●リプレイ本文
●今度こそはと誓いをこめて
──シャルトル・プロスト辺境伯領・ノートルダム大聖堂
「‥‥」
静かにベットに横たわっているプロスト辺境伯。今だ意識は戻らず、ずっと昏睡状態が続いている。
その部屋に案内されて、フォルテュネ・オレアリス(ec0501)は、静かにプロスト辺境伯の前に立つ。
「これから、私達はアビスに潜ります。なんとかして護符を取り返し、プロスト辺境伯の仇をとってきます‥‥がんばりますので‥‥」
そう呟いて、フォルテュネは静かに踵を返し、部屋から出て行こうとした。
『魔法戦士‥‥』
ふと、フォルテュネの脳裏に、プロスト辺境伯の声が聞こえたようなきがした。
「魔法戦士? それは?」
と、フォルテュネが振り向き様に問い掛けるが、プロスト辺境伯はいまだ眠りに付いたままであった‥‥。
──シャルトル・アビス外・限界バトル亭
「‥‥相変わらずなのか」
「ええ。それでも第6階層の各回廊の封鎖はかなり進行していますし、別ルートでの24回廊合流なども検討している所ですね」
酒場のカウンターで、鷹司龍嗣(eb3582)がマスターとそのようなやり取りをしている。
前回、別のチームがここにやってきてから、アビス自体はかなり変化をしている。
有志による回廊封鎖、残った回廊の調査、第6階層より上の階層からの24回廊突入など、色々な作戦が練りこまれており、一部ではもうまもなく完全攻略の糸口が見えてくるだろうという話にまで進化している。
「では、今回も私達が鍵を借りるという事で宜しいでしょうか?」
そうマスターに問い掛けるディアーナ・ユーリウス(ec0234)。
「ああ、あんたたちしかもう難しいだろうさ。これは他の奴等が調べた地図だ。役に立つかどうかは判らないが‥‥預けておくよ」
そう告げて、マスターが鍵と地図をディアーナに手渡す。
「判りました。必ず攻略してみせますわ」
そう告げて、ディアーナは仲間の待つ席へと移動する。
「ああ、成る程。ここがこういうことなのか‥‥」
大量の資料を前に、クルト・ベッケンバウアー(ec0886)がそう呟いている。
彼の前に置かれている資料は、ガルシア・マグナス(ec0569)が今までのアビスでの冒険を取りまとめたもの。
これら資料に加え、クルトは今までここのチームにいたメンバーからここの攻略方法を伝授、そして現在はガルシアが色々とアドバイスをしている所であった。
「とりあえず、今までの資料はこれで最後だ。あとは実践で頼む」
そう告げるガルシアに、クルトは静かに肯いていた。
やがて、メンバーが全員揃ったとき、一行は最後の打ち合わせを行なってからアビスへと向かっていった。
●最後の挑戦なるか?
──アビス第24回廊・第31階層
いつものようにいつもの回廊。
ここまでは何事もなく順調。
クルトもここまでのトラップやギミックを次々と処理、そのままここまでたどり着いた。
そして、いつも問題の巨大な扉の先。
一行は以前と同じ様に儀式を施し、静かに扉を開いた。
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコ
綺麗な回廊。
壁は大理石によって綺麗に磨き上げられ、そして真紅の絨毯が敷き詰められている。
壁には燭台が固定されており、いくつもの明かりが燈されている。
まるで、どこかの屋敷の廊下のようである。
──ポーーーン‥‥
回廊の先で、一人の道化師が静かに一行に向かって一礼している。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。私、ここの執事を担当していますフールと申します‥‥」
そう一行に向かって挨拶をするフール。
その怪しい動きに、ディアーナとクルトの二人は、指に填められている石の中の蝶を静かに見る。
──パタパタパタパタパタパタハタ
(このフールという奴は悪魔か‥‥)
(十分注意しないといけませんわ)
そう二人は思い付いたものの、相手に悟られずにそれを仲間に伝えるのは、今の時点では困難であった。
「皆様方のご活躍、お舘様も大層お気に入りでして。もし宜しければ、我が主の元で皆様の今までの活躍など御聞かせ頂きたいものです‥‥」
そのフールの言葉に、一行は一瞬耳を疑った。
「ちょっと待ってほしい。いますぐに返答は出来ない‥‥我々は、李興隆によって奪われた護符を取り戻しに来ただけだ‥‥」
ガルシアがそう告げると、他のメンバーも静かに頭を縦に振る。
「奪われたとは心外な。元々あれは、我が主の所有物。それを、詐欺当然のように奪っていったヨハネスの一族から取り戻しただけにすぎません」
そう告げられ、一行は困惑する。
「それが真実かも知れませんが、貴方たちが奪い取った時点での所有者はヨハネス卿。私達は冒険者として、それを取り戻しに来たのです。それに、このアビス、貴方たち悪魔のいかがわしい儀式に使っているのでしょうけれど、それを阻止しなくてはなりません!!」
ビショップのディアーナがそう叫ぶと、薊鬼十郎(ea4004)が一歩前に出る。
「交渉は決裂です。貴方は速やかにお舘様とやりの元に戻り、私達が護符を取り返しに来た事を伝えてください。すみやかに戻すならばよし、そうでなければ、実力を持って取り返すと‥‥」
その言葉に、フールはクッククックと笑いはじめる。
そして懐から取出した仮面を付けると、静かに指を鳴らす。
「了解しました。では、私はこれで‥‥」
スッと後ろに下がっていくと、入れ違いに一人の少女が姿を表わす。
「ここから先は実力で‥‥でしたら、私がお相手します」
それは、先日プロスト辺境伯やダース・ファースト卿を手にかけた『オーブ・ソワール』と呼ばれているアサシンガール。
(‥‥オーブ・ソワール‥‥悪鬼の妹の可能性がある以上、殺すことは出来ないが‥‥)
そう考えた虚空牙(ec0261)だが、他のメンバーは殺る気十分である。
「足を止めないで!!」
先制で仕掛けたのは鬼十郎。
素早い斬撃を叩き込むが、オーブ・ソワールはそれらを回避。
『貴様、悪鬼という奴を知って居るか!!』
空牙は接敵して掌打の連撃を叩き込みつつ、そうオーブ・ソワールに華国語で問い掛ける。
「何をごちゃごちゃと判らない言葉を‥‥」
そう呟きつつも、オーブ・ソワールは空牙の拳を両手で捌きはじめた!!
「ならばっ!!」
踏込んでのガルシアの2連撃。
それをなんとか交わしたものの、さらに追撃で飛んでくる魔法は躱わしきれない!!
──ドシュッ!!
鷹司のムーンアローが直撃、さらにディアーナのホーリーもオーブ・ソワールを捕らえた!!
──バジィィィィィィィィィィィィィッ
その攻撃を受て、一旦後方に下がるオーブ・ソワール。
「随分といい連携をとるじゃない‥‥なら、こっちも本気でいかせて貰うわよっ!!」
静かに間合を取りつつ、オーブ・ソワールは防御の構えを取る。
「連携を相手に死ぬ気なの?」
鬼十郎はそう叫びつつ、一気に間合を詰める。
さらに空牙、ガルシアも間合を詰めると、三方向からの一斉攻撃を開始した。
──ガギガギガギッ!!
だが、全ての攻撃は初手で弾かれた。
一瞬のうちにオーブ・ソワールの近くに3本のムーンアローが姿を表わし、それぞれが鬼十郎の小太刀、ガルシアのダマスカスブレード、空牙の利き腕に直撃し、そこからの体勢を取り直すのに時間をかけてしまった。
「ならばっ!!」
鷹司がスクロールを開き、ウォーターボムを発動。
さらにディアーナも再びホーリーを発動するが、その二つにたいしても、オーブ・ソワールは二つのムーンアローを発動し、全て迎撃した!!
「そ、そんな馬鹿な‥‥」
「私の魔法まで弾かれるなんて‥‥」
驚愕する鷹司とディアーナ。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。今のは危なかったねぇ‥‥どうするの? まだくる? 貴方たちの攻撃が効かないことは今見たとおりよ‥‥」
ニィィッと笑いつつ、オーブ・ソワールがそう告げる。
「こ、高速で二つの魔法を連続‥‥」
「しかも、ムーンアローが5本だと?」
鬼十郎と空牙も驚きの表情。
だが、それらの光景を後方でじっと見ていたフォルテュネとクルトが、一行に向かって叫ぶ!!
「魔法2回は不可能ではありません。ただし、からだに掛かる負荷が激しいのです!!」
「相手は虚勢を張って時間を稼いでいるだけだ!! 今ならいける!!」
その言葉に従い、一行は攻撃の手を休めない!!
「ならばっ!!」
──ドゴゴゴゴゴゴゴゴコゴッ
空牙の三連蹴りが炸裂!!
それを躱わしきれないオーブ・ソワールは後ろに吹き飛ぶ。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァッ
さらに鬼十郎の3連斬により、かなりの深手を受けるオーブ・ソワール。
──ドゴォォォォォォォォォォッ
そして弱っていた所に鷹司のウオーターボムとディアーナのホーリーが炸裂。
そしてとどめが、ガルシアの一撃であった。
「貴様に対して慈悲はない‥‥さらば」
──ドゴォッ
首筋に激しい一撃を受けて、オーブ・ソワールは絶命した‥‥。
●最下層〜玉座の間〜
──第24階層・最終回廊
綺麗な大理石の回廊。
そこをこえてやってきた一行は、ついに最後の扉までたどり着いた。
「まったくトラップも鍵もない。ここには来れないという感じの作りだな」
クルトが仕掛けを調べたが、そのようなものはなにもない。
「ならいくぞ!!」
ガルシアの号令で、扉が静かに開かれる。
そこは広い室内。
様々な調度品が並び、中央には巨大なテーブルが置かれている。
そこに、華仙教大国の武闘着を身に纏った男が、静かに椅子にすわり、のどかなティータイムをしている。
その側には、バアル・ベオルと名乗る女性が座り、男の相手をしていた。
「ここまでくるとはたいしたものだな‥‥冒険者よ」
静かに立ち上がりつつ、そう告げる李興隆。
「だが、ここでお前たちの命運は尽きる。さあ、どいつから殺して欲しい?」
そう告げると、バアルもゆっくりと立上がる。
「ここで正面でやり合ったとして、貴方たちに勝機はあるのかしら? 無駄な命をここで散らせないで、ここは退散した方が身の為よ?」
と告げるバアル。
「悪いが、ここで引き下がる訳にはいかなくてね‥‥」
「ここで貴方たちを止めないと、このノルマンが、しいては世界が危ないのです」
ガルシアに続き、フォルテュネもそう告げる。
「それじゃあ、いきますか‥‥」
空牙もそう呟いて拳を構える。
と、突然、バアルの周囲に黒い霧が発生し、バアルを包みこんだ。
「さて、かかって来てもらおうか?」
静かに構えを取る李興隆。
その右腕は炎を纏い、静かに上下している。
「形意拳の一種か‥‥ここはいかせて貰う!!」
空牙が間合を詰め、素早い連撃を叩き込む。
──ガシィィィィィッ
その一撃を受止められた瞬間、李興隆の全身が黒く輝いた。
「嫌な気を纏う‥‥」
「朧拳使いか。やっかいな相手だったな‥‥」
素早く間合を放す李興隆。
「で、私の相手はどなたかしら?」
そうつぶやくバアル。
「なら‥‥」
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
と、鷹司のムーンアローが飛来。
それはバアルに深々と突き刺さったが、バアルはニコリと微笑んだ。
「まあ、魔法でくるなんて‥‥無駄な事をしますね」
さらにディアーナのホーリーと、フォルテュネのアイスコフィンも発動。
ホーリーによって身を焼かれたものの、アイスコフィンはレジスト。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
そして飛込んだ鬼十郎の一撃と、それにタイミングを合わせたガルシアの一撃が直撃。
だが、バアルのからだには傷一つ付かなくなっていた。
「そんな!!」
「渾身の一撃が効かないだと!!」
危険を察知し、素早く下がる二人。
そのまま後衛の前に立つと、後ろに向かって叫ぶ。
「相手は普通じゃない。全力でいった方がいい‥‥」
「全力で、それが効かないなんて‥‥」
落ち着いて対処するガルシアと、動揺をかくせない鬼十郎。
「そうね‥‥全力で掛かっていらっしゃい‥‥あっちはもう終ったわよ‥‥」
そうバアルが告げた瞬間、組み手をしていた空牙が床に崩れ落ちる。
「デスだと!!」
崩れた瞬間の空牙と、その前で黒く輝く李興隆を見たガルシアが叫ぶ。
「ああ、貴方はこの技をしっているのですか‥‥丁度、この拳士は死にました。けっこう厄介でしたけれど、朧拳では魔法を防ぐことは出来ませんから‥‥」
そのまま一行に向かって向き直る李興隆。
「次はどなたが死にますか? 誰からでも構いませんよ‥‥」
ニィィィィッと笑みを浮かべる李興隆。
そして一行の前に立つ、バアル・ベオル。
「逃げた方がいい!!」
咄嗟に飛び出して空牙を抱えるクルト。
その言葉に、一行は一斉に出口に向かって飛び出していった。
●そして
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
甦生を終えた空牙。
相手は魔法使いであったにも関らず、組み手を仕掛けてきた理由。
李興隆はもっとも厄介な魔法拳士であることを、空牙は身をもって知る事となった。
そして無事に逃げ延びた一行も、残る敵が二人だけになったことを考え、最後の作戦を練ることにした。
──Fin