●リプレイ本文
●天変地異の前に
──パリ・冒険者‥‥ちがう、吟遊詩人ギルド
「あ、道間違えた‥‥」
と、吟遊詩人ギルドに向かうのに、何故か冒険者ギルドに向かってしまったクリス・ラインハルト(ea2004)。
そのまま引き返して、まずは吟遊詩人ギルドへと向かっていった。
「こんにちはー」
と、いつものような持ち前の明るさで挨拶をすると、クリスはまず『ザンク!!』をさがした。
「あ、すいません。『ザンク!!』さんいらっしゃいますか?」
「あ、『ザンク!!』なら、騎士団に向かったぞ。吟遊詩人のティーケーを迎えにな」
「ティーケーさんですか‥‥なにかあったのですか?」
「ん、まあ色々とな‥‥もうすこししたら戻ってくるとおもうが?」
「では、少々待たせてもらいますねー」
ということで、そのままギルド無いの資料庫から、古い写本を引っ張り出して眺めているクリス。
約1刻後に、『ザンク!!』が戻ってくると、クリスは『ザンク!!』と話を始めた。
「ごぶさたしていますー」
「ああ、久しぶりだねぇ子猫ちゃん。元気に歌ってる?」
「はい。それはもう。今日訪ねたのは他でもありません。ここ最近、酒場で何かお告げのようなものを話している街娘さんを御存知ないですか?」
蛇の道は蛇。
酒場を行き来している街娘さんを捕捉する為に、ここにやってきたクリス。
「ちょっとまってろ」
と、壁に張られているパリ市内の地図をじっとみる。
良く見ると 、酒場には全て印が付いている。
「今夜あたりは、ここだな。コンコルド城近くのこの酒場、名前は『栄光は君に亭』。おそらくここに出るだろう」
とキッパリ告げる。
「わあ、ありがとうございます。それと一つ御願いがあります」
「それは?」
「今、ノルマンで何かが起こりつつあります。それを未然に解決するために、王宮書庫の閲覧許可が欲しいのです」
そう頼み込むクリス。
「出来るかどうかは判らないけれど‥‥ギルドマスターに申請しておこう」
「ありがとうございました!! それでは失礼します!!」
そう告げて外に出るクリスに、『ザンク!!』は一言。
「聖夜祭で、吟遊詩人ギルド主宰のイベントを行うから、その時また頼むよ。レ・シャトンでね」
その言葉に肯きつつ、クリスは外に飛び出していった。
──一方。そのころ
「では、この辺りではもう見掛けないというのですね‥‥」
とある酒場。
そこでフレイ・フォーゲル(eb3227)は、件の少女の行方を追う為に、少女の出没したという酒場を訪れていた。
そこて彼女の特徴などをたずね、他の酒場で彼女が出向きそうな場所を聞き出している。
「ああ、そうだなぁ。この界隈ならうここが最後だろう? 冒険者街と商業区では、もうあらかた見てしまったらしいから‥‥」
「となると、行政区ですか‥‥」
「まあな。でも、あのあたりは巡回騎士も大勢いるから、あまり迂闊に騒ぎを大きくすると連れていかれる可能性もあるだろうさ‥‥ヒック」
「それは大変ですね‥‥では失礼します」
ということで、フレイも徐々に捜索範囲を絞りはじめる。
──さらに
「‥‥大体の場所は調べた。商業区、冒険者街、川沿いの倉庫区画も確認報告ナシと‥‥」
少女の行方を追っている人物その3、アトラス・サンセット(eb4590)。
彼女もまた、フレイと同じ様に聞き込みからの絞り込みを続けている。
「おおよその見当は付きましたけれど‥‥もうこんなに暗くなっては‥‥」
とどっぷりと日が落ちてしまった周囲を見回しつつ、アトラスは1度家へと戻っていく。
●何かの御告げ
──パリ行政区・『栄光は君に亭』
ザワザワと酒場が騒がしい。
「みなさん聞いて下さい!! このノルマンで、悪しき出来事が起こりつつあります‥‥」
一人の女性が叫んでいる。
「んー、なんだ?」
商業区とはちがい、この酒場には騎士たちも訪れているようで。
意外と彼女の話に耳を傾けているものも多い。
「古くは破滅の魔方陣。今はすでに存在していないそれをも上回る何か。それがこのノルマンに起こりつつあります‥‥」
その言葉を告げた直後、酒場の外で合流したクリスとフレイ、アトラスが中に入っていく。
「あ、あの子ですよ」
「そのようですね。どうしますか?」
「先ずは身柄を確保、どこかの席で詳しい話を伺うのが宜しいかと」
とアトラスの言葉に納得する一行は、そのまま彼女の席に近くに移動。
「この事件は、今はノルマンだけの出来事のように思われています。ですが、これは、私達の住むこの世界すべてに干渉しているのです‥‥」
そう告げたとき、遠くに座っていた騎士たちが少女に近寄ってくる。
「詳しい話を聞かせて貰いたい‥‥同行してくれるか?」
と、離れた場所からの高圧的な態度。
「あ、ちょっとすいません。実は彼女には私達も用事が有るので‥‥」
とフレイが騎士たちに告げる。
「なんだ君達は?」
「私達は冒険者です‥‥」
そうクリスが告げたとき、クリスはふと騎士たちの胸の紋章を確認。
「私はクリス・ラインハルトと申します。貴方たちの上官であるニライ市政官との話はついています。今はお引き取り下さい」
騎士たちの胸元にブラックウィング騎士団の紋章があったのを、クリスはしっかりと確認。そこでこのようなはったりをカマしたのである。
(ニライさんなら判ってくれる筈‥‥)
「ああ、クリス殿ですか。できは、ここはお任せします‥‥」
とあっさりと引き下がる騎士たち。
「‥‥クリスさん、騎士の方とお知合いでしたか。では話は早いですね」
アトラスが驚いた様子でそう告げる。
「ブラックウィング騎士団だけですよ‥‥顔が聞くのは」
「ということで、お嬢さん、先程のお話について、詳しく教えて頂けますか?」
とフレイが彼女に席を勧める。
「貴方たちは、私の話を信じてくれるのですか?」
「あ、信じるかどうかは貴方のお話次第です。このような酒場ではなく、冒険者ギルドで貴方のその話をしていた方が、よほど効率よいかとは思いましたけれど‥‥」
と軽く告げるアトラス。
「ということで‥‥」
クリスに促されて、少女は話を始める。
まず。
この少女、自分がどこから来たのか、何者なのか、全く判らないらしい。
気がつくと、このパリの郊外に立っていて、そしてその時に聞いた『神の御告げ』に忠実に従っているだけである。
荷物は簡単な道具類、一般的な冒険者達の持つような荷物のみ。
武器や防具の類はなく、魔導師の使う基本的な杖が一振りだけらしい。
「うーーーん。貴方をどう呼べばいいのか難しいですね。で、その神の御告げというのは?」
「皆さんは私に声を掛けてくれました。ですから御話します。アビスという遺跡を御存知でしょうか?」
その言葉に、クリスのみが反応。
「シャルトル地方のですね?」
「はい。そこはベルフェゴールの支配の元、アリオーシュという魔族が管理していました。目的はそこに置かれている宝玉の警護と、魂の回収。アリオーシュは、『破滅の魔法陣』というものでも魂の回収を行っていましたが、それは冒険者の皆さんの手によって防がれました‥‥」
その説明に、アトラスとフレイは静かに肯く。
今はただ、クリスと少女のやり取りを脳裏に叩き込んでいるのであろう。
「破滅の魔法陣が失われ、アリオーシュが滅んだ後。ベルフェゴールは次の作戦に出ました。一人の魔導師と契約し、彼にアビスの管理を命じたのです‥‥彼はその最下層で、次なる目的遂行の為『魂の水晶』という巨大な水晶に魂を集めていました‥‥」
その言葉に、クリスは息を呑む。
「そ、それで?」
「魂の水晶には、すでに限界点まで魂が集まっています。今度はそれをコアとする、巨大な魔法陣の建設に入ったそうです。ですが、それがうまく稼動するかどうか、まずは実験を行うことにしたそうです‥‥それが『黙示録の塔』です」
そう告げると、一同は静かに少女の瞳を覗きこむ。
焦点が定まっておらず、何かが彼女の体を借りて告げているようにも感じられる。
「その黙示録の塔というのは?」
「単体で、過去の破滅の魔法陣の10倍以上の破壊力を有しています。場所はシャルトルにある、小さな村の外れの森の中‥‥すでに稼動しているソレは、刻がやってくると、シャルトル全域の魂を一瞬にして吸収することができるそうです‥‥」
その言葉に、一同の顔がサーーーッと青くなる。
「そそそそそそれは大変です」
「どうにかして、それを止める手だてはないのですか?」
「それが判るのでしたら教えてください」
3人が3人ともそう告げる。
「黙示録の塔。その最上階に、魂の水晶が安置されています。それはアビス最下層の魂の水晶とも繋がっている為、まず魂の供給元であるアビス最下層の水晶を破壊しなくてはなりません。それは水晶の中心核である一枚の護符を破壊すれば終ります‥‥ですが、すでに稼動している『黙示録の塔』は塔の最上階にある水晶を破壊する必要があります。アビスと黙示録の塔、この二つを消滅させなくてはなりません‥‥」
その言葉に、一同は気が遠くなってきた。
「その塔までは、大体どれぐらいなのだろう?」
フレイはそう考えて、バーニングマップの準備をするのだが、シャルトルの地図を持っていない為、魔法を使う事が出来ない。
「クリスさん、大体の見当がつきますか?」
アトラスがそう問い掛けると、クリスはしばし思考開始。
「シャルトルで‥‥小さな村で‥‥郊外の森ですか‥‥他に何かありませんか?」
そうクリスが問い掛けると、少女は瞳を閉じてしばし考える。
「村のイメージでしたら‥‥犬の着ぐるみが徘徊しています‥‥」
「あ、ノルマン江戸村ってえええええええええええええええええええええ!!」
絶叫するクリス。
「そ、それは一大事じゃないですか!!」
そうはいうものの、今はどうしていいか判らない。
とりあえず少女の身柄を安全な場所に移動するため、困ったときのマスカレードへと一行は少女と共に移動。
当面はここで彼女の身柄を警護することと、ニライ市政官にも話を通すという方向で、その場は収まった。
そして翌日。
クリスからの連絡を受けたニライ市政官が、彼女の身辺警護の為の騎士を2名、マスカレードに送ってくれた。
さて、これからどうするか?
この情報を、誰に伝えるべきなのか‥‥。
一行は、重大な局面に追い込まれていた‥‥。
──Fin