●リプレイ本文
●伝説は語る
──パリ市内・冒険者酒場マスカレード
「まあ、若くして家督を継ぐ事になったということ以外は、特になにもないですよ‥‥」
カウンターの中で、そう呟いているのは現在のここのオーナーであるミストルディン。
「そうか。なら、このベッケンバウアー卿という人物、以前のオークションに参加し、何かを競り落としたという噂は聞いていないか?」
そう問い掛けているのはシェセル・シェヌウ(ec0170)。
「んー。そうね。色々と競り落としているから、正直訳がわからないわね。そこまで詳しく調べていた訳じゃないし、あんまりオークションに興味のあった品物が出品されていたわけじゃないからね‥‥良く判らないわ」
と返答を返すミストルディン。
「そうか。なら、直接色々と聞いてみることにしよう。済まなかった‥‥」
と告げて、シェセルは頭を下げてその場を後にした。
──パリ市内・ベッケンバウアー邱
静かな街。
とはほど遠い商業区の外れにあるベッケンバウアー邱。
今回の依頼を受けた冒険者達は、彼の屋敷を訪れていた。
「失礼します。冒険者ギルドよりやってきました‥‥」
玄関でそう挨拶をする三笠明信(ea1628)と、その後ろに並んでいるクァイ・エーフォメンス(eb7692)とシェセルが頭を下げる。
「これはこれは。ようこそベッケンバウアー邱へ。私、ここの執事を仰せ付かっていますセバスちゃんと申します。まずはこちらで‥‥」
と言うことで、黒い衣裳に身を包んだ執事に連れられて、一行はそのままエーリッヒ・ベッケンバウアー卿の待つ応接間へと案内された。
「よく来てくれた。僕がここの主であるエーリッヒ・ベッケンバウアーだ。まあ今日は来てくれて礼を言う」
そう告げると、執事が皆にハーブティーを差し出す。
「どうぞ。我が主は暇を玩んでいます。どなたからでも結構ですので‥‥」
ニコリと微笑みつつ、話を促す執事。
「では、最初は僕から‥‥」
と三笠が告げると、静かに話を始めていた。
「基本的には文章にすら起こせない話なので、普通は‥‥眉つばですが今回はこの話を用意しました。簡単にいえば‥‥こんな感じですね」
その勿体つけたような口調に、その場にいる一同はグイッと三笠に引き付けられる。
そして手応えを感じた三笠は、表情一つ替えずに、話を続けた。
「私の修業時代、父親に連れられて決して人の通る様な道ではない獣道で嵐に襲われ、崖崩れに襲われたり、氷の弾やカマイタチが飛び交ったり、背丈位の岩や飛び交う倒木‥‥その他色々を父が何もできずおたおたしている私を守りつつ『普通の日本刀一本』で切り開いて行った‥‥」
かなり物語に信憑性を持たせつつも、雰囲気を出して話をする。
「‥‥という本当に有り得ない話ですけど。未だ、私にはそんな真似は出来ず、それを目指して剣を磨いている‥‥という原点であり極地の話ですから‥‥気に入ってもらえるといいんですけど‥‥」
そう締めくくって話を終える三笠。
「して、その父親というのは、今はどこで何をしている?」
そう問い掛けるエーリッヒ卿。
「私はそのまま修行のために諸国を漫遊していました。なので、父がどこで何をしているのか、皆目検討がつきません‥‥。だた言えることは、父は父なりに、今でも『伝説』を作りつづけているのではないでしょうか‥‥」
その言葉に気を良くしたのであろう。
エーリッヒはそのままニコニコと笑いつつ、次の話に耳を傾けた。
「では、次は私の出番ですね」
にこやかそう告げるクァイ。
その言葉に、エーリッヒ卿もにこやかに肯くと、そのままクァイの話に耳を傾けた。
「これは、私がイギリスにいた時代、マレアガンス城攻略作戦での話です‥‥」
──ズンチャッチャ、ズンチャッチャ♪〜
室内楽団が軽快な音楽を奏ではじめる。
「では‥‥デビル達の策略で連れ去られたアーサー王の妃グィネヴィア。彼女を救い出すため、マレアガンス城の正面から突入した私達が体験したこと、それは‥‥」
もったいぶった口調で話を始めるクァイ。
「王妃を救い出すため正面の巨大な扉を突破して進んだ先にいたのは、巨大な扉に見合うだけの存在──ボォルケイドドラゴン──でした。私達はそのドラゴンと戦い、死闘の末これを倒し、王妃のもとへたどり着くための最後の難関、マレアガンス卿とも戦いました」
音楽の強弱やテンポに合わせ、静かに物語を綴っていく。
「マレアガンス卿の野望と私達の王妃を救うという意思、この両方がぶつかりあう戦いとなりました。結果は、今私がここにいるというのが答えです‥‥」
それは即ち。
「そのままドラゴンと悪い騎士を倒し王妃を救い出し、めでたしめでたしといけば王道ですが、実際はそうではありませんでした。私達に罪があるとすれば、その先にいた王妃グィネヴィア様にデビルの反応があったので、攻撃してしまったという事です。真実は、王妃様に多数のデビルが憑依していたという事で、デビル達は『邪魔をした報いは受けてもらう』と言い残し、去っていきました。そして、現在もイギリスではデビル達との暗闘が続いています」
そう話を終えるクァイ。
「成る程。いつどこに悪魔がいても、おかしくはないのか‥‥」
エーリッヒ卿がそう告げると、クァイは静かに懐く。
「その通りです。今、実際にここに悪魔が現われていても、おかしくはありません‥‥」
そうクァイが告げるのと合わせて、三笠はバックパックから『石の中の蝶』を取出す。
──パタパタパタパタ
ゆっくりと羽ばたいている石の中の蝶。
それを確かめつつ三笠はそれを指にはめ、周囲に向かって細心の注意を払う。
「さて。では最後はオレが締めさせていただく‥‥」
そう告げると、シェセルは静かに話を始める。
シェセルの語った物語は『エジプトで伝説の太陽王として伝えられているロードガイの墓所での件と邪神(蛇神)アポピスについて』。
実際に、シェセルがエジプトにて実際にガイの墓所の守護者と対面したときのことをゆっくりと語る。
さらに、先日、異世界から帰還したミハイル教授より、アトランティスにおいてもガイの伝承が残されているとの情報を得たことを告げると、シェセルは一つの真実を告げ始めた。
「以上の事から、ロードガイは伝説上の人物ではなく実在の人物である可能性が高いのです。そして彼が常世へ旅立ったというのが、崩御したことを示す比喩ではなく、実際に異世界へ旅立ったことを示していると考えられます」
その言葉に、室内は沈黙する。
そしてこの件に付いてですが、この件は単なる伝説ではなく、新たな伝説の誕生に関わるものとなりうることを強調して説明していた。
「成る程ねぇ‥‥まあ、今回は色々と愉しませてくれたし、また次があったら宜しく頼む」
そう告げて、エーリッヒ卿は静かに立上がる。
「エーリッヒ卿、一つ伺いたいのです。卿は先日の『闇オークション』にて、ロードガイにまつわる何かを手に入れてはいませんか?」
そのシェセルの言葉に、エーリッヒは頭を左右に振る。
「残念ですが‥‥でも、貴方の告げた物語にはなにか心を引かれるものが有ります。もし何か伝説に関係するような事がありましたら、そのときは声を掛けてください。多少ではありますが援助することはできると思います‥‥」
その言葉で、一同は挨拶を終え、早急に建物から出ていった‥‥。
そして三笠が再び指輪を確認するが、すでに石の中の蝶は静かに沈黙していた。
──Fin