●リプレイ本文
●時の流れになにもかも任せて
──パリ・冒険者酒場マスカレード
「まあ、私達は仕事の都合上いけないから、代わりに色々と愉しんできてね」
そうにこやかに告げているのはマスカレードのマスター・ミストルディン。
「まあ、それは構わないのだが。どうやって奴に会えばいいんだ? 既に立場が領主ともなっていると、そうそう会えるものでもないだろう?」
そう告げるのはラシュディア・バルトン(ea4107)。
「そうねぇ。と言うことで、これあげるわ」
と、ミストルディンが書簡を取出し、ラシュディアに渡す。
「これは?」
「謁見許可証ね。プロスト辺境伯の刻印いりだから、城の入り口で門番に見せればいいと思うわ」
「そうか。ありがたい、大切に使わせて貰うよ」
ということで、ラシュディアはそのまま店の前から出発している『シャルトル方面行き無料送迎馬車』の発車まで、店内でのんびりとひとやすみ。
──一方そのころ
「えええええええ?」
場所はマスカレードの近く。
これからマスカレードに向かい、他の仲間たちと合流しようとしていたリディエール・アンティロープ(eb5977)の眼の前に、1台の馬車が止まった。
そこから現われたのは、初老の紳士。
「ユーノ・ヨハネス様のご命令により、お迎えに参りました」
丁寧に挨拶したのち、紳士は静かにそうリディエールに告げる。
「で、ですがどうしてここが?」
「リディエール様からのシフール便が届きまして、パリで待機していた私達に早急にリディエール様をお迎えしなさいと連絡がありました」
そう告げられて、リディエールはようやく落ち着きを取り戻す。
「そうですか。わさわざありがとうございます。ですが、私は知人とも約束していますので‥‥」
「それも了解しています。御友達の分の馬車もご用意させて頂いています」
その言葉に、リディエールはふと道端に並ぶ馬車を見る。
どこの貴族かなと思っていたら、ここの貴族でしたということ。
そしてリディエールは溜め息を一つつくと、紳士に一言。
「では、冒険者酒場マスカレードの近くに待機していてください。仲間たちがそろいましたら、その時は宜しく御願いします」
ユーノの体面を気にしつつそう告げるリディエールであったとさ。
──さらにその頃
「祭り騒ぎだから、三味線で稼ぎに行こうかと思うんだけど、どうせだから一緒に遊びに行かない?」
場所は『剣士の居留地』。
無天焔威(ea0073)はそこで修練を行なっているブランシュを誘いにやってきていたのである。
「マスター・オズの許可がとれれば、別にいっても構わないけれど‥‥」
と、流れる汗を拭いつつ、そう無表情に答えるブランシュ。
「それで構わないよ。ここで待っているから」
と促されて、ブランシュはマスター・オズの元に向かう。
そしてしばらくして、外出用におめかししたブランシュが出てくると、ほーちゃんは激しく高鳴る動悸を悟られないよう、にこりと微笑って一言。
「おっけー。それじゃークリスとアンリエットと合流しよっか」
と告げる。
「‥‥ちょっと忘れ物‥‥」
と、ムスーーーッとした表情で呟くと、ブランシュは『紋章剣』を帯剣して戻ってきた。
「あれ? 祭りなのにそんなもの付けてどうしたの?」
「うっさいばか、早くいくわよ。みんながまっているんでしょ?」
と、とっとと先に進んで行った。
(まあ、あのぐらい怒っていた方がカワイイですよねぇ‥‥)
まあ、そうなのかも知れないけれどね。
●研究成果
──パリ・ミハイル研究所分室
「ふう‥‥」
お祭り騒ぎのプロスト領から逃げてきたミハイル・ジョーンズ。
現在はパリにある昔使っていた研究所を改装して使っているらしい。
「どうですか? 何か新しく判ったことはないか?」
そうミハイルに問い掛けるシェセル・シェヌウ(ec0170)。
「ロードガイについての資料は新しいものはないのう。やはりエジプトまで赴く必要があるか‥‥」
大量の資料を開きつつ、ミハイルがそう告げる。
「では、ここには大量の資料がある。その中に『混沌』についての資料はないか?」
「混沌? アビスか? カオスか? それらについての資料ならあるが、これは渡せぬぞ」
そう告げるミハイルに、シェセルがさらに問う。
「何故ですか? 混沌は現在もっとも必要な情報だ‥‥デビルはジ・アース、カオスの魔物は常世という区分けが一般的だが、ジ・アースにもカオスの伝承は伝わっていてもおかしくない。そして、それについては貴方がもっとも知っているのではないのか? それを公開できない理由は?」
そう告げるが、ミハイルは一言。
「パランスの問題ぢゃよ」
とだけ告げた。
「意味が判りません。貴方の持つ知識が、今のノルマン、ひいては世界を救うのかも知れないのですよ!!」
「いやいや、そんな大層な知識てはない。ただ‥‥いついかなる時代にも、正しいのは我々人間だけとは限らないということぢゃ」
それだけを告げると、ミハイルは静かにハーブティーをすすりつつ、ロイ教授の残した写本を静かに読みはじめた。
──そのころ
ガラガラガラガラガラガラガラガラ
馬車がゆっくりと走っていく。
ユーノ・ヨハネスの手配した馬車に乗り、目的地へと向かう一行。
「久しぶりだな」
目の前の席に座っているアハメス・パミ(ea3641)にそう告げる悪鬼こと秋夜。
「ええ。ご無沙汰しています。ほんとうに、久しぶりにノルマンに戻ってきました‥‥あとで御時間ありましたら、手合わせ御願いしてよろしいですか?」
そう問い掛けるアハメス。
「だそうだか?」
と、秋夜は横のクリス・ラインハルト(ea2004)に告げる。
「祭りの余興の草レスリング程度でしたらいいですよ」
と、愉しそうに告げる。
そのクリスの横では、窓の外を愉しそうに見ているアンリエットの姿があった。
「そうだアンリちゃん。最近、白髪白髭の、愛称『ぢぢい』な人が来たりとか? 体の調子でおかしいとことかない?」
そう問い掛けるクリスに、アンリエットはニコリと微笑む。
「ぢぢいなら来たけれど、すぐにどっかにいっちゃったよー。身体はね、最近ちょっと重いのー」
と呟く。
そのまま秋夜の方を向くクリスに、そっと秋夜が耳打ちをする。
『アンリの背中にも、簡易型破滅の魔法陣が浮かび上がってきている。ヘルメスの残したものらしいが、どうやらバアル・ベオルの活性に伴って、再び起動しそうな状態だ‥‥』
その言葉に、クリスの表情がサーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッと青ざめていった。
「はわわはわわわ‥‥どどどどどうすればいいのでしょうか?」
「バアルを仕留める。もしくは、何等かの方法で、魔法陣を中和する護符か何かを作り出す‥‥そんなところだろう」
と告げて、秋夜は腕を組んで何かを考えはじめた。
●天使と悪魔と
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
「私達は、今の悪魔達の動きについてより深い知識を持ってはいないのです。日々、皆さんの安全を神に祈る。ただそれだけなのです」
ノートルダム大聖堂の神父がエミリア・メルサール(ec0193)にそう告げる。
「では、最近巷で噂されている説なのですが‥‥デビルは天使が混沌に影響を受けたものであるとする考えについて、神父様はどう御考えでしょうか?」
と問い掛ける。
「天使が罪を負って堕天したものがデビルである。ゆえに、貴殿の告げる混沌というものは全く関係無く、そもそも存在しない‥‥」
と告げる神父。
「では、デビルに罪は存在すると?」
「存在自体が罪なのです」
「混沌の影響を排除できれば、デビルは天使に戻ることができるのでしょうか?」
そう問うエミリアだが。
「そもそも、天使は混沌とかいうあやふやなものに支配されていませんし、力の影響とやらもありません」
「では、デビルとはなんなのでしょうか?」
「そもそもデビルとは。神々の下僕が、神に逆らい悪に転じた者達です。これが貴方たちのいう堕天ですね。‥‥混沌というものは全く関係ないのですよ」
そう告げられても、エミリアは腑に落ちなかった‥‥。
そのため、聖ヨハン大司教にもこの事についてお伺いをたてようとしたのだが、聖ヨハン大司教はパリのノートルダム大聖堂に出向しているということで会う事は出来ず。
「一つ御願いがあります。もし、この教会にあるのでしたら、悪魔についての文献を見せて頂きたいのですが」
「残念ですが、どなたかの紹介がなければ御見せすることは出来ませんので‥‥」
ということで、エミリアはその場での答え出しを諦めた。
●任官という名の悪戯
──シャルトル・プロスト辺境迫領
無事に馬車がたどり着く。
一行にとっても久しぶりのプロスト城である。
ゆっくりと馬車を降りると、すぐ目の前ではユーノ・ヨハネスとアルフレッド・プロスト(マスカレード)が立っていた。
「ふっふっふふっふっふっふっふっ。そろそろ到着するころと思って待ってい‥‥」
「ご無沙汰しています‥‥リディエールさん」
マスカレードの言葉をぶった切り、ユーノが静かにリディエールの元に近づいていく。
「私こそ、ご無沙汰しています。なにもお変りのないようでなによりです‥‥」
そう社交事例を告げるリディエール。
「ではみなさんこちらへ。宿泊部屋もご用意してありますので‥‥」
と、ユーノが一行をプロスト城に案内する。
──ヒュルルルルル‥‥
そしてその場には、ポツーーーンと立っているマスカレードと、その横で腕を組んで懐いているラシュディアの姿が会った。
「まあ、どっちがここの主か判らないなぁ‥‥」
そう呟くラシュディアに、マスカレードも一言。
「優秀な副官でね‥‥まあ、その事はまた後日。実は、お前に頼みが有る」
そう真剣な表情でつげるマスカレード。
「ああ、オレで構わないのなら力になるぜ」
「よし。ならお前は本日づけで、『プロスト辺境迫付き魔導師』な。魔導師協会にそう手続きしておくからな」
とつげて、城内に入っていくマスカレード。
「‥‥今、なんて言った?」
キョトンとしているラシュディア。
まあ、久しぶりの合掌ということで。
●祭り本番
──プロスト領・城下街
ザワザワザワザワ
人の喧騒が心地好い。
そんな中で、ほーちゃんはのんびりと『蛇皮線』で弾き語りをしている。
「はぁぁぁぁぁ。一言言ったら楽になるんだろうけれどなぁ♪〜 二人でのんびりと、馬鹿やって愉しく過ごしたいってネェ♪〜」
とまあ、自分の心境そのままの弾き語り。
これがまた意外と盛況だから世の中判らない。
ちなみに一緒についてきたブランシュは、セーヌダンファンの子供達とクリスと一緒に町の中を散策中。
「良かったねー。みんなもこれで、少しだけ自由だよっ!!」
と、にこやかに呟くクリス。
今回のプロスト辺境伯就任で、セーヌダンファンの子供達の罪が緩和された。
城下街に限り、監視の必要なく出歩いて構わないということになったのである。
クリスの頼み込んだ『監視から保護対象へ』という願いは、プロスト辺境伯が認可してくれだのである。
「これであとは‥‥アンリちゃんだけだねっ」
そう告げてそっと後ろからアンリを抱しめるクリス。
その思いは、きっと伝わっているでしょう。
──そのころ
「さあさあ、次の挑戦者はいないかぁぁぁぁぁぁぁ」
特設ステージでは、陽気なエルフの司会者が声高らかに叫んでいる。
その近くでは、上半身裸の秋夜が、拳に布を大量に巻き付けて立っていた。
『飛び入り歓迎ケンカデスマッチ』と記された看板には、10人勝ち抜きでなんと豪華商品が貰えるらしい。
ちなみに現在、秋夜はまだだれにも勝ち抜いていない。
司会いわく、秋夜は『最後の砦』らしい。
「なら、私が‥‥」
と、威勢よくステージに駆けあがるアハメス。
その姿を見て、女性なら勝てると大勢の参加希望者が続出した。
もっとも、どこでどう勝ち抜いても、10人目が秋夜である限り、豪華商品は誰の手にも届かないのだが‥‥。
──そのころ
「まあ、意外と便利だなぁ」
プロスト辺境伯付き魔導師。
その称号の凄いことは、『城内を自由に歩ける』こと。
つまり書庫や地下立体迷宮、はては先代辺境伯のコレクションなども見たい放題ということであろう。
ラシュディアはその立場を利用して、書庫で様々な資料を捜していた。
だが、あまりにも多すぎる資料。
一ヶ月かっかても、半分終るかどうかというところであったとさ。
結局目的の情報は入手できなかったラシュディアであったとさ。
──さらに近くの森では
ヒュヒュゥンッ!!
剣が風を斬る。
そこでは、鳳美夕(ec0583)が剛剣術の鍛練を行なっていた。
「まだまだだねぇ‥‥なんていうか、剛剣術っていうのは、もっとパーーッとしていてね‥‥」
そう美夕に指導を行なっているのは、任務でこのノルマンにやってきていた『ラグナ』という少年。
ちなみにラグナ、パラディン八部衆・夜叉位の実力を持ち、剛剣術のグランドマスターでもある。
ここに来る途中、美夕は『阿修羅寺院』を訪れて、フィーム殿といろいろな話をしていた。
そのとき、同席していたラグナがこの祭りに興味を持ち、『美夕の剛剣術指導』という名目の元、一緒にやってきていたのである。
「ハアハアハアハアハアハアハアハア‥‥」
すぐ近くの村からは愉しい歌や踊りが聞こえてくる。
だが、美夕はそんなことには一目も置かない。
ラグナの指導など、もう二度と受ける事が出来ないのかも知れないから。
「はい、次。目の前のイメージ、仮想敵はシヴァ・マハ=カーラ‥‥型の4番から15番までを1000回ね‥‥」
そうつげるラグナ。
美夕もその言葉に合わせて、次々と剣を振るっていった。
●そして愛
──プロスト城・ユーノ執務室
静かな夜。
ユーノとリディエールは久しぶりの逢瀬を愉しんでいた。
今までに自分が経験した事などを話していた後、リディエールは静かにユーノの手を取って跪く。
「これまでユーノ様から頂くばかりで、私から伝えた事がありませんでしたから。私も、貴女の事を愛しています。エルフと人間‥‥セーラ様にも周囲の皆さんにも、祝福を頂く事はできませんけれど‥‥貴女のこれからの人生を共に歩む事を、お許しください」
それはプロポーズである。
「ええ。私で宜しければ‥‥」
そうつげるユーノ。
だが、二人の恋は禁断の恋。
エルフと人間という、決して許されない愛。
果たして、その逆境を二人はどう乗り越えるのだろうか‥‥
それはまた、次の機会という事で。
──Fin