦としては敵をこちらに入れず、敵の船に移って積み荷の奪回という所である。
 主な戦闘方法だが、前衛は各員の判断によるものとしている。後衛は前衛のバックアップをメインとし、その他工作活動についてはこれも各員の情況判断。
 ちょっと考えると適当にも思えるが、それは手練れの冒険者達。
 彼等は子供のお使いではない。
 敵の出方が判らない状態では、これが最善の手段である。
 シーラット団の襲撃の手口は、シンの体験や我羅の聞き込みなどにより、概予測はついていた。

 左舷か右舷のどちらかに接近、そこからフックを掛けて船を安定、そのフックの上に板をのせて一気に駆け込む。
 その作戦が、彼等の主流である。
 
──ガキィィィィン
 予測通り、巨大なフック付きロープが船の左舷に大量に引っ掛けられる。
 そしてその向うでは、シーラット団の水夫達が一斉に矢を番え、フックを外されないように商船の水夫達を制圧。
「そうはさせません!!」
 既にタイミングを合わせて詠唱完了したゼルスの準備も終えた
 そしてトルネード発動。
 大量のフックもトルネードにより次々と吹き飛ぶ。
 フォクスル(船首甲板)のフックはこれで総て吹き飛んだ。
 残りはメインデッキとクォーターデッキのみ。
 クレアは相変わらず後方で警戒。
 さらにアクアのウォーターコントロールが発動。海面より『水竜』の形をした海水が出現すると、それをクォーターデッキの方に移動させる。
 そこで敵の海賊を威嚇。
 レムは戦闘エリアの全てが見渡せる高さまで移動、回復要員として待機。
 そして一連の動きが収まりつつある中、敵の海賊が一斉に走りこんできた。
──ドバシャャャッ
「嘘!!」
 アクアの水竜が一撃で粉砕され、さらに後方から3人の海賊が商船に飛び乗る。
 クォーターデッキでも同じ様に飛込もうとしているらしいが、商船の水夫達が一斉に矢を番えた為、じりじりと動けなくなっていた。
「コイツ、この前の!!」
 どうやら海賊の一人はシンに見覚えがあったらしい。
 そのままシンに向かって斬りかかった。
──ガキィィィィン
 その一撃を軽く受け流すシン。
「‥‥慈悲深き死刑執行人の二つ名の意味‥‥とくと思い知りなさい!!」
 そう叫ぶのも束の間。
「頼みますぜ‥‥先生!!」
 斬りかかった海賊はそのまま真の真横に移動。その背後からジャイアントソードを持った戦士が姿を表わし、シンに向かって切りかかる。
──ドゴォッ
 力強い一撃。
 それはシンの鎧を軽々と貫通し、肩口からざっくりと切り付けた。
 船上での戦いの為にレザーアーマーを付けていなかったのが災いした。
 大量の出血と激痛で、シンは既に意識が朦朧としている。
「馬鹿な‥‥つ、強すぎる‥‥」
 シンは既に戦闘不能。
 そのシンに向かって、止めとばかりに頭上から一撃が叩き込まれる。
──ガギィィィィン
 その一撃シンには届かない。
 飛込んだミリランシェルが、モーニングスタースターの鎖を腕に巻き上げて、間一髪で受止めていた。
「レム!! シンの手当を頼むわよっ!!」
 そしてミリランシェルは敵のジャイアントソードを受け流すと、素早く体勢を整えて一撃を叩き込む。
 ターゲットは敵のジャイアントソード!!
「うちのエースに随分と酷い事してくれたわね!!」
──バッギィィィィィィン
 ミリランシェルの攻撃は、一撃で敵のジャイアントソードを粉砕し、そのまま戦士の頭部に直撃。
 スマッシュEXとバーストアタックEXの合成技。
 ファイターであるミリランシェルの、最大奥義の一つである。
 そのままフラフラになった戦士に、さらに後方から走りこんでくる影一つ。
「うりゃぁぁぁぁ」
 フラフラ状態の戦士に、ノリアの右回し蹴り炸裂。そして着地と同時に、さらに左の後ろ回し蹴りが叩き込まれた。
──フワッ!!
 綺麗な御御足を隠すように、法衣の裾が静かに舞い上がり、収まっていく。
 そしてスカートがフワリと降りたとき、戦士もまた床に崩れ落ちた。
 殴りア‥‥もとい、殴りクレリックの名前は伊達じゃないという所であろう。

──そのエリアの横
「でやぁぁぁぁぁぁぁ」
 シンの方に向かった戦士と同じタイミングで突入した戦士が、グランに向かって渾身の一撃を叩き込んできた。
「かかってくるのなら、褌締めてから来い!!」
 その一撃を難無く楯で受止めると、そのまま返す刀でカウンターマッシュ!!
──ドシュッ
 そのグランの一撃で胴を薙がれる戦士。
 さらに後方から我羅か高速で駆け寄ってくると、素早く戦士に一撃を叩き込んだ。
──ドゴッ
 忍者刀を逆手に持ち、素早く相手の懐に飛込むと柄を鳩尾(みぞおち)に叩きこむ我羅。
 その一撃で、戦士は意識を失った。
「ふん。貴様など斬るにも価せん!!」
 そしてグラン&我羅チームは周辺に移動してくる敵水夫達を威嚇し始めた。

──一方・工作員はというと
 密かにプープデッキ(船尾楼)に移動していたのはゼルス。
 彼は、敵船後方を確認すると、視界内でもっとも効果のよいと思われる場所を捜し出し、そのエリア全体を包むようにクリエイトエアーを発動させる。
 敵船下部から、勢いよく気泡が浮かび上がって来るのを確認すると、ゼルスはそのまま水に飛込んだ‥‥。
(さて、急がないとシンさんが死んでしまいます‥‥)
 そう心の中で呟きながら、ゼルスは急いで敵船にとりつくと‥‥。

──再びデッキ
「まだ来るのですか? 命が要らないのでしたら、かかってきなさい!!」
 そう叫びながらミリランシェルはモーニングスタースターを振り回す。
 既に大量の怪我人が周囲に転がっており、まだ数名がミリランシェルとの間合を取っている。
 すでに彼女の衣服は返り血で深紅に染め上げられていた。
 懐から最後のリカバーポーションを取り出すと、それをグイッと一気に飲み干して再び構えを取るミリランシェル。

「まだまだっ!!」
 その背後では、ノリアが切りかかってくる海賊の攻撃を素手で受け流し、そのまま寸勁を叩き込む。
 女性といっても、彼女は普通の女性ではない。
 魔法修練を捨て、その拳に磨きを掛けてきた素手戦闘系クレリック。
 ちなみに寸勁も、まだ未熟。なれど、その一撃は、そこそこに痛い‥‥。
 そんな彼女も、ローブのあちこちが切り裂かれ、うっすらと血がにじんでいる所もある。
「レム!! シンの様子はどうですか!!」
 ノリアの叫び。
 その後方では、シンがレムの治療を受けている。
 そのシンの治療場所では、クレアとベルシードの二人が護衛として戦闘中。
「こっちに近寄らないで下さい!!」
 そう叫びながら、クレアがダガーを構えて威嚇する。
「降伏して下さい!! 今なら命は助けてあげます」
 そう叫びながら、ベルシードは炎に包まれたスタッフを構えて海賊に殴りかかる。
 力の弱いウィザードでも、バーニングソードとの併用で、そこそこには戦えている模様。
 危険になったら、アクアがウォーターボムで牽制するなど、ウィザードチームもそれなりに頑張っている模様である。

──シンは‥‥
「駄目だよぉ。こんな所で死んだら駄目だよぉ」
 次々とリカバーを詠唱するレム。
 だが、シンの傷は思ったよりも深い。
 血が止まらず、レムの魔法では傷が塞がる様子もない‥‥。
「大丈夫‥‥これぐらいで‥‥」
 そう呟くと、シンは立上がろうと体を起こす。
「無茶だよ。もう、戦いはいいから、ここは皆に任せて‥‥ね、シンぅぅぅぅ」
 涙で顔中がぐちゃぐちゃになるレム。
 と、突然シンが勢いよく体を起こし、床に置いてあった剣を手に取る。
──ガギィィィン
 レムの後方からは、一人の兵士がフラフラになりながらも、レムに向かって襲いかかってきたのである。
 それを間一髪受止めると、シンは切り返しに一撃を叩き込んだ。
──ドシュッ
 その一撃であっけなく絶命する兵士。
 だが、シンももう限界である。
 大量の血を流しながら、その場にがっくりと崩れ落ちる。
「シンっっっっっ」
 レムの絶叫。
「大丈夫‥‥約束したんです‥‥必ず帰るって‥‥」
 そのまま空を見上げるシン。
 たが、彼の目には、光は届いていない。
 目蓋の裏に、大切な妻の面影が浮かび上がってくる‥‥。
「どうしたんです‥‥そんなに心配そうな顔をして‥‥」
 そうシンがつぶやいた時、レムはシンの命が尽きかかっているのを悟った‥‥。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


──敵船にて
 シンの情況を考え、我羅とグランの二人は最後の賭にでた。
 ゼルスがうまく事を運んでいてくれるのならば、そしてタイミングさえ合えば、シンは助かるかもしれない。
 荷物の回収というのは既に脳裏にはない。
 兎に角、仲間を助ける。
 それが、我羅とグランの二人の願いであった。
 突破のさなかにも、ひたすら攻撃を受ける我羅達。
 体のあちこちから血が吹き出し、衣服も鎧もズタズタにならながらも、二人はどうにかセンターマストにたどり着く。
 そしてグランは渾身の力を込めて、マストに向かって一撃を叩き込んだ!!
──ドゴォォッ
 その一撃程度ではマストは破壊できない。
 が、多少の亀裂を生み出すことは出来た。
 そこから先は賭けである。
「次は本気で帆の柱を叩き折る‥‥嫌なら武器を納めろ、取引だ!!」

──同タイミング・船底にて
 ゼルスは船内に人がいるのを確認すると、船倉部分であろう、そこをコンコンと力一杯叩く。
(これは賭ですね。海上の状態が優勢ならば‥‥)
 ゼルスはシンの様子を確認できない。
 他の仲間がどのように動いているのかなど、総て彼の予測の範囲でしかない。
 だか、急がなければ‥‥。
 そしてクリエイトエアーで呼吸ができる事を確認すると、そのまま魔法の詠唱を開始した。
 ゼルスの体が緑色に輝く。
 そして魔法が完成したとき、船底の床に当たる部分から、声を発した。
「抵抗すると船底に穴を開けますよ。取引しませんか? 目的の荷さえ渡してもらえれば、こちらもそれ以上は望みません」
 ヴェントラリキュイによる降伏勧告。
 船内から聞こえればより効果的であろうが、魔法は基本的に有視界でしか使用できない。
 その為、ゼルスはもっとも薄く、且、声の良く響くポイントを調べていたのである。
(間に合いますか? 御願いですから反応してください‥‥)

──そして甲板
 敵船では、マストを敵水兵が取り囲んでいる。
 状態は最悪。
 グランと我羅の二人は、そのまま敵の出方を伺っていた。
 最悪、敵が乗ってこなければ、ここから自分達の船まで切り抜けるしかない。
 だが、今の体力では、それもままならないと行ったところであろう。
 と、その時。
 船内から一人の男が駆け出してくる。
 そして船長らしき男に耳打ちすると、そのまましばらく考え込む。
「取り引きといこう。貴様達の仲間が船底に穴を開けようとしている。そのマストもへし折られたら俺達はおしまいだ。だが、俺達は貴様達の船を奪って逃げることもできる。今の状態、貴様達の戦力、良く考えて結論をだせ。時間は10分だ‥‥」
 船長の叫びは、商船の皆にも聞こえてくる。
 そしてレムが絶叫。
「駄目、絶対駄目‥‥10分なんて持たない!!」
 シンは既に限界。
 本来ならば、この取り引きはノーである。
 だが、今のままではシンは死ぬ。
(グラン、おまえはどれぐらいいける?)
 そう耳元で呟く我羅。
(3人ぐらいは。それ以上は、道連れです‥‥)
(俺も同じぐらいだな‥‥)
 グランがマストを破壊するよりも先に、敵はグランを殺すであろう。
 我羅は絶対的戦力差を目の当たりにした。
 シンが最初にやられたのが、今となってはかなり痛い。
「判りました。取引きと行きましょう」
 それはミリランシェル。
 シンやその他の戦力を考えた結果、ここは取引きに応じることにした。
「こちらは、これ以上その船に手出しはさせません。そちらとしても、大切な船に穴を開けられたら損害は激しいでしょう‥‥。こちらの希望は、ギャブレッド商会の積み荷を受け渡してくれること、そして‥‥」
 ミリランシェルは悩んだ。
 今、この船にはシンを助ける手だてはない。
 一か八かの賭けである。
「こちらには怪我人が一人います。薬を分けてくれればそれで構いません。そのかわり、それらの作業が総て終わったら、船に穴を開けるのは止めましょう」
 その取引きは、明らかに都合の良すぎるものである。
 が、敵の船長はニィッと笑うと、その取引きに応じた。
「判った、この前の荷物なら総て返してやる。食い物は食べちまったから返せないが、それ以外のものは総て返してやろう。荷物を総て渡す、そのあとでフックを抜いたら貴様達も俺達の船から手を引け‥‥」
 そして交渉は成立した。
 敵水兵が船倉から荷物を引っ張りだす。
 それを商船の水夫が受け取り、自分達の船倉へと移す。
 その間にも、グランと我羅の二人は敵マストから動かない。
 なにかあった時のための、お互いの牽制のためであろう。
 シンの元には2本の薬瓶が届けられる。
 だが、シンは既に飲み薬なと飲める情況ではない。
「ベルナデットさんには悪いですけれど、生きて旦那を帰すため‥‥」
 そう呟きながら、薬を一本口に含むミリランシェル。
 よく冒険者酒場で、シンとその妻が楽しそうに酒を呑んでいるのを、仲間たちは良く知っている。
 だからこそ、その笑顔を彼女の元に帰してあげなければとの思いが、彼女達に大胆な行動をさせていた。

──グイッ

 そのままミリランシェルは口移しでシンに薬を飲ませる。
 だが、多少の傷は回復したものの、まだ危険な状態が続いている。
「交代します!!」
 さらにもう一本をノエルが口に含み、更に飲ませる。
 そしてレムが魔法詠唱を開始。
 シンにリカバーを掛けた。
 そしてしばらくして、シンの意識が戻りはじめた‥‥。
「皆さん‥‥すいません‥‥」
 まだ体は動かせないので、シンはそのまま船倉の部屋に運ばれていった。
「‥‥この薬、リカバーポーションではないですわね‥‥」
 そう告げながら、ベルシードとクレアが薬の瓶を手に取る。
「ヒーリングポーション? これって!!」
「嘘!! 本物なんて始めてみましたわ」
 ヒーリングポーションがエチゴヤで売っているのは、リカバーポーションを買いに行ったとき見掛けた人もいるだろう。
 だが、1瓶10Gというその金額は、一介の冒険者の懐からでるにはちょっと厳しく、実際にそれを購入している者が、一体どれだけいるのかは判らない。。

 それをシンは、無料で2本、美女の口付け付きという‥‥とんでもない情況である。

 そしてシンが息を吹き替えしたのを確認すると、グランと我羅の二人も船に移動。
 海から顔を出していたゼルスも商船に引き上げる。
 そして海賊・シーラット団は海流に逆らうようにゆっくりと消えていった‥‥。


●帰還〜何も言えない自分が辛い〜
──帰路の商船
 とりあえず積み荷の回収は完了。
 もう少しでシーラット団を追い詰められたかも知れないが、今回は仲間の命優先となった。
 もっとも、依頼は荷物の奪回なのでこのまま戻っても問題は無い。
 一行は治りきっていない傷ついた体をレムに癒してもらい、苦いながらも勝利の美酒を味わうことが出来た。
 そんな中、シンは静かに海を眺めていた。
「‥‥体は大丈夫ですか?」
 そう問いかけるクレア。
「ええ。流石にヒーリングポーションとは‥‥お蔭様で、傷は残りましたけれど、なんとか体は動かせますね」
 弱々しい笑みを浮かべてそう告げるシン。
「あまり自分を責めないでくださいね」
 そう告げると、クレアはそのまま立ち去る。
 それと入れ違いに、我羅とグランがワインの瓶を手にシンの元にやってくる。
「まあ、飲め」
「とにかく飲め」
 そう呟きながら酒を進める二人。
「‥‥そうですね」
 そのまま二人の気持ちを受けて、シンは手にしたワインを飲み干した。
「俺達冒険者は、いつでも命のやり取りをしている‥‥それだけだ」
「冒険者っていうのは、常に死と背中合わせに生きているようなものだろ? 今生きているということは、死という存在に勝った。それだけだよ」
 そう告げると、二人は皆の元へと向かっていく。
「そうですね‥‥今は生きているのですから‥‥」
 沈みゆく夕陽を眺めながら、シンは静かに国で待つ妻事を思い浮かべていた。
「死に掛かったなんて伝えたら‥‥」
 それ以上は口に出せなかった。
 今回の依頼の成功報酬。その殆どが妻に渡さなければならない。
 手元に残るはずの65Cも、今回の事が知られたら総て取り上げられるかも‥‥。


●そして〜港ですね〜
──貿易港
 無事に依頼を終えた一行は、積み荷などを水夫達に任せてパリへと向かった。
 大切な人たちの待つ、あの街へ‥‥。

〜FIN〜

●ピンナップ

ノリア・カサンドラ(ea1558


PCシングルピンナップ
Illusted by 藤井深雪