●リプレイ本文
●最後の希望を胸に抱いて
──パリ郊外・阿修羅寺院
「ふむ‥‥アビスに向かうか‥‥」
静かにそう告げつつ、目の前に立つ三笠明信(ea1628)をじっと見ているのはパラディンのフィーム・ラール・ロイシィ。
アビスに向かう前に、三笠は1度阿修羅寺院を訪れ、対バアルゼブルについてのアドバイスを受けていた。
「悪魔が相手ならば、全てのことに意識を傾けなさい。相手の一挙一足等、それら全てがなにかの動作に繋がると。より観察力を高めたものが、悪魔の邪なる呪縛からのがれることができますね」
そう告げているのは、フィームの横に立っているパラディン八部衆の一人・迦楼羅位に立つマトゥラーである。
急務の為、彼女はこのパリにやってきているらしい。
「あとは‥‥そうだな。恐れることなく、勇気を示す。それでいいと思う。悪魔というのは、その個体毎に強さがまちまちだからな。同じ種でありながらも、戦い方や思考が違う。それぞれに柔軟に対応することが必要だと思え」
そうフィームに付けられて、三笠は静かに肯いた。
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
「大司教様、どうか私にあの悪魔に立ち向かう勇気をお授け下さい」
大聖堂の中。
静かに目の前の壇上に立つ聖ヨハン大司教にそう告げているのは 薊鬼十郎(ea4004)である。
「迷える羊よ‥‥祈りなさい。されば救われますでしょう‥‥」
そのまま十字を切り、静かに祈りを唱える大司教。
やがて鬼十郎の全身が静かに輝き、そして消えていった。
「今の温かい光は‥‥」
その鬼十郎の言葉に、大司教は静かに肯く。
「セーラの加護は、いつまでも貴女とともに‥‥さあ、おいきなさい」
その言葉に勇気づけられて、鬼十郎はすっとその場を後にした。
──シャルトル・アビス外・限界バトル亭
「なるほどねぇ‥‥」
膨大な資料を目の前に、静かにそう呟くのはミラ・ダイモス(eb2064)。
その横では、ロッド・エルメロイ(eb9943)も必死に今までのデータを調べつつ、これからのアビス対策を練りこんでいる。
「一体どこまで威力を絞れば、あの攻勢防壁に対処できるのだろう‥‥」
そう呟くロッドにたいして、その場にいたディアーナ・ユーリウス(ec0234)とフォルテュネ・オレアリス(ec0501)が二人同時に一言。
『無理ですね』
と呟く。
「いやいや、いくら攻勢防壁といっても、魔法の力全てを跳ね返すとは思えません。どこかに抜け道が有る筈です」
そう力説するロッドだが。
「たとえどんなに小さな魔力でも、跳ね返ってきますよ」
「とくに攻撃系なんて、最小火力でも確実に術者に返ってきますと、それにたいしての高速詠唱による無力化すら間に合いませんから‥‥」
そう告げる二人。
その横では、クルト・ベッケンバウアー(ec0886)がさらなる資料の解読を続けている。
「対李興隆‥‥なにか突破口がある筈‥‥どこかに‥‥」
必死に調べているクルト。
そしてその糸口も見つかることなく、一行はいよいよ突入の時を向かえていた。
●強きもののまつ場所
──アビス最下層・最後の間
ここまでに至る道は、極めて簡単であった。
過去に幾度となく挑戦した場所であり、そこまでの対策は完全といっていいほどに練りこまれている。
あとは、最後の戦いを待つのみ。
最後の扉を前に、一行は最終確認を行う。
ただ一つでも見落としがないか?
なにかミスはないか?
出来うる限りの準備は全て終えているか?
それらを確認し、いよいよ最後の扉を開く。
──ギギギギキィィィィィィィ
音をたてて開かれた扉。
そしてその先には広い室内。
様々な調度品が並び、中央には巨大なテーブルが置かれている。
そこに、華仙教大国の武闘着を身に纏った男が、静かに椅子にすわり、のどかなティータイムをしている。
先日とは違い、その場にはバアル・ベオルの姿はどこにもない。
「さて。それじゃあ愉しいパーティーを始めるとしよう」
そう呟きつつ、ゆっくりと立上がる李興隆。
「先日の借りを返させてもらう‥‥」
スッと皆の前に立つと、ゆっくりと杖を構える虚空牙(ec0261)。
「炎よ‥‥我等に勇気を与えたまえ‥‥」
ロッドが静かにフレイムエリベイションを唱える。
と、空牙の体内に燃え盛る闘気が沸き上がる。
そしてロッドは次々と仲間たちにもフレイムエリベイションを唱えていく。
そのさ中に、空牙は手にした杖の『力の開放』を行った。
「どこまでも無駄な‥‥」
そう呟きつつ、李興隆が再び天地の構えを取る。
右腕は炎に燃え上がり、左腕は冷気によって凍てつく。
その上下2段の攻撃と、さらに触れた刹那のデス。
その攻撃で、空牙は先日絶命した。
だが、今回はその対策も練ってある。
「行かせてもらう!!」
素早く間合を詰めると、空牙が3連撃を叩き込む。
──ガシィィィィィィィッ
その攻撃を次々と受け流す李興隆だが、その表情が凍り付いている。
「成る程‥‥炎も氷も受け付けぬか‥‥レジストを受けたか?」
「さあな‥‥これであんたの手を全て封じたとは思えない。が、勝機はこっちにある!!」
素早く間合を話し、そして飛燕連脚を叩きつける空牙。
その一撃目を躱わした興隆だが、2撃目を直撃した。
──ブシュッッッッッ
そのまま蹴り上げられた右腕を構え直すが、その肩口からは大量の血が吹き出していた。
──パシィィィィッ
ロッドの放ったダガーが、タイミングよく興隆に突き刺さったのである。
「いい連携だな‥‥」
そう告げる李興隆。
「一つ教えて貰おう。バアル・ベオルはどこにいった?」
そう叫ぶ鷹司龍嗣(eb3582)に、李興隆は一言。
「さらに地下。祭壇の間だ‥‥」
そう告げた瞬間、三笠と鷹司、鬼十郎、ミラと言った面々が部屋の奥へと走り出す!!
目標は奥に作られた『転移の魔法陣』。
そこから更なる地下へと進むと、フォルテュネが刻まれた魔法陣から導き出したのである!!
「させるか‥‥」
素早く一行に向かって走りはじめた李興隆だが、それを空牙がまわりこみ静止する。
「ここからが正念場だ‥‥あとは任せた!!」
そう告げると、空牙が静かに呼吸を整える。
「蚩尤解放‥‥朧拳最源流技絶招‥‥闇時雨‥‥」
そう告げた刹那、空牙がいっきに李興隆へと正拳を叩き込んだ!!
──そのころ
転移の魔法陣を越えた一行。
そこには、巨大な『破滅の魔法陣』と、その中央に核となる護符が安置されている。
その側では、大量の『魂』と共に立つひとりの女性がいた。
手には一冊の書物と剣を携え、静かに何かを唱えている。
そのバアルの近くに歩みつつ、静かに構えを取る鬼十郎。
「無想流‥‥虎乱刀っ」
──チン
それは一瞬。
鬼十郎の放ったただの一撃。
だが、全ての基礎であり、トリッキーさもなにもかも棄てた基本。
だからこその神速の太刀筋であろう。
──バサッ
バアルの手にしていた書が音もなく真っ二つになる。
「ふぅん‥‥なかなかやりますね」
そう告げると、バアルは手にした剣を静かに構える。
──ガギガキガギガギガギっ
その刹那、ミラが隙のない連撃をたたきこむ。
それらを全て受止めつつ、次の体勢にうつろうとするバアルだが。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァッ
その真横から飛び出した三笠の一撃が、バアルの胴を薙ぐ。
「ふふふ‥‥おもしろいわね‥‥人間って」
「知った風な口を!!」
さらに間合を詰めつつ、三笠と鬼十郎、そしてミラの三人で次々と攻撃を繰り出す。
さらに鷹司がウォータボームを発動、確実にバアルに対してダメージを叩き込んでいく。
やがてそれらを躱わしきれぬと悟ったバアルは、瞬時にその場から消えていった。
「逃げたか‥‥」
静かに武器を納めるミラ。
「そのようですね‥‥でも、護符は無事のようです」
そう告げつつ、その場に残っていた護符を回収する鬼十郎。
「逃がしはしましたが、とりあえず本来の目的は達成しました。急いで上に戻りましょう」
そう告げると、奥に在る転移の魔法陣に飛び乗る一行。
──さらにその頃
「‥‥」
静かに周囲を見渡す空牙。
目の前はただひたすらに闇。
「李興隆は倒したのか?」
そう呟く。
「大丈夫です。李興隆は絶命しました。今はじっとしていてください」
ディアーナが倒れている空牙にそう告げる。
朧拳の最終奥義、それをつかっても李興隆とは互角の戦いとなっていた。
最後に決めた技、それは確実に互いの心臓を貫いていた筈。
だが、またしてもロッドの放ったダガーが李興隆に直撃、僅かだけ李興隆の攻撃の軌跡をずらしたのである。
それでも致命傷には変わりはなかったものの、ディアーナがすぐさま治療を施した為、命は取り留めていた。
だが、技の後遺症により、空牙の瞳からは輝きが消えた。
一時的なものであり、しばらくすると元に戻るのだが、それでも一週間以上は光を失ったままであろう。
やがて地下から一行が戻ってくると、全員で地上を目指していった。
そして翌日。
身動きの取れない空牙以外の全員で、アビスの最終探査を開始。
閉ざされていた壁の向うから、石化しているエムイら20名の冒険者を救助し、アビスをあとにした。
後日。
まだアビスは残っていた。
今だ大量の魔物を生み出しつつ。冒険者達を待っている。
アビスが消滅するのは、いったいいつなのだろう‥‥。
今日もまた、伝説の宝を求めてアビスを訪れる者たちが居た‥‥。
──Fin