●リプレイ本文
●またしても〜やってきました領主の古城〜
──領主の古城・応接間
そこは小さな応接間。
今回の依頼を受けた冒険者達が案内され、そこで件の領主と御体面とあいなった。
色々と質問があったものの、依頼主である『ボンボン』は何処かに出かけているらしく、領主自ら会ってくれるということであった。
「さて、それではお話を聞かせていただきましょうか?」
静かにそう告げる領主に、一同は軽く挨拶を行なった後、ゆっくりと質問を始めた。
「もし良かったら、この城の地下、もしくはこの城自体の由来についておしえて欲しい」
それはトール・ウッド(ea1919)。
その質問には、前回もこの城の地下第一階層でハムスター捜索を行なっていたアルベルト・シェフィールド(ea1888)、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)、ルイス・マリスカル(ea3063)、ガブリエル・アシュロック(ea4677)の4名も興味があった。
果たしてどんな答えがでてくるのか。
この前に聞いた話から、またなにか新しい情報が見つかったのだろうかと。
「そうですね。この城、そしてこの地に伝わる物語がありまして‥‥」
おっと、新しい展開?
そのまま領主の言葉に耳を傾ける一同。
「今より遥か昔の事です。この地には多くの魔法研究家が集まっていました。その中でもかなり高位の魔法使いが、ある魔法実験に失敗して、とんでもない魔物を召喚してしまったそうです‥‥中略‥‥それで、この地には、この城のように地下から現われる魔物を封印するために建てられた建造物が数多くあるそうなのです。裏の森にも、『囁きの塔』と呼ばれる古の魔物を封印している塔がありまして‥‥」
塔については別の話。
その言葉に、一瞬頭を傾げるウィル・ウィム(ea1924)。
「あの‥‥領主様。真ん中の『中略』の部分が抜けているように思われますが?」
つねに笑顔を絶やさないようにしているのだろう。
ウィルは静かに、そして笑顔でそう問い掛けた。
「いやいや、実は、この真ん中の部分が記されていた写本を失くしてしまいましてな。最初と最後は、小さいころから聞かされていましたから覚えていたのですが、真ん中の、本当に面白い部分は、幼い時代には聞き取れていなかったようでして‥‥」
最後は『めでたしめでたし』なのでどうにか覚えていたということ。
「では、もし地下迷宮になにか宝物や不思議なアイテム等があった場合は、こちらに持ち帰ってきたほうが良いのでしょうか?」
それはアルベルト。
「そうですね。1度こちらに持ってきてください。私が必要なものであれば、それなりのお礼はさせていただきます」
流石は好事家。不思議系アイテムは咽から手が出るほど欲しいとみた。
「では、そろそろ準備を始めましょう。色々とお手数を御掛けして申し訳ありませんでした」
そう丁寧に礼を告げるステファ・ノティス(ea2940)。
そして領主は再び執務室へと戻っていった。
●では早速〜お約束とちがーう〜
──地下第一階層
すでに前回の依頼で地図が完全に出来上がっている第一階層。
シャクリローゼ達のおかげで回廊を徘徊するモンスターもいなくなり、さらに掃除が行き届いている。
「と、こっちか‥‥」
地図を片手に、一行はのんびりと移動。
そして件の、地下第二階層への回廊を抜けて、たどり着いた巨大な石扉。
「トラップの類は大丈夫なのですか?」
ステファがガブリエルに問い掛ける。
「ええ。この扉はまだ封印されていますから。巧妙な魔法による封印。こちらから開くことで、この扉の封印は解かれます。もっとも魔物除けの護符のような作用もありますので、魔物では扉に近付くことも叶わないでしょう」
それはガブリエルの予見。
そして一同は深呼吸を行うと、ゆっくりと石扉を開く。
──ギギギギキギギギッ
ゆっくりと扉が開かれる。
そしてランタンの灯に、地下へと続く階段がボウッと浮かび上がってきた。
「では行くとするか」
トールの言葉に、一行は階段を降りていった。
階段の先は広いフロアになっていた。
ランタンの灯さえ、奥まで届くこと無い。
フロア全体が腐臭とカビの匂いにまみれ、時折なにかが蠢く音が聞こえてくる。
「ふぅ。参ったわね」
髪をクシャッと書き上げながらシャクリローゼがそう呟く。
「折角、班編成を行なったっていうのに、これでは全く必要ないわね‥‥」
「シャクリローゼさんの言うとおりですか。確かに、この広大な場所で二つの班に分けるっていうことは、死にに行くようなものですか?」
そのアルベルトの言葉と同時に、トール、ルイス、ガブリエルの前衛達が勢いよく抜刀。
アルベルトとステファの二人は、その光景を見て、急ぎ前衛の後方へと移動。
「なにが来たのですか?」
そう問い掛けるステファに、シャクリローゼが静かに呟く。
「この手の迷宮御用達。性根まで腐った奴等ですわね」
──ズルッ‥‥ズルッ‥‥
朽ちかけた肉体を揺らしつつ、ズゥンビが灯に姿を照らす。
その数、3体。
「さて、A班B班合同作戦だな」
「皆さんの御武運を祈ります」
「‥‥我等が勇気ある仲間の為に、神よ、その加護を授けたまえ‥‥」
ウィルが祈りを告げてから魔法詠唱開始。
そしてステファも神に加護を得るために祈り、詠唱開始。
「皆さん、先制行きますので下がってください!!」
この広さなら、いける。
そう考えたアルベルトが魔法の詠唱開始。印を組み韻を紡ぐ。
その間にもズゥンビは間合をつめてくるが、まだ奴等の攻撃範囲ではない。
そしてウィルとステファのホーリーが完成。
全身が白く輝くウィルとステファ。
その直後、ニ体のズゥンビが、二人の輝きと同じ光を全身から放つ。
光の違いはただ一つ。
ズゥンビ達は、その光により全身を焼かれていた。
叫ぶことなく、ただ苦痛に身をよじるズゥンビ達。
そしてウィルの全身が赤く輝く。その手元には小さな火の玉がフッと浮かび上がる。
それは真っ直ぐにズゥンビ達に向かって跳んでいくと、大爆発を引き起こした。
聖なる輝きに続き、魔法の炎にその身を焼かれる。
「‥‥運が悪かったな!!」
爆風が収まる頃に勢いよく間合を詰めると、トールは全身に力を込めて、一気にズゥンビに向かってスマッシュEXをぶちかます。
──ドゴォォォォッ
その一撃で、すでにズゥンビは半死半生、いや死んでいるから半死×2というところか?
「いい手応えだ‥‥」
そのまま次の一撃を叩き込むトール。そしてさらに3撃と、すべてがスマッシュEXという強者である。
しかも、そのどれもが直撃し、ズゥンビは立っていることがやっとと言うところまで追込まれていた。
──ドシュッ
「す、凄すぎる‥‥」
そのトールの攻撃を見て、ルイスがそう呟く。
もっともそのルイスの一撃はズゥンビに対して直撃、そこそこの怪我を負わせていた模様。
「あの方は生まれつきの戦士なのでしょう」
そうルイスに告げながら、ガブリエルもルイスの相手に向かって切りかかる。
──ドシュッ
クルスソード直撃。
だか、ズゥンビはまだ止まる様子も見せない。
「頑張ってくださいね‥‥」
シャクリローゼはズゥンビの頭上を跳びながら、他のズゥンビが後衛へと流れないように牽制。
その間にもトールが次々と渾身の一撃を叩き込み、ガブリエルとルイスが共同で一体ずつ潰しにかかる。
最後の止めはウィルとステファのホーリー。
それでも足りないときはアルベルトのファイアーボールが業火を上げた。
──そして戦闘終了
無事に死体は燃やしつくされた。
「それにしても‥‥あなたはかなりの実践をくぐってきたようだな」
ガブリエルが、ソードの汚れを拭いながらトールに向かってそう呟く。
「ん? ああ。それなりにな‥‥」
そう告げながら、トールも武器についた肉片を振りぬいて床に叩きつける。
「‥‥この先は、全員で周囲を確認しながら進んだほうがよさそうね」
シャクリローゼがそう告げて、一行は再び探索開始。
●回廊入り口〜ここから本当の回廊です〜
──フロア奥
しばらくの間はフロアの探索となった。
しらみつぶしに端から端まで、総ての調査を行った結果、フロアのエリアには既にモンスターの類は確認できなかった。
そのため、フロア奥にある幅の広い回廊に突入することになった。
「ここからはチーム編成で行なったほうがいいか」
そう呟くガブリエルに、一同は静かに肯く。
ちょうど正面が左右に分かれているため、そこから二班に分かれての殲滅作戦となった。
──A班
回廊の右へと向かっていくA班。
ちなみにメンバーは、前衛のトールとガブリエル、ランタン担当のステファ、マッパー担当のシャクリローゼという構成である。
突入後直にやってきたのは、この手の地下迷宮御用達の掃除人『グランドスパイダー』。
しかも回廊の一角に巨大な巣を張り巡らせている。
──カサカサカサカサ
「‥‥き、気持ち悪いです‥‥」
ステファが静かにそう呟く。
まあ、只でさえ気持ち悪い蜘蛛がここまで巨大になっているのである。無理はない。
「トール、あれ、どう思う?」
ガブリエルが巣のあちこちにぶら下がっている白い塊をソードで指し示す。
それは奇妙な物体。
「うーむ。ちょっと判らないなぁ。あれだけ大きいと、さすがに‥‥」
そう呟くトールの後で、ステファが静かに呟く。
「あれは‥‥捕食対象を絡めとっている繭です‥‥」
ちなみに、目の前のものは大きさにして1m以上。ちょっと嫌なサイズである。
「とりあえず、やるか?」
「掃除掃除っと!!」
スラリとソードを引き抜くと、前衛2名は正面の蜘蛛に向かって突撃する。
「無茶しないで下さいね!! 私の魔法は、蜘蛛には聞きませんので」
ステファの叫び。
「ふむふむ。ここまでは順調ね」
そのさ中、シャクリローゼはずっとマッピングを続けてきた。
この地下回廊の地図を作るというのも、今回の依頼の成功に繋がるからである。
──そして
「‥‥うわ」
退治した蜘蛛の巣から、繭をソードで引き剥がす。そして真っ二つに切り裂いた中には、白骨がいくつも詰まっていた。
衣服もボロボロで、すでに原形は止めていない。
そんな中、小さいペンダントが一つだけ入っていた。
「トール、それは持って帰りましょう。何かの役に立つかもしれないから」
シャクリローゼのその言葉に、一行はそれを回収し、再び作業を開始した。
──B班
回廊の右へと向かっていくB班。
ちなみにメンバーは、前衛のルイス、後衛で灯担当のウィル、マッパーのアルベルトというメンバーである。
さて、このB班はというと‥‥
「熱い熱い熱いっっっっっ」
必死な形相で叫びながら、ルイスが酸で溶かされた衣服を脱ぎ捨てている。
彼等の後方では、ズルリズルリと不定形生物が這いずり、冒険者達を追いかけてくる。
「いきなり天井から落ちてきやがって。あの野郎‥‥」
ルイスの告げたあの野郎とは、すなわち『ビリジアンスライム』。この手の迷宮などで徘徊する掃除人2号といったところである。
いきなり天井から落ちてきたかと思うと、酸を吐きかけてルイスに火傷を負わせていた。
「とりあえず手当をします」
ウィルがまずホーリーフィールドを発動。聖なる結界を作り出し、ルイスをその結界の中で治療する。
その間にも、ビリジアンスライムはズルリズルリと移動。
「さて、困りましたね。こちらは前衛が一人、しかも私の魔法は広範囲型。今のままですと、あのスライムにはちょっと‥‥」
その言葉の直後、ルイスがすっと立上がる。
「なら、1度撤退したほうがいいか。ランタンの灯もそろそろ消える、打ち合わせの時間だ」
あらかじめ、ランタンの油が何本消えたら撤退と決めていたので、その日は一旦撤退。
そして地上に戻ると、シャクリローゼとアルベルトがマップの合成を始める。
その間にも、冒険者達は体を休ませると、明日の調査の為に英気を養っていた。
●そして〜スライムが一番強かったぁ〜
翌日以降の調査は、ちょっと厄介な代物であった。
第2階層は巨大なフロアエリアと、その奥の迷宮とで構成。フロアの部分のアンデットは総て駆逐したものの、迷宮エリアでの蜘蛛退治に手間がかかってしまった。
さらに、先日ルイスを襲ったビリジアンスライムが見当たらなくなり、最終日の最後になってようやく発見という情況であった‥‥。
「あいつか?」
トールがルイスに問いかける。
ちょうど正面で、モゾモゾと蠢く不定形生物を発見。それはゆっくりとトール達に近づいてくる。
「あれを倒せば掃除は終了、さあ気合いいれていきましょうか」
シャクリローゼがそう告げる。
そして最後の戦いは幕をあけた。
アルベルトはランタンを片手に灯の確保。
そして後方では、ウィルとステファが回復魔法のスタンバイに入る。
シャクリローゼはビリジアンスライムの放つ酸から逃げれるように後方待機、前衛のルイス、ガブリエル、そしてトールが抜刀。
──ザシュッ!!
まずは手応えの確認。トールが普通に斬りかかった。
ビリジアンスライムは思ったよりも動きが鈍いようで、あっさりと直撃。
「いける!!」
次々と繰り出されるトールの連撃。
──ドシュツ
さらにガブリエルも一撃を叩き込む。
その時点で既に半死半生。
「思ったよりも、弱い!!」
ガブリエルの率直な感想。
「いや、昨日はこんなに‥‥」
ルイスがそう告げながらビリジアンスライムに切りかかる。
──スカッ!!
ルイスの一撃は中空を斬る。
ビリジアンスライム渾身の回避。
「なんでぇ‥‥」
ルイスってば‥‥不幸!!
そのルイスの叫びの直後、ガブリエルに対してビリジアンスライムが酸を飛ばした。
──シューーーーッ
それはガブリエルの皮鎧の一部を溶かし、皮膚を焼く。
「何ッ‥‥」
油断大敵という訳ではない。
このスライム、動きはゆっくりとしているが攻撃速度は早い。
ルイスは不意打ちを受けたため、相手の動きが見切れていなかったのである。
さらにルイスに向かって酸を飛ばすビリジアンスライム。
──シューーッ
ルイスの皮鎧も一部が溶け、皮膚が焼かれた。
「痛っ!!」
その叫びの直後、トールが全身の筋肉を膨張させる。
「さて、遊びはおしまいだな‥‥」
出ましたトールのスマッシュEX。
──ドゴドゴォォォッ
その2撃で、あわれスライムは本当に『原形を止めない姿』になってしまった模様。
そしてガブリエルとルイスはウィルとステファに傷の手当をしてもらうと、最後のエリアの情況を確認。
目の前には一枚の巨大な石の扉。
この第二階層にやってくるときとまったく同じ造りのものが、そこにはしっかりと固定されていた。
先日までの地図の作り方を考えるに、この扉の奥は更に地下‥‥第3階層があると判断、一行はそのまま地上へと帰還したのである。
そして、無事に依頼を終えた一行は、完成した地図を手に領主と謁見、無事に作業が終了したことを告げる。
迷宮から回収したペンダントを差し出すと、領主は驚いた表情を見せて、それを高値で買い取ってくれた。
「‥‥あの迷宮、さらに地下があるか‥‥何がいるんだ?」
帰りの馬車の中で、ガブリエルがボソリと呟いた。
「さあな。あれだけ厳重に封印されているんだ、そんじょそこらの魔物じゃねぇだろ?」
トールが静かにそう呟く。
「‥‥いずれにしても、あの地下迷宮には、なにかこう、とんでもない秘密が隠されているような気がします‥‥」
ステファは、あの地下迷宮はそのままにしておいたほうが良いような気がしてきた。
そして一行は無事にパリへと帰還、冒険者ギルドから報酬を受け取った‥‥。
〜FIN〜