●リプレイ本文
●冥福を祈る鐘
──シャルトル・ノートルダム大聖堂墓地
静かに鐘が鳴り響く。
アサシンガール達の墓標の前で、一人の女性が静かに祈りを捧げている。
「神よ。彼のものの魂を救い、主の元に‥‥」
スニア・ロランド(ea5929)がそう告げると、シスター達が静かに賛美歌を歌う。
アトランティスから帰ってきたスニアは、アサシンガール達の墓を巡っていた。
神のみもとへと無事に帰っているか?
それを心配しつつ、彼女達の墓を一つ一つ訪れていた。
それは、彼女達のような犠牲者をもうださないという意思表示であろうか‥‥。
●古きものを求めて
──シャルトル・ミハイル研究所
「成る程‥‥」
「じゃろう? そうじゃろう?」
「ええ、ミハイル教授のおっしゃる通りです‥‥ロードガイについて、その伝承、すべてがアトランティスに有るというのですか」
そうミハイルと話をしているのは、シェセル・シェヌウ(ec0170)。
ミハイル研にやってきたシェセルは、ロードガイの伝承について聞く為に、ミハイル教授の元にやってきていた。
「ロードガイの振るっていた天空の剣の伝承、古くはアトランティスの創世記にまで話は遡る‥‥ロードガイはこの、我々のすむジ・アースという世界に生まれ、そして何かの意志により、アトランティスに向かったという‥‥」
ゆっくりと話を始めるミハイル。
ただし、それは物語というよりも、なにか口伝をかいつまんで話しているようにもかんじられる。
「そしてロードガイは、アトランティスにはびこる『カオスの力』と戦い、それらを破壊する剣『天空の剣・シープ』を古い、その命果てるまで戦ったという‥‥」
そこでミハイルの話は終りを告げる。
「大体の話は判りました。ですが、アトランティスでは、その話は有名なのですか?」
「うむ。ワシは行ったことないが、メイという国では有名でな。誰でも知って居る話らしい」
その説明に、シェセルは心躍ってくる。
その国には生きた伝説として今でも皆に語り継がれている。
伝説であったロードガイが身近に感じられてきたのである。
「ミハイル教授、この我々の世界には、ロードガイの伝説は存在しないのですか?」
「うむ。ロードガイがアトランティスに向かってからの物語、そしてそれを知るものが何等かの方法でアトランティスからジ・アースに戻ってきたとして、その者が伝えたという可能性もある。が、全てはアトランティスに向かわなければ判らぬ‥‥直接向こうで調べられればいいのぢゃがな‥‥」
ということで、それ以上の話にはならない。
但し、このジ・アースにそれらの伝説がまったくないという保証もないと、ミハイルは補足として付け加えていた。
●悪魔疑惑の解明の為に
──パリ郊外・阿修羅寺院
静かな寺院。
大勢の阿修羅僧達が日々の務めを行ない、護衛のパラディン達が訓練を続けている。
そんな光景を横目に、三笠明信(ea1628)と鳳美夕(ec0583)は、久しぶりに天位のフィームに面会を求めてやってきていた。
「ご無沙汰しています」
「こんにちは。お久しぶりです」
そう挨拶をする二人に、フィームは静かに肯く。
「ああ、ご無沙汰しているな。で、今日は一体何のようだ? 」
そう問い掛けるフィームに、まずは三笠が話を始める。
「じつは先日、とある依頼で話を披露しに行ったベッケンバウアー卿の所でですが。『石の中の蝶』が反応を示したのです」
その三笠の説明に、フィームは静かに耳を傾ける。
「それでですね。これ自体は何か無ければ反応はしないのですが、どこに反応を示しているのかは分からないので‥‥さらなる調査を考えてます」
「そのベッケンバウアー卿というのは?」
「商業区近くの貴族ですね。好事家らしくて」
「ならば、まずはその家について色々と調査を始めたほうがいいだろう。引き続き、調査は頼む。もし協力が必要ならば、寺院にいる僧侶かパラディンにでも話をかけてくれ」
そのフィームの言葉に肯く三笠。
「次は私なのですが。まずは腕を見て頂きたいのです。その上で、もし可能でしたらパラディン試験を御願いしたいのです」
その美夕の言葉に、フィームは静かに肯く。
「腕を見る‥‥か。いいだろう。どこまで成長したか見てあげよう」
と言うことで、二人は外に移動。
そして中庭にある訓練場に出ると、そこで木剣を身構える。
「どこからでも構わん。掛かってこい」
そう告げて、フィームは静かに木剣を正面に構える。
「では‥‥」
そのまま素早く木剣を振るう美夕。
それらの全てを、フィームはやんわりと受止め、そして受け流す。
その綺麗な流れに、美夕は今だ実力が違いすぎること、そして自分の腕の未熟さにあらためて気が付いた。
息を切らせつつも続けていくが、やがてそれも不可能となる。
──ハアハアハアハアハアハアハアハア
「どうした? もうおしまいか?」
「は、はい‥‥もう限界です‥‥」
そう告げると、美夕はその場に座り込んでしまう。
「まだまだだな。体力、精神、共にまだ未熟。どれ、オーラを練りこんでみろ」
そのフィームの言葉に、美夕は静かに深呼吸をすると、オーラを練りはじめる。
だが、それを見ていたフィームの表情は険しい。
「オーラの練りこみも甘いか‥‥もう少し鍛えないと、パラディンとなることはできないな。以上だ。それらが鍛えられてから、今一度ここにこい。その時は試験を受けさせてやる」
そう告げられ、美夕は頭を下げる。
「では最後は我が‥‥」
と告げるのはルミリア・ザナックス(ea5298)。
これまでの様々な経緯をフィームに報告すると、ルミリアは静かにフィームに問い掛けた。
「新たなる使命は?」
「今はまだない。が、世界的に雲行きが怪しくなってきている。アジーナ大寺院からはまだなにもいってはいないが、遠征があるやもしれぬ。もしくは、現在のこの地での任務があるやもしれぬ。心していなさい」
「了解、拝命確かに。では、我はこれから修行に参るので、これにて」
「修行か。剛剣術か?」
そうフィームが問い掛けると、ルミリアは頭を左右に振る。
「そうか。なら」
と告げて、フィームは1度寺院内部に戻り、そして一対の鉄の枷をルミリアに手渡す。
「マスター・オズ師父の元に向かうのだろう? それを渡してくれ。そうすれば判ってくれる」
と告げる。
「了解。では‥‥」
ということで、美夕とルミリアの二人はそのまま剣士の居留地へ。
三笠は引き続きベッケンバウアー卿についての調査に向かった。
●再会、そして逝ってよし
──剣士の居留地
「‥‥つまり、アトランティスから戻ってくるときに、二つの紋章剣は持ってこれなかった訳で‥‥」
と、マスター・オズに説明をシているのはお久しぶりのシン・ウィンドフェザー(ea1819)。
アトランティスからこの世界に戻ってくるときに、紋章剣を持ってこようと考えていたらしいが、やはり紋章剣も例外ではなく、月道を越えてくることは出来なかった。
「まあよい。その二振りがアトランティスというところに留まったのならば、それは向こうでの使命があるということ」
「ではマスター・オズ。自信に、アトランティスであの紋章剣を使用する事をお許しください‥‥俺自身、アトランティスで骨を埋める覚悟ができている。紋章剣士として、かの地で全てを全うしたいのです」
そのシンの言葉に、マスター・オズはしばし考え込む。
「では、最終修練の間へ向かいなさい。そしてこの剣を手に、修練を越えてきなさい」
と告げる。
「判りました‥‥では」
ということで、マスター・オズから一振りの紋章剣を受け取ると、シンはそのまま霧の向うの修練の間へと向かっていった。
「ふむ。まあ、色々と経験してきたようぢゃな‥‥」
シンと入れ違いに、無天焔威(ea0073)が久しぶりにマスター・オズの前に姿を表わしていた。
そしてアトランティスで経験してきた事を色々と告げると、無天はマスター・オズとの話を続けていた。
「でね、オズさんやー紋章剣にも色々あるなら高潔な精神の持ち主じゃなくてもOKというか、なんかこう、気前の良い子いないの?」
「はっはっはっはっはっ‥‥自由な発想ぢゃな。なら、これを試すか?」
と告げて、マスター・オズは池野なかから一振りの紋章剣を呼び出す。
「それは?」
柄の部分に刻まれている筈の紋章がない。
「新たなる紋章剣。といっても、以前から存在する『無命』と同じ、属性力を持たない紋章剣ぢゃ。しばし、これで訓練でもしてみるか?
と告げられる。
そして静かにその紋章剣を受け取ると、再び話を続ける。
──スチャッ
無天の後方から、彼の首筋に向けて一振りの刃が当てられる。
その背後の気配にたいして、無天はニコリと笑みを浮かべつつも話し掛けた。
「‥‥ブランシュおひさーげんきー? 暇潰しに会いに来たよ〜」
──ヒュンッ!!
その刹那、背後にいたブランシュが力一杯無天に向かって斬りつけた!!
だが、その一撃を素早く躱わすと、無天は間合を取って静かに立つ。
「久しぶりっていうのに、随分とつれないねぇ♪〜」
「‥‥どの面を下げて帰ってきた‥‥この‥‥」
ワナワナと声を振るわせつつ、ブランシュは剣をしまい、紋章剣を引き抜く。
「激震、能力全開!!」
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
オーラによって生み出された刀身が音を立てはじめる。
「ど、どの面と言われてもっ!!」
と、無天もまた無命を起動。
オーラの刀身を発生させる。
──バジッバジッバジィィィィィィィィィッ
そしてしばし打ち合う二人。
それはまるでお互いの腕を確かめあっているようにも感じられる。
「どうして勝手にいったのよっ!!」
「言えば、付いてきてくれたかい?」
「そんなこと判る分けないじゃないっ!!」
「だろう? だからさ‥‥」
「あなたがいない間、あたしがどんな思いでいたか判るのっ!!」
──バジバジバジバジッ
「大体はね‥‥ごめんよ」
「今さらあやまられてもっ!!」
そう告げると、ブランシュは間合を取って激震の刀身を収める。
そして素早く無天に向かって走りはじめる。
「ふう。ようやくか‥‥」
と無天も無命をしまい、ブランシュを受け入れるように両手を広げた瞬間!!
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォッ
ブランシュの飛び蹴りが炸裂。
「ほ、ほーちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と叫びながら、ブランシュはその場から立ちさって行った。
「やれやれ。あいかわらずだな‥‥」
と笑いつつ、無天は静かに立上がる。
そしてそのままブランシュの後を追いかけずに、マスター・オズの元へと戻っていったとさ。
●謎の反応
──パリ・ベッケンバウアー邱近所
三笠は阿修羅寺院から戻ってきてから、ベッケンバウアー卿についての調査を行なっていた。
色々と流れている風評なども交えつつ、騎士団や自警団、はては近所の奥様達の会話に混ざってまで、色々と聞いていた。
そしてそれらの中から、幾つかの有力情報を確認する事が出来た。
・ベッケンバウアー邱には、毎月16日に大勢の客が訪れる。その中には、シャルトルの地方領主もいるらしい。
・ここ最近、ベッケンバウアー邱を監視しているような、不思議なシフシフを見た。
・聞き耳かもしれないが、以前ベッケンバウアー邱の庭で何かが話をしていたらしい。ちょっと好奇心で覗きこんでみた所、シフールとクロネコが世間話をしていたらしい
それらの情報を元に、三笠はこれからどうするか思案を始めた。
●そして修練
──シャルトル・剣士の居留地
激しいまでに酷使する肉体。
全身のオーラの流れを掴み、それを自在に引出す。
一点に集中し、そして全身に解放する。
体内を流れる力の循環、それを意志によってコントロールする。
剛剣術の鍛練を行なっているルミリアと美夕。
ちなみにルミリアは第二段階、美夕はまだ初期の基礎を学んでいた。
「ふうふう‥‥パラディンの訓練を思い出します‥‥」
額から流れる汗を拭いもせず、基礎体力訓練を続ける美夕。
その横では、ルミリアが木剣を構えて目の前の岩を睨みつけている。
「そうだな。我もそう思う‥‥が」
──ヒュンッ!!
一瞬の抜刀。
その限界を越えた抜刀術と、そこから生み出される衝撃。
木刀はいとも簡単に岩を切断している。
「す、すごい‥‥それが剛剣術ですか‥‥」
「ああ。だが、こんなにうまくいくことは殆どない。ほら」
とルミリアは美夕に手にしていた木刀を投げる。
それはすでに全体に亀裂が走っている。
力のコントロールがまだまだ未熟だという証。
「さらなる力のコントロールが必要だが。以前よりも切れはいい。そのまま続けなさい」
と、マスター・オズが二人に話し掛ける。
まだまだ道は遠い。
それでも、修行は続く。
──Fin