●リプレイ本文
●高みを目指す為に
さまざまな思いが交錯する。
これは、その接点にいた人たちの物語。
──王城
そこはセイルの父がいた書斎。
今、そこには何も残っておらず、部屋の片隅に、彼の私物が積んである。
セイル・ファースト(eb8642)とリスター・ストーム(ea6536)は、そのままファースト卿の残した私物を一つ一つ調べはじめた。
だが、見つかったのは、ただ一振りの紋章剣のみ。
「なにもないか。そっちはどうだ?」
そう別の場所で調べているリスターに話し掛ける。
「ふぅんナルホドねぇ」
とある資料の中から、リスターが何かを探し出した。
「リスター、何か判ったのか?」
そのセイルの問いに、リスターは手にした書類をこっそりと懐に隠しつつ。
「さっきすれちがった女性騎士、きっと人妻だな。あの腰のライン、どうも腑に落ちないと思ったら」
──スパァァァン
「そ、そんなものどこで持ってきた!」
御存知突っ込みハリセンが炸裂。
「まったく‥‥」
とセイルも呟きつつ、もう1度調べ始める。
だが、何も確認できなかった為、二人はその場から立ちさって行った。
──パリ郊外・阿修羅寺院
三笠明信(ea1628)は阿修羅寺院を訪れ、件のベッケンバウアー卿の背後に悪魔ありの情報をパラディンやノルマン最高責任者のフィームに説明、細かい打ち合わせを行なっていた。
「ベッケンバウアー卿の立場などを調査、背後に悪魔が関与しているのなら、実力を持ってこれを排除。以上、二人一組で行動、随時報告を惰るな」
「ハッ!!」
フィームの叫びと同時に、その場にいたパラディン達は一斉に行動を開始。
「三笠、御苦労だったな‥‥まだ何かあるか?」
そう問うフィームに、三笠は口を開いた。
「この国にいるマスター・オズについて教えていただきたいのです。マスター・オズが、どうして八部衆を脱退して、この地にいるのでしょうか?」
その問いに、フィームはこう話を始めた。
「パラディンでは守れないものを護る為だ。私も任務に戻るとしよう。三笠も明日から頼む」
「了解しました‥‥では失礼します」
そう告げて、三笠は静かにその場から立ちさって行く。その途中、三笠はふとフィームの呟いた言葉を思い出した。
「世界最強といわれるパラディンが守れないもの?」
その答えが判るとき、三笠はさらなる成長をする。
「さて、ルミリア、そなたの用事は?」
フィームはそう告げると、側で待機しているルミリア・ザナックス(ea5298)にそう問い掛ける。
「フィーム様、我らの与り知らぬうちにノルマンは国家的危機に直面していた模様です。七つの大罪の一体なる大悪魔の出現といい‥‥僭越ながら本国にも支援を要請し、我らパラディンも今すぐ組織的攻勢をかけるべきだと愚考します」
そう告げると、フィームはしばし思考。
「本国にたいしての支援要請はすでに終っている。が、こちらに派遣される阿修羅僧及びパラディンについては後日到着する。組織的構成については、それらが揃ってからだ。今は個々に行動し、より綿密な情報を集めることに専念するがいい」
その言葉を聞いて、ルミリアはちょっと疑問。
「なぜ、より多くのパラディンがすぐに送られてこないのですか?」
「いくつかの要因が関っている。パラディンの絶対数と、派遣可能な人数、パラディンの遠征を求める他国からの要請がいくつもある。さらに本国でも、モヘンジョ・ダロ地下立体迷宮の一部が綻びを見せている‥‥」
その言葉に、ルミリアの顔色がサーッと青くなっていく。
「そ、それは‥‥申し訳ありません‥‥では、私はこれからマスター・オズの元に向かいます‥‥」
「ああ、オズ師ならば、情況を察してくれるだろう」
そう告げられて、ルミリアは静かにその場を後にした。
「フィーム殿、候補生が‥‥」
と、一人の僧がフィームを呼ぶ。
そしてシャロン・オブライエン(ec0713)の待つ部屋へとフィームが姿をあらわした。
「久しぶりだな。訓練は続いているのか?」
そう問い掛けるフィームに、シャロンは静かに肯く。
「オレなりに色々と考えたのだが‥‥」
そう切り出すと、シャロンは自分の意見を静かに述べていった。
相手がデビルなら国政に食い込んでくることも充分ありうる。勿論こちらへの牽制ではなく、それが多くの人民を惑わす結果になるから。
そうなった時、つまりパラディンでは動けない情況が発生したとき、シャロンは自分の正義に従って行動するという事を告げた。
「つまり、そういうことか?」
「ああ。判ってくれたのなら助かる‥‥護りたいものを守れない力は、オレには必要でないからな」
「ならば、パラディン候補生であるシャロン・オブライエンに命じます。己の守りたいものを、己の意志で護りなさい‥‥それが候補生としての、貴方にたいする最後の試練です」
その言葉に微笑みつつ、シャロンは立上がって一礼した。
(貴方は凄いよ‥‥そんなに強くなりたいね)
そのままシャロンはその場を立ち去った。
次にここに戻るとき、その時はパラディンとなる時だと。
そしてシャロンはノルマン江戸村に向かう。
そこで美夕と愛、そしてセイルと共に歩む為。
──そして
「ふぅ‥‥こんなに厳重な場所は始めてだな」
静かな夜更け。
リスターはパリ市内にある、とある屋敷に潜入している。
その建物の主の名前は『ファルコ・コネリー』。リスターが調べていたセイル父の残した資料に記された名前。
そしてそこに残っていた手紙と、それに付けられていた封蝋のかけら、それらを手掛りに、リスターは自分の使える情報通から、この家についての情報を入手した。
「『すべては、我等が鷹の導くままにに‥‥』か。ファースト卿、心までは囚われていなかったということらしいが‥‥。こんなのセイルには知られない方がいい‥‥」
手紙に記されていた文。
それは、このノルマン全域に存在する村の場所と、それらを繋ぐ巨大な魔法陣の図面。
それらをどうして入手したのか、それはまったく判らない。
手紙の差出人がファルコという貴族で、そこに忍び込めば何かが判ると思っていたリスターにとっては、かなりの大ばくちであった。
そしてそれは的中した。
ファルコ氏の書斎に作られていた隠し部屋、その奥に残っていた膨大な資料。
ファルコ氏が悪魔と契約し、シャルトルを中心としたかなりの地域に魔法陣を展開する準備をしていること。
下級悪魔を従え、シャルトル各地でオーガやオーグラなどを煽動し、各村や都市を襲わせていた事。
そして遠い知人である『エルハンスト・ヨハネス』に予言という形で情報を与え、シャルトル各地にてオーグラやオーガなどの討伐を依頼していたこと。
ここ最近に起こった『ニライ自治区襲撃』の話など、全てはこの男の引き金であった。
そして彼自身が悪魔に狙われているという噂を流し、セフィロト騎士団から護衛を派遣してもらい、いまなおこの屋敷にてのんびりとした生活を送っている。
(この一件で、ファースト卿の持つ『正義』に目を付け、そして悪用した‥‥ファースト卿には自分の知っている悪魔の反乱の全てを教え、今のノルマンの冒険者では歯が立たないと判断したファースト卿は、自ら悪魔の軍門に下り、自分を倒しに来る冒険者を育成しようとした‥‥アビスをそのように利用していたのも、すべては俺達をさらなる強みに高める為‥‥)
懐から取出したファースト卿の『セイルに当てた手紙』を見ながら、リスターはそう推測した。
そしてそれらは全て真実であり、この手紙に書いてあった。
(そしてプロスト辺境伯もそれに同意したということか‥‥)
──ガチャッ
突然室内が照らされる。
そこには一人の騎士と、初老の老人が立っている。
「見たのか?」
そう問い掛ける老人に、リスターは静かに肯きつつ、ゆっくりと立上がる。
「ああ。シャルトルでの事件の張本人、そして悪魔とのつながり‥‥ファースト卿を利用し、アビスでさらに冒険者達を殺させて‥‥アビスを活性させた‥‥そうだろう」
フッと笑いつつそう告げるリスター。
「ただのエロレンジャーだと思っていたが、思ったよりも切れがいいな‥‥こいつを始末しろ」
その言葉に、騎士は静かに剣を構える。
「さて、ここで死ぬと色々と面倒でね‥‥悪いがここは逃げさせて貰うよっ!!」
そうは告げるものの、今のリスターには逃げ道は無かった。
そして‥‥
深夜。
セーヌ河に放り投げられたリスターの死体。
誰にも気付かれることなく、それはゆっくりと沈んでいった‥‥。
──一方そのころ
パリ王宮、離れの建物。
そこに住んでいる秋夜を、クリス・ラインハルト(ea2004)は訪ねていた。
「おう、久しぶりだな‥‥今日はアンリエットに会いに来たのか?」
にこやかにそう問い掛ける秋夜に、クリスは一瞬ムッとした。
──ドガッ!!
そのまま力一杯秋夜の足を踏むと、そのままなにかに入っていく。
「イタタタタ‥‥一体どうした?」
「なにもありませんよっ。悪鬼さんに色々と教えて欲しい事があってきたのですっ!!」
そう告げつつ、クリスはいつものように席に座る。
やがて執事がハーブティーを運んでくると、クリスはそれを一口飲んでようやくひとごごちつけた。
「ふぅ。ここのハーブティーは何時飲んでも美味しいです。それに、このクッキーも‥‥ムグムグ」
そのまましばしティータイムを愉しむクリス。
「さて、本日伺ったのは他でもありません。今度、アビスに潜りたいので、その時は悪鬼さんに護衛を御願いしたいのです」
そう真剣に告げるクリス。
「ああ、その程度なら簡単だな。いつでもいいぜ。しばらく暴れていないので、体が鈍っていた所だ」
「ふぅ。やっぱりいつもの悪鬼さんですか」
ニィッと笑いつつ告げる悪鬼を見つめつつ、クリスもまた微笑みながらそう告げた。
そしてふと真剣な表情に戻ると、クリスは再び秋夜に問い掛ける。
「秋夜さん‥‥私は、アビスに向かってアンリから銀鷹卿の魂を抜く方策を探してくるのです。教えてください!! 秋夜さんがアンリの側に居るのは、未だ卿の魂と器たる身体の守護の為なのですか?」
その表情に、秋夜は静かに話を始める。
「昔はそうだった‥‥アンリの中のシルバーホークに忠誠を誓っていたからな。でも、いまはアンリが大切だ。シルバーホークの事など、忘れている時の方が多い‥‥奴の魂を抜くことができるというのなら、喜んで協力させてもらう‥‥これじゃあダメかな?」
──ガバッ!!
その刹那、クリスが秋夜に飛び付く。
弱々しく、ギュッと秋夜を抱しめる。
その思いに答えるように、秋夜もまたクリスをそっと抱きしめかえす。
「えへへ‥‥クリスの知って居る秋夜さんです。やっぱり大好き!!」
●最後の時の為に
──トールギス鍛冶工房
「‥‥大体の材料はこれで揃いましたね」
室内に広げられた大量の材料。
それらを目の当たりにして、クリエムは満足そうな笑みを浮かべている。
その後ろでは、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)が今は亡き師匠の残した製作図面などを広げて、なにやら唸っている。
「この図面の‥‥こことここが‥‥うーむ。クリエムさん、ライトニングバスターや、師匠の5武具などは?」
「何も残っていませんね。核であるコアなどはまだ再生してありますけれど、刀身が現存していないのですから」
その言葉に、ロックフェラーはしばし考える。
「なら、もう一度これらを元に、さらに俺の技術やクリエムさん、そして‥‥モフモフの知識を全て集結した武器を」
その言葉の最中、ロックフェラーの真横で、高いびきを掻いてダレているモフモフの姿があった。
──ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ
「じ、冗談や、な! ワテの切り札つかってやるさかいな」
そう告げつつ、モフモフはロックフェラーになにやら耳打ちをする。
「ちょ、おま!!」
「シーッ。静かにや。この方法は禁断の手法やさかい、それを必要とするものがおらんと話にならん‥‥さっそくやけど、わて、その為の準備にはいるさかい、セイル呼んでおいてや」
そう告げると、モフモフは素早く作業着に着替え、第3工房に引き篭った。
「さて、それじゃあセイルでも呼ぶとするか‥‥」
と、頭をボリボリと掻きつつ、ロックフェラーはセイルを呼びに向かった。
──そして
「この方法はな、ヒマラヤ中腹の寺院にいる『ラ・ホルス殿』直伝の技や。て、いうか、元々はわいが教えた技なんや‥‥」
とモフモフがもったいつけてそう説明を開始。
「で、俺に何をどうしろと?」
そう告げるセイル・ファースト(eb8642)に、モフモフが一言。
「戦ってきてほしいんや‥‥この奥でな」
そう告げつつ、納屋の扉を叩く。
「その中になにが?」
「何がっていうか、ヒマラヤ名物修練の間やな。パラディンが、わいらの作り出した武具を使うことができるか、その試しの試練の部屋や。入って、中の人間に打ち勝ってきて欲しいんや」
そう説明を行うと、ロックフェラーも禊を終えて、最後の打ち込みの為に部屋に入る。
「え? どういうこと?」
そう問い掛けるセイルに、モフモフが一言。
「セイルが中で戦っている間、ワテとロックの二人が最後の武器の修練にはいる。で、セイルが勝たないと、この武器は生まれないんや‥‥セイルの魂と同調してつくるんやからな」
その言葉に、ロックフェラーも後ろ姿のまま、セイルに一言。
「本気で作る武器だ‥‥俺の命も預ける」
そう告げた刹那、ロックは自らの手にしたダガーで手首をかき切る!!
──ブシューツ
大量の血が吹き出し、大地を染める!!
「ロック!! 何しやがった!!」
「これが、わいら鍛冶師の本気や。セイルはん、全て託す‥‥頼んだで」
そう告げると、モフモフもまた手首を霧さき、そして仕上げの間に入る。
そして残されたセイルは、そのまま愛用の武器と防具のまま、扉の向うへと飛込んでいった。
●もう一人の教授
──ノルマン江戸村・ノルマン亭
「しっかし、随分と‥‥大量だな」
目の前に積み上げられた大量の資料。
ロイ教授の残した悪魔・神に関する資料の山である。
教授の研究室に異端審問官が突入し、殆どの資料は焚書として消滅した筈であったのだが、これだけの資料が残されていた。
といってもこれらは全て写本であり、ミハイル研究室に届けられていたものであったらしい。
マスカレードでその情報を得たラシュディア・バルトン(ea4107)は、一足先にミハイル研究所に向かい、これらの資料を預かって再びこのノルマン江戸村へとやってきていた。
そして、この江戸村にやってきた仲間たちと合流し、一通りの情報交換を行なってからノルマン亭に飛込んだのである。
「このあと、森の奥の塔にも向かわないといけないんだが‥‥ちょっとだけ」
と呟いて、写本を開く。
ラテン語で記されたその書物は、どうやらなんらかの暗号に変換されているようである。
「あんの教授‥‥随分と気合の入った隠蔽工作していたんだな」
まあ、原文がもろに読めた場合、その所有者及び筆者は確実に『異端審問官』に連れられていくことまちがいなし。
そんな内容なのだろうと考えつつ、ラシュディアはとりあえずそれを自分の部屋に運びいれる。
そして再び一階の酒場に戻っていくと、すでにやってきていた鳳美夕(ec0583)と合流。
「さて、御待たせしました」
「ああ、こっちも今来た所だ」
「例のロイ教授の資料、いかがでしたか?」
「これから解析作業だが、その前に、先に塔に向かうとするか‥‥少し外の空気を吸いたいからな」
「ええ。では早速、馬を用意してきますね」
という感じで、早速二人は村の外に在る森林の奥へと移動。
そのまま何事もなく、件の塔へとたどり着いた。
かなり巨大な円形の塔。
窓らしきものは一切存在せず、正面に一枚の両開きの扉があるだけであった。
塔の高さは、約60階程度。
かなり巨大な塔のようである。
そして扉の横にある金属プレート。
そこには、なにか古代魔法語のような文字で何かが書き記されていた。
「さて、問題はこのプレートか」
そう呟きつつ、ラシュディアは入り口横に配置されている一枚のプレートに目を通す。
そこには古代魔法語で色々と記されているので、いよいよラシュディアの出番となった。
「ふむ。中々趣のあることだ」
と呟きつつ、横で興味深そうに覗きこんでいる美夕に話を振る。
「まあ、アビスとにたようなものだが、こっちはかなり挑戦的な感じだな」
そしてプレートには、以下の条件が記されていた。
──────────────────────
塔に昇るものへ
これはゲームである。
・塔に挑みしもの、扉に手を押しつけよ。
最大60名まで、この塔に昇る事を許す。
・一つの階層につき、上に昇る為の階段は一つのみである。鍵を探し出し、扉を越えて階段の間へと向かえ。
・階段の間に向かい、上の階に向かうには、『守護者』を倒さなくてはならぬ。
命惜しくば、階段の前は近寄るな。
・各階層には、様々な魔物が徘徊している。
命惜しくば、塔には挑まぬよう。
──────────────────────
「実に挑戦的ですねぇ」
美夕がそう告げ、扉に手をかざす。
スウッと扉に『塔挑者、鳳美夕』という文字が浮かび出す。
「ちょっとまったぁ」
「ちょっとだけ、中を確認する為ですって」
そう告げたとき、ラシュディアも渋々扉に手をあてる。
今度はラシュディアの名前も、扉に浮ぶ。
そしてゆっくりと扉を開いて、中をじっと見る。
長い回廊。
天井は光苔か魔法光か何かが発光しているらしく、ほんのりと明るい。
その奥にいる、一頭の獣。
それを見た瞬間、美夕は扉をバーンっと閉じた。
美夕は見た。
回廊にたたずむ一頭の獅子を。
琥珀色に輝く、一頭の獣。
パラディン達にとって畏怖の対象である『混沌の申し子』の一体、アーマーレオンと呼ばれる獰猛な獣。
「ででででででででででででたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫を上げる美夕。
いまの戦力で勝てるとはとうてい思えない。
とりあえず美夕は情況を説明して、二人はそのまま江戸村まで撤退していった。
●修練という名の命のやり取り
──シャルトル・剣士の居留地
「125‥‥126‥‥127‥‥」
息を切らせつつ、基礎体力づくり。
壬護蒼樹(ea8341)はルミリアと共に、剣士の居留地にやってきている。
ここで自身を更なる高みに引き上げる為、蒼樹はマスター・オズとも挨拶をかわした後、修練に入る事となった。
蒼樹は自身の技の修練の為、まずは一通りの新蔭流の技を披露。
そこから崩れてきた型の修復に入るらしい。
「随分と我流になりつつあるのう‥‥」
そう告げるマスター・メイスに、蒼樹が静かに肯く。
「やはりそうか‥‥済まない、おかしくなっている部分を直したい‥‥」
「ああ、それは構わない。その為に来ているのだろう?」
そう告げると、メイスは蒼樹に対してマンツーマンで特訓を開始した‥‥。
──一方その頃
「‥‥」
ルミリアは困惑している。
マスター・オズとの剛剣術の修行、最後の修練の課題の一つが、これである。
「今日より、この地にて修行することを禁ずる」
「は‥‥マスター・オズ。それはどういう事ですか?」
そう告げると、枷を取り出す。
「本来はこれを用いるのだがな。ルミリアにはその前に、修行する事を禁止する。ここにいるあいだは、愉しくやってみなさい」
その言葉の真意が、しばらくルミリアには理解できない。
それはどういう意味?
修行なのに、修行するなというのは?
それに、その枷の意味は?
そう心の中で疑問に思いつつ、ルミリアは日中をボーッと過ごす。
何もできないのならば、せめて頭の中だけでもと、イメージトレーニングを高めていく。
そんなのんびりとした生活の中、ルミリアに若干の変化が現われる。
自分の中のイメージトレーニングと、自分の今までの体の切れが違う。
馴れから発生している型の崩れ、知らず知らずのうちにズレはじめている自身の技のタイミング。
ただ闇雲に修練を続けていたのなら、これには気付くことはなかった。
「なるほど。平常心か‥‥我は常に平常心を保っていたと思っていたが‥‥まだまだだな」
そう考えると、ルミリアは今までの修行の中から、必要な事を一つずつ思い起こしはじめる。
それが心の中にゆとりを生じさせはじめていた。
──その頃のノルマン江戸村
小さな納屋。
その中にセイルは立っていた。
室内にはお香が焚かれており、そこの中でセイルは戦っていた。
「ふぅ‥‥どうしても駄目か‥‥」
セイルの視界には、自分の父が立っている。
それも、セイルの知らない騎士の正装。
胸許の紋章は削り取られているが、確かにその雰囲気は何処かの王族親衛隊のように感じられる。
「どうした‥‥もう終りか?」
そう告げると同時に、ブゥンと剣を振るうファースト卿。
その衝撃だけで、セイルは後方に吹き飛ばされる。
ざっくりと頬が裂け、血が吹き出す。
「まだだ‥‥こんなところで‥‥殺られる訳には」
「いい感じだな。それじゃあ、私も本気で行かせてもらう」
そう告げると、ファースト卿は腰に下げられていた三鈷杵を取出すと、コマンドワードを唱える。
──ヒュンッ!!
と、その刹那、三鈷杵の両端に金色に輝く刀身が生み出された。
「そ、その武器はフィームさんの」
「ああ、見た事があるのか。三鈷双剣、パラディンの中でも上位のものにしか与えられない武器だ」
そのまま柄を両手で掴み、回転を応用した動きで鋭い連撃を叩き込む!!
「そ、そんな筈が‥‥親父がパラディンだと!!」
「昔の話だ‥‥戒律上、パラディンは婚姻を結ぶ事が出来なかったからな‥‥」
──ガギィィィィィガギィィィィィン
激しく撃ち鳴る剣戟の音。
だが、撃ち鳴りつつも、そこから発生する衝撃波にセイルの体は傷ついていく。
さらに、手にしていたマカブインに亀裂が入った!!
「そんな馬鹿な!!」
「剣との盟約。それを惰る事なかれ。鍛冶師に全てを託し打ち込んでもらった剣には、打ち手と預り手の魂が宿る‥‥それを惰ったものなど」
──バギィィィッ
「屑鉄に等しい‥‥」
マカブインがくだけ散る。
そしてセイルの胸部がざっくりと裂けた!!
大量の血が吹き出し、意識が朦朧としてくる。
「どうした。もう終りか?」
スッと三鈷双剣の切っ先をセイルに向けるファースト卿。
「まだだ‥‥まだ‥‥これがある」
セイルは感じた。
手の中の温かいぬくもり。
それがなにか、まもなくイメージが纏まっていく。
「間に合ったのか」
セイルがそう呟いた時、ふと、そのぬくもりのなかに、二つの意志を感じた。
『あとはまかせた‥‥先に逝く‥‥』
『がんばってや‥‥それはわてらの魂がはいっとるのや‥‥』
「これで‥‥全てを終らせる!! 目覚めよ『不知火』っ」
手の中の光が炎となり、それは剣となり、セイルの手の中に収まる!!
そしてそれは、さらに二つに分離した。
「鼓動せよ鬼火、舞い踊れ雷火っ」
一つの剣が二つに分離。
そしてそれを両手に持った刹那、セイルは父親であるファースト卿を真っ二つに切り裂いた。
「こ、この力が‥‥」
信じられない。
その一撃はセイルのものとは違う。
体内の全てが繋がり、力となった。
「ああ。剛剣術‥‥まだ制御はできないが、お前には資質がある。数少ない、二つのパラディンの血肉を分け与えられたのだからな」
そして意識は全て消えた。
ふと見ると、セイルはマカブインを握っていた。
「これで基礎修練が終り‥‥と、命賭けたってかんじだな」
武器は砕けていないものの、体に出来ている傷は本物。
とりあえずセイルは納屋の外に出る。
そこには、心配そうに集まっている村人の姿と、二つの剣を抱えて、座っているロックフェラーの姿があった。
「お‥‥生きていやがったか‥‥ほら」
そう告げて、ロックフェラーは二振りの剣をセイルに手渡す。
「これが‥‥」
そう告げて手に取った瞬間、二振りの剣はスッと消えた。
「あ、消えた‥‥」
きょとんとした表情で呟くロックフェラー。
「ちょっとまてぇぇぇぇ。一体どういうことだ?」
「あ、それな、セイルはんの魂と同化しただけや。使うべきときには解放されるから心配せんといて」
全身包帯姿のモフモフがそう告げる。
「そ、そうなのか? 実感がないぞ」
「そういうものや。過去には、わてクリスタルブランドっていう剣、手伝ったこともあったんや。それも魂の武具やで」
と告げると、ロックフェラーとモフモフはその場に崩れた。
「大丈夫か?」
「いや、正直無理。血を流しすぎたし」
「もう腹へってしょーもな」
と告げて、その場で二人ともいびきを掻いて眠ってしまった。
「全く‥‥どいつもこいつも、俺なんかの為に命張りやがって‥‥」
そう告げると、セイルは二人を村人に託し、村から立ちさって行った。
「行くのか?」
「ああ、付いてくるのか?」
村から出てすぐの三叉路。
そこでシャロンは、セイルを待っていた。
そのまま何かを二言三言かわし、そのまま剣士の居留地へと向かっていった。
──そして
納屋から出てきたセイルを見送ってのち、美夕も再び剛剣術の訓練に入る。
ここに来る前にルミリアに聞いた修行、そして自分の修行、二つの方法を合わせつつ、独自の修行を続ける美夕。
「フーッフーッ‥‥ハッ!!」
──ドゴォッ
村外れの岩に向かって連撃を叩き込む美夕。
手にした武器は『七桜剣』であるにもかかわらず、目の前の岩は瞬時に20以上に切り刻まれた‥‥。
「こ、これが力と速度の剛剣術‥‥凄い」
──ビシィィィィッ
その感動の直後、美夕は全身にはしる激痛に身をよじる。
「うあぁぁ痛い痛いぃぃぃぃぃっ」
それは『死んだ方がまし』とも思える痛み。
その痛みが2刻も続き、美夕はすっかり衰弱した。
「き、基礎となる体ができていないと‥‥こうなる‥‥でも」
ゆっくりと立上がると、美夕は再び修行を始める。
●命の鼓動
──パリ・とある宿
静かに起き上がる。
体のあちこちが痛い。
意識ははっきりとしておらず、まだぼやっとしている。
肩口から胸部、そして腹部に至るまで斬りつけられた体。そのまま意識が遠くなり、そして気がつくとここにいる。
一体ここは何処なのだろう?
そう思い、リスターは周囲を見渡す。
近くには、一人の老人が座って居眠りをしている。
「ん‥‥ああ、気が付いたかね」
老人はそう呟くと、リスターのほうに近寄る。
「助けてくれたのか」
「たまたま漁に出ていたら、御前さんが網に引っ掛かっていてな。まだ息があったから引き上げて、近くの神父さんに頼んで治療してもらったのぢゃよ‥‥生きていることを神に感謝しなさい」
そう告げられて、リスターは静かに肯く。
(口封じで俺を殺した‥‥全て真実ということか)
そのまま服を着替えると、リスターは老人に頭を下げて、その家をでる。
目の前にはセーヌ河。
だが、近くに他の建物はどこにも見当たらない。
「さて、パリまで戻るか」
と、告げつつ、懐を調べる。
残念なことに、証拠となる手紙などはすべて取り上げられてしまっていたが、それ以外のものは身についたままであった。
「やれやれ。これからどう攻めていくか‥‥あのじいさんの事を知っているのは今の所俺だけだしなぁ」
そう呟くと、リスターはのんびりと街道まで向かっていった。
●調査と真実
──パリ・ベッケンバウアー邱
ゆっくりと目の前の猫を追跡する三笠。
さすがにここ数日はベッケンバウアー邱でも怪しい動きは一切感じられなかった。
来客についても、ベッケンバウアー卿の古くからの知人である『ファルコ・コネリー』という初老の人物と、その護衛のみ。
それも胡散臭い雰囲気はなく、今は隠居しているただの貴族であるという所まで裏が取れた為、三笠は彼をターゲットから外した。
そして時折庭に姿を出すグリマルキンを追跡し、その裏を探るように動いていたが、グリマルキンは幾つかの屋敷を出入りしているだけであった。
一つは『ローゼンクロイツ家』、あとはいくつかの酒場と『ファルコ・コネリー家』のみであった。
ローゼンクロイツ家には時折セフィロト騎士団のメンバーが立ち寄っており、そしてコネリー家でもやはりセフィロト騎士団の一人が護衛を務めていた。
裏でセフィロト騎士団、そしてヨハネス家が手を引いているような手応えを、三笠は感じ取った。
だが、今だベッケンバウアー邱での調査はおわっていない。
まだここにも裏がありそうだが、尻尾をださずにいる‥‥
それが三笠をやきもきさせていた。
──そして
「ふみー。どこにもいないですぅ」
そう告げつつ、静かに椅子に座るクリス。
「ああ、こっちも情報なしだ。『八仙娘々』っていうのが、華仙教大国の賞金稼ぎという話しは判ったが、今はこの地にはいないということらしい。李興隆の情報を得て、パリに向かったらしいが、どこにいるのか見当もつかない」
秋夜もそう告げつつ、クリスにハーブティーを差し出す。
限界バトル亭まで向かったものの、情報が全くないままにバリに戻ってきたクリス達。
「どこにもいない『八仙娘々』♪〜 パリの外れの小さな御宿。そこで静かに時を待つ♪〜」
アンリエットがそう静かに呟く。
「ア、アンリちゃんその情報どこから?」
「ガアガア♪〜。アビスの御店の吟遊詩人さん♪〜」
その言葉に慌ててたクリスだが、今から限界バトル亭まで戻るには時間がない。
その為、3人はすぐさま該当する宿をしらみつぶしにさがし、情報を求めたのだが、すでに該当する宿には『八仙娘々』達は居なかった。
八人の華仙教大国の娘たち。
その情報と姿を確認して、クリスはこれからどうするか秋夜と思案しはじめた。
──Fin