●リプレイ本文
●果てしない攻防
──シャルトル・ニライ自治区・城塞内部
「こいつはひでえな‥‥」
遠くから城塞都市を眺めつつ、バーク・ダンロック(ea7871)がそう呟く。
剣士の居留地へと向かい、そこで修行をしていたバークの元に、近くのニライ自治区で大量のモンスターによる襲撃事件があったという噂を聞きつけ、パラスプリントでやってきたのである。
「そう思うだろう? ここにいる者たちは、みな同じ思いだ‥‥」
大地に剣を突きたて、その柄に両手を当てて、メグレズ・ファウンテン(eb5451)がそうバークに告げる。
彼女や、ここにいる冒険者達は、皆同じ思いである。
それぞれが外で合流し、一致団結して城門付近を囲む敵を殲滅、一瞬の隙に城内に突入し、内部に立てこもったのである。
「一体何があったんだ?」
「俺も詳しくは知りません。生態調査でこの地区にやってきたら、あのような情況になっていて‥‥」
ロッド・エルメロイ(eb9943)がそうバークに告げると、上空から一頭のグリフォンが飛来する。
──バサァァァァァァァァァァァァァァァッ
翼を広げ、ゆっくりと着地するグリフォン。
「上空からの城内突入は不可能ね‥‥すぐ近くで魔導師や弓兵が待機しているわ」
グリフォンから降りつつ、シュネー・エーデルハイト(eb8175)がそう一行に告げる。
「そうなると、地上からの一点集中突破しかありませんか‥‥それは危険ですが‥‥」
地図を広げ、城塞の外部見取り図を眺めつつ、マグナス・ダイモス(ec0128)がそう呟く。
「取り敢えずは城塞内部の食糧や怪我人達が心配だが‥‥このまま守りに徹し、パリからの増援を受けるしかあるまい」
「ですが、外部に情報を送る方法が無いのでは、私としても‥‥やはり、私が行くしかありません!!」
ガルシア・マグナス(ec0569)の言葉にシュネーがそう告げる。
先程から上空に飛び上がり、そのまま囲みを突破しようと考えていたのだが、魔法や敵の弓兵達の攻撃にあい、おもうように突破するのが難しいらしい。
さらに 上空を通過するシフールなども、次々と魔法の餌食になっていくのを、シュネーは見てしまった。
「魔法を押さえてくれれば、私がなんとかパリまで飛びます。そののち援軍と合流して」
「それだと時間がないだろう。ここは俺に任せてくれ。直にでもパリに飛ぶ」
シュネーの言葉をバークが止める。
「それは構わないが、そんな方法があるのか?」
そう問い掛けるメグレズに、マグナスが一言。
「阿修羅の加護の元ならば‥‥大丈夫だ」
その言葉に静かに肯くと、バークが詠唱を開始。
「オン‥‥」
やがてバークの体が輝いたかと思うと、瞬時にその場から消えてしまった。
「消えた‥‥大丈夫なのか?」
そう問い掛けるガルシアに、マグナスが一言。
「ああ。もう今頃はパリだ‥‥」
──その頃のパリ・ニライ邱
「失礼する!! 拙者はバーク・ダンロックと申す。ニライ殿、緊急事態だ! ニライ自治区が大量のオーガに襲われ、人々の命が奪われようとしている。パラディンは嘘を吐かん!」
その叫び声に、慌ててニライが飛び出してくる!!
「パリディンのバークか。ここまできたのは?」
「パラスプリントだ。納得してくれるか!!」
「了解した。すぐさまブラックウィング騎士団を派遣する!! セバスチャン、馬車を!! 王城に向かう!!」
一刻の猶予もない情況。
「何か伝言して欲しい事はあるか?」
そうニライに告げると、ニライは一言。
「プロスト辺境伯領の騎士団詰め所に向かってくれ。そして『特務1158』と告げてくれればいい。あとはそのまま現地にもどれ!!」
そう叫ぶと、すぐさまニライは王城に向かい、そののち1刻ほどで、先発部隊がパリを出発した。
●その頃の
──シャルトル・ニライ自治区・城塞内部
「さて、バークが戻るまでに作戦を練っておく必要がある‥‥」
ガルシアがそう説明すると、一行はすぐさま作戦会議に参加する。
「城塞上からの魔法援護。それと城内4ヶ所の城門の防衛か‥‥」
地図を広げつつ、ガルシアが告げる。
「とりあえず、俺はスメラギさんと一緒に魔法部隊に加わります‥‥」
ロッドがそう告げて、城塞上のスメラギの元に移動。
「私は敵の魔法使いを押さえたい。囚われているシフール達も解放したいが‥‥」
メグレスがそう告げるものの、敵魔法部隊は城塞外。
シフール達を解放するためには、城塞の外に飛び出す必要がある。
「今は防衛に徹するしかあるまい。援軍が到着したら、その時は動けばいい」
ガルシアの言葉に、メグレスが肯く。
[‥‥バークさん大丈夫でしょうか‥‥やはり、私も行った方が‥‥」
シュネーが不安そうにそう呟く。
「大丈夫ですよ。彼を信じてください」
とマグナスがシュネーに告げる。
「ええ‥‥」
不安ではあるものの、今はバークを信じるしか無かった‥‥。
──その頃のバーク
場所はプロスト辺境伯領騎士団詰め所。
ここにはブラックウィング騎士団の部隊の一つが常駐しており、ニライ査察官の勅命でいつでも行動できるように待機していたらしい。
「緊急でやってきた。騎士団長はいるか?」
バークが騎士団詰め所に入りそう告げると、奥から一人の男性が姿を現わした。
「私がここの責任者のマクシミリアンですが‥‥」
「なら話は早い。ニライ市政官からの伝言だ。『特務1158』。以上だ」
「現場はどちらで?」
「ニライ自治区城塞都市。周辺をオーガなどの軍勢に囲まれ、民間人は籠城状態だ‥‥」
「了解しました。すぐさま現地に向かいます!!」
そのマクシミリアンの言葉を受けて、バークはすぐさまパラスプリントで城塞の内部まで移動した。
●増援が到着するまで
──シャルトル・ニライ自治区・城塞内部
城塞内部では、様々な事が起きていた。
バークが置いていった食糧を材料とした炊き出し、怪我人の治療、壊れかかった外壁を、内部からさらに強化。
城壁の上では常に見張りが立っており、敵の動きにたいしていつでも警戒態勢が取れるようにと、慎重に見張りを行なっていた。
「敵の動きは?」
シュネーが城塞の上までやってきて、そうスメラギに問い掛ける。
「目の前1kmほどでベースキャンプを設置しています。そのさらに左右の森のなかに、奴等の本陣があるとこちらでは読んでいますが‥‥奴等もなかなか考えて動いています」
そのスメラギの言葉に、シュネーが頭を捻る。
「やはり背後に、なにかがついていますね? でなければ、彼等デミヒューマンが組織だって行動するとは思えませんから」
「ええ、その通りです。数年前のオーガ反乱時にも、背後には悪魔かその類のものがついていました。今回もそのレベルかと思うのですが‥‥」
その言葉を受けて、シュネーもしばし思考。
──ヒュンッ!!
と、ちょうどその時、バークが城内に帰還した。
「遅れた、済まない」
そう謝るものの、出発してからわずか2時間。
その速度でパリとここを往復できたのだから、問題はないだろう。
「ご苦労様です!! どうでしたか?」
シュネーが慌ててバークの元に駆け寄ると、バークはゆっくりと説明を開始した。
「パリのニライ市政官には話しは通した。出発までそれほどかからないが、ここまで早くて3日。で、その後でシャルトルのプロスト辺境伯領に向かって、領内滞在の騎士団にも話しはつけた。そっちは明日の夕方には到着するだろうさ」
そう呟いてから、水を一口飲む。
「なら、それまでにここを護りぬけばいいということか!!」
メグレスがそう笑いつつ告げたとき、突然城門に異変が起こった。
──ドゴォォォォォォォォォォォォォォォッドゴォォォォォォォォォォォォォォォッ
「敵襲!! 4つの正門に向かって、オーガ達が突撃を開始した!!」
城塞上の見張り台から叫び声がする。
その声に合わせて、城塞上からは投石や煮え立った油を掛けたりなどしているものの、敵もまた人海戦術で攻め込んでくる!!
鎖に繋がった巨大な鉄球をブゥンブゥンと振り回すと、城壁に向かって叩き込んでくるミノタウロスや、巨木に車輪を付けた攻城兵器を門に向かって叩き込むオーグラ。
そして後方のオーク達は巨大な弓を構え、次々と雨霰の如く矢を城塞内に向かって降らせてくる!!
「情況が悪い、各自散開して。各城門を守れ!!」
ガルシアの言葉に肯くと、全員が持ち場へと移動!!
そして激しい戦いが始まった。
●東方門攻防戦
──城塞都市・東方門
ここが全ての要。
この東方門と反対側の西方門は、パリへと繋がる街道の拠点。
綺麗に整地された街道に面している為、門もそこそこに大きい。
が、ここを破壊されたとき、突入してくる敵の戦力も又、かなりのものである。
──ドゴォォォォォォォォォォォォッドゴォォォォォォォォォォォォォッ
激しい音が響いているうちに、城門に亀裂が入った!!
「くるぞ‥‥」
メグレスが破壊されかかった門の前で武器を構える。
その横では、ガルシアもまた、静かに武器を構えつつ、じっとタイミングを見計らっていた。
──バギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィツ
突然城門が吹き飛び、奥から巨大な『攻城鎚』を手にしたミノタウロスの一群が飛込んでくる!!
その数、実に13体。
「数が多い‥‥妙刃、大金剛輪!」
──ヒュゥッ‥‥ドバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
ただ広域の敵に対しての一撃のみに特化した、メグレスの技。
一対一の技を得意とするメグレスの切り札の一つである。
オールブランの刀身から生み出された破壊の衝撃波は、その範囲全てのミノタウロスを、瞬時に肉塊へと変貌させた‥‥。
残りのミノタウロスの数、じつに7。
「ここは任せても大丈夫のようだな‥‥」
ガルシアもそう呟きつつ、一体のミノタウロスに向かって強力なスマッシュを叩き込む。
その一撃で、ミノタウロスは瀕死となった‥‥。
「まだまだ‥‥ここから先、一歩も進ませないっ!!」
メグレスのその叫びに、突入してきたミノタウロス達も一歩下がる。
──キィィィン
そのメグレスの背後で、ガルシアが高速詠唱。
目の前のミノタウロスの思考を読み取る。
「なんだ? 水晶の核? それを取り返す? どういうことだ?」
一瞬だけ読み取れたミノタウロスの思考。
どうやら先に呟いたものをさがしているようであるが。
それがなんであるのか、まったく判らない。
今はただ、ここから先、城内に敵を送り込まないようにするだけであった‥‥。
●西方門攻防戦
──城塞都市・西正門内部
こちらは一転してかなり厳しい戦い。
破壊された城門は右側のみの為、敵オーグラやミノタウロスの数はそれほど多くはない。
だが、それでも城門内部を守っているのは数名の自警団とマグナスのみ。
自警団たちは出来る限りの技術で敵を門の内部に入らないように務め、入り込んだ敵についてはマグナスが一撃必殺でその場に切り捨てている。
「‥‥ハアハアハアハア‥‥これで12。次っ!!」
そう叫ぶと同時に、マグナスの意識が右腕に集まる。
そこを走るオーラの流れ、それらを全てコントロールし、眼の前に現われたミノタウロスに向かって、『剛剣術』を叩き込む!!
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
真正面から叩き込まれたそれは、ミノタウロスの頭部から正中線にそって股間へと叩き落ちる。
まさに一撃で真っ二つである。
──ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ
鮮血が返り血となってマグナスに降り注ぐ。
顔に掛かったそれを拭うと、マグナスは次のターゲットに向かって走り出した。
──ズキィッ
その刹那、マグナスの右腕が悲鳴を上げる。
筋に劇痛が走る。
(剛剣術での連撃‥‥13発までは制御できたが‥‥ここから先は無理か‥‥)
痛みを根性で打ち消し、さらに敵に向かって戦いを挑む。
だが、先程までの戦い方とは違い、オーグラやミノタウロスとさえ互角にまで力が低下してしまっている‥‥。
「な、なんとかここを死守しなくては‥‥」
そう思うものの、圧倒的な数の暴力に、ついに西方門は突破され、城内にミノタウロスやオーグラ、はては隙間から飛込んできたオーガまでもが突入してしまった‥‥。
「自警団、いそいで追撃を!! ここは俺が食い止める‥‥」
そのマグナスの言葉に、自警団達の数名が追撃に走っていった‥‥。
●北方門攻防戦
──城塞都市・北方門
そこはまた、今までの戦いとは違う展開となっていた。
「マ・グ・ナ・ブ・ロォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
城門上から、ロッドが下方前方の敵の一団に向かって魔法を叩き込む。
それも生半可なものではなく、ロッドのもてる限りの最強の奴。
大地から突然マグマが吹き出し、敵前衛を一撃で殲滅する。
そうなると、敵も1度後退するが、そこに向かってロッドはさらにファイアーボムを炸裂。
「逝ってこい!!」
──ドゴォォォォォォォォォォォォォォォッ
直径100mもの巨大な火球。
ソレに包まれ、業火の中で焼き殺されるオーガ達。
周辺には油や肉塊が焼ける匂いが漂い、その悪臭によって城門内部で待機していた自警団たちは吐き気を憶えている。
「偵察にでます!!」
そう叫んで、横に止めてあったグリフォンに跨がると、シュネーは逃亡するオーガ達を追いかけた!!
──ファサッ
滑空しつつ敵に向かって飛来するグリフォン。
そのまま敵の頭上を越え、そのまま森に向かって飛んでいく。
──ドシュッ!!
と、突然シュネーの肩口に魔法の矢が突き刺さる。
正面、オーク達の逃げた先に二人の人影が見えた。
一人はどうやら魔導師らしい、黒いローブを身に纏っている。
そしてもう一人は魔導師とは対極に、純白のローブに身を包んでいた。
「敵の魔導師? どうしてこっちに‥‥」
慌てて上昇するグリフィン。
「さあ‥‥急いで城壁に戻りたまえ‥‥愉しいパーティーの準備の為に‥‥」
そう黒衣の魔導師が呟くのを、シュネーは聞き取っていた。
そして急いで城塞に戻ると、待機していたロッドにその事を伝達、急いで北方正門の守りを強化しはじめた。
●南方門攻防戦
──城塞都市・南方正門
「シャクティ!!」
手にした三鈷杵に念を込める。
──シャキィィィィィィィィィィィィン
その三鈷杵の先端から刃が伸びると、そのまま正面の敵に向かって構える。
正門を突破したオーグラ達。
その一団の中から、一人の剣士が姿を現わした。
「パラディンカ‥‥イマワシキカミノシト、ソンザイジタイガ、バンシニアタイスル‥‥」
カタコトのゲルマン語でそう告げる剣士。
姿形は、どこにでもいるような冒険者風。
その手には一振りの剣が携えられている。
「さて、今回の黒幕、あんたもその一人だな? 何者だ?」
そう問い掛けるバークに、剣士は静かに頭を縦に振る。
「スベテハ、ジゴクノモンヲヒラクタメ‥‥コノチヲ、コキュートスヘト、イザナウタメ‥‥ノルワレシ、シャルトルニ、ミチヲツナグタメ‥‥」
そう告げた刹那、剣士の姿が視界から消えた!!
──ガギィィィィィン
一撃でバークのシャクティが弾かれる。
そのまま剣士がバークの背後に立ち、更に話しを続ける。
「ヘルメスノヨウイシタミチ、キョウキニオチタシルバーホークノヨウイシタミチ、スベテハベルフェゴールサマノタメニ‥‥キデンノタマシイモ、アルジニササゲタマエ‥‥」
──ヒュゥン!!
剣士の剣が虚空を切り裂く。
ギリギリの所でバークの体がオレンジ色に発光し、姿が消えた。
「悪いが、まだまだやられる訳にはいかなくてな」
近くの建物の上でバークが告げる。
──シュンッ‥‥ズバァァァァァァァァァァァァァァァッ
その瞬間、二つの衝撃波が剣士を襲う。
その襲撃波によって、剣士の両腕は肩口から切断されてしまった。
「‥‥ナニモノダ」
「問われて名乗るもおこがましいが。タロンの使徒にして法の番人、ガルシア・マグナスだ‥‥」
「同じく、セーラの守護者、メグレズ・ファウンテン‥‥ここから先は進ませない!!」
そう告げて、二人がバークの元に合流する。
「クッ‥‥カイドウハドウシタ? マサカミステタノカ?」
傷口から血のようなものが吹き出し、そして霧散化する剣士。
「援軍だ。それも、世界最速の奴等がな」
「そこは任せて、こっちにやってきただけだ‥‥」
東方正門にやってきた援軍。
それはニライの連絡を受けた阿修羅寺院からの、パラディンたちである。
国の利権は関係無い、純粋に悪しき魔物に襲われた城塞都市を救って欲しい。
その言葉で、ニライは天位を動かしたらしい。
すぐさまパラディンによる援軍が送られてきたのである。
「ナルホドネェ‥‥」
そう呟いている剣士の腕が再生する。
「‥‥悪魔か‥‥」
バークも建物から飛び降りると、落ちているシャクティを手に取る。
「マアネ‥‥イマノトコロハジョウキョウガワルイ、ココハシツレイスルヨ‥‥」
そう呟いた刹那、剣士の姿がシュンと消える。
そしてそれを皮切りに、城内に飛込んだオーガ族たちも一斉に撤退していった‥‥。
●束の間の平和
──城塞都市内・酒場『銀の月亭』
戦いの後、パラディンたちは明日の援軍が到着するまでの守りに付いてくれた。
その最中に、城塞の中のものたちは破損した門の修復や城壁の補修、次の襲撃に備えての炊き出しや武具の手入れなどを行なっている。
いまのうちに城塞から脱出しようという考えはない。
ここから撤退するには、敵の包囲網を突破しなくてはならないからである。
「さて、情況を整理しよう‥‥」
痛みから解放されたマグナスか゛そう告げて、自分たちの担当エリアでの出来事を説明する。
東方正門から順に説明をし、最後にシュネーの偵察したローブの者たちの報告を行う。
「恐らく、オーグラやミノタウロスたちは敵の前衛で、そのローブの者たちや件の剣士が本部隊ということになるか‥‥どうする?」
メグレスがそう告げて、今後のことについて皆に問い掛ける。
「明日、そして3日後の本部隊合流まで、ここを死守する。それはいいのですが、この都市に隠されているのであろう『水晶』というのが気になります」
ガルシアの報告にあった水晶。
もし敵がそれをさがしているのならば、それを敵より早く見付け出す必要もある。
だが、それらについては、この街を納めている要人や市長に尋ねても、答えは返ってこない。
「そういった水晶の存在ですか。大きさや外観などでも判ればいいのですけれど、それが判らないとなりますと、探し出すのも困難ですね‥‥」
シュネーがそう告げると、バークも静かに肯く。
「確か、この都市は元々は『グレイファントム卿』という人物が納めていたらしい。城内に何かヒントが隠されているかもな‥‥」
というバークの言葉で、一旦全員で城内を探索することになった。
そののち、一行は地下に続く回廊を確認。
一部の噂であったグレイファントムの地下闘技場までは確認し、そこに続く各種施設までは見つける事が出来た。
けれど、その場所にも、水晶らしきものは存在しない。
そして唯一調べ残している場所、地下の闘技場から更に地下に続く縦穴。
そこをバークがフライで飛行し、地下空洞に取り付いたとき、バークは言葉を失った。
目の前には、巨大な『黒曜石の柱』がそびえたち、その周辺に高さ1m程度の水晶が無数にそびえたっている。
「‥‥モヘンジョ・ダロの黒曜石‥‥混沌神の申し子の召喚用ゲート‥‥このノルマンにも‥‥いや、世界各地にこれは存在する? その先はどこに?」
色々と思考するバーク。
だが答えはまだ見つからない。
そして、ふとバークが目にしたもの。
黒曜石の柱に、時折姿が映る『琥珀色の獅子』の姿。
まだこの世界とは繋がっていないのか、柱からは出る事が出来ないようである。
「琥珀獅子か‥‥いやまて、そんな奴が出てきたら、この国の冒険者では勝てるのか?」
そう思うと寒気がする。
そして1度、バークは仲間たちの元に戻り、自分の見たものを報告した。
絶句したのは、同じパラディンのマグナス。
そしてその報告を受けた全員が、言葉を失った。
もし、ここの施設を知るものがしたとしたら、そしてノルマンで起きている事件について知っていたとするならば、その者は理解したであろう。
ここにもまた、『魂を集積する為の水晶』が安置されていてもおかしくないという事を。
「問題の黒曜石の柱だが、破壊はできないのか?」
メグレスがバークに問い掛けるが、バークは頭を左右に振る。
「それは不可能だ。あれは我々のいたインドゥラの、それもモヘンジョ・ダロの地下立体迷宮に存在していたもの」
「はるか地の底、混沌の世界とこの世界を結び、かの地から『混沌神の申し子』を呼び起こすためのもの‥‥神器でなくては破壊は不可能であろう‥‥」
そのマグナスとバークの言葉に、一行は寒気を憶える。
「いずれにしても、それを破壊できないとなると、あとはここを奴等に渡さないようにするしかないということですか‥‥」
ロッドが溜め息をつきつつ呟く。
「そうですね。援軍が到着して、事情を離せば。その援軍の方々にこの城塞都市を守って頂くということになりますけれど、それまでは私達が護らなくてはならないのですか‥‥」
そう告げるシュネー。
いずれにしても、今は英気を養い、仲間たちの到着を待つしか無かった‥‥。
そして翌日。
夕刻にプロスト辺境伯領からの増援が到着し、さらに3日後にパリからのブラックウィング騎士団が到着。
それまでの襲撃回数は実に11回、それでもなんとか持ち直し、最終的には城塞側の冒険者とブラックウィング騎士団との挟撃によって城塞都市は解放された。
だが、黒幕であろう剣士やローブの人物などの姿は確認できず、森の中の敵ベースキャンプもあとかたもなく消滅していた。
シュネーの提案であった城塞都市の守りには引き続きブラックウィング騎士団が就くこととなったので、一行はまずはパリへと戻ることにした。
──Fin